異世界転生したけどチートなかった   作:名枕(ナマクラ)

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第二十九話

 

 考えなしに俺に負担を強いる案を投げてきたアルに一発入れた後、結局それができたなら一番いいという結論に達して過労死する未来が視えた俺は、内心荒れながらも生還するためにも意識を切り替えて職務に全うする事にした。

 

 不幸中の幸いというべきか、エルフの痕跡……正確に言えば足跡は案外あっさりと見つけることができた。

 

 というのも、痕跡を探す最中テルの足跡が俺達の足跡よりも少し違っていることに気付き、テルに確認を取るとエルフの中では一般的な靴であることが判明したからだ。

 その特徴的な足跡を念頭に置いて見渡すと、探していた特徴を持った、しかしテルの物とはサイズの違う足跡をいくつか見つけることができた。そこからは街の方向を考えつつ足跡を辿っていけば時間はかかってもエルフの集落にたどり着くことができるだろう。

 

 さすがは俺。よくやった俺。

 

「足跡の違い所か足跡自体ちゃんと見えないんですけど……さすがはお師匠ですね」

「ふふふ、すごいだろ」

「なんでアルが誇らしげなんだよ」

 

 なお足跡を辿るのに神経を集中させているのであまり会話に参加できない。悲しい。

 

 だが足跡を探して追跡しながら、周囲の警戒も怠らず、目についた森の幸を採集しつつ、狩れそうな獲物を狩ったりしていたので俺にはそういった余裕がなかったのだ。

 やることが……やることが多い……! 

 さらには魔物と遭遇すればアルたちだけに任せるのも悪いので一緒に対応したりして、本当にやることが多かった。

 

 なので休憩の時は周囲の警戒や食事の準備をアルたちに任せてだらけ切っていた。正直ここで休まないと集中力が持たないのでこれくらいは許してほしい。

 

 そして休憩時などにテルからエルフの慣習や価値観、また彼らと交流するにあたっての注意点などを教えてもらったりした。

 

 その中でも興味深かった話がエルフの信仰についてである。

 

「エルフの集落では龍神を信仰しているんですね」

 

 龍神か。自然や天災なんかを神格化した、地方においてはいろんなパターンで聞く信仰だ。神樹様なんて呼んでいたからてっきりエルフは世界樹を信仰の対象にしていると思っていたのだが……と思っていたら、逆にテルが不思議そうにクリスを見ていた。どうかしたのだろうか? 

 

「……なんか意外だな。森の外じゃクリスが聖女として所属してる星光教会ってのは信仰の最大手なんだろ? 他の神なんて認めない、みたいな反応になると思ってたんだけど」

「ひどい偏見ですね。言っておきますけど教会は他の信仰に対してものすごく寛容ですよ」

「はぁ? さすがにそれはないだろ」

 

 いや、これ本当の話である。教会は他宗教に対してだいぶ甘々なのだ。

 

 もちろん宗派にもよるのだが、教会こと星光教会の聖書にある教えは『彼の方』の言葉をもとにしたものであって、神の言葉ではない。というかそもそも()()()()()()()()()のだ。

 

「は? いや、その『彼の方』とやらが神なんじゃないのか?」

「そういう意見もあるんですが、聖書や教会に残る文献では全く()()()()()()()()んです」

 

 もちろん宗派によって『彼の方』を主神と解釈するものも少なくないが、原典ともいえる聖書には『彼の方』が神であると明記された記述は存在しない。

 そして明確な神がいない以上、他に神が存在しても矛盾にならないので、他の神を信仰していてもそれが布教の妨げにならない。

 

 もっと端的にいえば、教会の信徒でありながら他の宗教の神を信じている、というパターンも少なからず存在するのだ。

 

「…………ちょっと待ってくれ。理解が追い付かない」

 

 気持ちはわかるが、待たずに結論を言ってしまおう。

【星光教会】とは、他の宗教の『排斥』ではなく『許容』によってその信仰地域を広げ、最大手の宗教となった稀有な存在なのだ。

 

「………………それ、本当に宗教か……?」

 

 正直、俺も星光教が宗教なのかと問われると疑問である。何だったら聖書も要約すると『人に迷惑をかけてはいけません』みたいな道徳の教科書みたいな内容だからな。俺が教会を信仰する気になれない理由の一つである。

 

 だが、だからこそ他宗教との兼ね合いもつけやすく、地方としての教育にも利用しやすいので勢力拡大の一助となった……のだと思う。当時の地方としても教育や権力闘争などに利用するために吸収しようとしたら気付いた時には逆に吸収されていた、なんてパターンも多いのではないだろうか? 

