- 7話Bパート『魔女の庭(Witch's garden)』
- 8話Aパート『人生のお楽しみ(What is Life?)』
- 10話Bパート『嫌われ者ドニー(DONNY)』
- 14話Bパート『恥ずかしの試練(Blood Under the Skin)』
- 15話Aパート『パパは魔王(It Came from the Nightosphere)』
- 16話Bパート『スローな愛にしてくれ(Slow Love)』
- 18話Bパート『ご両親にご挨拶(Her Parents)』
- 23話Bパート『映画を僕と共に(Go with Me)』
- 24話Bパート『ぎりぎりジェイク(THE LIMIT)』
- 28話Aパート『記憶の中の記憶(Memory Of a Memory)』
- 28話Bパート『必殺お仕置き人(Hitman)』
- 30話Aパート『フィオナとケイク(Fiona and Cake)』
- 34話Aパート『君の悲鳴が聞こえない(No One Can Hear You)』
- 40話Bパート『二人のために世界はあるの(Dream of Love)』
- 43話Bパート『パパのやんちゃ娘(Daddy's Little Monster)』
- 44話Aパート『いとしのモンスターワイフ(Princess Monster Wife)』
- 47話Aパート『火星の子どもたち(Son of Mars)』
- 50話Bパート『雨の日のおとぎ話(The Hard Easy)』
- 56話Bパート『デイヴィーの平凡な一日(Davey)』
- 58話Aパート『かわいい帽子くん(Little Dude)』
- 63話Bパート『愛が全て(The Suitor)』
- 66話Bパート『ビーモのルーツ(Be More)』
- 71話Bパート『赤が欲しい!!(Red Starved)』
- 73話Bパート『悪魔の血(The Pit)』
- 78話Bパート『あの頃に戻りたい(Bad Timing)』
- 86話Aパート『悪を憎む男 (Nemesis)』
- 87話Bパート『リッチな坊や(Gold Stars)』
- 88話Aパート『エバーグリーン(Evergreen)』
- 93話Bパート『とある日記(The Diary)』
- 99話Aパート『バブルガムの失脚(Hot Diggity Doom)』
- 102話Bパート『ウーの王のキノコ指令(Mama Said)』
- 109話Bパート『ビーモの成長(The More You Moe, The Moe You Know(PartⅡ))』
- 104話Aパート『ビーモはカウボーイ(Angel Face)』
- 116話Aパート『剣のフィン(I Am a Sword)』
- 118話Aパート『お話パンケーキ(Five Short Tables)』
- 118話Bパート『父と娘のカード・ウォーズ(Daddy-Daughter Card Wars)』
- 120話Aパート『起動前(Preboot)』
- 136話Bパート『ボニベルの家族(Bonnibel Bubblegum)』
- 141話Aパート『冒険は続いていく 前編(Come Along with Me part1)』
アドベンチャータイムの吹き替え版はもちろん大好きで、声優さんたちの演技も素晴らしく最終回まで楽しませてもらったのですが、やはり翻訳作品の常として、セリフがオリジナルの英語版そのままとはいかず、意味が変更されたりしています。
この記事では、吹き替え版でセリフの意味が変更されているシーンについて、興味深い箇所をいくつか紹介してみようと思います。
7話Bパート『魔女の庭(Witch's garden)』
「魔女の庭」、ジェイクの「俺様を巨乳にしやがって」は、オリジナルだと「前は(乳首が)8つくらいあったのによ!」というセリフです。
犬の乳首は普通8個や10個だけど、これじゃ2個になっちゃったじゃんか!…という笑いだったんですね(ジェイクも犬らしく乳首はちゃんと8つあるというのが笑える)。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
8話Aパート『人生のお楽しみ(What is Life?)』
フィンのアイスキング城への潜入を助けた風船たちは、笑顔で「それじゃあまたねー」「ちょっと、しぼんできちゃった」と言って空へと昇っていきますが…実はこれ、オリジナルだと「またねー」どころか、「To the mesosphere!(イェーイ中間圏へ!)」「Finally we can die!(ついに死ねる!)」と言って自分たちが滅びることを喜んでいるシーンです。
この風船たちがこれ以降、二度と再登場しなかった理由がわかりますね!(死にたかったのか、風船たち…)。
10話Bパート『嫌われ者ドニー(DONNY)』
良い子になったドニーが、「おいらは生まれ変わったんだ」と言った後、葉っぱをクルクル回すというシーンがあります。
一見すると、「なにやってんの?」って感じの謎シーンなのですが、これは原語だと「i'm turning over a new leaf」と言っていて、「turning over a new leaf(葉っぱをひっくり返す)」は心機一転・改心するという意味になります。
つまり、「おいらは生まれ変わったんだ(turning over a new leaf)」と言っているドニーが、本当に葉っぱをクルクル回してみせている…というギャグだったんですね。
14話Bパート『恥ずかしの試練(Blood Under the Skin)』
恥ずかしい「玉拾いゲーム」を幽霊から要求されたフィンとジェイクの会話は、日本語版だと、「幽霊め、早く鎧がほしいのに」「こんなやつほっとけ」ですが、オリジナルだと「奴を殺して鎧を手に入れよう」「はあ?あいつもう死んでんぞ!」という、本来はフィンがサラッとひどいことを言っているシーンでした。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
15話Aパート『パパは魔王(It Came from the Nightosphere)』
