ホラー要素ここから軽くあります。注意してね
アローラ上陸
ガラルからアローラへの飛行機。割と寒冷なガラルとアローラは離れていたから時間があったけど、その分覚悟を固めることができた。ルセちゃんが何をしてくるのか知らないが、僕とポケモンたちなら乗り越えられるだろう。あとユウリさんもいるし。
やがて飛行機は着陸し、僕たちはアローラの大地に足を踏み入れた。
「ここがアローラ…日差しすごいね」
「本当ですね…麦わら帽子買っといてよかった」
メレメレ島に着いた僕たちは、ひとまずホテルへと歩き出した。けれどその道中。僕は形容し難い違和感に襲われた。
「…ユウリさん、なんか変じゃないですか?」
「え、何が?」
「なんて言えばいいのかな…皆、こう無気力な感じがして…」
「そう?確かに観光地だからみんな明るいって思っちゃってたのかな。まあ大丈夫じゃない?」
そうは言うものの、街ゆく人はどこかぼんやりしていて、道端にはぼうっと空を見上げているだけの人もいる。こんなものだろうか?アローラはもっと活気があると…アローラじゃなくてももう少し生き生きしていてもいいはずなんだけど。
僕とユウリさんがホテルのエントランスに入ると、そこには見慣れた顔があった。
「あれ?アオイちゃん?」
「え…?あ、アマネくん!?」
「アマネくんっ!?…ぐふっ」
アカマツくんとタロさんもいた。タロさんは僕を見て倒れかけた。あとゼイユさんとスグリくんもいる。どうしたのかな?
「アマネじゃん!久しぶりー!え、アマネもアローラ旅行!?」
「アカマツくん!!会えて嬉しい、でも旅行とは違うかな…」
「あ、アマネくんの半袖姿…なんてレア」
タロさんは胸を押さえながらもスマホで写真を撮っている。さすが僕のファンを自称するだけある。けれどアオイちゃんとユウリさんは、無言で見つめあっている。
「…初めまして、アマネくんの友達のアオイです」
「初めまして、アマネくんと“一緒に”アローラに来ました、ユウリです」
「………」
「………」
なんだろう。これがプレッシャーというものだろうか。2人の間にはバチバチと緊張感のある空気が満ちていた。
「ちょっと、うるさいわよ。部屋ならともかくエントランスでは……」
そう注意しようとしたゼイユさんが、ヒュッ、と息を呑んで固まる。ゼイユさんの見た方を見ると…
じいっ
エントランスにいる人々が、何も言わず、眉ひとつ動かさず。ただじいっと、僕たちのことを見つめている。なんだ……?こんな異様な光景、見たことがない。不気味すぎる。僕たちは逃げるようにそれぞれの部屋に入った。そのあと1番広い僕の部屋に集まることにした。
「なんなのアレ…気持ち悪い」
「わや怖かった…注意されると思ったのに、もっと怖かったべ」
「なんていうか…人形が並んでるみたいだった」
その言葉に、僕たちは同意する。あれは意思のある人間のやることではない。目も虚ろだった。そんなことを考えていると、僕のスマホロトムに電話がかかってきた。非通知。心臓がうるさいが、出ることにした。
『アマネ、いらっしゃい』
背筋が凍る。ルセちゃんの声だ。でもどうして?僕はルセちゃんのことを見ていないはず。それとも遠くから見られていた?色々な可能性が頭の中を巡る。
『あはは、びっくりした?ごめんねー、驚かせちゃって』
「………」
『まあいいや、アマネ』
「なあに」
『わたしに会いに来てくれたんでしょ?嬉しい』
「行かなかったらどうするつもりだったの?」
『ふふふ……アマネ、やっぱりわたしのこと分かってるね』
「………」
『アマネ…』
頭にこびりつく、甘い声。けれどそれは這い回る蛇のような悍ましいもの。
『楽しみに しててね』
ぷつん。電話は切れた。