身体と精神~幸せと感じるココロ

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世話係
 「家族へ連絡が出来ないというのは、俺の体質や視線が異性を狂わせるから……か」

「お父様とかご兄弟だけであれば、問題は無いと思いますが、お母様や妹様、ご学友など異性の方であれば、影響を与える可能性が強いと思われますから……。京也さまに意識不明の振りをして頂いたとしても、ご家族の方が貴方さまに触れられる距離に当然近づいてしまうでしょうし。涼香にお願いして、すぐに戻れないものの、無事であることを知らせる手はずを取っております」

 寝台の上での、美由紀さんとのやり取りは続いていた。今は互いに服を着たままの状態で寝そべっているが、こうなるまでにもひと悶着があったのだ。
 さも当然のように、尿道に残った精液を吸い出されたり、その刺激にすぐに俺の息子が力を取り戻して、そのまま再戦へ突入して……そんなことを三回も繰り返した。抜かずの連戦、なんてことも。

「……どう知らせるか、って聞いても?」

 ほくそ笑む美由紀さんの顔は色艶のある悪い女の貌だった。先程まで俺と紡ぎ合って、慾に蕩け、締まりのない表情をしていた人と同じとはとても思えないほどに。

「ふふ、内緒です。京也さまの力の特性が分かるか、ご自身で制御できるようになるまでの辛抱ですし」

「確かに、俺の身体は変わった。望めば何度でも出来る身体に変わったみたいだし……体力の問題があるから、限度はあるけれど」

 異性を狂わせる細菌を常時、放出しているような俺の身体。少なくとも、今のままじゃ元の生活に戻れそうにも無い。美由紀さんが俺に危害を及ぼす行動は起こさないと、先程までのやり取りで察することに出来たし、今は任せるより無いと判断する。

 互いに体力が尽きかけたことで、こうして休息の時間となったけれど、男を初めて受け入れた彼女の身体の中に、幾度も俺は精を放ってしまっていた。盛りのついた猿とこれでは変わりがない。経験が少ないとはいえ、これじゃ思春期の少年と大差ないじゃないか。

「精力旺盛、ですわね。逞しくて、素敵ですわ」

「……美由紀さんの中、すごく気持ちいいんだ。何度でも、イキたくなる」

「私も、京也さまが子宮に向けて精を放って頂く度に、出会えて良かった、女の身体に生まれて良かったと、心から感じますわ。感じていた強い性衝動も、今は落ち着いています。自分の存在意義が京也さまのために生きることだと認識し、それに充足感を覚えているからだと思うのですが……」

「えっと、完全に、洗脳って奴ですよね」

 一人の女性の生き方を完全に変えてしまった、という事実は、京也の心に強く押しかかる。女性への支配願望が以前から強くあるというわけでも無いし、尽くしてくれる彼女とかが出来ればいいな、と、これまではその程度の意識であったから。

「ふふ、そうですわね。従前の記憶もありますが、以前とは価値観が変わったのは自覚しております。自分で望んだ上で、ということでなければ、今までの心と身体のあり方の急激な変化に、心を歪めてしまうこともあるかもしれません」

 美由紀さんは通信教育で教育課程を収めているらしく、立ち振る舞いは世話係の人に教えられたとのことだが、家としての対外的な場面へ出ることが無いため、様々な知識を得る時間は十二分に作り出せたのだと言う。

「自分の言語障害についても私なりに調べましたし、心因性の原因があるのでは、とそちらの分野にも独学ながら手を出しましたから」

「なるほどね……」

 答えながら、俺の手は彼女の髪をゆっくりと繰り返し撫で続けていた。彼女の髪は程よいしっとり感を持ちながら、指がすっと通る。その心地良さはあっという間に癖になりそうだった。

「ふふっ、私の髪、気に入って下さいまして?」

「髪だけじゃないよ。美由紀さんみたいな綺麗な子が腕の中にいるのが、まだ夢みたいだ」

「夢などではありませんわ。ほら……」

 言葉の後に、柔らかな唇が俺の口を奪い、離れ際に吐息がかかる感覚にこそばゆさを感じる。確かに、夢ではなかった。

「京也さま、これが現実ですわ。涼香が戻り次第、彼女も幸せにして頂かなくては」

「……涼香さん、だよね。今は調べ物に出かけているんだっけ」

「ええ、既に京也さまの影響を受けておりますわ。外への用事は彼女にお願いしていますので、まもなく戻ると思います」

 美由紀さん曰く、彼女は自分より十歳程度年上だが、俺の夢精を既に一度飲み込んでいるという。俺に中てられたからということだが、彼女にも大きな変化があったらしい。

「肌の張りとかきめ細やかさが、十代の頃に戻ったと、大はしゃぎでしたのよ。涼香も私の世話に付きっきりで、異性との出会いが無い環境下でしたから、京也さまに抱かれることにそれほど抵抗が無いと思いますわ」