・巨大化したハンソンに立ち向かおうとしたフィンが、マーセリンから「あんたじゃアリンコ同然さ」と言われ、「どうかな、この蟻は毛の生えた大人だぜ」と言い返すと、マーセリンに「どこに?」と聞き返されて、フィンは顔を赤面させてしまいます。
このあたりのセリフもオリジナルとは違っていて、フィンの「この蟻は毛の生えた大人だぜ」は、オリジナルだと「this ant's about to get in his pants!」というセリフで、直訳すれば「このアリは彼のパンツに入ろうとしてるんだぜ」と言っており、それをマーセリンから「what?(なんだって?)」と聞き返されて赤面する…というのが本来のシーンでした。
なんでここでフィンが顔を赤くしたのかというと、じつは「get in ~ pants」は、英語のスラングで「~とセッ〇スする」という意味になるそうで、それでフィンは自分が下ネタを言ってしまったことに気づき顔を赤面させた…ということだったんですね(って、これ子供向けアニメにしてはだいぶアダルトなギャグな気が…?)。
日本語化にあたって「毛の生えた」という表現にすることで、「意図せず下ネタっぽいを言ってしまってマーセリンに聞き咎められる」というストーリー展開をそのまま活かした訳は上手いと思います。
16話Bパート『スローな愛にしてくれ(Slow Love)』
・スノーロックに男女の会話の手本を見せようと、ジェイクがメスのカタツムリに化けて「私、素敵な殿方に会いたいと思ってたの」と作り声でしゃべりますが、オリジナルだと「カタツムリとの交尾について考えていたの」と言っています(フィンが「やめろ!」と強く拒絶するのも納得…)。
・また、ジェイクとのロールプレイをフィンが拒否すると、スノーロックが「代わろうか?」と言ってきますが、実はここもオリジナルだと「きみ(ジェイク)と交尾しよう」と、あけすけなことを言っています。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
18話Bパート『ご両親にご挨拶(Her Parents)』
終盤、フィンとジェイクがレイニコーン両親と謎肉を食べるシーンの会話は、実はオリジナルだとけっこう怖い内容です。
日本語吹き替え版だと、 ジェイクが皿に盛られた肉を見て「で、こりゃ何の肉?」 とけげんな顔をしながら尋ねると、レイニコーン母が「知らなーい?これは"豆の肉"よ」 「見た目はちょっと味気ないけど、懐かしい味がしておいしいの」と答え、そして肉を食べてみたジェイクは「フィン、これ美味いぞ!」と目を輝かせながらフィンに語りかける…という流れになっています。
ところがオリジナルだと、 肉を見てジェイクは「これ、人間じゃねえのか?」と言っており、それに対してレイニコーン母は「あら、これは"ソイピープル"よ」 「私は人間を食べたことはないけど、違いがわからないと言われているわ」ということを答えていて、肉を食べてみたジェイクは「フィン、お前って美味いな!」と言っているんですね。
さっきフィンを食べようとしていた両親が、今度は人間と味の区別がつかないというソイピープルをおいしそうに食べているという状況がなかなかホラーだし、ソイピープルを食べてみたジェイクが「お前って美味いな(人間っておいしいんだな)!」と屈託なくフィンに言うあたりもひどくて笑ってしまいますが、日本語版ではこのやり取りはアウトと判断されたようです。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
23話Bパート『映画を僕と共に(Go with Me)』
結構有名な話ですが、マーセリンがバブルガムに「ハロー、ボブルガム」と声をかけるシーンは、オリジナルだと「ハロー、ボニベル」と呼んでいました。
「ボニベル」とはバブルガムの本名ですが、シーズン2の時点では吹き替え版の翻訳者の方も、これがバブルガムの本名だとは知らなかったのでしょう。マーセリンがバブルガムをからかってヘンな名前で呼んでいるシーンなんだと思って、もっとわかりやすく「ボブルガム」という呼び名にしてしまったようです。
一見バブルガムと険悪そうなマーセリンは、実は本名を知っている(気軽に本名で呼んでも許される)くらいにバブルガムと親密な関係であったことがさりげなく示されているシーンであったのが、吹き替え版ではそのニュアンスがいまいち伝わらなくなっているのは残念ですね。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
24話Bパート『ぎりぎりジェイク(THE LIMIT)』
・迷宮を進んでいて、自分の身体に戻ってきてしまったジェイクが「こいつはメチャクチャ伸びた俺様の身体だ」と言いますが、オリジナルだと「これは俺様の『nerp』だと思う」と言っています。
このジェイクが言ってる「nerp」とは…どうやら、「乳首」のことであるようです(参考:俗語辞書サイトのアーバンディクショナリーの「 Nerp's」の項目)。
直後、そこをツンツンと触りまくるフィンと、触られて喜ぶジェイクの反応といい、意味がわかるとなんとも言えないシーンです…。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
28話Aパート『記憶の中の記憶(Memory Of a Memory)』
マーセリンがフィンに「アッシュは人間のこと嫌いなんだからさ」と言うシーンがありますが、オリジナルだとここは「Ash doesn't like me hanging out with mere mortals.(アッシュはアタシがmortalsとつるむのを嫌がるんだ)」と言っています。
このmortalsとは、元々ラテン語の「mortalis」が由来で、「不死なる神々と違って、いずれ死ぬ人間」「死ぬ運命を免れぬ者・生に限りある者」を意味するそうです。
日本語だとあまり使わない表現な気がしますが「定命の者」と訳されたりするみたいです。
