「これより第57回壁外調査を始める!!!」
さて……とうとう来たか。壁外調査。裏切り者……ソイツが本当に襲ってくるのか……そんでもってどう襲うつもりなのか……分かんねーことだらけだが,まぁ任された以上しっかり役目を果たすとするか。
俺の配置は右翼側……だが団長から状況によっては陣形を混乱させない範囲で自由に動くことを許可されている。まずは相手さんの出方を伺うべきだな。
……さぁ少し気合い入れるか。
そう思う俺の手首には簡易的な作りで出来た紐のブレスレットが付けられていた。
ーーーーーー
壁外調査の少し前ーーー
「…………うーんなにがいいかなぁ……」
「…………なんでもいいだろ別に」
「もう!アベルももっと真剣に考えて!」
「……お前なんか遠慮なくなったな。クリスタ」
「え!?………そうかな?」
「俺は話しやすくていいと思うが」
「そっか……」
前の約束通り,クリスタとプレゼント探しに2人で出かけたはいいが……正直乗り気じゃない。こんな所見られたらまたユミルや他の男どもにいらん勘違いをされちまう。さっさと終わらせて帰りたいが……
……まぁ何となくクリスタが遠慮なくなってるのは悪くないなと思う。多少なりとも本心で話せるようになってるのを見れたのは着いてきた甲斐があったってもんだ。
「……アベルは何を貰ったら嬉しい?」
「……金。自分で好きなもん買えるしな」
「……もぉ!男の子同士ならそうなのかもしれないけど女の子へのプレゼントとしては最悪だよ!!」
「…………」
「まぁでもなんだ。お前の自分に何かあっても忘れないように……って考えのプレゼントなら消耗品よりは形に残るもんの方がいいんじゃねぇか?」
「…………確かに!何かアクセサリーとかがいいかな?」
「いいんじゃねえか。……死んだら何も残んねぇからなそういうアクセサリーが思い出として残ってるだけでもマシだろ。」
「…………ごめんね?アベル」
「……何がだ?謝られるようなことされた覚えはねーよ。」
死んだら全員もれなく巨人の腹の中だ。そしたら何も残ることはない。……実際何も残ってなかったしな。
「……じゃあ良いアクセサリーがないか探しに行こっか!」
「…………だな。」
ぐぅ~~
「…………」
「…………先に飯でも行くか。もう昼頃だしな」
「うん……ごめんね」
顔を真っ赤にしながら謝ってくるクリスタを見るのは少し面白かった。
ーーーーーー
「…………お金。私の分まで払って貰っちゃってごめんね?」
「……別に。お前はプレゼント買うんだろ。それで足りなくなっても困るからな 」
「…………アベルって捻くれてるけど優しいよね」
「別にそんなんじゃねぇよ…………だからそんな生暖かい目で見るなうっとおしい……」
飯奢ったくらいで大袈裟な奴だ。それにクリスタに金を払わせるとか後でユミルにバレたら面倒くせぇ……まぁ2人で出かけてるのバレた時点で怠いけどな。
「あ……あれいいかも」
「……ブレスレットか。まぁ無難だし着けても邪魔になんねぇしいいんじゃないか」
「……だね。あれにしようかな」
そう言って店に入ってみるが値段もそこまで高くないし,何より簡易的で紐の無難なデザインなのを見るに立体機動中着けても邪魔になんねぇし無くさねーだろうしいいんじゃねぇかと思う。
「これを……2つ!お願いします!」
「…………2つ?」
「…………今日のお礼も込めてアベルにも着けて欲しいなって……」
「…………」
「……アベルにも私の事忘れないで…ほしいなって……」
「……前に言ったろ。物なんて無くても忘れねーって…まぁ。そういうことなら1つ追加だな。」
「……え?」
そう言って俺も1つ同じブレスレットを買った。
「これはお前にやる。だからこれは死んでも忘れないように…なんて物騒なもんじゃねぇ。これを着けてる限りは死ぬな。俺もお前も…………ユミルもな。」
「…………」
「今度ある壁外調査も3人でこれを着けて,また生きて会う。それでいいだろ」
「……分かった。アベル……死なないでね?」
「死なねーよ。俺には死ねない理由がある。お前も……まぁせいぜい無茶すんなよ」
「……もう…こっちのセリフだよ」
そう言って俺は左手首にクリスタから貰ったブレスレットを着けた。願わくば
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よし!!このまま前進するぞ!」
「…………了解」
うちの班長のバカでかい声を聞きながら壁外を馬で駆ける。今の所特に何もねーけど……何か嫌な胸騒ぎがする。
俺も人並みに初めての壁外で緊張しているのか……それとも本当に何か…………
「後方から一体巨人が走ってきています!!」
「何!?索敵は何をやってんだ!?……ありゃ奇行種だな。」
「………………」
はやい……あんな巨人奇行種含めて見た事ねぇぞ。俺だって伊達に大量の巨人を殺してねぇ……どう考えてもあんなの通常の個体じゃ……
「…………よし!まずは俺が注意を引く!!お前らは隙を見てやつの足を切れ!」
「了解!!」
「…………」
いや……そんな悠長なことしてる暇はねぇぞ。もうあの巨人はすぐに……
ーーー……!!
