帰る場所もなく途方に暮れ、見たことの無い景色。
アーニャは見ず知らずの街に行き着いていた。
真夜中、少し足を進めると公園があった。
特に行き場も決めてなく、それよりも体力の限界だったアーニャは、ベンチに腰掛け膝を抱えて蹲っていた。
「なんだお前、また捨てられたのか?」
目もうつろうつろしてもうすぐにでも夢の中に行ってしまいそう、そんな時、ひとりの男が話しかけてきた。
顔を上げるとそこにはいつかにアーニャのことを引き取って捨てた家族のひとりだった。
偶然通りかかったのだろうか、それともアーニャが捨てられるのを待っていた?
「……」
男を見つめて、アーニャは心の声を読んだ。
(やっと見つけたぞっ、逃げやがって。
ここでいい顔してもう一度俺の家に引き入れよう(ニヤニヤ))
「こんなとこじゃ寒いだろう?俺ん家に来ないか?
みんなお前がいなくなって寂しがってるんだ。」
……うそつき。
この男はアーニャに暴力ばかり振るっていた。
暴力が他の家族にバレて離婚させられてた。
だからこの男は今、ひとりなはず。
アーニャは無視をした。
「おい、聞こえてんのかっ!!」
ドガッ!!!
お腹に一発蹴りが入り、ベンチからずり落ちるアーニャ。
「ぐっ!!」
「あ、悪ぃ悪ぃ、つい癖がw
いいから来いっ!!お前に拒否権は無ェんだよ!
俺ん家から勝手に逃げた罰だっ!お前のせいで俺は家族を失った!!お前のせいでだっ!!!」
お腹が痛く上手く立てないアーニャの腕を無理やり引き上げ、強引に連れていくその男は、もうずっとアーニャのことを狙っていたみたいだった。
その頃、ひとり家に戻ったロイド。
「ロイドさんっ!!おかえりなさい!!アーニャさんはっ、」
何も言わず頭だけを横に振ったロイド。
その姿に涙するヨル。
ボンドもこの状況を理解したのか、寂しい顔をしていた。
「…このまま、でいいのかもしれない。」
静まり返った部屋にぽつりと言葉を紡いだのはロイドだった。
「っどういうことですか…っ!!」
ロイドは計画のことは話さず、アーニャとの関係性をヨルに一から話した。
孤児院で出会ったこと。
本当は血なんか繋がっていないこと。
そのことを聞いたヨルは酷く苦しそうな顔をした。
「なんなんですか…それっ、それじゃあ、アーニャさんのあの怒りは、」
今までも何回かあの感じのアーニャは見たことがあった。
その度なだめてはその場を凌いでた。
だけど今回のあれは、、爆発的なあれは見たことがなかった。
「ロイドさん、本当にそれでいいんですか。」
「えっ…?」
「このままでいいって、本当にそう思うのですか?」
ジッとロイドを見つめるヨル。
分かってる、ロイドだってこのままじゃダメだってこと。
分かってるけど、手がかりがない今どうしたって見つけられる自信が…
「大丈夫ですよ、ロイドさん。
絶対に見つかります。
血の繋がりなんて関係ない、アーニャさんは私たちの大切な家族なんですから。」
「ありがとう、ヨルさん…」
次の日
なんの手がかりもないがアーニャ大捜索開始。
まずはアーニャの顔を印刷したビラを配りまくる。
こうすれば少しでも探してくれる人はいるはずだから。
ロイドは朝から晩まで街中を駆け回っていた。
ヨルは自宅で赤ん坊の世話をしつつ、部屋の中でもなにか出来ないかとパソコンをいじっていた。
ボンドもソワソワするばかり。
みんながみんな、アーニャのことを思っていた。
一方、男に連れられ男の住む家に来たアーニャは睡魔と戦っていた。
「ほらここが新しい家だ。新しく引っ越したんだよ、散らかってるがな。」
「……」
「おい、何黙ってんだ!!」
限界が来たアーニャはぽっくり、眠ってしまっていた。
眠っている間、ぶつくさ何か言っている男だったが、アーニャの耳には到底届かなかった。
「んん…、、あ、さ……っ?」
辺りが明るくなって目が覚めたアーニャは腕と足に違和感を感じた。
何かに縛り付けられてる感覚、この感じ昔無理やり実験された時と同じ感覚だった。
このどう足掻いてもビクともしない腕と足。
今から『なにか』をされる恐怖感。
たまらなく怖い感情、身体が嫌でも覚えてる『あのとき』の実験台と同じ光景。
身体がガチガチに震え、『あのとき』の記憶、忘れていた記憶が舞い戻ってくる。
「お、起きたか。遅い目覚めで死んだかと思ったぜクソガキ。
死ぬなら俺の手で殺されてから死ね。」
朝から酷い罵倒に心にヒビが入っていくアーニャ。
この感じ、また『あのとき』と同じ。
あぁ嫌だ、でも
アーニャだけ除け者の家族に戻るのも嫌だった。
「なにがもくてき」
ジッと男を見つめたアーニャ。
こんなことは初めてでは無いし、もう慣れてるから何回されたって同じ。
「はっ、もっと怖がれよ…あ"ァ!!!
チッ…、まぁいい。あの時勝手に逃げやがった罰だって言ったろ??
俺実はこれでも端くれの研究者なんだぜ?
