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小説『8番出口』を読んで

8番出口は少し前に流行ったゲームだ。地下鉄の道を何度もループしながら、0番出口を出発点にして異変を見つけながらゴールを目指すゲーム。異変があれば引き返し、異変がなければ突き進む。そんな単純だが少し怖さのあるゲームを、川村元気さんが映画化し、その小説版が出ていた。

細かい経緯は川村元気さんへのインタビューにて書かれている。

https://note.com/suirinsha/n/n30cbf94b6309

ぼくは川村元気さんの大ファンで、彼が関わった学生時代から本は全て買い、映画もほぼ見ている。きっかけは、吉祥寺の本屋さんでたまたま目に入った『仕事。』という本が、何の偶然かサイン本だったことから謎の親近感を抱いたことがスタートだった。その本も面白く読んだことをきっかけに、小説も読み始めた。確か『理系に学ぶ』だったか、出版記念イベントに足を運んで名前入りのサインを書いてもらったこともある。

川村さんが描く物語には、世の中の概念に対する不思議に対しての掘り下げがほぼ必ず描かれていて、ある意味具体と抽象の対比がわかりやすいと思う。『世界から猫が消えたなら』は確か生死がテーマで、無くなることを通じてあること・いることを浮かび上がらせていたし、『億男』だったらお金、『百花』だったら記憶、『神曲』だったら信仰がテーマにされていた。かなり扱うには大きいテーマを取り立てて、現実でメタファーとして描きながら、根源的な問いに対する仮説を提示するという、壮大な思考実験をしているのだと思う。

では『8番出口』のテーマがなにかというと、おそらく「罪」なのだと推定する。ただし、それはいわゆる刑事事件などの対象となる罪ではなく、誰もが内在しているであろう日常的な罪。例えば、他のお店で買ったゴミを通りがかったコンビニで捨てるとか、明らかに重そうなスーツケースを階段で運んでいる人を素通りしてしまうとか、そういった類のものだ。

この本では、地下鉄に乗った主人公が、電車の中で大声で泣き叫ぶ赤ちゃんとその母親に対して、おじさんが声を荒げ嫌味を言っているシチュエーションに遭遇するところから物語が始まる。その状況に対して、周りはスマホを見たまま見ようともしない中、主人公も葛藤するも特に行動を起こせずに逃げるようにイヤホンをして傍観者に成り下がる。これが、この本で提示される日常的な罪の原型だ。

これ以上はネタバレになるので書かないが、この罪と向き合うというのが大枠のテーマなのだろう。

おそらくだが、大部分の人にとってこのテーマを突きつけられるのは不快だと思う。自分にとって極めてグロテスクな部分で、大人になるとそういったところを直視しないスルー力のようなものが自然と備わっていくため、ほとんどの人にとっては最近向きっていない気持ちなのだろう。

かく言う自分もそうだ。以前道を歩いていたらうずくまっている人を見かけたことがある。日中だったため、少し「異変」を感じたが、夜であれば酔っ払って座り込んでいる人も見かけることもままある、そういった人だとカテゴライズして特に声をかけなかった。実際は救急車を呼ぶような自体だったのかもしれないし、別におおごとではなかったのかもしれない。そんなこと知る由もない。ただ、その出来事が放つ悔恨は何度も自分を襲っている。

そんなグロテスクな内面に向き合うのはとても怖く、臭いものに蓋をしていたのだが、この本によってそんな自分が引きずり出された気分だった。

そう考えていくと、テーマは『原罪』なのかもしれない。アダムとイブが神様から禁じられていたりんごを食べてしまうという聖書のエピソードがあるが、我々は子どもの頃から道徳の授業やアニメ・漫画によって「人を助ける」「正しいことをする」といった観念が重要であることを教育されて生きてきた。その教育がキリスト教における神なんだとしたら、それに反する行動をしてしまう自分たちは原罪を背負っていると言える。

その原罪に抗う方法は、異変に気付く力を取り戻すこと。異変に気付くこと自体は後天的な能力ではない。誰もが生まれ持っている性質であるため、子どもでも気付くことができる。実際に本でもそれを描写するシーンがあった。

異変を異変として認識すること、そして自分ができることがないかと思考すること。これが現代社会を生きる人にとって取り戻すべき習慣なのだ。

関係あるようでないが、最近Netflixで観た『タコピーの原罪』も「原罪」という言葉が使われていた。8番出口の小説でもTikTokでショート動画を観ている主人公の姿が描かれていたが、情報が流れては消えるショート動画時代にはとても刺さるテーマなのかもしれない。

こちらの考察が面白かったです。
https://note.com/scop00/n/nb02e435ee42b

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小説『8番出口』を読んで|磯部俊哉
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