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カーテンコールでの高橋大輔さん(写真右)と増田貴久さん(同左)撮影/長濱耕樹

高橋大輔と増田貴久、アスリートとアイドルが「氷艶」で挑んだ「高きハードル」

『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』レポート 1

7月5日から7日、横浜アリーナにおいて、『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』が開催された。氷艶とはフィギュアスケートと日本文化が融合し、異業種の演者が競演する氷上総合エンタテインメント。今回は堤幸彦さんが演出し、高橋大輔さんと増田貴久さんのW主演。

さらに音楽はSUGIZOさんが担当し、スペシャルゲストアーティストとしても出演など豪華な顔ぶれで、岡山の桃太郎伝説のもとになった「温羅伝説」をテーマに古代日本の物語を紡いだ。

歌舞伎と融合した『氷艶 hyoen 2017 ー破沙羅-』から見続けているライターの田中亜紀子さんがレポートする。

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これほど役を深堀して臨む「氷艶」は初めてです

終演から2週間を過ぎても、まだ「氷艶」ロスから復帰できない。

今回の『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』は、特にお芝居の要素が強く、高橋大輔さんはW主演の増田貴久さんと共に、堤幸彦氏の描く古代日本の物語のヒーローとして、氷上で鮮やかに生きていた。その姿は、もはやスケーターが芝居に挑戦という段階ではなく、凄みとエネルギーの炎が燃え上がり、表現者としてさらなる地平を切り開いていた。

「これほどまでに、役を深堀りして臨む氷艶は初めてです」

まだ氷艶の稽古が始まる前、高橋大輔さんはそう語っていた。過去の氷艶シリーズで、セリフや歌が始まったが、これまでは自分で役作りするというより、演出家に教示を受けながら無我夢中で演じてきたという。「そういう中、多くの俳優さんと共演したり、ご縁ができたり、これから公開になる映画『蔵のある街』の撮影の時にも、たくさんの俳優さんの役作りを見てきた。中にはここまでやるの?というぐらい、細かく準備する方もいらした。そんな経験を経て、今回は自分なりに、役や自分の内面を深堀したいと思ってます」

今回の『氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-』は、そもそも高橋さんの故郷、岡山の「桃太郎伝説」のもとになった「温羅伝説」がベースだ。後世で鬼とされた、吉備の王「温羅」の、今も残る伝説をもとに、末原拓馬さんが脚本を執筆。高橋さんは、スタイリッシュな桃太郎のCMが放映されていたころ、「氷艶」でそんな桃太郎の世界をやったらカッコいいんじゃないかと、制作側に提案もしていた。それが今作で実った形だ。

公演後に発表されたコメントでも「自分のルーツと合わせながら表現できることの喜びと責任感を感じています」と話している。また今回、演出を務めた堤幸彦監督の作品の「超」ファンでもあるという。さらにトップアイドルグループ「NEWS」の増田貴久さんをW主演として迎え入れ、対照的な宿命の二人を演じることになった。これはただですむわけがない! そんな期待が膨らんでいたが、公演前のテレビ番組で放送されていた「氷艶」の稽古で、増田さんと本読みをしている高橋さんは、すでに「温羅」が宿っている風情ではないか。『氷艶 hyoen 2019 -月光りの如く-』の時に、人生初の本読み稽古のテレビ放映で、ラブシーンのセリフ部分を、皆の前で照れて真っ赤になって読んでいた高橋さん。その初々しい姿はもうどこにもなかった。あの時でさえ、本番には堂々たる演技に変わっていたので、さて今度は一体どうなってしまうのだろう。

高橋大輔さんと荒川静香さんの稽古風景 荒川静香公式インスタグラムより

簡単にあらすじを紹介しよう。古代日本の吉備の里では、里の民と、高地に住み、特殊な製鉄技術を持つ白霧族が手を結び、豊かに暮らしていた。後世では鬼とされてしまう、白霧族の温羅(高橋大輔)はみなに慕われる優しい王だったが、ある時、大和朝廷が製鉄技術を狙い侵略にやってくる。後世「桃太郎」と呼ばれることになる、大和朝廷側が殺戮兵器として育てたのが、吉備津彦(増田貴久)だ。最初は戦いたくなかった温羅だが、国を守るために戦い、愛する者たちを失い、戦う夜叉と化していく。逆に温羅との出会いで、人間らしさに目覚め、戦う意味に悩んでいく吉備津彦。対照的な宿命の二人が相対し、運命に翻弄される物語だ。

SUGIZOさんのギターでロックオペラの幕開け

さて本番。横浜アリーナにしつらえたリンクを囲む3方向に、ぎっしり入った観客の熱気が待ち受ける、青く冷たい氷の世界が、いきなり赤の光線とギターの音で切り裂かれた。奥にしつらえたステージにSUGIZOさん降臨。ドラマティックで切迫感のあるギターがのっけから炸裂し、ロックオペラの幕開けだ。

ギターと、スクリーンで示される古代日本の混乱と氷上のアンサンブルスケーターのスピードにのって意識は時空を超え、カオスな古代日本へ。闇の中から、吉田栄作さん演じる大和朝廷の影帝がフライングで登場した時は驚いた。あのさわやかなイメージの吉田さんがこのような、威厳あるダークな役が似合うとは。ここで、影帝は製鉄技術を持つ吉備の国への野望を語る。そしてさらって以来、誰にも会わせず蔵で育ててきた子供に、闇の力を持つ神「闇呑神」の力を注入し、殺戮兵器として育てる命を犬、サル、キジに下す、その子どもが増田さん演じる吉備津彦である。ここまでが演奏と共に一気に進行。SUGIZOさんは時空の境目の吟遊詩人か、彼の音楽が描く世界の創造主のような風情だ。

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