つまり、オリジナルだと「人間」という種族を名指しして言ってるんじゃなくて、魔法などの特別な能力を持たない種族一般をアッシュは嫌ってる…ということだったようなんですね。
28話Bパート『必殺お仕置き人(Hitman)』
・このエピソード、フィンとジェイクを一発殴ってやりたいと思ったアイスキングが、自分の代わりに2人をヒットして(=殴って)くれと頼んだつもりで、「ヒットマン(=殺し屋)」のスコーチャーに依頼を送ってしまい、ただ2人を殴ってほしいだけのアイスキングと、ガチで2人を殺そうとするスコーチャーのズレたやりとりが笑い所なのですが、日本語版では「ヒットマン(Hitman)」を「必殺お仕置き人」と訳しているので、このあたりのおかしさがいまひとつ理解しにくくなっています。おそらく、日本語版だと「殺し屋」とか「ヒットマン」といった物騒な表現を使えないのでしょう。
・後半、スコーチャーは紙を1枚残して去っていき、吹き替え版ではアイスキングがその紙に書かれた文章を見て「人を呪わば穴二つ?」と呟くのですが、映像をよく見てみると別にそういうことは書かれていません(実はアイスキングが呟くのは日本語版固有の演出で、オリジナルだとこのシーンでアイスキングは無言です)。
紙には「Echoes of past events nudge the tiller on my present course I await its reflection in the future.」と書かれています。「過去の出来事の残響が、私の現在の進路を耕している。私はそれが未来へと反映されるのを待つ」…とかそんな意味でしょうか。 深読みすると、アイスキングの過去がいよいよ明かされるという前フリである気もします。
スコーチャーがこういう意味深で詩的な文章を残していくというのがシュールな笑いなんですが、日本語版ではわかりやすく「スコーチャーはアイスキングの行動を『人を呪わば穴二つ』と揶揄して去っていく」という話の流れにしたようです。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
30話Aパート『フィオナとケイク(Fiona and Cake)』
フィオナとガムボールがデートするくだりで、花畑から飛び込んで出てきたガムボールが、変なブロックみたいなのを持ちながら「君を思わせるような真珠を見つけてね…君の瞳みたいに、輝いてた」と言います。私は初めてこのシーンを見たときに意味がよくわかりませんでした。画面内に真珠なんて映ってないのに、真珠を見つけたってどういうこと??…と不可解に思ったんです。
で、オリジナルのセリフを見て謎が解けたのですが、本来ガムボールは「そこで、真珠のピグミーの頭蓋骨を見つけた」と言ってるんですね。ガムボールが持ってたのは、真珠でできたピグミー(ギリシャ神話に登場する小人族)の頭蓋骨だったわけです。
「フィオナの瞳は真珠のピグミーの頭蓋骨を思わせる」…と言うガムボールの形容がヘンテコで笑いどころなんですけど、吹き替え版はピグミーとも頭蓋骨とも言わないので、ちょっと見ていて混乱するシーンになってますね。
ちなみに、ストーリーボードの時点では「花畑に飛び込むと地下にダンジョンがあって、フィオナとガムボールはダンジョンの中でこのピグミーの頭蓋骨を見つける」という筋書きになっていました。完成版ではカットして、花畑からいきなり頭蓋骨を見つける展開になったんですね。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
34話Aパート『君の悲鳴が聞こえない(No One Can Hear You)』
エピソードの最後に、バブルガムが「私があの鹿にキスを許さなかったの。それでこの騒ぎ」と話しますが、オリジナルだとここは「鹿は私たちの砂糖(sugar)を欲しがったけど、私は何も与えなかったの。言ってる意味わかるでしょ?」…と言っています。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
つまりあの鹿はキャンディ王国の砂糖を舐めたかったのに、それを拒否されたのでキャンディーピープルたちをベトベトに固めて自由を奪い、一方的に舐めまくっていたということだったんですね(最初にスターチーを舐めてるシーンからも理解できます)。
ただ、最後にPBが「if you know what I mean(言ってる意味わかるでしょ)」と言ってからチュッチュッとねず鳴きするシーンがあり、なにやら言外の意味があることを仄めかされています…。
じつは、「sugar」には、単に砂糖の意味のみならず、スラングで「キス・愛情」という意味もあるそうなんですね(吹き替え版で「sugar」を「キス」と訳してるのは違うんじゃ?と当初書いてたんですが、私が知識不足でした。すみません!)。
なので、最後のPBの「言ってる意味わかるでしょ?」というセリフは「”シュガー”って、キスとかそういう意味のことよ、だからそれを鹿にあげたりするわけにはいかなかったのよ、わかるでしょ?」…という仄めかしだったんだと思われます。
ただ、あの鹿の行動は、見る限りキャンディピープルたちを美味しそうに舐め回しているだけのように思えます。鹿が「愛情・キス」を欲しがっていたというのは本当にそうなのかどうか?バブルガムがフィンをちょっとからかって言っただけ、と解釈したほうがわかる気がします。
まあ、子供が見れば「鹿が砂糖を欲しがったのに、バブルガムは与えなかったんだね」と解してそれで話は通るんですが、大人が見るとシュガーの裏の意味がわかるという、ATに時々含まれているアダルトなジョークのひとつになっていますね。
40話Bパート『二人のために世界はあるの(Dream of Love)』
・ツリートランクと引き離されたブタさんが酒場で「元のひどい暮らしに戻るしかないか」と呟きますが、実はここはオリジナルだと「犯罪者を食べるのに戻ると思う」と言っています。
ブタさんは「りんご泥棒」回で初登場した時は犯罪組織に飼われており、フィン達を食べさせるために連れてこられたということでしたが、どうやら本当に生きたままの人間か死体を食わされる仕事をさせられていたんですね!(怖っ!!)
