「………」
「やぁやぁ…緊張…してるかい?」
「いえ…ただどうアイツを殺そうか考えてただけですよ。」
「…ひぇ〜物騒だね〜怖い怖い………それともそれも君なりの優しさなのかな?」
ゾエさんがレオンハートとエレンたちの動向を見守ってる俺に話しかけてくる。…やはりふざけてるように見えてよく人を見てる人だ。
「……なるべく俺自身の手で,苦しまずに葬ってやりたいんで。」
「……ははっ…やっぱり君。捻くれてるけど優しいよねぇ…」
「……そんなことは」
「…あ!でも一応!この作戦は最初捕縛優先だからね!そんな殺意マシマシでヤッちゃわないでよ!?」
「……はい。」
……成功するとは思えないがな。その捕縛作戦。
しばらく動向を待っていると,それは突如として起こった。
轟々しい落雷のような音に,荒々しい風圧…俺が見慣れてたモノだ。そして突如として平和なストヘス区に君臨する……女型の巨人。
「………やっぱりだめでしたね。あいつ巨人化しました。」
「……こうなれば,中から無理やり引き摺り出すしかないね〜…」
「……それじゃあ行ってきます。このままじゃうちの同期が殺されかねない。」
「……君も消極的な命の捨て方はしないでくれよ?」
「……分かってますよ。」
俺はゾエさんの言葉にそう端的に一言返すと,直ぐにレオンハートの元へ全速力で立体機動装置を使い,駆ける。
「……アベル!!ごめん!エレンはまだ戦えな…」
「……ふっ!!」
ズバァァァンッ!!
俺はアルミンの言葉を片耳に,速攻でアンカーを飛ばし,踏み込みから全力で地を蹴り飛ばした爆発的な加速と瞬間的な強いガスの吹かしで,レオンハートが手で守る間もなく不意打ち気味でうなじに切りかかった。チッ……硬質化か。やっぱり防がれたな。だが,いきなりそれを使えば……
俺は新たな刃に換装して,更に細かく街中でアンカーをリリースしながら,ガスを一瞬だけ吹かして節約しつつ加速しレオンハートの横を陣取った。
「……!」
「……部分的にしかそれ,使えねぇだろ。能力頼りでいきなり使ってんじゃねぇよ。舐めやがって」
俺はレオンハートにそう吐き捨てると,一瞬高度を上げて高所からの重力による加速とガスによる回転力,俺の筋力から撃つ鋭い斬撃で,奴がうなじを守る時に使う右腕をズバンッ!!という凄まじい轟音と共に切り裂いた…嫌違うな。吹き飛ばした。
「……これで1本お前を守るための腕が減ったぜ?レオンハート。まぁ俺の新しい刃ももう使い物にならなくなったが…俺の刃が無くなるのが先か…てめぇの命に俺の一撃が届くのが先か…勝負だな。」
俺の手で,お前を殺してみせる。
「……本当に人間が出せる斬撃の威力かよ。硬質化がなかったとはいえ女型の右腕を丸ごと持ってきやがった。」
「……エレンがまだ来れないけど,これなら…」
「………彼は人間なの?」
後ろからジャンとアルミン,アッカーマンの会話が聞こえてくるが,てめぇら呑気に話してる暇あんなら手伝ってくれよ。
……周りを飛ぶ兵士たちが次々と殺されていく中,俺は3人に協力を申し出る。
「…………ジャン,アルミン。注意を引いてくれ,アッカーマンは俺と一緒にレオンハートの四肢を狙うぞ。」
「……あぁ!」「分かった!」「…了解」
ジャンとアルミンが前へ躍り出る。そしてそれと一緒に俺とアッカーマンが後ろから女型の脚を奪うために動く。
…アッカーマンがレオンハートの右斜め上を取った。恐らくそのまま足首を狙うつもりなんだろう。
それを察した俺は,アッカーマンとは反対の左斜め上を細かくアンカーのリリースを繰り返して軌道を複雑にし,レオンハートに狙い撃ちされないようにしつつ陣取った。
「……ふっ!!」「あぁぁっ!!」
完璧なタイミングだった。完璧な合わせ。そのままレオンハートの両足の機動力を奪うはずだった…だが…
ガシャァァァンッ!!
