南関あげが好きすぎる
わたしの愛する南関あげをご覧いただこう。
南関あげは熊本を中心に九州で親しまれている。南関というのは熊本県の町名で、その名を冠してはいるが発祥は松山ともいわれているそうだ。
南関あげはカラカラに乾いていて軽い。水分を極力減らして揚げているそうで、それが長期保存と出汁のしみやすさを実現しているのだ。いでたちからして少し変わっている。
ふつうの油揚げは冷蔵で5日も持てばいいほうだが、南関揚げの期限は常温保存で脅威の3ヶ月。オギャーと赤子が生まれてから首がすわりはじめるまで、南関あげは見守っていてくれるのだ。神か何かか。
調理の際は包丁を入れると綺麗に切れるが、肩肘はらずに指で折りちぎって使ってもいい。
一般的ではないかもしれないが、好きが高じてそのまま齧って食べることもある。
噛みはじめると揚げ油がじわあっと大量に染み出してきて、そんじょそこらのポテトチップスよりもジャンクな味わいである。
よくやる南関あげ料理
南関あげの話を続けよう。よく作って食べるのは親子丼風の卵とじで、これが手軽で美味しい。
一瞬、一瞬のできごとなのだ。南関あげが汁を吸って柔らかくなるのは。もとのカラカラ具合が思い出せないほど一瞬でフニャフニャになる。乾燥しているぶんすぐに汁気を吸うのだろう。このとき味も奥までしみる。
また、これも好きなポイントなのだが、南関あげは煮汁にいれるとパチパチと音を立てるのだ。謎でおもしろい。今日のところは謎のままにしておきます。
煮た南関あげは味がしみているのは当然として、なにより食感がたまらない。ふっくらとしていながらモチモチでグニュグニュ、コシの強い麺のような弾力があるのだ。
南関いなりもある
また、本場の熊本ではいなり寿司にもするようだ。一度デパ地下で買って食べたことがある。ここでいうデパートは鶴屋百貨店のことです。
この南関いなりが絶品だった。普通のいなり寿司とは味のしみ方から食感からなにもかもが別物だ。
口の中で酢飯、大根、南関あげが渾然一体となり、そんな中でも歯ごたえのある揚げは最後まで口に残って頼もしい。ペロッと食べた。
でっかい南関いなりをつくる
そして!いま!おれの手元にでっかい南関あげがある!
この大判タイプの南関あげは譲ってもらったものだ。贈答用なのかなんなのか、スーパーを探し回っても見つからなかったレア物である。せっかくだからこれででっかい南関いなりをつくろうぜ。
はじめに油抜きから。うちにある調理器具で最も幅が広かったフライパンで湯を沸かして油揚げを茹でる。
とにかくでかい。でかくて崩れやすいから気を使う。
そもそも油抜きの意義を知らないので儀式的に執り行っておいた。世の中の分からないことは拒否するんじゃなくて儀式や神事だと思ってやると己の神性が増しますよ。
最高!いなり寿司の地味なイメージとは裏腹に、クリスマスのメインディナーにもなりうるビッグハッピーメガいなり寿司ができたぞ。これがいなり寿司なのかどうかはさておき。
おれの南関あげいなりはジュースだった
それではこのビッグいなり寿司を食べていこう。お箸?手?こんなもん手だろうが。
うまい。お揚げにたっぷりと含まれた甘辛い汁が溢れてジューシー、ジューシーどころか、煮汁で……溺れる!あやうくいなりで溺れるところだった。
参考にしたレシピでは煮たあとの揚げを絞っていなかったのでそのままにしたが、この煮汁含有量たるや凄まじい。煮汁に浮かんだ酢飯の小島を丸呑みするような、そんな寿司だ。
溺れそうになるが、それでも美味いものは美味い。
甘み一辺倒で退屈になりがちないなり寿司だが、間に挟んだ大根とわさびが食感といい味といいアクセントになっていてパクパク食べ進められる。世の中のいなり寿司は全部これにしたほうがいい。
ただ、初手から手づかみをしてしまった関係で、この勢いで全部食べきらないといけなくなった。ただいま午前7時すぎ、もうすぐ出社して8時から仕事をしなければならない。腹いっぱいになってきた。
いけるのか。
人間が満腹状態のときの陶酔感というか現実離れっぷりたるやすごい。幸福しかない。酒を飲まずともこんなに気持ちいい状態になるのかとある種の感心をしながら、ふわふわした足取りで仕事に向かった。
そんな南関いなり、ぜひお試しください。
