そこから訓練兵の生活はあっという間だった。俺は訓練をそれとなくこなしていって…日々は過ぎていく。俺はあいも変わらず適当に訓練をしているが…アイリスとやる時はなるべく真面目にやって少しでもアイツの力になるようにした。
基本的にはアイリスやユミル,クリスタと一緒にいる俺だがさすがにこの年月訓練兵として生活してれば割と男の友人も出来た。マルコやアルミン…ジャンとは結構仲良くなれたと思う。
マルコやアルミンはどうやら最初の姿勢制御訓練の時の俺のエレンへの分析からずっと話をしたかったらしく,2人とも頭が良いから様々な角度からの考えで共に座学をして仲を深めた。
ジャンは立体機動術で一緒に組むことがあり,動きの相性が良く,訓練が上手くいったことから話しかけられるようになった。…あと噂によるとジャンはアッカーマンが好きらしいから他の男達と違い,クリスタ達とよく一緒にいる俺への妬みが無かったんだろうな。
まぁ兎も角もう訓練兵も卒業だ。最初はどうなる事かと思ったが…楽しい生活だったと,思う。俺は恐らく成績上位者10名には入ってないだろうな。手を抜いてんだからだ当たり前だ。アイリスだが……正直に言うなら厳しいと思う。確かにアイツは並大抵じゃない努力で成績を伸ばしたが,それでも良くて真ん中より上だ。
……問題はそこじゃねぇ…アイツは…アイリスは……一体どこの兵団に入る気なんだという事だ。ここまでアイツと一緒に過ごしてきた俺の予想は,信じたくないが恐らく………
「……残念だったな」
「……うん。でも何となく分かってたから…」
成績上位者が発表されたが…やっぱりアイリスはその中に入っていなかった。
「……クリスタはおめでとさん」
「…う…うん私が成績上位者に入ってるなんて…正直信じられないよ」
「……おいおいクリスタ。それは成績上位者に入ってない私やアベル,アイリスへの嫌味か?」
「…ち,違うよ!そ…そんなことは」
「あはは!ユミル。そんな意地悪してあげないでよ」
いつも通りの4人で話すが,この中で唯一成績上位に入ったクリスタはどこか気まずそうにしていた。
「……よぉ女好き野郎」
「……ジャン…お前その呼び方はどうにかなんねーのか」
「……はん!いつも女3人と一緒にいるんだから事実だろうよ。それよりもお前はどこの兵団に行くんだ?成績上位にはいってないから憲兵には行けねーだろうが…」
「いちいち嫌味だなお前は…」
4人で話しているとジャン・キルシュタインがふらっと俺の目の前にやってくる。
ジャンはイェーガーを妙に敵視してるし、恐らく俺の所属がイェーガーと同じ調査兵団かどうかを確認しに来たんだろう。俺も
「……
「……そうかまぁ無気力男のお前には妥当な選択だろうな。それだけ聞きに来ただけだ邪魔したな…」
「………迷ってんのか」
「……はん…何を迷う必要があんだよ。俺はこの訓練兵団成績6位の逸材だぜ?憲兵に行くに決まってんだろうが。マルコも一緒に行くことだしな」
そう捲し立てるように話すとジャンは足早にこの場を去っていった。……アイツは完全にイェーガーの事を嫌いなわけじゃないだろう恐らくジャンがイェーガーに対して持ってる感情は……
「…………なぁクリスタお前は多分憲兵だろ」
「え?…う,うん…ユミルにも進められてそうしようと思ってるよ」
「…そんでユミルも俺と同じ駐屯兵団か。お前は死に急ぎの対義語っぽいし,調査兵団には入んねーだろ」
「……ふんよく分かってるじゃないか」
「…………………お前はどこなんだよアイリス」
そうユミルとクリスタに聞いたのはフリだ。俺が聞きたいのは…
「………私は」
「…………」
「…調査兵団に……入ろうと思ってるよ」
やっぱり俺の予想は間違ってなかったらしい。俺もこんだけ一緒にコイツと過ごしてきてそれなりにアイリスのことを分かってきたって訳か。
「…え?だ…ダメだよ!調査兵団って言ったら……巨人と戦うんだよ!?」
「……おいおいさすがにそれは予想外だったな。ハッキリ言うが,お前の実力じゃ巨人の餌にしかならないと思うぞ」
「……うん分かってる。私なんて成績上位者に比べたら立体機動術も全然だし死ぬ可能性の方が高いんだって」
