「ペンギン活動しています!」
先日、私たちのもとに、エスカレーターでの興味深い体験がつづられた1通のメールが届きました。
取材を申し込んでびっくり。メールの送り主は…パラリンピックにも出場したことのある卓球選手だったのです。
(取材:藤目琴実記者 イラスト:ヨシダリュウタ)
「ペンギン活動」していたら・・・
そのメールを受け取ったのは今年2月のことでした。
(メールより)
私は、左足のひざ下に装具をつけている下肢障害者です。ペンギン活動をしていた中で、ヒヤッとした出来事がありました。
ある夕方、改札へ向かうエスカレーターで片側に長い列ができていて、右側には誰もいない時がありました。 隣には階段もついていて、そこまで混んでいる感じはなかったのでペンギンしました。 中ほどまで来た時に真後ろのサラリーマン風の方が、すごく上りたがっている雰囲気を出して圧をかけてきているのを感じました。 残り数段になって『すいません』と声をかけてきて、隣にも人がいるのに間に割って上ってこようとしました。
「圧」を感じました・・・
さすがに私も『危ない』と思ったので数段を上りました。 そのタイミングでおそらく左足の装具がすその下から見えたのだと思います。 その方はエスカレーターを降りたあと、立ち止まり謝るような形で頭を下げ、足早に去って行きました。
会いに行ってみた
「ペンギン活動」をしている私も体験したことのない、緊張した瞬間とその後の展開。 もっと詳しく伺いたいと、メールに書かれていたアドレスから取材を申し込みました。
同時に、そこに書かれていた名前になんとなく見覚えがありました。
「あれ、ひょっとしてこの人は・・・」
送り主は、岩渕幸洋選手(24)。東京・練馬区出身のパラ卓球の選手でリオパラリンピックにも出場しています。去年の世界選手権では個人で銅メダルを獲得し、2020年の東京大会でも活躍が期待されています。
スロバキアでペンギン日記に出会った
4月、岩渕選手が所属するチームの練習場を訪れました。2020年の選考を控えた厳しい練習の最中ということで緊張しながらあいさつした記者を、爽やかな笑顔で迎えてくれました。
爽やかでした!
エスカレーターの乗り方に以前から疑問を持っていたのですが、この問題を扱っている記事を読んだのは初めてでした。
スロバキア?
あまりに意外な単語に、頭の中を地球儀がぐるぐる回りますが、ひとまずインタビューを続けます。
そういう反対意見に負けないように、微力ながらも賛成に1票を投じるつもりでメールしました。
そもそも岩渕選手がエスカレーターの乗り方に関心を持ったのは、チームメイトの体験がきっかけだったそうです。
岩渕選手より重い障害のあるその選手は、エスカレーターに乗ったときに右側を空けるため、わざわざ自分の前にスーツケース2つを重ねて置いていましたが、降りる際の衝撃でスーツケースが落下してしまいました。
スーツケースをつかんでいた選手本人も引きずられてエスカレーターを転げ落ち、非常に危険だったということです。
こうした体験に加えて、エスカレーターの片側を空けるためにできる行列も非効率に感じ、「ペンギン活動」を始めたそうです。
エスカレーターで先を急ぎたい人と、止まりたい人。異なる意見を持っていても、お互いの事情がわかれば対話が生まれるのではないかー。岩渕さんは、パラリンピックをそのきっかけにしたいと考えています。
岩渕選手
「いろんな人がいるというのを認め合うというのがまず1つの前提で、でもそれが結構、大きいと思っていて。そのためにパラリンピックみたいな大きなイベントがあって、いろんな外国の方が来たり、いろんな方が来ると思うんですね。
お互いに相手を思いやって気持ちよくコミュニケーションできたらそれが1番すてきなことなんじゃないかなと思います」