崩壊した街並み,凄惨な兵士の死体,恐ろしいほどの蒸気に溢れた前線……そこにぐちゃぐちゃと異様な怪音が鳴り響いていた。
「…………いない」
アベルの足元には…巨人が四肢を完全に切断され無力化された状態で横たわっていた……奇妙なことに腹部が大きく切り開かれ…周りには食い漁ったかのように肉塊が飛び散っていた。
「…………バラバラに食われちまったのか」
恐ろしいほどの蒸気が立ち上がっているのは…アベルの周りだ。その蒸気の源は……うなじを完全に破壊されぐちゃぐちゃに切り刻まれた巨人達……
「………………まぁ…巨人に食われて生きてるわけねぇよな
ーーーあぁそうだ」
最期にその巨人の瞳に映ったのは…人間とは思えない形相と風貌で無慈悲に自身に刃を振り下ろす1人の怪物だった………
ーーーーーー
ジャンside
「最悪だ………明日から内地に行けたってのに…」
俺たち訓練兵は皆,絶望から頭を抱えてこの屋根上に集まっていた。住民の避難は完了したってのに補給施設が巨人に襲われたせいで俺たち訓練兵はトロスト区で孤立しちまったんだ…
「………どうする?」
「今はダメだもっと集まってからだ」
ライナーですら神妙な顔でどうしようもねぇって感じだ。第一気に食わねぇがこういう時に率先して道を切り開くであろう死に急ぎ野郎は………恐らくアルミン以外帰ってきてねぇことから食われちまったんだろう
「………アベルやアイリスは無事なのかな」
「……無理だろうな。アイツらは聞いたところによると前衛に配置されたらしい…今私達がこんな状況になってるってことは前衛は総崩れ……全滅ってことだろ」
「…そんな」
クリスタやユミルの会話が聞こえてくるが……あの女好き野郎も死んじまったのか?………いやどんだけ実力があっても関係なく死んじまう可能性があるのが現状だ。それも前衛に配置されたとなれば生き残る可能性はゼロに等しい………だが俺は何故かあの透かした無気力野郎がそんな簡単にくたばるとは思えなかった。
「………こんな時に私情で申し訳ないのだけど……エレンを見てない?」
後衛に配置されてたはずのミカサがやってきた……エレンを探しに来たのか……だが恐らく………
「………ごめん…ミカサ…エレンは僕の身代わりに……っ!」
やっぱりか……あいつの班はアルミン以外全滅しちまったらしい………
「アルミン…落ち着いて今は感傷的になってる場合じゃない……」
情けねぇことに口下手なミカサが俺たちを先導するために……拙い演説で発破をかけようとしていた……俺は………
「………お前らなにやってんだよ」
そこに低い男の声が響いた……それは聞き馴染みのある……
「あなたは……」
「アベル!!」
「お前……生きてたのか」
ミカサが目を見開いて,クリスタとユミルがまさかの登場人物に驚きの声を上げた……女好き野郎………あいつ………
「……お前前衛に配置されてたんじゃ」
「あぁ…ジャンか……だがとっくに先輩方も全滅して,何とかここまで退却してきた前線を保つのは不可能だ。」
「……よくこの巨人だらけの戦場からここまで引いてこれたな」
「……運が良かったのさ」
…………?こいつからヤケに蒸気が立ち上ってるが……火にでも突っ込んだのか……?
「…………ねぇ!アベル………アイリスはどこ?一緒に配置されてたんだよね!?」
「死んだ」
「…………え?」
「巨人に食われて死んだ」
なにか嫌な予感を拭うように声を張り上げるクリスタにアベルの野郎は何の感情も溜めも無く無慈悲に宣告した。
「…………ハッハッハ……なるほどなるほど……あれだけベタベタ毎日一緒にいときながら……アイリスを見捨ててここまで逃げ帰ってきたって訳かよ?」
「………」
「おい…そうなんだろ?アベル……」
ユミルがどこか不機嫌そうにアベルに問いただした……アイツをこの年月で少なからず友情っつーもんを感じてたってことか
「…………逃げ帰る?何を言ってる」
「………それ以外何がある?アイリスが死んでお前がここまで生きて逃げてきた以上なにが…」
「……………逃げるわけねーだろ。仕事が無くなったから帰ってきただけだ。」
「……は…?」
「…………少なくとも前衛で目につく限りの巨人は全部殺してきた……中衛やここまで流れてきた奴らは流石に知らんがな……俺が配置された辺りのは一匹残らず逃がさなかった……」
あの野郎………何を言って……??いや………まさかアイツのあの立ち上る夥しい蒸気は………!!