クリスタとユミルもさすがにアイリスとここまで仲間として長く居たからか心配で止めてるな。
「ねぇ!アベルもアイリスを止めて!アベルだって心配でしょ!?」
「…………別に」
「…………」
今ここで言うことはない。アイリスも恐らく察してくれてる。
…その後はクリスタ達とも別れて寮へと戻る。ずっとクリスタはアイリスを止めていたが,結局あいつがそれを聞き入れることはなかった。
そして俺は直接寮に戻るんじゃなくて何時ぞやにアイリスと話した教官に見つからない場所に向かった。
「やっぱり来たね」
「……アイリス」
そこには予想通りアイリスがいた。
「……アベルはどう思う?私が調査兵団に入ること…」
「…別に止めはしねーよ。お前の夢に最も近いのは間違いなく調査兵団だ。腐敗した憲兵でも何か成し遂げることを出来ない駐屯兵でもない。巨人と戦ってこの世界を大きく変えようとしてる調査兵団がお前の夢を追うなら理想だろ」
「……そっかそうだよね」
「……けどそれは1人じゃない。」
「……!」
「俺もいる。俺も調査兵団に入る」
そうだ。俺は決めていたコイツが調査兵団の道を…地獄の道を進むなら……
「…なんで駐屯兵団に入るんじゃなかったの?」
「あくまで"俺は"って言ったろ。お前が調査兵になるなら変更だ。」
「………なんでアベルは私にそこまでしてくれるの」
「………それは」
俺がコイツにそこまでするのは……
「………お前に死んで欲しくないからそれだけだ。俺個人の感情を言うなら調査兵団になんて行ってほしくねぇよ。」
「………」
もう俺は素直に伝えることにした。ハッキリと言うお前に死んでほしくないと。
「……アベルは力を隠してるでしょ?さすがに巨人との戦いはその力を使うかもだし,目立っちゃうかもよ」
「それならそれでいい。たとえ俺がこの力を使ってまた化け物に戻ったとしてもお前の傍にいれば…俺は普通の人間のままで居られる」
「……アベル」
「……お前は言ってくれたろ?俺の事を普通の人間なんだって…力なんて関係ない,人として俺と仲良くなりたいんだって…だから俺のこの力を存分に使うことになったとしても俺はお前がいる限り化け物になることはねーんだ」
俺を俺として見てくれたコイツのために力を貸したいと思った。
「………あのね…私も素直にあなたに話したいの…」
「あぁ…」
「私ね…怖いんだ…どうしようもなく…」
彼女の身体が震え始めた。
「……最初はね訓練兵になったばかりの頃は普通に私は調査兵団に所属するんだって思ってた。…でも時が経って卒業が近づくと一緒にそれが現実となってきて…私はここで何の才能も無いことがハッキリと分かって…立体機動だって上手くなれなくて……明確に…死の未来が私に見えてきた…」
「……」
「………分かってたんだアベルが本当は私の夢を諦めさせてくれようとしてることを。私だって分かってる…私が本当は何者にもなれない平凡な人間なんだってことを……エレンは努力で成績5位を取った…でも私は良くて真ん中より上レベル…この差はなんなのかって……」
そうだアイリスは気にしていた。自身と同じく壮大な夢を抱えてそのために努力し,成績を伸ばしていくイェーガーとどんなに頑張ってもそれが実ならない自分。
「……エレンはきっと勇敢だから…物語の主人公みたいに凄い勇気を持ってるから……でも私は今ならハッキリと分かる…ただの臆病な普通の女……私は…多分心の底では最初から強くなることなんて望んでなかったんだ……」
「なら…俺と一緒に駐屯兵団に…」
「……でも私は今更この夢を…捨てれない…もうこの夢から覚めることは出来ない……どんなに死が現実に近づいて怯えたとしても私は……」
アイリスの瞳から雫が零れた。
「…怖いよ…っ…死にたくない…っ…アベルと離れたくない…っ…でも私は…っどうしても……特別な何かになりたかった…っ…」
「アイリス…」
「……お母さんが…病気で死んじゃったお母さんが…私によく本で読み聞かせて…くれたから……私…約束したから……この本の主人公みたいになるんだって……それで…お母さんが死んじゃっても…天国でも分かるくらい凄い人間になるんだって…」
だからお前はそこまで特別な人間に執着したのか…
