「はがくれちゃん、かみきったの?」
「え?」
俺が幼稚園に通っていた頃、同じクラスの女の子にそう言ったのを聞いた時の先生の顔は今でもはっきり覚えてる。
「千里くんには透ちゃんのお顔が見えてるの?」
「うん!でも、あんなにかわいいのにみんななにもいわないんだよ。へんなの」
「…千里くん、今から先生が言うことよく聞いてね。
この時初めて自分にとっては当然だったことが周りから見たら特別だった事を知った。
当時は3歳、恐らく自分では気付かないうちに個性が発現していて、無意識で発動していたのだろう。同じクラスにも既に個性が発現している子供達がいたので、このくらいの年齢なら発動型や変形型の個性が発現してもおかしくはない。
その日のうちに病院に行き、診てもらった結果、当然というか個性だった。個性の名前は『千里眼』。父親の『心眼』という見えないものを見えるようにする個性と、母親の『遠見』という遠くまで見えるようになったりする個性が上手くかけ合わさったものだそうだ。
そのまま小学校にあがり、例の透明少女───葉隠透とは6年間同じクラスだった。
俺たちの間に特筆すべきことがあったとしたら小学校低学年の頃に、葉隠が俺を含む近所に住む子供たちとのかくれんぼ中に行方不明になったことだろう。かくれんぼに参加していた子供達やその親達が総出で探したが、結局誰かに攫われたり川に流された訳ではなく、木の上に登って隠れたら気持ち良くて眠ってしまったというだけだった。
俺の個性でも見つけられないので心配していたが、よくよく考えれば個性を発動していれば姿を捉えられるとはいってもその時は木の上を見なければ意味が無いわけで⋯
「千里くん、ありがとう。お父さんとお母さんにも心配かけちゃった」
そんなことがあって以降、周りからは見えない人間とその人間を唯一見ることが出来る人間というわけで、基本的に俺たちは2人で1セットに見なされるようになった。
元々、幼稚園の頃から、家がお隣さん、子供が同い年、親同士も仲が良いから家族ぐるみの付き合いがあった訳なので⋯
「まあ、今更セットにされてもそんなに⋯」
「違和感ないよね」
というのが俺たちの本音である。
そのまま小学校を卒業し、同じ中学校に進学、そして小学校同様に入学から卒業まで同じクラスで3年をすごした。そのまま高校も同じ⋯とは言わず、俺は近所にある進学校の普通科に、葉隠は倍率300倍を超える国立校のヒーロー科に進学した。
⋯ところで、どうしてこんなことを話しているのかと言うと
「⋯なんなんだ今の?」
思い出すのは、両親が結婚記念日の旅行中で家にいないうちに夏休みの課題を進めている時に脳裏をよぎった映像。
その内容は、森林の中に建っている見たことの無い建物と直接的な面識は無く俺が一方的に知っている人達と数人のプロヒーロー、そして燃え広がっていく青い炎と1箇所を中心に広がっている霧のようなものだった。そして俺にとって1番重大だったのが例の霧のようなものの中で倒れる幼馴染の姿だった。
少なくとも俺の知る限りでは自然由来の火災で青い火が出るなんて無い。そしていきなり発生する人が倒れる成分を持つ霧のようなものも同様。
つまり、それらが意味するのは雄英の生徒を狙った
「時計は映像の中で見えた。あれが現実になるなら今から10分後⋯
雄英に直接電話してもまともに取り合って貰えないだろう。となれば
「頼むから気付いてくれよ、葉隠⋯!」
とにかく向こうが気付くまで連絡を試みるしかない。あれが現実でないならそれでいい。どうせ俺がからかわれるだけだ。⋯でも、もし現実になるのなら?