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
43話Bパート『パパのやんちゃ娘(Daddy's Little Monster)』
記憶を失ったフィンとジェイクが、ケータイの録画を再生していると、「ナイトスフィアのお守り」によって怪物化したマーセリンから襲われるシーンで、ジェイクが「やべえぞ、気を付けろ」と叫びますが、オリジナルだとここは「俺様の海馬が!(my hippocampus)」と言っています。
海馬といえば、記憶に関わる脳の器官です。つまり、フィンとジェイクが記憶を失っていたのは、海馬になんらかの攻撃を受けたためだったようです。
日本語版は海馬のくだりを訳してないので、録画を見返した後でジェイクが「記憶をなくしちまったわけはわかったけどよ」と納得している理由がわかりにくくなってますね。
ちなみに「Marcy's Super Secret Scrapbook!!!」では、サイモンと出会った時のマーセリンは過去の記憶を無くしていたことが記述されていますが、これもナイトスフィアのお守りが持つ能力となにか関わりがあったのかもしれません。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
44話Aパート『いとしのモンスターワイフ(Princess Monster Wife)』
プリンセスたちの部品で作られたモンスターワイフが、元のプリンセスの所へ戻っていき、吹き替え版では、アイスキングが最後に「なんと気前のいい妻なんじゃろ」と感嘆して終わります。このセリフがなんだか不思議な言い回しだなと思っていたのですが、オリジナルのセリフはわかりやすく「She gave away all my stuff!(ワシの物を全部あげてしまいよった~!)」と言っています。
つまり、オリジナルでは最後にアイスキングが、せっかく集めたプリンセスたちの部品がスッカラカンになったことにがっかりして終わるオチだったのを、 日本語吹き替え版は「アイスキングがモンスターワイフの利他的、自己犠牲的な行動に感激する」という内容に変えているんですね。
モンスターワイフの消滅にしんみりしたムードかと思いきや、最後にアイスキングの一言でギャグになって終わる…という脱力的なオリジナル版がATらしいとも思えるんですが、吹き替え版で意味を変更したのは、これじゃアイスキングの反応がドライ過ぎると考えられたんでしょうか。「モンスターワイフのことを良き女性として最後まで称え続けたアイスキング」というストーリーで終わらせた吹き替え版のオチも悪くないものだと思います。
47話Aパート『火星の子どもたち(Son of Mars)』
・マジックマン(※中身はジェイク)に対して、火星の王が「昔は実に立派な男だったのに、マルグリスと付き合ってからお前はすっかり変わってしまった」と嘆きますが、ここはオリジナルでは「マルグリスとオリンポス火山で過ごしたあの夜までは、本当にクールな男だったことを覚えている」と言っていました。
過去にオリンポス火山でマジックマンとマルグリスに何か事件が起こったことが、この時点で既に示されている重要なセリフですが、日本版だと「マルグリスと交際したことでマジックマンの性格が変わってしまった」というような口ぶりになっているので、ちょっと本来の意味からズレてしまっています。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
・また、ジェイクが死んで現れたフィンを見て、グロドが「マブダチってのはお前か!」と言いますが、オリジナルだと「The one you were prophesied to meet!」で、「出会うと予言されていた者ってのはお前か!」というセリフでした。
このグロブが言う「予言」とは何のことかというと、どうやらタイトルカードに描かれている謎の石板のことらしく、フィンとジェイクが火星に現れることは予言されていたようです。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
50話Bパート『雨の日のおとぎ話(The Hard Easy)』
・ウービーウー村長老の1人芝居は、原語と吹き替え版とで言っている内容が異なります。
(日本語版)
(甲高い声)「ママ!お願い助けて!」
(女声)「ビリー、あなたなの?ママはてっきり…」
(甲高い声)「ママの声すぐそこで聞こえる!ママぼくたちどこにいるの?」
(女声)「ビリー、ああ…」
(原語)
(裏声で)「ママ!ママ!ママ!助けて!(Mommy! Mommy, Mommy, help me!)」
(低い声で)「ビリー、あなたなの?(Billy, is that you?)
(低い声で)「ママの声って…(Mommy you sound exactly--)
(裏声に戻って) 「ママの声ってまるで…(咳込む)…ママの声って、ぼくとまったく同じだ!(Mommy you sound exactly like m--(咳込む)Mommy, you sound exactly like me!)」
(また低い声で)「ビリー、ああ… (Billy, uh--)」
聴いてのとおり、原語では途中で演じ分けが崩壊しているのが笑いどころです。
原語で長老の声は、コメディアン兼俳優のジョナサン・カッツ氏がゲスト出演で演じているのですが、この一人芝居のくだりはカッツ氏のアドリブだったそうです。
・ラスト、フィンが巨大カエルにキスして、カエルの呪いを解くと、呪いがとけたドデカ王子は「こんな人助けをできるのって君くらいなもんだよ」とフィンに言うのですが、原語だと王子は「男を助けるためにそんなことをする男は多くいない(I don't know a lot of dudes who'd do that to help a guy out.)」ということを言っています。
つまり元々は「男同士のキスだった」ことを王子がフィンに指摘しているセリフだったんですね。日本語版だとデリケートな話題と思ったのか「男」という部分は訳すのを避けたようです。
56話Bパート『デイヴィーの平凡な一日(Davey)』
冒頭でドラゴンを倒したフィンに、ジェイクが「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」と声をかけると、フィンは「うーん。うん」となんかしっくりこない曖昧な返事をします。
なんでフィンはこんな微妙な反応なのでしょうか?