 「お嬢様、戻りました」

「涼香、お帰りなさい。京也さまが目を覚ましましたわ」

「本当ですか! お嬢様、もしや……」

「ええ、抱いて頂いたわ。衝動もしっかり収まったし、私は京也さまに一生を捧げます」

「……私は、迷いがあるんですけどね」

「涼香に強制するつもりは無いけれど、実際、外見も含めて身体が一気に若返ったんでしょう?」

「ええ、買い物に行っていても、免許証を見せない限り、成人してると信じてもらえないようになったのは、すごいことだと分かってますけど……」

 美由紀さんに少しカーテンの陰に隠れて、やり取りを聞いていて下さいと言われ、戻った涼香さんとのやり取りを聞いているんだけど、どう見ても美由紀さんと一、二歳しか変わらない姉のようにしか見えない。快活で活動的なショートカットの姉、知的で清楚な雰囲気を持つ、長い髪の妹。そんな感じだ。スーパーとか、コンビニとかの店員が正直、成人かどうかは悩む外見だと思えた。

『多分、京也さんの精液に特殊な効用があるのでしょうね。京也さんが抱くに相応しい、魅力ある女性へと変身させる……私も喋れるようになっただけではなくて、肌の潤いや張りがより増したと感じますから』

 俺への強い被支配欲が芽生えるのと引換に、身体の状態が各々の一番最良の時期へ変化するのではないか。それが美由紀さんの推察だった。

『幼い頃から涼香とは一緒ですし、これからも一緒に暮らしていく相手なのですから、等しく京也さまの虜にして頂きたいのです』

 そんなことを彼女は言っていたが、涼香さんには実際迷いがある様子だ。

「涼香。私と一緒は、嫌?」

「うっ、しかし、お嬢様のお相手を私まで……」

「京也さまの力は、恐ろしいものだと、涼香は言っていましたね」

「……そうです。自分の価値観がまるごと塗り替えられてしまう。私だって、衝動に負けてあの人の精を飲んで、自分に起こった身体や心の変化に、正直、ものすごく悩んでいます。彼に溺れてしまいたい衝動があるのは否定しません。お嬢様とこうして、何の気兼ねも無く言葉を交わすことが出来るようになったのは、彼のお陰でしょう。けれど、その代わりに、お嬢様も失われたものがあります」

「……家への忠義、それが第一だった私は、確かに変わったのでしょう。でも、その一生は、決して私自身は幸せになることは無い。雁字搦めだった私は、あの方に染まることで、一気に世界が開けた思いなのですよ」

「お嬢様……」

「世間一般的な幸せでなくてもいいの。私は私なりの幸せをつかみたい、それだけ。それを望もうと願う、素直な心に変えてくれた京也さまに、私は尽くしていきたいと思う」

 美由紀さんの今までの苦悩を、俺は分かるわけじゃない。だけど、美由紀さんの顔は晴れ晴れとしていて、俺は、その笑顔を大事にしたいと、感じた。

「……優先順位が変わってしまいます。お嬢様の幸せが私の幸せだったのに、それが変わってしまうのが、怖い。お嬢様の成長が私の喜びなのに」

「私が幼い頃から、私を守り続けてくれた涼香。私は、貴女と一緒に幸せになりたいわ。京也さまが第一、私は二番。それでいいじゃない。私だって、そうなってしまってる。それに……」

「それに、なんでしょう」

「あの人は、私達の関係性を含めて、慈しんで下さるわ」

「それは、高村さまが仰られたのですか?」

「いえ、私の『勘』よ。それだけ」

「……わかりました、お嬢様」



 美由紀さんの合図で、カーテンの陰から進み出た俺は、涼香さんと視線を合わせた。身体がびくりと震え、彼女の瞳が焦点を無くしていく。ショートカットの健康的な、美由紀さんよりも身長は高く、俺とそれほど身長差の無い、すらっとした体型の彼女が、虚ろな状態になって、ふらふらと上体が揺れ始めていた。

