これまで「エスカレーターに止まって乗りたい人たち」の切実な声や、止まって乗ることが、ラッシュ時の混雑を軽減する効果があるというシミュレーションなどについて、3回にわたって記事を掲載しました。
これまでの記事に寄せられたご意見を紹介し、質問にもお答えします。
シミュレーションへの疑問
まずは前回の記事でご紹介した、
「エスカレーターは止まって乗るほうが、片側だけを歩くより、みんなが速く移動できる」
ということを証明したシミュレーションの結果について、寄せられた疑問やご意見を紹介します。
下の動画が、シミュレーションの結果を示したものです。
(動画は時間を短縮しています)
このシミュレーションでは全長30メートルのエスカレーターの利用客が350人として、「エスカレーター上を歩く人」の割合を30%と設定しました。
シミュレーションの結果、すべての乗客がエスカレーターを通り抜けるまでにかかった時間は、
「停止した場合」が6分49秒、
「片方が歩いた場合」が7分35秒。
46秒も差がつきました。
歩く方を30%としている根拠は何なのでしょう?その割合によって、どっちが速いか変わりますよ。
構造計画研究所によりますと、まずシミュレーションの前提条件については、大都市の鉄道駅でのエスカレータの利用状況を研究した「論文」を参考にしています。
論文によるとエスカレーターを歩く人の割合の平均は、
・山手線の渋谷駅で51.3%
・みなとみらい線の馬車道駅で36.2%
・東京メトロ千代田線の新御茶ノ水駅で10.8%
こうしたデータから、今回は歩く人が「30%」に設定されています。
途中で右側をあけてわざと遅く見せています。嘘で印象操作するのは反対です。
右側を歩く人どうしの間隔が空いているのは、上記の前提条件で、歩く人が少ないためだということです。
今回のシミュレーションでは、片側を歩く人の割合が70%程度にまで増えないかぎり、結果が逆転することはないそうです。
シミュレーションしているチームの室長、北上靖大さん(左)と小川倫さん(右)
海外で同じ実験が行われていた!
次のようなご意見もいただきました。
その実験は、ロンドンの都心部を通るロンドン地下鉄のホルボーン駅で行われたものです。
エスカレーターの乗客に協力してもらい、2列で立ち止まって乗るのと片側歩行とで、どちらが混雑するかを3週間にわたって試しました。
その結果、2列で立ち止まって乗ったほうが、30%混雑を緩和できた、という結果が得られています。
「わかっているけど、急いでるから」
「止まって乗ること」への反対意見も寄せられました。
「しかたなく歩く」という人も
いわば「消極的な反対派」という意見です。
全員が「歩きたい人」ではなく、右側を「しかたなく歩いている人」が結構いるのでは、と感じました。
興味深い調査をしている大学生たちがいました
文京学院大学経営学部の新田都志子教授のゼミの学生たちは、ことし9月、Webで10代から70代の約600人を対象に、エスカレーターの乗り方について意識調査を行いました。
エスカレーターで歩く人たちに理由を尋ねたところ、「急いでいるから」と答えたのは47%で最も多くなりました。
その理由に注目しました。
「人の流れでそのようになってしまう」と答えた人が36%、さらに「(左側で)待つことが面倒」と答えた人が26%。
つまり積極的に歩きたい人より、しかたなく歩いている人の方が多かったのです。
エスカレーターの乗り方のマナーを変えるヒントは、このあたりにありそうです。
私も止まって乗りたい
さてサイトに寄せられた意見のうち、最も多かったのは「止まって乗ること」への賛成意見でした。一部の意見をご紹介します。
右側に止まって乗ることも、当たり前の世の中になってほしいです。
周りにはいろいろな身体のハンデを抱えている人々がいるのです。わたしもエスカレーターは止まって乗りたい。
右側に乗りたい人がいる。2列で乗る方が効率的。この考えがもっと広がるといいなと思いました。
「溝をつくること」は、望んでいません
最後に、最近寄せられた「反対」の意見をご紹介しましょう。
少数者のために大多数の人が「行動を変えるべき」などと言われれば、両者の間にかえって溝が生まれてしまうのではないでしょうか?
今の時代、意見が分かれるメッセージを伝えるのは難しいことですが、私たちはそれによって溝が生じることを望んではいません。
ただ、エスカレーターに止まって乗りたい人は、障害のある人だけではありません。
超高齢化が進む日本では、誰もがいつか「止まって乗りたい人」になるのではないでしょうか。
次回は、エスカレーターに思わず止まって乗りたくなってしまう、様々な工夫をしている大学生たちの挑戦をお伝えします。