「やめろやめろ!考えるな!!」
『ちょっと〜、今肝試し中なんだけど。まあ、始まる前に電源切り忘れた私が悪いんだけど』
繋がった!とりあえず一応は安心だ。
できる限り冷静に葉隠に声をかける。
「っ!葉隠、今どこにいる!?」
『どこって、前も言ったけどあんまり詳しいことは』
「森の中か?だったら今すぐ逃げてヒーローの所に行け」
『⋯どういうこと?』
「時間が無いから手短に言うぞ。なんかの映像が視えた。青い炎と霧みたいなやつ…多分これは敵で……それから体育祭で見た雄英のA組とB組の人、それからプッシーキャッツとブラドキングとイレイザーヘッド。なんでプッシーキャッツの4人がいるかは知らんがまとめると今からお前らのところに最低でも二人の敵が来る」
葉隠が倒れていたのは敢えて伝えない。いくら葉隠とはいえ、自分がそんな状況に陥ると分かったらどうなるか分からない。
『それって個性で見たの?』
「まだ詳しいことは分からないけど多分な。今までも時々あったんだ。なんかの映像を見て同じ場面に出くわす⋯その時はデジャブかと思ったんだけど今回は明らかに今までと違った」
『分かった。先生達と連絡取ってみるね』
さて、ここからはどうするべきか。場所は知らないし知っていても今から行ったところでどう考えても間に合わない。とりあえずあの映像の続きが見えたらもう一度葉隠に連絡してみよう。
と、そんなことを考えていたのが昨日のことで、今はとある隠れ家のような雰囲気を醸し出すバーに座っていた。
⋯⋯⋯どうしてこうなった
遡ること2日前━━━━━━━━━━千里が葉隠との電話を切ってから少しした頃
家に置いてある固定電話が鳴ったので、それを取ったら聞き馴染みのある声が聞こえた。
『私が電話に出た!』
「うわっ⋯もしかしてオールマイト?」
『如何にも。初めましてだな、薙切少年』
「は、初めまして。それでなんでオールマイトが俺に?しかも家の電話番号も」
『そうだな、手短に言おう。君が先程、葉隠少女にした電話の件についてだ。ちなみに電話番号は葉隠少女が教えてくれたのでね』
⋯なるほど。これは俺が敵の味方、もしくは葉隠から俺、そして俺から敵に情報がリークされたって思われてるな。
「そういう事ですか。それなら葉隠に話したことが全てですけど」
『それでも直接会って君から話を聞かせてもらいたい、それに電話越しじゃ何かと不便だからね』
あまり気は乗らないが仕方ない。何にせよここで断ったら葉隠の雄英での立場が悪くなる可能性がある。
「⋯分かりました。それじゃあ今から雄英に行けばいいですか?」
『いや、その心配には及ばない。』
「ああ、確かに君が出向く必要は無い。ねえ?薙切千里くん?…『電波探知』という個性でね、見つけた時は秘匿回線は探知できないから大して意味が無いと思ったんだけど⋯意外と使えるものだね」
振り向いてみると、俺の後ろに工場にあるパイプを小さくしたようなものが無数についているマスクをしている人物と黒い靄のようなものが大部分の人がいた。
「どちら様で「私が庭に来た!」
そして俺が振り向いて声をかけるのとほぼ同時にオールマイトが家の庭に着地した。
「やはり来たか、オールマイト」
「ッ!何故貴様がここにいる!!いや、それよりも前に彼から離れろ!AFO!!!」
「そういう訳にもいかなくてね。彼には我々と共に来てもらう。それに今日は君と戦いに来たわけでは無いからね」
いや、何の話してんだよこの人達。しかもオールマイトは声がでかいから話せるのは分かるけど、このマスクの人とか明らかに窓ガラス越しで聞こえる声量じゃないだろ。
「黒霧」
「はい」
そして黒い靄が俺ごと包んで来たので、下がろうとしたら腕を掴まれた。ってこのマスクの人、力強っ!考えられるとしたら
「増強系か⋯!」
「薙切少年!手を!」
掴まれていない方の手を、窓ガラスを突き破ってきた家に入ってきたオールマイトに向けてのばすが、あと少しの所で視界が完全に黒く染まった。
⋯最後に見た光景は、憤怒の表情を浮かべたオールマイトだった。
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「Nooooo!!!」
千里がAFOに連れ去られた直後、オールマイトは叫んでいた。みすみすとAFOを取り逃した自身への怒り、恐らくは無関係であろう一般人を巻き込んだ自身への怒り、そして師匠の仇であり自身の宿敵である者への怒り。
「Shit!私としたことが!!」
『オールマイト、状況はこちらでも確認している。彼のことについても確認したいから一度戻ってくれないかい?』
「校長先生⋯」
今回、オールマイトが直接出向いたのは、『万が一、薙切千里という少年が敵だった場合、即確保、そして目的等を吐かせるため、そして敵でなかったら協力を仰ぐため』という指令に基づいたからだった。しかし、その結果が自身の怨敵とも言えるAFOに連れ去られる、というものだった。
『雄英高校ヒーロー科の生徒一名の拉致及び、同一犯の仕業と見られる民間人一名の拉致。両者の安否は不明』
このニュースが日本全土を駆け巡るのにそう時間はかからなかった。