「……でも…私にそんな才能は…なくて…そんな現実が嫌で……でも…っ…一緒にアベルが調査兵団に来てくれるって言うのを聞いて凄い安心した自分が…もっと嫌だ……っ…」
「……」
俺の体にアイリスが正面から倒れ込むように抱きしめてきた。俺はそれを腕の中に抱え込む…絶対に離さないように
「………」
俺が彼女にかける言葉は…
「……俺は別にお前に才能が無くても特別な人間でなくとも関係ねぇと思ってる。」
「……」
「だってお前は…」
彼女との出会いから今までを思い出す…
「お前は……俺を救ってくれた…特別な存在だからだ…他の誰でもないアイリスが……俺にとって特別な存在なんだ。」
「……アベル…」
「他の誰がなんと言おうと他に何人もお前より優れてるやつが居ようと……俺にとっての主人公は…特別は……アイリス・カルディアただ1人だけだ。」
俺の腕の中にいるアイリスの震えが止まった。
「……俺はお前の夢に協力する……もし考えが変わって駐屯兵団に行くなり兵士を辞めるなりの選択をしても……俺は否定しねぇしそれならそれで協力する……だから……そんな泣くなよアイリス」
「……うん…ありがとうアベル……ねぇ…最後に聞きたいことがあるの…」
「なんだ?」
「……アベルはさ私のことーーー」
彼女が少し赤く染まった顔で何かを問おうとした
「……ううんなんでもないや!でも…その…」
「…どうした?」
「………ん…」
リップ音と共に自身の口を何か柔らかいものが塞いだ。俺の腕の中にいたアイリスがこちらへ背伸びし…口付けをしていた。
「……あはは…そのありがとね…お陰で元気でたよ!結局私がこれからどうするかは…しっかり考えて決めようと思う…おやすみなさい…」
「………あぁおやすみ」
そうアイリスは早口で捲し立てると,足早に寮へと戻って行った。
彼女が最後に俺に何を聞こうとしたかなんてあそこまでされたらハッキリと分かってる。俺はそこまで鈍くねぇし,女心に疎いわけでもねぇ…ただアイリスが結局聞かなかったのは…それはアイツが兵士だからだろう。最後にあんな行動に出たのはまだ迷いがあるからか…
……もしアイツがあの問いを口に出してたら俺はハッキリと『そうだ』と答えた。そしてそれに合った道を選んでたのにな…まぁいいか…アイツがどんな道を選ぶのか…それを待つだけだ………
〜〜〜〜〜
「………おいおいやるじゃないかアベル…」
「?なにがだ」
固定砲の整備中,同じ班のユミルに突拍子もなく話しかけられ疑問を返す。
「……昨日の夜…アイリスのやつが随分と顔を真っ赤に染めて帰ってきたぞ………いやぁいつか手を出すかと思ってたが…お前卒業と一緒にとうとう…」
「………」
「なんだ否定しないのか?まさか本当に手を出したとは思わなかったが……」
ユミルが意外なものを見る目で俺を見てきたので咄嗟に弁明した。
「手は出してねぇよ少なくともお前が想像してる事はねぇ…」
「ほーん…じゃあその前段階までは済ませたってことか。確かにアイリスのやつ執拗に唇を気にしてたしな。いやぁ…あの冷徹なアベルさんも誘惑には勝てなかったか…」
「………てめぇ本当にいい性格した女だな」
そのニヤケ顔を本当にぶん殴ってやりてぇ…
「……もう!2人ともお喋りばっかりじゃなくてちゃんと仕事しよう?上官に怒られちゃうよ!」
「……お前最初に言っとくが間違ってもクリスタには手を出すなよ?ちょん切るぞ?」
「下品な女だな…出さねーよ」
「……まぁお前はクリスタの傍にいるのに全くそんな素振りを見せない奇特な野郎だからな最初は枯れてるのかと思ったが……アイリスにしか興味なかっただけか」
「てめぇ……」
「もう!2人とも!」
ユミルといがみ合うがクリスタに止められ渋々仕事に戻る。
さて。アイツは結局どうするんだろうか?本来通り調査兵団なのか…それとも駐屯兵団…あるいは兵士自体を辞めるのか…後で聞くか
だが……そんな平和な空間は瞬く間に崩壊することとなった………
「………チッ…最悪だな」
「同感だ…なんでよりによって…今日…」
俺たちは本部へと戻ってきていた。そして俺の言葉に傍にいたユミルが肯定してくる。何でこんな機嫌が悪いかは単純だ………ウォールローゼが破壊された。