俺以外の奴らもアベルに驚いた目を向けていた。
「お前……その蒸気はまさか全部巨人のものか……?一体どれだけの巨人を殺して……」
「………さぁな」
「……アンタ…力を隠すのはやめたのかい……?」
「…………どうかな」
ライナーやアニもアベルの野郎に興味を持って言及するがアイツの返答は全部適当なモンだった。
「…………で結局お前らはこんな所に集まって何やってんだよ」
「………補給施設が巨人に襲われて……補給が出来なくて全員壁まで登れないの……」
「殺せばいいだろ」
「………そんな簡単に言いやがって………ならお前は出来んのかよ?女好き野郎……」
クリスタの言葉にサラッと答えたアベルに俺は思わず口を挟んだ。
「できる。」
「なに……?」
「………だから補給施設行ってくるわ。俺も補給してぇしな」
「………!!」
な…なんだ……?本当にあの無気力野郎なのか??アイツは………人が変わりすぎじゃ………
「…………ほ…本当に……アイリスは死んじゃったんだ……」
「クリスタ…?」
「…………ア……アベルが怒ってないはずもないし…悲しんでないはずもないよ……!!だってアイリスといちばん仲良かったのは……アベルなんだよ!?」
あの変わりようは……アイリスが死んじまったからってことかよ……あいつにも……そんな情があったんだな……
「…………あなた」
「……アッカーマンか。どうやらイェーガーは死んじまったらしいな。けど……周りを扇動したからには冷静に動け無駄に仲間を殺すだけになる」
「…………私は冷静……」
「……………の割にはさっき全くガスの残量を気にせず飛ぼうとしてたように見えたがな。気づいてるか?お前もう殆どガス残ってねぇだろ」
「……………………」
「…………まぁいいさ俺はさっさと巨人を殺して補給する…………じゃあな」
そうミカサに話すとアベルの野郎は颯爽と立体機動装置で飛び去って行きやがった。
「…………おい!俺達も行くぞ!!仲間に1人で戦わせろと教わったか!!」
…………こうして俺達もこの地獄での戦いに身を投じることになったんだ……
ーーーーーー
「………………こんなもんか」
俺は宣言通り補給施設までのルートに見えた巨人は粗方殺した。ガスや刃に関しては問題ない,俺は前線の巨人を一掃した時も大体は死体から無事な立体機動装置を見つけてそこから補給していた。ここに来る前も殆どは中衛の死体から補給してきたので余裕はある。
…………そうだわざわざ補給施設を奪還しなくても別に俺一人なら壁を登って生きて帰ることも出来たと思う。ただ俺がそうしなかったのは今更俺が1人生き延びてどうなる?……という自問自答と,何より……
「……
周りに巨人が見当たらないことを確認して補給施設に窓を割って侵入した。さて……後ろからついてきてるであろうあいつらが何事もなく来れるといいが……
「…………ひっ……」
「…………あぁ……お前らが補給施設を担当してた奴らか」
物の影で縮こまってた補給班を見つけた。…………大方巨人に怯えてこの施設の防衛を放棄したことは想像つくが……何故そんな俺を見て怯えてる??
「…………おい」
「…………ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「…………いや……俺は別に……」
埒が明かねぇな。一体どうしたんだ……?
その瞬間大きな音が聞こえたと共に窓から大勢の人間が転がり込んできたのに気づいた。
「…………い……一体何人辿り着いた……?」
「ジャン……どうやら無事に着いたようだな」
「…………あぁてめぇが粗方ここに来るまでの道にいる巨人を殺してくれたみたいだからな。多分犠牲になった奴らもほとんどいないはずだ……こんな状況で言うことじゃねぇが女好き野郎。お前もしかしてミカサよりも…………」
「…………本当にどうでもいいことだな。それよりジャン。あそこに補給班の奴らがいる。何故か俺が話しかけても反応がわりぃ…………お前が話をしてくれそういうの得意だろ多分」
「…………そりゃそうだ。今のてめぇは巨人の返り血とその蒸気で人相の悪さも相まって悪人にしか見えねぇよ」
「…………そういうことか?」
別にそこまで人相悪くねぇだろ……と思ったが,まぁ他人から見た自分なんて分からねぇからな。とにかく補給班からの話はジャンに頼むか。
そこからはあっという間だった。ジャン達がここに来た後,アルミンとスプリンガーに連れてこられて無事アッカーマンもこの補給施設に辿り着いた。その後は補給施設にいる巨人をアルミンやマルコが主に指揮と作戦を決行し,討伐できた。
だが問題はそこじゃねぇ…………今の問題は…………
「……………………」
「…………ど……どうなってやがんだ……!?何であの巨人の中から死に急ぎ野郎が…………!!」
補給施設の周りに集ってくる巨人を殺し続けていたアルミン曰く謎の奇行種……その巨人は周りの巨人を殺戮の限りを尽くし,その果てに力尽きたがその中から俺たちがよく見知った人間……イェーガーが現れた。今はアルミンとアッカーマンがその元へ駆け寄ってるが,こっちからすると何がなんだか分かっていない。
「…………………………」
「…………畜生……!何がなんだか分からねぇ……おい女好き野郎……お前は…………」
「………………」
「…………おい?アベル……?」
ジャンとブラウンの声が耳に入るが今の俺はそれどころじゃあなかった。
「………………なんでだよ」
「…………は?」
「……なんでもねぇよ。一旦他の奴らのとこに戻ろうぜ」
「…………お……おい!」
イェーガーは,巨人に食われて形はどうあれ生きていたらしい。そんな事が有り得るのかよ。
食われて……巨人の姿になって……周りの巨人をぶっ殺して……そんで人間の形のまま生き延びた………………………………
「…………」
なんで……お前なんだよイェーガー。
「…………くそ」
こんなことで嫉妬するなんて馬鹿げた話だがそう思わずにいられねぇ…………何が違った??何でイェーガーは他の人間とは明らかに違う特別な存在なんだ……??