レオンハートも必死なのか,街中にある家をぶっ壊して,あちこちに瓦礫を飛ばしまくる。…並の兵士なら避けれずにそのままお陀仏…最低でも避けるために距離を空けてしまう。
「……チッ!!よく頭がまわんな…けどそっちは…想定通りだぜ?レオンハート」
その瞬間。捕縛するための罠が起動したことが分かる爆音が聞こえた。
ーーーーーー
「……ここじゃあ前のように自身を食わせるために巨人を呼ぶことはできない。」
「………」
「……あぁでも安心しなよ…その代わりに私が君という情報を食ってあげるから……」
ゾエさんも仲間が大量に殺されてキテいるものがあるのか,低い声で捕縛された女型に語りかける。…俺もゾエさんの隣に立ってレオンハートへ話しかけた。
「………呆気なかったな。レオンハート。でも大丈夫だ。お前がたとえここで捕まって…殺されても…俺が……お前の想いや意思ごと未来へ連れていく。」
ーーーうるさい勝手なことを言うな。
「……何なら俺がお前を殺してやるよ。俺の手で,お前を終わらせる。なるべく苦しまねぇようにな。」
ーーーこんな所で死ねない
「………俺の夢も,お前の夢も,
ーーー五月蝿い…煩い……うるさい……
「……だからお前も俺の過去になってくれレオンハート」
私の巨人体越しの瞳に,不気味に光る茈色の瞳をした
ーーー私はお父さんの所に………ッ!!
「「アアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァァッ!!」」
ズバンッ!!!
俺の一撃がレオンハートのうなじを捉えた……と思った。
ガシャァァァンッ!!
レオンハートが意地か底力か…罠を振りほどいて,辺り一帯を破壊した。
ーーークソ…外した………うなじを貫くに至らなかった……!!
「待てよッ!!!レオンハートッ!!」
「俺達も追うぞッ!!」
地面から轟音がなるほど蹴り飛ばして加速し女型を追うアベルに続いて,調査兵団の総戦力が女型を追う。
ーーーなんなんだっ!!
ーーー私は…帰るんだ!!故郷に…お父さんの所に…!!
ーーー何で…アンタはそこまでして……ッ!!
すぐ真後ろに追ってくる,白髪の化け物を片目で見る。
ーーー殺される……!!尋問なんかじゃない……あの化け物は絶対に私を殺すつもりだッ……!!
ーーーミカサ?人類最強?死に急ぎ野郎?…違う。私にとって最も怖いのは……アンタだよ化け物。
ーーーアンタは…確実に動揺してたはずだろ…私の正体を察した時に……
そうだ。確実に自身の正体を見破った時のアベルは動きに精彩をかいていたし,動きも悪かった。動揺していたんだ。
あの化け物にも感情はあったんだと思った。アイツは情に毒されて自分と戦うことはできない,そう思った。
アイツにも心があった。だからこそ私は前回生き延びることができた。…だが今はそんな事が無かったかのように迷いもなく自身を追い詰めてくる。
ーーー…何がっ!!アンタをそこまで突き動かすんだッ!!
壁外で相対し,確実にこっちが有利だったはずなのに追い詰められた。
そのまま逃走するために壁外で叫びによって集めた大量の巨人を相手にしてもアイツは死ななかった。
その後もう一度巨大樹の森で戦った時も,アイツにずっと殺されかけた。
…何がアイツの原動力となって,そこまで戦い続けるんだ。
ーーーアンタはッ……もっと無気力で…無機質で…こんな奴じゃなかったはずだろッ!!
底知れない力を持ってるのに,何故かそれを隠し続けていた化け物。…けどそんな化け物のくせに私を偶に訓練に誘ってきたり,周りとの関わりを見ても割と人間臭い奴。
ーーーくそッ…
文句が出る。この化け物を変えたのは一体なんなのかと。
自身の命を狩り取ろうとする死神が…背後に迫る。
理解のできない怪物が…
正体の分からない化け物が…
何故かこれだけの力を持っても,確かな感情を持っている自身の
ーーー巨大樹の森でのアイツの語りかけが頭に過ぎった
迫ってくる。…迫ってくる。
ーーーなんでッ!