「チッ!!」
俺はその瞬間すぐに立体機動に移行した。思った通りだ。あの野郎……馬を狙いやがった。俺のはすぐに逃がしたから殺させずにすんだが……班長達のは…………
「な……なんだ!?馬を狙った!?ひ……ひるむな!!全員でかかれ!!」
「まて!!」
俺の静止は虚しくその刹那,一瞬にして俺の配置されていた班は壊滅した。立体機動のワイヤーを掴んで叩きつけられ,手で握りつぶされ,足で踏み潰され……さっきまで元気に動いていた生者の班長達は一瞬にして物言わぬ死骸と化した。
ーーーコイツ明らかに知性を持ってやがる……!!
「見つけた……!!」
「…………」
ーーーてめぇが裏切り者か……女巨人!!
ーーーーーーーーー
「フッ!!」
「……」
俺はなるべくやつの足元辺りを飛び回る低空飛行で攻める。理由は簡単……ここは壁外,立体機動を使うための障害物がほとんど無い以上,奴を使って飛ぶしかない。
だが奴は知性を持っていて明らかにワイヤーを狙って攻撃をしてくる。だからなるべくワイヤーは付け続けないでリリースを繰り返し,その瞬間に無防備にならない為にも低い位置から攻めるのが定石だろう。
「……ここだ」
「……!」
ドンッッ!!!
やつの太もも辺りに着地した瞬間。その位置から思いっきり踏み込み奴の足首目掛けて斬撃を狙う。
パキンっ!!
「…………は!?」
こいつ……皮膚が硬くなった!?刃が弾かれた……!!
いや驚いてる暇はねぇ……はやく次の行動に移らねぇと殺される……!
そう思ったのも束の間……俺の顔にとてつもない風圧がかかり,髪が上へ逆立ち,つい顔を歪める。
ーーーなんだ……!?いやこれは…………
「この野郎……!!飛びやがった!!」
そう……目を向けるとこの腐れ女巨人は俺の上へいた……ジャンプしやがったんだ。不味い……これじゃあワイヤーを着けても自殺しに行くだけ……このまま下にいても死ぬだけだ。
「ぐっ……!!」
咄嗟に近くの木にワイヤーを刺して撤退し,難を逃れるが状況は不味い……これじゃあ下の方から立体機動するのも危険だ……また跳ばれかねない。
ーーーくそどうする!!
ろくに障害物もなく,高めの機動をするにはリリースの瞬間があまりにも無防備だ……低めに機動すりゃさっき見てぇなアクションで吹き飛ばされて殺されかねない……しかも運良く攻撃を当てれても謎の硬化もありやがる……
ーーー詰み……!!
そう……あの女巨人の中身は考えてんだろうな。
確かにこの状況は殆ど詰みに近いが……そりゃ普通の兵士の話だ……俺ならできる戦い方がある……アイツの意表を突いて……そのままぶっ殺してやる。
団長には捕獲ポイントまで誘導してくれと言われたが……生憎そんな余裕はないんでな。多少ボロボロでも息さえありゃ許してくれんだろ。
「……よしやるか」
馬鹿馬鹿しい現実離れした戦い方だとは思うが,現実的に最も俺が生き残れるだろう戦い方がこれなはずだ。できるか分かんねぇが……自分を信じろ…………
「生きなきゃねぇんだ」
俺には目的がある。生きてこの戦いの結末を見届けなきゃならねぇ……
「約束も……した」
左手首のブレスレットを見る。アイツと……自分から言い出して約束しちまったしな。破る訳にはいかねぇ……
「おい!!こっち見やがれ!!くそビッチ巨人!!」
「…………」
その瞬間俺は奴の頭上ら辺へ大きく飛び上がり,高めの立体機動に移行した………………
ーーーーーー
???side
ーーーなんの考えもなしに上へ移動した……?