じつはオリジナルだとジェイクは「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」ではなく「 Don't let the dragon, drag on,」というシャレを言ってます。
ジェイクは面白いと思ってシャレを言ったんだけど、聞かされたフィンのほうはうまく返せず「う、うん…」となってしまってるシーンなんですね。
しかし後半、デイヴィーは、そのつまんないシャレがきっかけでジェイクのことを思い出しフィンへと戻ることができました。
これはただのつまんないシャレがフィンとジェイクを再び繋ぐ言葉になる、というギャップが面白いので、吹き替え版の「悪い奴に好き勝手させちゃなんねえぞ」だと、キーワードとしては普通過ぎる気がしますね。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
58話Aパート『かわいい帽子くん(Little Dude)』
ラストシーン、新しい帽子が欲しいと言うフィンに、ジェイクが言ったセリフ「そんじゃ、材料探しだ」は、オリジナルだと「邪悪なクマの皮を剥ぎにいこうぜ」です。
フィンのトレードマークのあの帽子が、実はクマの皮を加工したものであることが示されているセリフでした。
63話Bパート『愛が全て(The Suitor)』
この回、吹き替え版では、エピソードのラストでペパーミントバトラーが「私のブラコを返して!!」と怒ってPBにビンタするという唐突かつ意味のよくわからない終わり方になっており、戸惑った人も多いと思いますが、オリジナルのセリフを見れば、ペパーミントバトラーが怒った理由が理解できます。
吹き替え版でペパーミントバトラーは、ブラコを「イケメンに変えてくれ」と悪魔に言うのですが、オリジナルだと「歩く愛の磁石( walking love magnet)」に変えよう、と言っています。つまり、単純なイケメンというわけではなく、磁石みたいに他人を惹きつける存在にしてくれ、という意味だったようです。そして「歩く愛の磁石」に変わったブラコを見たペパーミントバトラーは見事に魅了されちゃったらしく、日本版だと「とても魅力的になりました」となってるセリフは、オリジナルだと「あなたとの赤ちゃんが欲しい!」ってペパーミントバトラーは言ってるんですね(!)
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
また、最後にペパーミントバトラーが言った「わたしのブラコを返して!」もオリジナルだと「You should have given him to me!」で、本来は「わたしに彼(ブラコ)を譲ってくれればよかったのに!」って意味で怒っていたワケです。
日本語版は「ペパーミントバトラーがブラコに魅了され愛してしまった」…というところを拾ってないので、ラストのビンタがすごく唐突になっているわけですが、まあ、ペパーミントバトラーがブラコに「赤ちゃんが欲しい」とか言うのもちょっと生々しいし、不穏当と判断されたのもしかたない気はします。
ただ、実際のところ日本語版の「ペパーミントバトラーが唐突にブラコへの愛を語りだしてバブルガムを殴る」っていうのも、意味不明だからこそ面白くて、個人的にこれはこれで笑えるので、悪くないと思っています(ATみたいな作風だと、しかたなくそうなっている説明不足の唐突な展開や不自然なシーンも、ギャグとして成立してしまうので、ある意味得ですね)。
66話Bパート『ビーモのルーツ(Be More)』
エピソード終盤、モォがビーモ製作に込めた思いを語るシーンで、モォは「私の希望が詰まったロボット…それがビーモなんだ」と言って、ビーモのボディに書かれた〈BMO〉の文字を指さしますが、このくだりはオリジナルと言っていることが異なっており、オリジナルだとモォは、「I made BMO to be more」と言っています。
ここでの「Be more(もっと~である)」という言葉の解釈が微妙なところですが、「より良い存在に、よりすごい存在に成長していくように、という願いを込めて作ったんだよ」みたいな感じのニュアンスなんじゃないかな…と思います。
「ビーモのルーツ」の原題は「Be more」ですが、つまりタイトルの意味がここに至って視聴者に理解されるという、タイトル回収になっていたんですね。
71話Bパート『赤が欲しい!!(Red Starved)』
赤いルビーだと思って緑のエメラルドを持ってきたフィンに対して、吹き替え版だとジェイクが「お前、目が悪いんだな、でもあんまり気にすんな」と言いますが、オリジナルだと「You're a little color blind.And there's nothing to be ashamed of.」…つまり「お前、ちょっと色覚異常なんだな、でも恥じることじゃねえよ」と、ハッキリ言っています。
フィンはいわゆる「色弱」という設定であるようです。これを書いてる私自身が色弱なんですが、色弱だと明るい場所だとちゃんと色がわかっても、暗い場所だとその区別が苦手だったりするんですよね。フィンも、明るい場所なら赤と緑がちゃんとわかるんだけど、暗い地下では間違えてしまったんでしょう。
日本吹き替え版は、「color blind(色盲/色弱/色覚異常)」をぼかして「目が悪い」と訳したわけですが、ここに限らず、日本吹き替え版では現実の病名や体質名を出すのは基本的に避けているようです。
ただ、なんでわざわざフィンが色弱という設定がここで登場したのかを想像すると、この作品を見ている色弱の子供たちへ向けたメッセージなのだと思います。「フィンみたいな人気アニメの主人公でも色弱だったりするんだよ」という描写があることで、現実の色弱の子どもたちが勇気づけられる部分はやっぱりあると思うんですよね。フィンの親友であるジェイクも「恥じることじゃない」と言ってくれていますし、色弱は決して珍しいものではなく、引け目に感じたり深刻に気にしたりすることは無いんだ…と励まされるのではないかと。その点から言うと、日本語吹き替え版も、ここは「目が悪い」とぼかしたりせず、「色弱」あるいは「色の区別が苦手なんだな」とはっきり言わせたりしてもよかったんじゃないかな、と思ったりします。
73話Bパート『悪魔の血(The Pit)』