「……美由紀さんの時には、こんな状態にならなかったのに」

「個体差もあるでしょうし、あとは、望んで虜になる者と、迷いがある者の違いもあるかもしれません。こればかりは、検証をしていくしかないかと」

「け、検証ですか」

「たとえば、今の涼香に『意識が戻る』ように命じてみるとか」

「え、ええと、涼香さん、意識を戻して」

 ビクン、と震えて、瞳に力が戻り、涼香さんは軽く首を左右に振った。

「あ、あれ、私……」

「涼香。京也さんと視線を合わせたら、どんな感じだったの?」

「……温かくて広い浴槽に入って、ぷかぷか浮いて、ぼーっとして何も考えられない感じ、でした」

「一種の催眠状態、ですね。その状態で指示を入れれば、それが入り込んでいく、と」

「そ、それと、高村さんが近くにいらっしゃるので、身体がどうにも熱く、なって」

 視線を互いに合わさないようにしながら、俺と涼香さんは美由紀さんの話を聞く。涼香さんは自身の身体を両手で抱き締めるようにしながら、微かに震えていた。

「美由紀さんは心理学の勉強をする中で、そういう知識を手に入れたの?」

「ええ。では、京也さま。私が同じようになるか、試しておきましょう」

「お、お嬢様!?」

「大丈夫よ、涼香。さぁ、京也さま……意識が遠くなるよう、命じて下さい」

 美由紀さんが俺と、視線を合わせる。俺が意識が遠ざかるように口にすると、ゆっくりと、ゆっくりと、美由紀さんの瞳が焦点を失っていき、だらんと腕を垂らして、左右に身体が揺れるような状態になっていった。

「……この状態、先程、涼香さんに起きた状態とそっくりです」

「は、早く元に戻してちょうだいっ」

「え、ええ。起きて、美由紀さん」

 俺が声をかけると、涼香さんのように、すぐの変化ではなく、ゆっくりと、ゆっくりと瞳に力が戻ってくる。涼香さんと共に大丈夫そうだとホッとしていると、急に美由紀さんの瞳が閉じてしまった。

「あれ……?」

「……お嬢様?」

 呼びかけにも応じず、美由紀さんは俺を見上げるような姿勢で静止したままだ。

「起きて下さい、美由紀さん」

 瞳は相変わらず、開くことも無く、唇をそっと突き出しているだけ。

「……はぁ」

 なぜか、横で涼香さんがため息をついた。ため息の意図をすぐに彼女は教えてくれる。

「目覚めの口づけ、ということなのだと思います」

「はい?」

「可愛い我がままということで、合わせて頂けませんか、お嬢様に」

 涼香さんの言葉に、改めて美由紀さんに向き直る。口づけを待つ美由紀さんの顔は元々の美貌に愛らしさがプラスされて、正面から直視するだけでこちらの鼓動が高まっていく。

「……高村さま?」

「俺、こんな綺麗な人のすぐ正面に立ったこと無くて、美由紀さんの顔を見るだけで、身体が」

「……んもう。京也さまったら」

 俯いてしまった俺に、瞳を開けた美由紀さんがふわりと甘い匂いを漂わせながら、俺の胸元へ身体を寄せていた。そのまま、両頬を彼女の両手に捕えられて、目線を逸らすのを許してくれない。

「緊張、されてます? 私の身体、あれだけ味わったのに」

「素面でちゃんと美由紀さん見たら、固まっちゃうよ。本当のお嬢様が目の前にいるんだから」

 俺の経験と言えば、せいぜいテレビの画面ごしに、皇族の人達の立ち振る舞いを見るぐらいのもので、本当のお嬢様を間近で見るって経験があるわけがない。

「……美由紀は、もう京也さまの女です。遠慮なんてなさる必要はありませんわ」

 背伸びをした彼女に、そのまま口づけをされて、啄むように幾度もキスを重ねられた後、すっと舌が口の中に入り込んでくるのを感じた。痺れるような錯覚と、ゾクゾクする刺激に身をゆだね、慣れない舌で必死に絡ませ返す。
 息継ぎがままならなくて、互いに一旦舌を放して、荒い吐息を繰り返す。美由紀さんの頬が赤く染まり、瞳が潤んで、情欲が高まってきているのだと分かる。無意識に俺達は抱き寄せ合っていて、少しでも隙間を作るまいと完全に密着してしまっていた。

「熱くて、硬い感覚がお腹に当たっていますわ。興奮して下さって、嬉しい」

「キスが、気持ち良くて」

「私もです。下着をつけなくて正解でした。もう溢れて、太ももまで垂れてきていますわ……。それに、私だけじゃなくて……」

 不意に美由紀さんが横を向くと、同じように頬が真っ赤に染まり、何かを堪えるように身を震わせる、涼香さんの姿があった。美由紀さんと似た状態なんだと、俺にもハッキリ分かる。

「お嬢、さまぁ」

「京也さまに、ちゃんとおねだりをなさいな」

「はい……」

 がくりと膝をつき、涼香さんは俺達二人にすがりつくような格好で、淫らな懇願を口にした。

「私に……涼香にも、どうか、高村さまのお情けをくださいまし。涼香の中を高村さまで満たして頂きたいです」
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