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医療・健康・介護のニュース・解説

地域の訪問介護 撤退相次ぐ…公定価格下げやヘルパー不足で

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 介護保険制度でヘルパーが高齢者宅を訪れ、食事や入浴の介助などを行う訪問介護サービスの事業所がなくなってしまった地域があります。人手不足に加え、国が訪問介護の公定価格を引き下げた影響があるようです。高齢者の自宅での暮らしを支えるため、事業所の存続に向け、支援が必要だとの指摘があります。(板垣茂良)

唯一の事業所休止

ベッドに寝ている高齢女性に声をかけるヘルパーの桐野さん(7月13日、長野県高山村で)

 「こんばんは。来たよ~」

 長野県北部に位置する高山村。7月中旬、畑の中の一軒家で、介護福祉士の桐野 海杜かいと さん(26)が、ベッドに横になっている女性(79)に優しく話しかけた。声に気づいた女性は目を開けると、にっこり笑った。

 桐野さんは、隣の須坂市にあるNPO法人「良風来」のヘルパーだ。車で約20分かけ、この家を訪れている。週3日、ほぼ寝たきりの女性のおむつを交換する身体介護を行う。同居している会社員の長女(51)が出張で留守の日は、朝食を介助する。

 高山村の人口は約6400人(7月時点)で、65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は約38%に上る。しかし、村社会福祉協議会(社協)は昨年9月末、ヘルパー不足を理由に訪問介護事業から撤退した。村で唯一となった訪問介護の事業所も、1か月後にはサービスを休止。村内で訪問介護を提供する事業所はなくなった。

 当時、この女性を含め、利用していた高齢者は約40人。長女の元には電話で「明日からヘルパーが行けなくなった」と連絡があったという。

 利用者のケアプラン(介護計画)作りを担う事業所から相談があり、良風来は、女性ら村内の8人へのサービスを引き受けた。

 良風来でヘルパー事業を担当する山田和代さん(51)は「自宅で暮らし続けたいという利用者や家族の思いに寄り添いたかった。ただ、ガソリン代などの経費がかかるため、経営的には厳しい」と語る。

 女性の担当ケアマネジャーの竜野靖弘さん(43)は、村内で訪問介護事業所がゼロになった事態に、強い懸念を抱く。「高齢化で、介護の必要な人は今後も増える。交通が不便な地域に住む人たちがサービスを受けられなくなる日が来るかもしれない」

 村社協は現在、訪問介護事業の再開を検討している。

負担増で離職招く

 訪問介護事業所の撤退が全国で相次いでいる。東京商工リサーチによると、昨年、倒産や廃業となったのは529社に上った。

 厚生労働省が全国の市区町村を対象に行った委託調査で、訪問介護事業所が「0~5か所未満」の自治体は、回答した796自治体の約4割(昨年3月末現在)を占めた。過疎地などの地域では、サービスを利用したくてもできない状況が生じている恐れがある。

 要因の一つとして挙げられているのが、国が3年ごとに行う介護報酬改定で昨年度、訪問介護サービスの単価(基本報酬)を引き下げたことだ。財源が限られる中、経営が厳しい特別養護老人ホームなどへの報酬を手厚くする必要があったという。

 厚労省の委託調査では、中山間地や離島にある訪問介護事業所の6割弱では、改定後の昨年8月の収入が前年同月に比べて減った。

 高山村で訪問介護サービスを休止した事業所の担当者(34)も「単価の引き下げが引き金になった」と明かす。単価が低くなったことで、事業所の毎月の売り上げは数十万円減った。経営を維持するため、利用者数を増やしたところ、「業務の負担増に耐えられなくなった社員やパート従業員が相次いで退職してしまい、事業を続けられなくなった」という。

 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「訪問介護を取り巻く現状を見ると、単価を引き下げた国の判断は誤りだったと言わざるを得ない。国は、27年度に予定している介護報酬の改定を待たずに、すぐにでも単価の引き上げを行うべきだ」と指摘する。

一部自治体、独自の支援

 地域の訪問介護サービスを維持するため、一部の自治体は独自の支援に乗り出している。

 新潟県村上市は、市内の全ての訪問介護事業所を対象に、国の単価引き下げによる2024~26年度の減収分を穴埋めする補助を始めた。また、ヘルパーの車1台あたり毎月3000円の補助も行う。中山間地が多く、移動が長距離に及ぶため、燃料費などに充てられるようにしている。

 市内で事業所を運営する「ユニゾンむらかみ」では、補助額が合わせて月10万円前後になるという。福田秀樹社長(69)は「45分間のサービスを提供するために車で往復2時間の訪問先もある。補助のおかげで、何とか事業を続けられる」と話す。

 大分県竹田市も減収分を補助する。対象は25年1月から2年間だ。市は「事業所の経営を守ることは、介護を受けながら自宅で暮らしたい高齢者を支援することにつながる」(高齢者福祉課)と説明する。(2025年9月13日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

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