ユウリさんに案内されて、僕はアラベスクタウンに足を運んだ。昼なのに暗くて、キノコの光が幻想的。そんな町の中でもひときわ大きなお屋敷に通される。何事かと思ったけど、そこにはポプラさんがいた。
「ポプラさん!」
「坊や、久しぶりだねえ」
「ここはポプラさんのお家なの。アマネくんが帰ってきたみたいです、って伝えたらお茶会しようかって言ってくれたの。」
「そうなんですね…」
「そんなところで立ち話もなんだから、とっとと座りな。お茶もお菓子も用意してある」
ポプラさんの好意に甘えることにして、僕たちはテーブルに座った。ポプラさんの言う通り、テーブルの上にはアフタヌーンティーセットが綺麗に揃えられていて、昔の貴族みたいな感じだった。お金持ちになった錯覚に陥っちゃうね。
「それで?世界を旅したのはどうだった?」
「はい、色んな人と出会えて、僕も成長できた…気がします、もっともどこが、って言われたらあれですけど」
「いいさ、あんたが満足できたならそれで。それに自分の成長なんて自分じゃ分からないもんさ」
「そうそう!それにアマネくん…なんだかかっこよくなってる気がする!」
「えぇ、本当ですか?」
「うん、何ていうんだろう、一回り大きくなった感じ?」
「だと良いんですけどね…身長伸びたとは思えませんけど」
なんてお茶とお菓子を楽しみながら談笑を続ける。するとドアが開いて現アラベスクジムジムリーダー・ビートさんが入ってきた。
「ポプラさんにユウリさん…それにきみは」
「あ、アマネです。おふたりにはお世話になって」
「ええ、話は聞いています。特にユウリさんは何度も…」
「わーー!!ビートくん、それより何しに来たの!?」
「何ですか騒々しい…別に大したことじゃありませんよ。ジムチャレンジに向けて特訓していただけです」
「そうかい、精が出るねえ。丁度いい、あんたも座りな」
「は?僕はこれからも勉強があるので…」
ビートさんが拒否して扉を閉めようとすると、それはとんでもないスピードでポプラさんがビートさんの肩を掴んだ。
「お待ち。あんた、ここ数日ロクに休憩してないだろ」
「え…いや、別に」
「アタシに隠し通せるとでも思っていたのかい?まだまだピンクが足りないねえ。適度な休憩が必要だよ!」
そう言うと、ビートさんのブリムオンが姿を見せた。ブリムオンはビートさんを捕まえると椅子に座らせた。
「さあ、お茶会の続きだよ!」
「はあ…まあ、ポプラさんは言い出したら聞きませんから。」
「それでアマネくん、これからどうするとか決めてるの?」
「うーん、特には…」
「そっか、それならさ。今度のジムチャレンジに挑戦してみない?」
「え?」
ユウリさんからのまさかの提案に、僕は驚いてしまった。確かに僕たちはレッドさんとの特訓で強くなったけど、ユウリさんの前でそんな話はしたことないはずだけど。
「びっくりさせちゃってごめんね。でも…ボール越しでもわかるもん。アマネくんのポケモンたち、自信に満ち溢れてるから!」
「ふむ…まああなたの嗅覚は本物でしょうね。ユウリさんはバトルに関してだけは鋭いですから」
「ちょっと?」
いいえなんでも、と目を逸らすビートさんを尻目に、僕はジムチャレンジについて考えていた。旅に出る前の僕なら嫌だと断ったと思うけど、今は違う。むしろポケモンたちがやる気なら、ポケモンたちの勇姿を見せることができるなら、挑戦してみてもいいのではと思った。
「挑戦…してみようかな」
「!!ほんとう!?やった、嬉しい!!だったら推薦状はわたしが書くよ!チャンピオン・ユウリの名前、こういうところじゃないと有効活用できないしさ!」
「よく言いますね、この間値切りに使ってたでしょうに」
「ちょっと!!それこないだの撮影のやつじゃん、なんで知ってるの!?」
「ライバルの情報を集めて何がおかしいのですか?僕はいつかチャンピオン・ユウリを打ち負かします。なので今からアマネくん…きみもライバルですね」
「ライバルなんて大げさな…」
そう談笑していると、僕のスマホロトムが鳴った。お母さんから電話だ。3人に謝りながら、電話に出る。
「もしもしお母さん?どうしたの?」
『アマネ?今大丈夫?』
「大丈夫だよ、お母さんがわざわざ電話使うって緊急のことでしょ?お母さんこそどうしたの?」
『実はね…ルセちゃんから手紙が届いたの。アマネ宛に』
「え」
『内容は別に普通なのよ、ただアローラに来てくださいってだけの。丁寧にアローラのパンフレットとかチケットも入ってるし…でもほら、相手が相手じゃない?』
「………」
僕は絶句した。アローラに帰ったことでてっきり僕への関心は無くなったと思っていたのに…一体何がしたいのだろう。ただアローラに来て欲しいだけ?いや、積み重なったルセちゃんへの負の信頼がそんなわけないと告げている。
『アマネ…これ、どうしようか』
「…行くよ」
