ADHDのITエンジニアが「無能」から脱却する仕事術 〜コミュニケーション編〜
はじめに
「どうせ、またお前が原因だろ?」
27歳のとき、障害対応の会議で先輩にそう言われ、何も言い返せずうつむいた。ADHDである私は、タスクの抜け漏れや説明不足で「やらかし」を量産し、無能のレッテルを貼られていた。
鍵となったのは、仕事の実力を磨くと同時に、コミュニケーションで「印象資産」を貯めるという発想だ。
本稿では、私が現場で血と汗で編み出した具体的なテクニックを、体験談を交えながら共有する。
この記事が、かつての私と同じ壁にぶつかるITエンジニアの心を少しでも軽くできたら嬉しい。
仕事のできない僕らが「印象資産」を今すぐ貯めるべき理由
印象資産とは
人は他人の能力を「結果」よりも「振る舞い」で先に判断する。
そこで得たプラスの先入観を、この記事では「印象資産」と呼ぶ。
✅ 預け入れ : ポジティブな行動・言動で信頼を積み立てる
❌ 出金 : ミスや遅延で信頼を引き出してしまう
印象資産が潤沢なら、たとえバグを出しても「彼ならすぐにリカバリーできる」と周囲は信頼してくれる。
逆に枯渇していると、同じバグでも「やっぱり、あいつは駄目だ」とレッテルが強化される。
体験談: 作業タイムラインだけで依頼対応がスムーズになった話
昔の私は返信を考えるのに時間がかかり、印象資産をみすみす失っていた。
ある日から「確認します!」というメッセージを即レスで付けることだけを徹底し、考えていることをスレッドのツリーに連ねるという行動を始めた。
そうすると今まで返信を考えていた内容が可視化され、周囲から「ごめん。そのエラーが出ているところって自分が改修したところだ。自分がやるよ」や「こっちでも調査してみるね」といったサポートが受けられるようになり、チームとしての連携力も上がった。
何より上司や依頼者からの「リアルタイムで対応してもらっている」という信頼値を蓄積することができ、自分の印象資産を貯めて快適に仕事ができるようになった。
スキルアップと同時並行で、手元の行動で「利息」を稼ごう。
「やらかし報告」はスピード勝負
失敗を見つけたら3点セットで即報告
事実 : 何が起きたか (時間があればスクリーンショット・ログなどを付ける)
原因仮説 : 現時点での推測でOK
第一アクション : とった対応またはこれからやること
自分のやらかした障害をリカバリーする
あるとき、本番デプロイ後に本番環境でエラーに気づいてしまった。
こういう時は嫌でも心拍数が上がる。
でも、私は「いつか自分はやらかす」と思っていたので、事前に用意しておいたテンプレで即報告した。
【障害報告】[気付いた時間] [発生した事実]
- 事実:
- 原因仮説:
- 第一アクション:
結果、上司の第一声は怒号ではなく「助かる。続報を待つ」だった。
スピードは謝罪を超える最強の対応である。
「質問下手」を1日で克服するフレームワーク
「質問がうまい」と上司に褒められた瞬間
かつて私は「どこが分からないか分からない」無能の典型例だった。
上司に質問しても「何を言っているのか分からない」「で、何がしたいの?」と反応されるばかり。
しかし、背景や試したこと等をテンプレートとして強制的に併記することにしたら無駄なやり取りが減り、上司から「質問が分かりにくい」と言われることはゼロになった。
ある日、上司から1on1で「もっと、あなたのように質問をしてくれる人が増えれば良いんだけどね」と言われ、自分の能力を評価された。
「質問力」は仕事の能力そのものだと痛感した。
「もう少し具体的に」が口癖の上司を黙らせるプロトタイプ投下術
機能デモで口より手を動かす最短経路。
Step 1: 既存のコードをコピペし簡易な機能デモを作成
Step 2: デモを開発環境にデプロイ
Step 3: デモのURLをSlackに貼り「簡単な叩き台ですが動くデモを作ってみました。自由にご意見をください🙇♂️」とメッセージ
言い争いゼロで要件定義が終わった奇跡
新規案件で仕様の調整で3週間かかり炎上気味。
私は黙って2時間で「デモアプリ」を作りURLを関係者のSlackに貼った。
それを叩き台にスレッド上で議論が行われ、1日で仕様が固まった。
目に見える叩き台は100枚のスライドに勝る。
「理解したフリ」が事故を招く。認識合わせの重要性。
仕事における最強ワードは「〜という認識でよろしいでしょうか?」だ。
自分の見てきた「仕事ができる人」で認識合わせをすることに文句を言ったり、嫌な顔をした人を見たことがない。
どうやら「仕事ができる人」というのは大幅な手戻りを発生させる「認識のズレ」を相当気にする傾向にあるようだ。
3段ステップで確認
自分なりの言葉で要約 (結論→理由の順)
「〜という認識でよろしいでしょうか?」で相手にYES/NOで答えてもらう
ズレがあれば即修正
仕様バグを未然に潰した「念押し」チャット
リリース2週間前、仕様書の記載に違和感を覚え、PMに要約を送り「念のための確認ですが、この仕様は〇〇という認識でよろしいでしょうか?」と確認したところ、仕様書が誤っていることが判明。
即座にコードを修正し、テストを実施しリリースに間に合わせた。
たった1行の確認で数百万の損害を防げ、PMからは感謝された。
最後に
この記事では、私流のADHDの仕事術について書かせてもらった。
ただ、私の方法論は完璧ではない。それでも共有したのは、試行錯誤の価値を信じているからだ。
ADHDである私は今後も「やらかし」をするであろう。それが生まれ持った特性なのだから。
しかし「やらかし」ごとに教訓を得て改善するなら、失敗はむしろチャンスとなり得る。
どうか、過去の私のように自分を一方的に責めたりせず、自分の「特性」を「得意」に変える人が一人でも多く増えることを祈る。
コメント
4この記事を読んで、自分のやり方が間違っていなかったとちょっと自信が持てました。
即レスで状況を共有する方法は、私も実践しているものの、周りはそうでない時、なんて伝えれば良いのか迷う時があってもやもやしていたので、参考にさせていただきます🙏
とてもわかりやすい記事でした。ありがとうございます。
100スライドは1デモに如かず。
良い言葉です。
相手が何を求めているか考えることが、信頼資産を獲得する投資ですね。
凄い参考になる記事です!!
この記事を参考にさせてください