俺はユミルやクリスタなど班で共に固定砲の整備をしていたが,どうやらイェーガー達の方の整備班側で超大型巨人が現れ,壁を破壊していったらしい。そのため…当然俺たち104期訓練兵団も実践に使われることになる。それの準備のために戻ってきたのだ。
「………クリスタお前は私の傍を離れんなよ」
「……もうユミル。私の事はいいから自分のことを…」
そんな2人の会話を片耳に,俺はある人物を探す…
「……!アイリス…」
「………はっ!了解しました!」
目当ての人物…アイリスを見つけたが…何やら上官と話している?一体なにをーーー
「………アイリス・カルディア。君は前衛で駐屯兵と共に巨人を抑えてもらう」
「……は?」
なんでアイリスが………いやよく考えろ……さっきアッカーマンが後衛の人材として呼ばれていた。ハッキリいってこの今の現場指揮官は無能だ……後衛にわざわざ優秀な人材を固めて中衛は殆ど訓練兵……前衛には1部の駐屯兵団…そこにアイリスを配置する理由は………
「…………使い捨ての…駒かよ……!」
アイリスは…成績が完全に下位でもなく,そしてトップでもない平均的な兵士だ……前衛に駐屯兵と共に置くには……死んだとしても痛くないし…そこそこ役には立つ……都合が良い駒だ。
この上官達の思考的に理想は後衛に駐屯兵団の精鋭と首席……中衛は各班に訓練兵団の成績上位者を1人2人ずつバランス良く配置する。そして前衛は駐屯兵と成績上位者以外且つそこそこ腕が立つ訓練兵を数人……使い捨てる。
なら………
「失礼します!」
「なんだ?君は…」
「私は104期訓練兵団卒アベル・フィリアです!私は是非上官方のために…そして人類のために訓練兵団で培った力を振るいたいと考え!前衛に配置してもらうべく来ました!」
「………なるほど…うん…君なら…分かった。君もその力を是非人類のために奮ってくれ」
俺も成績ならアイリスと変わらない真ん中程度…この進言は飲んでくれると確信した。
そしてその上官が去っていくのを見て俺はアイリスに近づいた。
「……なんで…何を…やってるの!!なんで…前衛なんて……!!」
「……言わなきゃ分からねぇか?間違いなく前衛に配置された所で死ぬのがオチだ。だから俺も一緒に行く」
「……そんなの!!2人揃って死んじゃうだけでしょ……!!なんでわざわざ自分から危険な目に……!!」
「……俺の考えだが,間違いなく壁が破壊された以上前衛は崩れると思う。だからそれまで先輩方に従いつつ死なないようにある程度巨人をいなしながら……そして言い方は悪ぃけど先輩方が死んだタイミングで俺たちは生きて中衛まで下がる。それが最善だ。」
壁が破壊されたのにいつまでも前線を保ってられるわけがねぇ……だからポイントはそれまで何とか生き続け…前衛が崩れたタイミングで生きて引く…それが生き残るための選択だ。
「……でもなにが起こるかなんて分からない…!!わざわざ着いてこなくても……死ぬのは…私だけで済んだのに……」
「死なせねーよ…お前は夢があんだろ」
「……」
「……出し惜しみはしねぇ俺も本気でやる…ありゃあくまで訓練だから手抜きをしてただけだ。俺の命と…何よりお前の命がかかってる以上実践で手抜きなんてしねぇよ。……一緒に生き残るぞ」
「……うん」
ーーーあぁ…やっぱりダメだ
アイリス・カルディアは心の中で思ってしまう…彼には死んで欲しくないのに……私は自身を無理やり奮い立たせているのに…彼が一緒に来てくれると聞いただけで……酷く安心してしまう…そんな自分が嫌になる…アベルに頼ってばかりの自分に……
「……前衛に配置された兵士は直ちに戦闘の準備をして配置に付け!!今こそ人類のために心臓を捧げよ!!」
「……行くぞアイリス」
「……死んじゃダメだよアベル」
「…そりゃこっちのセリフだな」
俺は生き残る…そしてアイリスも……俺のこの悪魔の力は…きっとそのためにあるはずなんだ。
〜〜〜〜〜
「訓練兵!そっちへ7m級が一匹抜けたぞ!!」
「……了解。アイリス行くぞ」
「…」
「……アイリス?」
「…ひッ……」
目に涙を浮かべて体を震わせるアイリスを見て俺は即座に決断した。
「……フッ!!」
一瞬で巨人の背後に周りそのまま高さをつけてズバンッ!!!
