トイレメーカーが新たなチャレンジをしています。性別に関係なく誰でも気兼ねなく利用できるトイレの開発です。
1964年の東京五輪でも大きく変貌した日本のトイレに、2020年に向け求められているものとは。
(※2018年に公開した記事です)
トイレに行けない…
「LGBTの社員が入れるトイレがほしい」
「利用者が多いフロアにLGBTの人に配慮したトイレを作りたい」
性的マイノリティーを示す「LGBT」が注目される今、東京オリンピックに向けて都心部でホテルや商業施設などの再開発を進めているディベロッパーなどから、メーカーにこうした声が相次いで寄せられています。
これを受けて北九州市にある住宅設備機器メーカー「TOTO」では、専門のプロジェクトチームを設置して、新しいトイレの在り方を検討してきました。
はじめに行ったのは、当事者たちからの聞き取りです。そこからは「からだ」の性と「こころ」の性が違うトランスジェンダーの人たちが、家の外でトイレを利用するたびに感じる心の負担が見えてきました。
例えばからだは「男性」なのに、こころは「女性」の人。外見が男性に見えると女性用は利用できません。我慢して男性用を利用するのも苦痛です。
「トイレを我慢してぼうこう炎になった」
「水分を控えて脱水症状になる」
という切実なケースもあると言います。
オリンピックの基本理念を示したオリンピック憲章に2014年、「性的指向による差別の禁止」という文言が新たに盛り込まれました。誰もが気兼ねなく使えるトイレの普及は、世界の願いなのです。
和式から洋式、その理由は
五輪で変わる日本のトイレ、同じ図式は1964年の東京大会でも起きました。和式から洋式への変化です。
洋式トイレが国内で初めて開発されたのは、今から100年以上も前の1914年、TOTOの前身「日本陶器」が最初でした。しかし当時は、富裕層が利用する洋館などに設置されたのみで、一般の家庭に普及するまでには至りませんでした。
便器の歴史です
ところが東京五輪が近づき、高速道路やビルの建設など多くの工事が行われ、東京の人口が急速に増えると、こうした人たちの住まいを確保する必要に迫られました。そこで建てられた公団住宅に、洋式トイレが採用されたのです。
建設は急ピッチで進められましたが、和式トイレは周囲にタイルを張る必要があるなど、工事に手間がかかります。一方、洋式トイレは完成した便器に排水用のパイプをつなぐだけ。
この簡単さこそが、洋式トイレが採用された最大の理由です。
さらに洋式トイレの使い勝手のよさが日本人に広く知られるようになると、集合住宅だけでなく戸建ての住宅でも取り入れられるようになり、1977年にはTOTOが出荷する洋式便器の数は和式を上回ったのです。
「だれでもトイレ」に注目
そして2度目のオリンピック。2020年に向けて、LGBTの人たちも気兼ねなく利用できるトイレの開発を目指すチームが注目したのは、障害者や赤ちゃんを連れた親などを対象にした多目的トイレでした。これを「だれでもトイレ」として設置場所を工夫すると、目指す答えが見えてきました。
例えば顔見知りの人が多いオフィスビルや学校などでは、「からだの性」と違うトイレに入ると、「意図しないカミングアウト」をしてしまう可能性があります。
そこで男女別のトイレの入り口から入ってすぐの場所に、「だれでもトイレ」を設置します。
入ることに不自然さを感じず、その先に進む必要もありません。給湯室や自動販売機の近くなどに設置するのも、不自然さを感じないということです。
一方、駅や商業施設など不特定多数の人が使う場所では、男女別のトイレとは離れた周囲の目が気にならない場所に、「だれでもトイレ」を設置。気兼ねなく利用してもらいます。
大学のトイレに提案
LGBTに配慮したトイレを実際に提案し、設置しようという動きも出ています。
TOTOでは去年、大分県別府市にあるAPU=立命館アジア太平洋大学に、LGBTに配慮した女性用トイレの設置を提案しました。
提案では女性用トイレを入ってすぐの場所にも、個室を1か所設置します。「からだ」は女性で「こころ」は男性という、トランスジェンダーの人が利用しやすくなります。
入り口付近の個室には、自動でふたが開閉する便座や収納式の着替え台を設けるなど、誰もが使いたくなるように設備を充実させることで、個室の利用が特別な意味を持たないよう工夫されています。
トイレの進化は続く
トイレをめぐっては、1964年の東京五輪をきっかけに温水洗浄便座の開発も進み、今や日本独自のトイレ文化にまで発展したと言えます。2020年、トイレの進化は続きます。
(千葉放送局記者 山下哲平)