イェーガーと
イェーガーは誰よりも努力していたからか?
ーーーアイリスだって死ぬ気で努力していた
イェーガーが誰よりも壮大な夢を持っていたからか?
ーーーアイリスだってすげぇ夢を持ってた
イェーガーが……誰よりも勇敢だったからか?
ーーーアイリスは命を懸けて俺を救ってくれた。文字通り死んでまでも……
なんで……イェーガーは生きていて……アイリスは…………
「…………くそ!!」
俺は…………そう自身でもよく分からない感情を吐き出しながら…………初陣を終えたのだったーーー
〜〜〜〜〜
「……おい……お前ら何があったんだ?ジャンの奴は箝口令がどうこう言ってたが…………」
「…………箝口令が敷かれているなら俺も言えねーよ。第一多分すぐに分かることだろう。」
ユミルが俺の元に来てさっきあったことを尋ねてくるが,今はそこまで話す気でもないし都合よく箝口令も敷かれているらしいので口を噤んだ。
「…………アベル大丈夫?」
「……なにがだ」
「………………その……さ。やっぱりかなり参ってるかなって…………アイリスの……ことで」
「…………別に。そんな事ねーよそれに参ってる場合じゃねーだろ。この破壊された壁を防がなければここもおしまいだ。このままじゃすぐに全員死んだヤツらと同じ場所に行くだろうぜ。」
「…………もうそんな言い方…………でもそうだよね。あの空いた壁を防がないと……でもそんな方法あるのかな?」
「…………さぁな。俺には分かんねぇ……。」
俺は心配してくれたクリスタにそう適当に返すとそのまま黙りこくって時が来るのを待った。
そして予想通りすぐにこのトロスト区奪還作戦が決行されることとなった。イェーガーがなんちゃら実験の成功者云々言ってたが……まぁただの方弁だろうな。兎に角イェーガーが巨人になって空いた壁の穴を防ぐ……それが作戦の概要らしい。夢物語みてぇな論理も何もねぇ作戦だ。
……だが関係ねぇ。俺は周りにいる巨人どもを殺すだけだ。
ーーーー
「おい!アベル!一人で行きすぎだ!そんな巨人を殺す必要は……!」
「……イェーガーから巨人を遠ざけなければいけない以上殺す方がはえぇだろ……それにこの程度の数なら別に余裕だ」
「……本当に変わっちまったようだな……無気力野郎……おい!アニも行くぞ!」
「はいはい……」
コニーから注意の声が飛んでくるが……別に気にしない。そこまで苦戦もしていないのもあるが……イェーガーから巨人を遠ざけるならヘイトを買わなきゃいけねぇ……なら理想は殺しきることだろう。
……だがそれだけじゃねぇ
「……おいお前ら俺から離れた方がいいかもしんねーぞ」
「……何言ってんだよ?俺らも一緒に……」
「そういう話じゃねぇ」
俺が急かして巨人を殺しまくってる理由は…………
「妙に俺に巨人が寄ってきてやがる……動き的に奇行種なんだろうがこのままじゃ囲まれて詰みかねねぇぞジャン……」
「……確かにさっきから俺達の周りに何故か巨人が集まってんな…無気力野郎が殺しまくってるからパッと見分かんなかったが……作戦上は壁の隅に巨人共が集まるはずなのに…なんでだ?」
「……どうやら俺は巨人にとってタイプの男らしい…モテて辛いぜ。全く嬉しくねぇがな。」
「……お前も冗談言うんだなアベル」
「……おいおいスプリンガー。俺は割とそういうタイプだぞ?」
「ちょっと喋ってる場合じゃないよ……本当に巨人が集まってきてる。これ倒さないとまずいんじゃないの」
レオンハートの言葉を聞いて周りを見ると確かにそろそろ洒落にならないレベルで巨人共が来てやがる。……このままじゃ
「俺が巨人どもを引きつけて殺す……お前らはそれを補佐して足を狙ってくれ……一旦巨人共の機動力を削いで数で殺されるのだけは防ぐぞ……」
「……あぁ分かった。危険だ…とは言わねぇよ。お前の実力はよく分かった頼んだぞ……よし!アニ,コニー俺らはアベルに夢中になってる巨人共の足を狙って機動力を削ぐぞ!」