高めの空中じゃ立体機動が無ければろくに身動きが取れない筈……そんな状態でワイヤーをリリースしたら無防備でしかない。殺してくれとでも言ってるようなものだろう。しかもコイツはワイヤーを掴まれることを警戒してこまめにリリースを繰り返さなきゃいけない。この遮蔽が少ない壁外じゃ私を障害物として使わなきゃいけない以上それすらも不可能だろう……
ーーー何をする気だい……?化け物男……
その瞬間。頭の辺りに刺さっていたワイヤーが抜き取られ,アベルの奴がリリースしたのが見えた。要するに……何処にもワイヤーが繋がってない状態で空中で無防備に私の目の前にいるわけだ。
ーーー相変わらず舐めた男だね……なら望み通り殺してやるよ……!!
私は拳を……そのままアベル目掛けて振るう…情はかけない……確実に殺すためにその拳をアベルの奴に……
ズドンッ!!
ーーーは?
ーーー何が……バランスが崩れて……何があった……!?
ーーーミ・エ・ナ・イ
そのまま私は真っ暗な世界で自身の体が刻まれていくのを感じた。
ーーーーーーーーー
「……フッ!!」
ーーー紙一重だった。
やったことは単純だ。奴が空中で無防備になっている俺目掛けて拳を薙ぎ払った瞬間その拳を振るった方向へと後押しするように俺の全力の蹴りでその拳を蹴り飛ばしただけだ。
元々力を入れて振るった方向に更に俺の全力の一撃が推進力となって空振ったんだ。そのまま重心を崩して奴が体勢を崩したのを見て後は奴の目を切り裂いて視界を奪った。
これでようやく少しは状況が好転したってわけだ。
……まぁだいぶ賭けだったが,上手くいったか。タイミングミスればその拳で即死するだろうし,その蹴るタイミングもミスれば俺の足が壊れて終わりだろう……
ヤバい可能性のが高かったが,俺と俺のパワーを信じたのが正解だったな。これが俺にしか出来ない戦い方だ。
……それにしても久しぶりに全力で力入れたな。大体物を壊しちまうし,基本的に抑えてたんだが。
「……おいおい裏切り者残念だったな。俺は少し他の奴らと体の作りがちげーんだよ。単純なパワーならそこらの並の巨人にだって負けねぇぜ?」
「…………」
何となくだが,この女巨人の中身の奴が化け物を見るように俺を見ている気がした。……生憎そういうのは慣れっこなんでね。
「……さて。じゃあ解体ショーといこうかね…………フッ!!」
切る,斬る,切り裂いて,削ぎ続ける……奴の謎の硬化能力と今も尚手でうなじを守ってるのを見るに,直接うなじを切りにいくのは無理だ。だから抵抗出来ねーように周りの肉や筋を削ぎ落とす。
「…………そんな守ってばっかじゃあ…すぐに限界が来るぜ?そろそろ中身とのご対面も近いかな……」
そうして俺がうなじを守る手を削ぎ落とそうとした瞬間……
「きゃああああああああああああッ!!」
「……ぐッ!!てめ……!!」
突然の悲鳴のような咆哮が俺の鼓膜を揺らす。……叫んだってどうにもなんねーよ馬鹿が…
「さぁ……!!さっさと出てこいクソ野郎!!」
手を削いだ……!!これでうなじを護るもんは無くなった。あとはあの硬化能力だが……恐らくこのまま全力で削ぎにいけば間に合わねぇはずだ!!あの能力は好きにバカスカ発動できるもんじゃなかった!
その瞬間……俺の耳に入るのは,恐ろしいほどの地鳴り音。
ーーーなんだ……!?いやいい!さっさとこの裏切り者のうなじを……!!
パキンッ!!
「クソッ!!ギリギリ間に合わなかった!!」
ーーーちくしょう……!地鳴りに気を取られて微妙に遅れちまった……!!
「…………一体なん……!?」
……大量の…巨人!?
「てめぇ!!さっきの叫びはそういう事か!!!」
コイツ……巨人を呼びやがった!?くそ……しかもとんでもねぇ量だ……
どうする!?コイツは一旦諦めるか……!!この壁外であの量を相手にすんのは……!!なら……俺も馬で離脱を……!いやそんな猶予はねぇ……!!くそッ!!……ちくしょうッ!!
「………………」
「てめぇ……!!」
その女巨人はむくりと立ち上がり,俺の事を再生されたばかりの片目でチラリと一瞥すると,そのまま背を向けてこの場から離れていった。……とんでもねぇ置き土産残していきやがって……!!
ーーー想定よりも大量に巨人が来た……?まぁいい私にとっては好都合だ。このまま逃げさせてもらう。
ーーーじゃあね化け物。アンタは生かしておけない。ここでお別れだ。
ーーーアベル……アンタとの対人格闘悪くなかったよ。
「こんな所で……俺は…………!!」
絶望が今ーーー