ジェイクがサマンサと対面するシーンで、吹き替え版だとジェイクが「わんこ…いぬ…ジェイクだ!」と名乗るセリフは、オリジナルでは本来「J・T…」と名乗りかけていて、ちょくちょく作中に登場する本「Mind Games」の著者「J・Tドーグゾーン」が、実はジェイクであることを示唆するシーンでした。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
78話Bパート『あの頃に戻りたい(Bad Timing)』
ランピーがキャンディ王国城を襲撃したとき、バブルガムはジョニーに「あなたはテーブルクロスの下に隠れてて。そこに特別なガムがあるから、悪者がドアを壊したらそれを噛むのよ」と言いつけますが、このガムはオリジナルだと「シアン化物入りのガム(cyanide-laced gum)」となっています(毒物!)。
つまり…バブルガムはどうやら「敵がドアを破って侵入してきたら、敵の手にかかって殺される前に、自分から毒を飲んで死になさい」と、もしもの時には自死するようジョニーに案内していたんですね。
まあ、太平洋戦争中の集団自決とかを想起させますし、ちょっと過激すぎて吹き替え版ではここを「特別なガム」とぼかしてしまったのも仕方ないなと思います…。
86話Aパート『悪を憎む男 (Nemesis)』
ペパーミントバトラーはピースマスターの息子を変化させるときに「暗闇の神々よ」と呪文をしゃべりますが、オリジナルだとこれは「Lords of the nightosphere(ナイトスフィアの領主)」、つまりハンソン・アバディアにむかって呼びかけています。
ということは、ハンソンはペパーミントバトラーに魔法の力を貸しているようです。
ナイトスフィアのハンソンの部屋にはペパーミントバトラーがキャディーをしている絵がありましたが、このセリフからも両者の関係が垣間見れますね。
87話Bパート『リッチな坊や(Gold Stars)』
序盤のシーン、ウーの王様が手下のトロントのことを「きみは人を見る目があるな。それに忠実だ」と褒めますが、オリジナルだと「忠実」ではなく「good dog(良い犬だ)」と言っています。
そう、トロントって実は「犬」なんですね!
トロントを犬だと裏付ける資料として、製作スタッフのSteave Wolfhard氏は「ツリートランクの結婚式」の「没になったトロントの初登場シーン」を公開しているのですが、そこでもトロントは柴犬(Shiba Inu)であると書かれています。
ほとんどの視聴者はトロントのことをリスだと思っていたんじゃないでしょうか?私もトロントをリスだと信じて疑わなかったので、犬だと知ったときは結構驚きでした。
おそらく、吹き替え版で翻訳を担当した方もトロントをリスだと思っていて、リスであるはずのトロントが「good dog」と呼ばれているのがピンとこなくて、「犬=人間に忠実」という比喩だと解してこのセリフを「忠実だ」と訳したんじゃないかと思います。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
88話Aパート『エバーグリーン(Evergreen)』
恐竜のガンターに「あなたはぼくのパパ?」と聞かれたエバーグリーンの返答は、吹き替え版だと「違う。お前に魔法をかけてそう思わせているだけだ」ですが、オリジナルだと「違う。だが、私はお前の卵を盗んでお前の脳を突然変異させたのだ」と言っていて、どうしてガンターは他の恐竜と違って2足歩行して喋れるのか?という疑問の説明になっていました。
卵を盗んだり脳を突然変異させたというあたりが、残酷だからそのまま訳さなかったのでしょうか。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
93話Bパート『とある日記(The Diary)』
ジェイクとTVが日記を読んでいるシーンで、破られる直前のページの筆跡を見てTVが「eの形が崩れてる」と言いますが、ここはオリジナルだと「eが全てcrab(カニ)になってる」と言っています。
この後のシーンで、ジェイクたちが、日記の持ち主であるBPの過去を勝手に想像して「彼女はカニの手になった」と言い出すくだりがあって、なんでカニの手なんだ?と思っていたんですが、つまり「eがカニになってる→手がカニになったんだ!」って連想だったんですね。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
99話Aパート『バブルガムの失脚(Hot Diggity Doom)』
・「バブルガムの失脚」、選挙で負けたバブルガムが怒ってウーの王様やトロントたちを「ロクデナシ」呼ばわりするシーンがありますが、これはオリジナルでは「dillweed」と言っています。dillweed(ディルウィード)とは卑劣な人間への罵倒語だそうです。
その後、キャンディ王国を出ていくバブルガムに対して、フィンが「これからどうするつもり?」と聞くシーンがあるのですが、オリジナルだとそういうことは言っていなくて、「ディルウィードが何かわからないんだけど…(I don't know what a dilweed is)」と聞いています。つまり、本来ここは「バブルガムが大変な目に遭ってるのに、いま聞くことかよそれ!!」って感じでフィンがボケてるシーンなんですね。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
102話Bパート『ウーの王のキノコ指令(Mama Said)』
日本語版で、巨大キノコの怪物が「私と酵母菌を混ぜ合わせて発酵させると、紅茶キノコという飲み物ができる」と喋るシーンがありますが、この説明は間違っているようです。
紅茶キノコは”キノコ”という名前だけど細菌であって、キノコのような真菌とは違うからだそうです。
では、英語版Blu-rayでこの箇所を確認してみると…巨大キノコのセリフは「マッシュルームティーと呼ばれることが多い発酵飲料であるコンブチャは、実際には細菌と酵母で作られている(the fermented drink,kombucha.is actually made with bacteria and yeast.)」…となっています。
あれ?英語版はちゃんと正しいことを言ってるじゃん…?
