朴一さん『在日という病』を読む(4) ― 2025/09/01
https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2025/08/27/9798735 の続きです。
韓国に留学するとアイデンティティが揺らぐ
朴一さんは1997年に韓国に留学した時、自分の韓国人としてのアイデンティティに揺らぎを感じます。
いつものようにタクシーを利用し、運転手といろいろ話をしていたら、運転手から突然、こんなことを言われました。
「お客さん、日本人なのに、韓国語うまいね」
私が運転手に「私が日本人に見えますか。 これでも韓国人なんです」と言うと、彼はこう言い返しました。
「韓国人にしては韓国語がへたやね」
‥‥この運転手の一言は、本当の韓国人になりたいと頑張っていた私には棘のある言葉でした。 (以上、126~127頁)
在日が本国の韓国を旅行して〝自分は日本人ではなく韓国人だ”と名乗ると、必ずと言っていいほどに〝ハングギニンデ ジェデロ モタヌンガ(韓国人なのに、ろくに喋れないのか)”と返されたという経験をしますね。 〝自分は民族性を取り戻すために祖国にやってきました”なんて言っても、本国の韓国人は感心するのではなく〝ハングゴガ ノム ソトゥルロ(韓国語が下手くそ!)”と厳しい言葉を浴びせます。 朴さんも例に漏れず同じ経験をしました。
つまりは〝日本で朝鮮人だとバカにされ、韓国に来てみたら言葉ができないとバカにされ‥‥、結局在日は日本でも韓国でも差別される”ということになります。 それで「自分は日本人でも韓国人でもない」という意識になるようです。 だったら、どうすればいいのか? 朴さんは「在日としての生き方を模索」しました。
(1997年の韓国)大統領選挙で味わった、何ともいえない疎外感は、自分は韓国人でありながら韓国人でないというアイデンティティの揺らぎを再確認する機会になりました。 私が日本人でも韓国人でもない在日という生き方を模索するようになったのは、それからのことです。 (136~37頁)
しかし朴さんは自分が「日本人でも韓国人でもない在日だ」と決意しても、それは主観的な情緒に過ぎず、客観的には韓国人なのです。 ですから海外に出かける時には韓国政府から発給される韓国パスポートを持っていくしかなく、そこでは「私は日本人でも韓国人でもない在日だ」と言い張っても通じません。 〝韓国人なのに、なぜ韓国人でないと言うのか?”と怪しまれるだけでしょう。 あるいはまた〝韓国パスポートを持っていながら下手な片言韓国語をしゃべるこの人間は本当に韓国人なのか?”と不審がられるでしょう。 「在日という生き方」は日本国内だけで通用するもので、国際的に通用しないのです。
参考までに、ある在日韓国人がアメリカに旅行した時の手記を紹介します。
在日韓国人がアメリカを旅行する時、いつも経験することですが、アメリカ人は日本で生まれた私たちを、日本人だといいます。 「いいえ違う、韓国人だ」と言っても、韓国から来ている〝ほんとうの韓国人”に比べると、自分はどことなく日本人のような気がします。 そんなことを説明すると、アメリカ人は「じゃ、お前は、韓国にルーツをもつ日本人で、イタリア系、ドイツ系アメリカ人のようなものだ」と言います。 「いや、そうではない、私は韓国系日本人じゃなくて、在日する韓国人だ」といくら言っても、彼らにはこの違いが容易に理解されません。 (李貞順「『在米』から『在日』を考える」 1983年『三千里』所収)
私の知り合いも、同じような経験をしていました。 その話は、20年ほど前ですが拙稿「在日朝鮮人が海外旅行すると‥」 http://www.asahi-net.or.jp/~fv2t-tjmt/daisanjuunidai で発表しました。 (続く)
【拙稿参照】
在日韓国人と本国韓国人間の障壁 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/12/12/9641974
『在日コリアンが韓国に留学したら』を読む(2) https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2024/12/11/9738817
韓国人でも日本人でもない―しかし同化する在日韓国人 https://tsujimoto.asablo.jp/blog/2023/02/14/9562752
在日が民族の言葉を学ぼうとしなかった言い訳 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2010/12/12/5574193
姜信子『棄郷ノート』を読む http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2018/10/19/8977899
在日コリアンと本国人との対立 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2011/11/20/6208029
在日コリアンの「課題」 http://tsujimoto.asablo.jp/blog/2012/01/08/6282960
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。