という凄まじい轟音と共にその巨人はうなじは叩き切られ絶命した。
「……やるな訓練兵…お前で成績上位者に入ってないなんて今年は化け物揃いか?」
「…そーかもしれないですね」
俺は先輩の言葉を適当に返しながら血飛沫を拭う。そして一番の心配であるアイリスへと声をかける。
「…ご…ごめ…」
「無理して戦わなくていい巨人の報告と兎に角狙われないよう安全な位置にいよう」
「……う…うん…」
「……俺がやることは…チッ…不味いな」
俺たち訓練兵は比較的安全な後ろに配置されてるので周りを見ると地獄絵図かのように巨人がうじゃうじゃといる。やはり壁が破壊された以上前線を保つことは不可能か先輩方ももう数人食われちまった。いくら駐屯兵といえどあそこまで鈍った動きをするもんか?
「……俺も数匹巨人を狩るとするか…」
特にアイリスの付近の巨人は積極的に狩るか。先輩方が全滅して前衛を引く時の退路のためにも選別して巨人を殺す。
「……お…おい!訓練兵!独断行動は!」
「おい!お前!後ろ!!」
「は?うぎゃぁぁぁぁああああ!!」
こりゃ時間の問題だな……先輩方が全く巨人を殺せてないのもあるがもう無理だろう
「……邪魔だ」
10m級が俺の方に手を伸ばして来たので逆にそれを足場にしてドンッ!と蹴り,大きく加速して背後に回り一気に回転してうなじを削いだ。
「……ガスも節約しねぇとって思ってたが…そうはいかねーな…想像より巨人がずっと多いし…実践っつーのは以外とリソースを使うもんだな」
「……ア…アベル…右から8m級が…」
「…あぁ分かった」
俺はすぐにアイリスから報告のあった方向へ飛んでいき,こちらへ向ける手を切断してそのまま流れるようにうなじを叩き切る…
「……チッ…脆いな…」
俺の力で巨人を切るとブレードが必要以上に消耗しちまう…俺はアッカーマンみてぇに細かい身体操作はできねぇしそんなセンスもねぇ…ただフィジカルと筋力が馬鹿げてるだけだ。
俺はそうしてなるべくアイリスの近くの巨人と中衛への退路にいる巨人を狩り続けた。もう力の出し惜しみはしない。俺とアイリスの命が懸かっている俺も本気だ。
「………」
あぁ……やっぱり私の勘は間違ってなかったんだなとアイリスは思った。今…まさに本気で戦うアベルの姿は正しく自身が思う…特別な凄い人間だった。その荒々しく…獣のように…それでいて見る者に安心感を与える圧倒的な力を振るう戦いの様子はミカサだって超えてるとアイリスは確信を持つ。
「私は……」
怯えて何も出来ない。初めて本物の巨人を見て心の底から恐怖した。こんな不気味な生物と戦うのかと…先輩達が食われて呆気なく死んでいく様子に自身の未来を重ねてしまった。
私はまたアベルに頼りきって何も出来ていない。こんな人間が特別な者になんてなれるわけがなかった。
ーーーーーー
「そろそろ撤退するぞアイリス」
「……………うん」
「先輩方もやっぱり全滅しちまったこれ以上ここを維持すんのは不可能だ。退路を決めてその付近の巨人も大体殺してる。生きて帰れるぞ…アイリス」
「…うんありがとうアベル………本当に…多分貴方がいなかったら私は……」
「そんな嫌な事は考えんな……あと報告,助かった。ありがとな」
震える彼女の肩に手を置いてそっと抱き寄せる。それで震えが止まったのを見て早くこの地獄からおさらばだと撤退の準備をする。…ただ
ーーー不味いな想定以上にガスと刃を消耗した。退路の巨人は大体殲滅したはずだが……もしまだ残ってたらリソース的に戦えるか怪しいな…
「……よし撤退の準備は出来たか…」
「うん」
「行くぞ…離れるなよ」
そして残り少ないガスで飛び立つが…………
「………嘘だろ」
少し前衛から下がって中衛への道を飛んですぐ…俺は異変を察知した。
「………おいおいさっきはいなかったろうが…!!」
巨人が数匹……中衛までの退路に蔓延っていた。
「奇行種か…?だがなんで突然………しかも戦闘は避けれねーぞ」
「………」
「……………………チッしゃーねぇか」
俺は迷いなく決断した。