※海外で「コンブチャ(kombucha)」というのは、昆布のお茶ではなく、「紅茶キノコ」のことを指します
実はこの回は、この紅茶キノコについての説明が間違っていたので、放送後にセリフを変更して音声を収録し直してるそうなんですね。
つまり、おそらく日本語吹き替え版を作成する際に使用した英語台本が初期バージョンだったため、日本語吹き替え版は紅茶キノコの説明が間違ったままになってしまっているようです。
109話Bパート『ビーモの成長(The More You Moe, The Moe You Know(PartⅡ))』
・エイモを倒した後で、モのロボットから「ビーモには、モォ亡き後のリーダーになって欲しい」と言われたビーモが、「ビーモには無理。だってまだ子供だし。もしかしたらその逆で大人になり過ぎたかも。しばらく1人にさせて…」と返すシーンがあります。
日本版では拾っていないのですが、オリジナルだと「しばらく1人にさせて」の前に「誰かを殺してしまったと思う(I think i just killed someone)」というセリフがありました。
許しがたい敵とはいえ、同類であるエイモを手にかけてしまったことをビーモが重く受け止めていることが伝わってくるセリフであり、最終回で、ビーモがエイモの残骸を回収していたのもわかる気がします…。
印象的なセリフなのですが、日本語吹き替え版だとこういう「殺す」系の発言はやっぱりNGであるようです。
104話Aパート『ビーモはカウボーイ(Angel Face)』
ビーモが作った「フレッシュサンドイッチ」は、原語だとSpecial sentient(特別な知覚を持った)サンドイッチで、つまり、じつはこのサンドイッチは感覚器官があって生きているようです。
また、食べたジェイクの「超フレッシュだわ」という感想も、原語だと「生きてる味がする(it tastes alive)」。
生きているサンドイッチを踊り食いするというのがアウトだったらしく、日本語版ではこのニュアンスはカットされたようです…。
116話Aパート『剣のフィン(I Am a Sword)』
AT115話「剣のフィン」、吹き替え版では盗賊プリンセスが「あたしは生まれつき病気持ちで、父親にも母親にもキスしてもらえなかった」と身上を語りますが、オリジナルだと「自分は生まれつき狂犬病で、そして両親は自分を愛してくれなかった。なぜなら両親ともに伝染性単核球症(mono)だったから」ということを言っています。
伝染性単核球症は、唾液を介して感染するので別名「キス病」というそうで、「両親にキスしてもらえなかった」という日本語版の訳は、なるほどという感じです。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
また、最後のほうで吹き替え版ではビーモが「フィンはなんでこんな目に遭ったわけ?」と尋ねると、ジェイクは「世の中ってのはヘンテコでな、妙なことをするやつもいるってことよ」と答え、ビーモはさらに「ジェイクが言ってるのは、悪い奴はなんでか知らないけど悪いやつで、それが現実だってこと?」と言いますが、オリジナルとは会話の意味が結構違います。
まずオリジナルではジェイクのセリフは「BMO,it's a wooly bully world.people crazy always.」で「世の中ってのはウーリー・ブリーで、人々はいつも狂ってんだ」と言っています。「ウーリーブリ―」とは要するに意味不明な言葉(直訳したら『毛むくじゃらのいじめっ子』)なので、ここは「ヘンテコ」というニュアンスが合ってるのだと思います。
ただ、それに続くビーモのセリフは本来「you mean some people are just pure city sidewalk boom-boom from a rat donk and that's all there is to it?」で…つまり「ジェイクが言いたいのは、ある種の人々は清潔な都市の歩道にウンチする阿呆なネズミで、それが全てだってこと?」みたいな感じでしょうか。ジェイクの返答を聞いてビーモがヘンな例え話をする、というのがポイントなので、吹き替え版だとその面白さがあまり出てない気はします。
118話Aパート『お話パンケーキ(Five Short Tables)』
5つの短い物語が示されて、最後に共通するテーマはなんだったのかを問うという「キューバー回」を、キューバーじゃなくてアイスキングがやっているのがこのエピソードなのですが、終盤のセリフの意味が吹き替え版とオリジナル版とでだいぶ違います。
吹き替え版だと、アイスキングは「フィオナとケイクは朝食のテーブルにいた。ガムボールは周期表を調べておった。フレイムプリンスは本に火をつけてしまいおった。紫のヘンテコなヤツは咳の薬を飲みおった。アイスクイーンは結局フィオナとケイクに負けてしまいおった。誰かさんの真似をして聞いてはみたが、テーマなどなさそうじゃの。そうじゃ、テーマがないのがテーマなんじゃ」と言って、今回は秘密のテーマなど無いという結論でまとめてしまいます。
ところが、オリジナル版だとアイスキングの言ってることは違っていて、ちゃんとテーマが何なのか語っています。
オリジナル版だとアイスキングは「フィオナとケーキは朝食をとって(at the breakfast table)いた。ガムボールは周期表(periodic table)を調べていた。フレイムプリンスは目次(table of contents)に火をつけた。紫色のやつ(ランピー)は...大さじ(tablespoon)1杯のシロップを飲んでいた。そしてアイスクイーンも...テーブル的なことをしたはずじゃ、たぶん…」てなことを言っていて、つまりそれぞれのエピソードで登場人物が「テーブル(table)」という言葉を使っているのが共通するテーマなんだよ、ということだったんですね(※アイスクイーンは「今そのことは保留にしないか」という意味で「Why don't we table this for now」と言ってるシーンがあります)。