分かっている。私は人を殺しすぎた。
殺されても文句なんて言えるわけが無い。
ーーーなんで…
頭にこびりつく,兵士の怒号,悲鳴,憎悪,ーーー私はそれだけの事をした裏切り者。
…戦った兵士たちは皆等しく,自身にそのような感情を持っていた。けど,
ーーーなんでアンタは…私を軽蔑しないんだ。
何故か分かってしまった。自身を殺そうとするこの化け物はそれが怒りや憎悪によるものじゃないのだと。
巨人…裏切り者…皆私を色々な呼び方で呼ぶ。どれも…いいものではない。
だがこの化け物は自身の正体が分かってからは決まって
振り返って彼の目を見る。そこには怒りも憎悪もなかった。
ただただ自身を真っ直ぐ見つめていた。
…何で責めないんだ。
ーーー人を沢山殺したのに
何で罰してくれないんだ
ーーー分かってる。アイツは私を殺して楽にしてくれようとしてる
…何で,まだ私を仲間だった頃と同じ目で見るんだ。
ーーー
「…
後ろにいる仲間から,自身の名を呼ぶ声が聞こえた。
「…お前を殺す」
「…」
振り返って立ち止まる。アベルと相対する。…壁はすぐ目の前なのに。
「…お前を忘れない。お前との時間も忘れない。」
「…」
構える。…いつの間にかエレンが巨人化して来ていたが,そんなことは今はもう気にならなかった。
「…けど俺は未来へ進むためにお前を殺す」
「………」
何時でも攻撃をする準備をする。目の前の男を殺すために。
「……お前も俺が未来へ連れていく。忘れられない過去として」
「……」
父の元に帰りたいんだ。
「……そしてお前の事も俺がこの戦いの結末の先まで生き残って
「……」
楽しかった。訓練兵の時間は。
「……女型の巨人でも,裏切り者でも,無い」
「……」
悪く…なかったんだ。この島の悪魔共との共同生活は。確かに…仲間だったんだ。
「仲間のアニ・レオンハートとしてお前を刻んでみせる。」
「……」
………ごめんなさい
「……だから,俺は迷わずお前をここで殺して進み続ける。」
「……」
硬質化を使う。うなじにではない。攻撃のために使う。生身の人間相手にはいらない?…否この男を確実に殺すために,使う。
「……じゃあなアニ」
ーーーじゃあねアベル…
輝く蹴撃と,轟く斬撃が交わった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「……以上が,事の顛末です。」
「……なるほど。アニ・レオンハートは死んだ…。捕縛作戦が尽く失敗した以上,仕方ない…か。」
団長に報告を済ませる。…そう俺はアニとの勝負に勝った。奴のうなじをこの手で切り裂いて,奴を引っ張り出して…
やっとデカブツの中から出てきたアイツはどんな表情をしてやがるのかと思えば……………………泣いてやがった。
ーーーけど俺があいつの首を切った瞬間。
アイツの目は,覚悟を決めた目をしていた。
…もしかしたらあそこから生き延びれる手段でもあったのだろうか。もうアニは死んだ以上,考えても分からないことだ。
ーーー……アニ
『……頑張りなよ。アンタなら…もしかしたら』
………裏切り者が敵を応援してんじゃねぇよ。最後の最後で手元が狂いかけたじゃねぇか。最後にクソみてぇな一言残しやがって。
「……」
拳を握りしめる。手元に残る,仲間を斬った感触。…自身の同期を葬った感覚が手元から全身にかけて広がってるような気がした。
アニとの戦いは,終わった。けど…まだまだこれからなんだ。きっとまだこの戦いは始まりに過ぎなかった。
…まだ裏切り者は残ってるし,分からねぇことも多い。
ーーーでも俺は進み続ける…進まなければいけない。
止まることを許されない。…俺が引き摺る
「……アベル。君に頼みがある。」
「……また,ですか?俺も流石に少し休みたいんですけど」
……肉体的にも精神的にも疲れたんだが,まだやることがあるのかよ。
「女型の巨人の討伐,ご苦労だった。しかし君にはこの事の顛末をウォールローゼ南区の隔離施設にいるミケたちに伝えて貰いたい。……我々はストヘス区の被害を省みてもまだここに留まらければいけない,なので君には早馬を出してその報告の任を頼みたいのだ。」
「……なるほど。ですが,流石に俺だけ過労すぎませんかね…」
「…それについてはすまないと思っている。しかし他の兵士たちは負傷している者も少なくない。その点確かに疲労はあるだろうが,君は大きな怪我も無く,その実力も既に兵団内で周知だろう。…君の優秀さを見込んでの頼みだ。」
……この兵団。意外ととんでもねぇハードワークか?
「……分かりました。報告だけなら疲労があっても特に問題ないでしょうし。その任務承りますよ。」
「…すまない。では念の為装備を整えてから準備が出来次第出発してくれ。」
「……了解」
……やるしかないか。俺にはそれしか道はねぇんだからな。