「アイリス。お前が先にいけ俺はここの巨人を殺すなり引き付けるなりする。お前もそこまでガスが十分ってわけじゃねえが…中衛で補給拠点に行くには大丈夫なはずだ。なんなら他の班の奴らに助けを求めてもいい」
「……!」
「すぐに決行するぞ…早く行く準備を………」
「ダメ!!」
突然俺に掴みかかって声を上げたアイリスに驚いた。
「……ダメ…だよアベル死ぬ気でしょ」
「……死なねーよこいつら殺してすぐに……」
「アベルは強い…でもそのガスと刃じゃ物理的に限界がある。嘘つかないで」
「どちらにせよこのままじゃ2人とも揃って死んじまうある程度リスクがあってもやるしか……」
「だから逆だよ」
「は?」
俺は思わず聞き返した。アイリスが言わんとしてることを何となく察したからだ。
「私のガスを少し分けるからアベルが補給しに行ってきて」
「おい…お前がふざけてんのか?それこそ死ぬ気だろうが!!ハッキリ言うがお前じゃ間違いなくすぐに巨人に食われておしまいだ…!!ならそれこそその分けてもらったガスで俺が戦った方が……」
「たとえ少し分けても最低限の量にしかならない…この数の巨人を殺すのは無理…それに第一もう中衛まで巨人は流れてるだろうしそれこそ私じゃ補給にまで辿り着けるか怪しい。結局2人とも死ぬのがオチ」
いつになく冷静なアイリスに俺は髪をくしゃりと掻きむしる。理解したくないからだ。
「……それに私が補給したところで戦力にならない。でもアベルが補給すれば沢山の命が助かるだろうし巨人だって沢山死ぬはずだよ」
「…関係ねーよ俺はそんな合理的な話をしてる訳じゃねぇ……戦力?他人の命?知らねぇよ。俺はお前に死んで欲しくない。お前に生きて欲しい…ただそれだけだ。」
「………あはは…アベル……貴方はなんで……そうやって私の判断を狂わせるかなぁ………」
ーーーやっぱりアベルの言葉を聞いて,あなたの私を想う姿を見ると………私はどうしても貴方に甘えて…ただ1人の女の子になってしまう
「………でもやっぱりダメ。ならさ……アベル。もし補給がすんだらまた私のところに戻って助けに来てよ。それが多分2人とも助かるための道。」
「………それまでどうすんだよ」
「……ふふ…私は臆病なんだよ?何の勝算もなくこんな提案する訳ないでしょ?それに私はアベルのお陰で立体機動の移動だけならだいぶ上達したし,小柄だから細かい機動は得意…倒すんじゃない…逃げるなら最適でしょ?」
「………だが」
「…私はアベルならきっと補給して戻ってきてくれるって信じてる。だから貴方も私を信じて……」
どうする?時間が無い…このままじゃ本当に2人とも……俺はどうすればいい…アイリスを…信じるか…??
『アベルがどんな力を持ってようといくら手を抜いてようと今の私はアベルの力や才能を見て一緒にいるんじゃなくてたった一人の人間として好きだから一緒に居たいと思ってるんだもん。』
彼女の…言葉を思い出す…2人とも生き延びるには………
「………分かった…俺は…お前を信じる……だから絶対に死ぬんじゃねぇぞ…」
「…うんじゃあすぐに私のガスを少し分けるね」
「…あんま分けんなよあくまで最低限でいい。お前のために全て使え」
「うん…ふふ…心配性だなぁ…アベル 」
……そうして俺はアイリスからガスを最低限分けてもらって準備が出来た。
「…よしじゃあすぐに戻ってくる…巨人は動き自体は単調で鈍重だ。油断しなければ逃げ切れる。なるべく見通しがいいルートで逃げろ…そうすれば」
「…あはは…!分かったよありがとう…ほらアベルも早く行って?」
「………死ぬなよアイリス」
そして俺はにこやかに笑うアイリスを見てそれを背に飛び立った。それと同時にアイリスも巨人のヘイトを引くために,巨人に近づきながら俺とは別方向へ飛んで行った。
「………貴方なら戻ってきてくれるよねアベル」
私は…彼を信じてる…だから…………
ーーーーーー
「………チッ中衛もだいぶ地獄だな」
巨人に抜けられたからか見知った顔の死骸が転がっている。これは補給もちゃんとできる状態なのか…?