『え?アマネ、本気?』
「うん、仮にそのままの意味だとしても、そうじゃないとしても。僕もただルセちゃんにやられっぱなしじゃないから。僕、強くなったんだよ。」
『……そう、無茶はしちゃダメよ。』
お母さんとの電話は切れた。僕は深く息を吸って、吐く。もうそろそろ、ケリをつけなければと思っていたところだ。ルセちゃんからアローラに来るよう言ってきたのなら、それに乗ってやろう。僕はもうルセちゃんにいじめられていた頃とは違う……はず。
「アマネくん?どうしたの?」
「ユウリさん…」
ユウリさんには、話しておこうかな。ポプラさんも信頼できる。ビートさんは初めましてだけど…まあポプラさんの弟子なら大丈夫だろう。3人にルセちゃんのことを話した。
「なんですかそれは…ストーカー、いえ犯罪者ですね」
「はあ…アローラに帰ったとは聞いていたけど、ただじゃあ転ばないってことなのかね」
「アマネくん…本当にアローラに行っちゃうの?」
「はい、行きます」
「そっか…じゃあ、わたしも行く!!」
「えっ?」
「実はちょうどね、アローラのポケモンリーグを視察する仕事が入ってるの。それを終えたら自由時間にしていいってダンデさんに言われてるから、わたしも護衛として行くよ」
「いいんですか…?仕事に思いっきり私情挟んで」
「いいの!それにわたしも…少しくらいはアマネくんの役に立ちたいし!」
「まあいいんじゃないですか、ただし彼女がカレー以外の料理を作れないのは理解しておいてくださいね」
「あんたらがそう決めたならアタシら外野は何も言わないよ。好きにしな」
ポプラさんとビートさんに背中を押され、僕はユウリさんと一緒にアローラに行くことになった。
「何かあったら大変だからね、色々道具とか買ってから行こう!」
「そうですね、何を買おうか」
「じゃあ何買っても大丈夫なように…はいお金!」
「やめてください」
手軽に3万円をポンと渡すユウリさん。これは矯正しなければいけないな。
同時刻 ブルーベリー学園
ブルーベリー学園にて。アオイ、ゼイユ、スグリ、そしてリーグ部四天王が1つの教室に揃っていた。彼らの前にパルデアのリーグ委員長、オモダカが姿を見せる。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。皆さんに集まっていただいたのは他でもありません、皆さんには…アローラに行っていただきたい」
「えぇ、アローラ!?」
「どうしていきなり!?」
オモダカの突然の言葉に、教室は騒然とする。しかしオモダカが手をスッと上げると、静かになった。
「実はアローラのポケモンリーグを建設されたククイ博士からお話をいただきまして。なんでもブルーベリー学園の優秀な生徒たちを、アローラの子供たちの育成の参考にしたいと」
「でも、なんでオレたちがアローラに?その言い方だと、ククイ博士って人がこっちに来そうだけど」
「ええ、その通りですね。ですがアローラはリゾート地としても名の高い場所…そこで観光を楽しんでいただきたいと、ククイ博士のご厚意で」
「ちなみにわたしたちはアローラで何をするんですか?」
「基本はアローラの4つの島を自由に観光していただきます。アローラにはジムの代わりに試練というものがあり、ジムリーダーの代わりにキャプテンと呼ばれる方々がいます。その方々と交流していただければ」
「え?それだけ?」
「ええ。もちろんアローラで得た経験、見たものはレポートとして提出していただきますが…それ以外は基本的に自由です。」
「何よそれ!最高じゃない!ね、スグ、行くでしょ?」
「うん、わや興味ある……!!」
アローラへの実質的な旅行ということに、教室は色めき立つ。しかしその中、2人が手を挙げた。
「あー、悪い、オイラはパス」
「ネリネも拒否します」
「ええ!?カキツバタはどうでもいいけど、ネリネはなんで?」
「ネリネは実家の手伝いを依頼されています。アローラには行けません」
「そっか、ネリネちゃんのお家って忙しいもんね…」
「オイラは単純に興味なーし。暑いところ苦手だし?」
「アンタはどうでもいいの!!ネリネ、アンタのことは分かった。お土産買うから!」
「そうですね、カキツバタはどうでもいいけど!」
「か、カキツバタ…オレがなんかお土産買うよ」
こうしてアオイ、ゼイユ、スグリ、タロ、アカマツの5人がアローラに行くことになったのだった。
「アローラかぁ、楽しみだなぁ」
「ねー、アローラって海多いんでしょ?ってことはアタシの水着姿もお披露目しちゃおうかしら!」
「ゼイユちゃんスタイルいいもんね、楽しみ!」
アローラに想いを馳せる生徒たち。そのアローラが底知れぬ悪意の巣窟になっていることを、彼女たちはまだ知らない。
ちなみに
ブルーベリー学園とアオイちゃんがアローラに呼ばれたのはガチの偶然。ルセはパルデアとブルーベリーのメンツを知りません。