「……了解」「分かった!」
そのジャンの掛け声と共に俺は巨人どもに突撃してまず1番前に居た巨人のうなじを直接ぶった切る。そして絶命したのを確認するとやはり巨人共は俺に群がってきている。
それを見て俺は一旦上手く距離を取ってジャン達が動きやすい位置に陣取る。そして後ろからジャン達が足を狙って補佐してくれてるのを確認してその巨人の群れに突っ込んだ。
「…… ふっ!」
兎に角速さを意識して削ぐ,削ぐ,削ぐ……絶対に死角から巨人に捕まらないため同じ位置に長くいないようにしながら背後や死角にもこまめに視線を配る。ガスも節約するためになるべく自身の身体能力だけで飛び回り,せっかくこんなデカブツ共が大量に居るんだ時々足場にしながら狩り続ける。……これも実戦を経験して学んだことだ。
「……アベルの奴すげぇな…あんな立体機動できるもんなのか?天才の俺やミカサでも無理なんじゃねぇか……?」
「……はっ…今の状況じゃあ頼もしい限りだぜ……」
「………………」
「そんな怖い顔してどうしたんだよ?アニ 」
「……なんでもないよただ巨人の量に辟易してただけさ」
「まぁこの巨人の量じゃな……本当に地獄みてぇな光景だぜ」
そんなジャンたちの会話を聞きながら巨人どもを殺し続けるが,俺はそんな会話に反応する余裕はない。なぜなら……
「…………チッ……本当にどうなってやがる!!俺から巨人を寄せるフェロモンでも出てんのか!?」
「…………おいおいヤベーぞ。キリがねぇどころがこれは……」
「……どんどん寄って増えてきてるな…」
「…………アンタ達そんな喋ってる暇あるなら巨人を削って。このままじゃ本当に全員お陀仏だよ。…………なんで?私は特に呼び寄せてないはず……」
何故か巨人は減る所がそれ以上に俺に引き寄せられているように感じる。しかもコイツら全員奇行種なのか?明らかに行動原理が普通の奴とは違ぇ……
「…………おい!!ジャン!お前はスプリンガーとレオンハートを連れて元の配置に戻れ!!」
「……なっ……何言ってんだ!!死ぬ気か!!」
「ちげぇよ!!俺がなるべく引き寄せながら時間を稼ぐ!イェーガーじゃなくて俺に大量に巨人が寄ってきている以上,作戦にとっては好都合だ!!なら俺が一人でコイツら引き連れてお前らは元の位置で残りの巨人を迎撃する!それが最善だろ!」
「で……でもよこの量は……」
「いいから行け!!俺だって死ぬ気はねぇよ。引きつけながら逃げるだけだからな。…………それによ。もう俺は誰にも
俺は自分を信じる。自身の力を,自身の判断を。もう二度と他の奴らに任せたりしないそれが間違いな事はもうわかりきってんだ。
ーーーだから俺は二度と誰も死なせねぇ……俺が全員殺す。
「…………行くぞコニー,アニ」
「お……おい!ジャン!本当にアベル1人に任せて行くのかよ!?」
「…………俺たちが今やるべきことはわかりきってる。ここはアベルの野郎に任せるのが最善だ」
「…………う……くそ!アベル!お前絶対に死ぬなよ!!分かったな!!」
「…………おい無気力野郎……こんな戦況じゃあハッキリとは言えねぇけどよ。生きて帰ってこいよ。」
「分かってるさ」
何も俺はアイリスのように自身の命を懸けてる訳じゃない。
ただ……あの時出来なかった選択をするだけだ。俺の力を信じてこのムカつく面したクソどもを全員殺す……その選択を今しただけにすぎねぇ。
「さっさと行け!!お前ら巻き込まれて死んでも知らねぇぞ!!」
「分かってる!行くぞ!!アニ!コニー!」
「…………」「あぁ!」
そうして遠くなっていくジャン達の背中を見て俺はゆっくりと刃を構えた。
「行ったか」
ーーーさて
「今度は…………逃げねぇぞ…………全員地獄に送ってやるよ木偶の坊共…………!!!」