で、吹き替え版でアイスキングが「テーマなどなさそうじゃの。そうじゃ、テーマがないのがテーマなんじゃ」と言っている部分は、オリジナル版だと「これらは普通の物語とは違う。短いんじゃ。こう呼ぼう...グレーブル...いや...テーブルスじゃ!(They're not like regular stories. They're shorter. I'll call them...grabl-- No -- tables!)」と言っているセリフでした(吹き替え版のセリフには反映されていないのですが、キューバーがホログラムピラミッドを使って見せてくる短い物語は「グレイブル(Grayble)」と呼ばれているという設定があります。グレイブルという言葉なんて知らないはずのアイスキングが、偶然その言葉を思いついてしまう、ってギャグなんですね)。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
それでラスト、一連のアイスキングの様子を見ていたキューバーは、吹き替え版だと「やれやれ、ひどい落ちだ。これじゃ私の評判まで落ちてしまうぞ」と悲しそうに呟いて終わりでしたが、本来のオリジナル版では「もう二度と、テーブルを前と同じように見ることはできないな…(I'll never look at tables the same way again.)」と言っていました。アイスキングが「短い物語のことをtablesと呼ぼう」と「テーブル」に勝手に新しい意味を付け加えたりしたから、キューバーは「もうテーブルを前と同じようには見られないな」…と感想を述べたわけです。
以上のように、本来はテーマの存在がちゃんと最後に明かされていたのを、吹き替え版ではそのあたりのニュアンスをばっさりカットして、「あると思わせた秘密のテーマが実は無くて、その宙ぶらりんな結論にキューバーがひどいオチだとツッコむ」という脱力系の笑いに変えています。
本来の内容に反して「テーマなんて無い」ということにしてしまうのはかなり大胆な変更じゃないかと思いますが、この回は、テーマ部分が「『table』という単語とそれを使った熟語」という、英語固有の表現に基づくネタなので、日本語の会話には置き換えることが難しく、セリフの意味を大きく変えてしまったのも理解できることではあります。つくづく翻訳の難しさを感じます。
118話Bパート『父と娘のカード・ウォーズ(Daddy-Daughter Card Wars)』
・エピソードの最初のほうで、チャーリーがビーモのことをタロットカードで占っており、そこでチャーリーは「ビーモは男だって出てる」 という結果を告げたあとで 「ウソだよ。これは良い子って意味」とビーモに言うシーンがありますが、これはこの後のチャーリーのセリフを踏まえるとさらなる意図が見えてきます。
ビーモが海に飛び込んだ時、吹き替え版だとチャーリーは 「ビーモが沈んじゃったよ!」と言うのですが、じつはオリジナルだとチャーリーは「彼女は、石みたいに沈んでった!(She sunk like a stone!)」と言っており、ビーモに女性を指す三人称「she」が使われています。
つまり、ビーモが男というのを「嘘だよ(kidding)」と否定して、さらにビーモを「彼女(she)」と呼んでいるあたり、チャーリーはどうやらビーモのことを女の子だとみなしているようです。
元よりビーモはロボットであり決まった性別が無いユニセックスなキャラクターですが、こうして女性の代名詞で呼ばれているのは珍しいシーンだと思います。
120話Aパート『起動前(Preboot)』
ATには「ラード」という謎の生き物がいますが、なかでも「シーラード」はよく出てきます。一見すると、無害でどんくさそうな正体不明の生物ですが、意外な一面があるようです。
「起動前」で、「オオカミラード」という合成生物が登場するのですが、吹き替え版ではティファニーから「シーラードのタフなところと、オオカミの残酷なところを両方持ってる」と説明されます。
実はこの説明はオリジナルでは違っていて、本来は「シーラードの「高い耐久性」とシーラードの「血に飢えた残忍さ」を組み合わせている(They got the high endurance of a sea lard combined with the bloodthirsty killer instincts of a sea lard)」と言っています。
つまり「オオカミじゃなくてシーラードのほうが残忍なのかよ!」って見てる側がツッコんでしまう説明だったんですね。
というわけで、シーラードって、ああ見えて実は残酷な性格らしい…。
136話Bパート『ボニベルの家族(Bonnibel Bubblegum)』
ガムボルドが、バブルガムに「お礼に贈り物を用意しておいた。じつは今、外にあるんだ」と言う場面がありますが、ここはオリジナルだと、「外にあるんだ」の後に「プリンセス」と呼びかけています。
私はこれ結構重要な発言だと思っていて…つまりバブルガムを一番最初にプリンセスと呼んだのはガムボルドなんですね。
キャンディ王国の構想も、自分はプリンセスだという自認も、ガムボルドがバブルガムに与えたものだったわけです。
些細な省略のようですが、日本版で拾われてないのはちょっと残念。
141話Aパート『冒険は続いていく 前編(Come Along with Me part1)』
いよいよバブルガムの連合軍とガムボルド率いるヴィラン軍が戦争するという時、ガムボルドがレモンを取り出してビームによって破壊し、バブルガムたちを威嚇するシーンがあります。
それを目にしたレモングラブがメッセージを紙に書き、吹き替え版だとそれをPBが読んで「イチ抜けた?」って反応するのですが、書かれたメッセージを見ると「UN-MAKE ME」と書いてあります。
(C)Cartoon Network.A TimeWarner Company.
つまり、本来は「イチ抜けた」ではなく、「ボクの存在を消し去ってくれ!」とかそんな意味のことを言っているようです。
ガムボルドのパフォーマンスを目にして、レモンは破壊される運命と絶望したレモングラブが、「こんな目に遭うなら生み出さないで欲しかった・いっそ消してくれ!」とPBに訴えている…という感じなんでしょうか。
やたら深刻なことをレモングラブが真顔で訴えているところにかなり面白味があるシーンなのですが、自身の存在を否定しようとするのは深刻過ぎるゆえか、日本語版では単にレモングラブがビビッて戦線離脱しようとするというギャグにしたようです。