ーーー急がねぇと……
俺はガスの残量を気にしながらも最高速で飛ぶ。アイリスの命が懸かってる以上…モタモタしてらんねぇ
だが俺はあることに気づいた。
「……そうだ…あの死体…」
首と胸から上が噛みちぎられた誰とも分からねぇ死体を見つけ俺は思った。……立体機動装置は…無事なんじゃねぇか?
「当たりだな…それも満タンにはなんねぇがガスと刃がまだ残ってる」
俺はかなり冒涜的だと思いつつもそんな事は言ってられる状況じゃないためその死体を漁って刃とガスを手に入れた。その際に噛みちぎらた断面が目に入るが何も思わない。今はそれどころじゃない。
「……これであの数の巨人なら倒せる」
俺はそう確信するとすぐにアイリスの元へ戻るためにガスをなるべく節約しながらも全速力で飛ぶ。
「待ってろよ…アイリス…」
嫌な予感に気が付かないフリをして俺はそれを振り払うように飛び続ける。
俺は気づいていた。気丈にいつも通り振る舞うアイリスの体が細かく震えていたのを。だがそれを口にはしなかった彼女の判断を鈍らせてしまう気がしたからだ。
「………生きてるはずだ」
言い聞かせる。でも俺は知っていたアイリスは自分を臆病というが誰よりも優しい女であることを。
「…………くそどこだ…アイリス!!」
俺は分かっている。アイリスが俺の事を好いていることを。そして俺自身もアイツを好いていることを……。だがそれをわざわざお互い口にしなかった。なぜなら俺もアイリスも兵士だからだ。お互い…何があるか分からない……
「……アイリス…」
さっきアイリスと別れた付近にやってきた。巨人は見当たらない。どこに……
「……あれは」
すると少し高めの…安全そうな建物の上にブレードの反射する光と見慣れた訓練兵団のジャケットが見えた。
「…………良かった」
俺は安堵のため息をついて,その建物へ向かっていった。
「アイリス……良く無事だった」
俺はそう思って近づくが…………………………気づいてしまった。
「………は?」
そこに
これはアイリスのモノだろ?………なにが
「アイリス?」
理解したくなかった。
「…どこに」
分かってしまった。彼女はきっと俺が戻ってくることを
「いやまだ…生きてる可能性が……」
俺はそのガスと刃を回らない頭で補給し,自身のガスと刃が満タンになったのを見て急いで飛び立つ。
「…アイリス…!どこだ!!」
この崩壊した前線に立体機動装置の刃もガスもない人間が生身で地を歩いて…生きている可能性なんてあるのか?
「死んでるはずがない……アイツはまだ夢も叶えてない……アイツはこんな所で死ぬ人間じゃ……」
ーーーアベル
「アイリス…アイリス…」
ーーー信じてるよ
「……どこに………っ…!!」
ーーーだから貴方を生き残らせるために私は託す
「……………」
ーーー貴方はきっと特別な生きるべき人間だから
「…………嘘つきやがって」
ーーー嬉しかった。私のことを特別な人だって言ってくれて
「………死なねぇって言ったじゃねぇか」
ーーー貴方が私を想ってくれる姿を見て本当に心の底から嬉しかった …
「くそっ!!」
ーーー貴方と過ごした日々はとっても楽しかった
「…………………ぁ」
ーーー貴方と出会えて良かった
ーーーありがとうアベル私を認めて,受け入れてくれて
ーーー私を…想ってくれて…ありがとう…あのね…私も……
「あ…れ…は…」
ーーー大好きだよアベル
見つけた…さっきの巨人達がナニカに群がってるのを
「…………………………………………………………」
「あーうー………????」
その時本来知性の無いはずの巨人がナニカを察知した。
「……………………………」
俺はその日…………………