おまえを捕まえたのもちゃんとした理由があんだよ。」
「けっ、けんきゅう…しゃ…っ、」
身体が震え立つ。言うことを聞かない。
今すぐここから逃げ出さなければ、だけどどうやって?実験台にこうやって拘束されてる今、身動きは全く取れない。
「おい。これ見ろ。」
見せられたのはなにかの液体が入った注射器だった。
恐らく昔実験してたブツと同じだ。
「ひっ!!やっ、ぃや…っ」
震えが止まらない、無理もない。
この痛みは大の大人でも耐えしのげない程の痛みだ。
それを小さな女の子に打つんだ、本当に研究者というものは醜い化け物だ。
「暴れんなよ…ヒヒッ、これを打てば俺はっ、大金が手に入んだよ…っ、正直おまえは道具としか見てねぇ、俺はおまえにこれを打って大金手に入れて、手放したものをまた手に入れんだ…っ、へへ…、
悪く思うなよ…、おまえが全部悪いんだからなっ!!」
『おまえが全部悪い』
この言葉が、アーニャにとってトドメの言葉だった。
全部自分が悪い、そうだ。
勝手に怒って勝手に泣いて、勝手に嫉妬して。
父や母に迷惑ばかりかけているのは自分の方だと、ちゃんと分かってる。
「それ、さしたら、おまえ、らくになるのか」
もうどうでもいいと思えた。
「あ"?なんだ?楽になるも何も、おまえが死ねばみんな平和に暮らせんだ。」
この液体で死にはしないのは知っている。
ただ能力が暴走するくらい。
だけどそのくらい知れてる。自分が苦しめば周りに被害は無い。
「うてば?」
「はっw随分と物分りがいいんだな、生きるのを諦めたのか?w
まあいい、じゃあな、クソガキ。」
駆血帯も、アルコールも何も無しにぶっ刺してくる太めの針がアーニャの細い腕に入り込んでいく。
「うっ、」
がまんがまんがまんがまんっ!!
何も怖いことなんてない、むしろこんなの全然痛くない。
大丈夫、死にはしない、分かってる。
ただ能力が暴走するだけ。
身体中に流れてくる液体は、いつもの数何倍も苦しいものだった。
液体を全部アーニャの体内に入れきった男は、注射器から手を離し、アーニャから離れた。
アーニャの腕からは、大量の血が流れていた。
「はっ?はぁ?なんだっこれ、こうなるなんて聞いてねえ!!」
男もこんな血が出ると思っていなかったのか。
アーニャ、さすがにしぬかも。
ちょっと思ってしまった感情。でも、死んでも誰も心配してくれる『家族』なんてもういないから、
「俺じゃねえ…っ、俺のせいじゃねえからっ!!」
実験台に固定されたままのアーニャを置いて出ていった男。
液体を流し込まれたアーニャは実験台で苦しく悶えていた。
だれかたすけて、だれかたすけて
ここのうちがどこかわからないけど
だれかがみつけてくれるってしんじてる
そんなこといって
たすけてくれるほしょうなんてどこにもないのに
胸が苦しい、頭が痛い。
もう何度も実験台の上で吐いたアーニャはもう既にボロボロだった。
全部が痛くて固定された腕と足はどうにもならなくて、暴れるばかりで傷だらけだった。
暴れても無駄なことは分かっているが、固定される恐怖はなかなかに消えてくれない。
ガシャンガシャンと何度も腕と足を動かして、脱出を試みる。
まあ脱出出来たところで、帰る場所なんてないのだが。
「ううぅ!!ん!!っぐ!!!」
恐らく最後の力で、なんとか実験台から抜け出せたアーニャ。
手首と足首はもう血だらけで、見たことないくらいの大きなアザと傷だらけだった。
腕からも血を流している、これまでにない血の量が一気に流れているため、実験台から降りるだけでも相当な体力を消耗していた。
「……じっけんするために、アーニャをつくった、」
いつしかの記憶が頭に流れてきた。
『何度言ったら分かるんだ!!!』
『そうじゃない!!』
『"被験体007"!!!!』
みんなが声を揃えて言う、アーニャの本当の名前。
名前というかもう、人として扱われてないのだけれど。
アーニャは7体目の実験体だった。
7体目にして宿った、人の心を読める超能力。
その能力をもっと大きい物にして、他の被験体に植え付けること。
大きくするにはさっきみたいな注射を何本も打たれること。
男の家を後にして、行き先の無いアーニャは靴も履かず、腕と足がボロボロで血を流しながら小さく足を進めた。
「あーにゃ、なまえはアーニャ。
ちちが つけてくれた たいせつな、なまえ。
ひけんたいぜろぜろななじゃ なくて、アーニャ。」
何かを呟いてないと意識が飛びそうで、ただひたすらにブツブツと言葉を吐いていた。
炎天下の中、ボロボロの服に裸足での移動。
周りからはジロジロと見られる始末。
こんな小さな子が血だらけでふらふらと歩いているというのに、周りは一切気にかけてはくれない。
どれくらい歩いたのだろうか。
意識はほぼ飛んでいた。
腕から流れていた血はもうとっくに乾ききっていて、汗だくになりながらも足は止めなかった。
「お、おい、お嬢ちゃん、、?大丈夫か?」
見知らぬ老翁に声をかけられた。
アーニャはその老翁に近づき、こう尋ねた。
「ふぉーじゃーけは どこに あるますか、、、」
「え?なんだって?」
"フォージャー家はどこにありますか。"
アーニャはまだあの家に住みたいと思っていた。
「ふぉじゃ、…、ち、ち…、─────。」
まだ、『アーニャ』で居たい。
自分は、『被験体007』じゃなく、『アーニャ』なのだと。
「おうち、かえりたい、よ ───」
そこで完全にプツンと意識を手放したアーニャだった。
つづく。
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