困難を乗り越えて星々のような栄光へ(Per aspera ad astra)』という第一教義も、別に困難な道を選び続けろ的な意味ではなくて、『今日よりも良い明日を目指しましょう』くらいのニュアンスで、そこまで厳しいものでもない。

 そもそもとして教会の発足時期が先史文明崩壊後の、団結もクソもない生存競争激しい荒廃しきった世紀末状態だったから、こういう希望の未来を目指そうみたいな考えもあったらしい。かつての困難な日々(アスペラ)を乗り越えた結果が今の平和な日常(アストラ)だなんて説もある。

 

「外の宗教、わけがわからない……」

 

 安心しろ。俺もわけがわからない。なんでこんなに広がっているのかいまいち理解できない。箇条書きマジックに頼っても違和感が仕事しまくりである。

 

 まあ森の外でも教会による信仰の押売りなんかもないのでわけがわからなくても生きていけるさ。

 

「そうそう、俺だってよくわかってないからな」

 

 アルのわかってない部分は多分違ってるぞ。何故知らないのか教会の息子。

 

「いやいやお前が知りすぎてるだけだって」

 

 それはない。俺はそれ程大層なものではない。

 

「ちなみに龍神って?」

 

 さっきも言ったが大抵は自然現象が神格化された存在だな。特に川とかの水に関わるものが龍と同一視されて肥沃な土地を授けてくれる善神の一面と洪水など災害を起こす悪神の一面も持つ上位存在位であると考えられて、土地整備が進んでいない地方や田舎であるほどにこの龍神信仰が盛んだったりする。

 なおさすがに龍神の実在は確認されていない。かつては実際に龍を見たなんて話もあったらしいがそれらも信憑性がない眉唾物だ。ワイバーンやらの魔物を龍と見間違えた、なんて話もよくある話だ。

 また実際にそういった魔物を龍と崇めているパターンもなくはないらしい。

 

「ほら、こいつなんでも知ってるだろ?」

 

 これくらいググペディアで調べたら出てくる程度の常識だろう? 

 

「というか信徒の前でその存在を否定するのはどうかと……」

 

 でもテルはそんなに信仰しているわけじゃないだろう? 

 

「まあ確かに僕は信心深い方じゃない。他のエルフの前では口にしない方がいいのは確かだけどな。

 

 

 

 

 ────でも()()()()()()ぞ」

 

 

 

 

 …………意外だな。信じているとかならともかくテルが断言するとは。

 

「詳しくは言えない。けど、少なくとも完全な幻想の存在ってわけじゃないのは確かだ」

 

 ふーん、そうなのか。そうなのな……そうかも。

 

「…………疑わないのか? さっきまで完全否定してたくせに」

 

 いやまだ懐疑的なのは事実なのだが、悪魔の証明って言葉があってだな。存在しないものを存在しないと証明するのは極めて困難なわけだ。

 それならもしかしたらくらいに思っていた方が心構えとしてはいいと思うわけだ。

 

「というか龍なんて本当にいるんなら見てみたいよな! 考えただけでワクワクしてきた~! 今度また探そうぜ!」

 

 然り然り。こういう浪漫はアルも俺も嫌いじゃない。

 

「アルの方は嫌いじゃないなんてレベルじゃない気がするけど……」

「わ、私にはよくわからない感覚ですね……」

 

 それに万が一龍の存在を証明できたらググペディアにすら名を刻めると思えばさらにワクワクが湧き上がってこないか? 

 

「いや。それはわからないんだが。そもそもググペディアってのが何なのか知らないんだが」

 

 えっ? ご存知でない? あの『叡智の泉』ググペディアだぞ? 

 

「知らん。で、結局ググペディアって何なんだ?」

「名前は魔導都市で聞いたことがあるような……?」

「ようは魔導都市での『森の三賢者』みたいなものか?」

 

 その説明をする前に今の銀河の状況を……ちょっと待て。それよりもテルから何か気になるワードが出てきたんだが。何、その『森の三賢者』って? 

 

「いやそれよりもググペディアを……」

「エルフの中で特別視している生物のことだよ。森やエルフにとって益を齎す存在として信仰、というか言い伝えられている。お前らも森で出会ったら対応に気を付けろよ」

 

 ふむ、絶滅危惧種とかではなく神の使徒的なサムシングかな? あるいは益獣というやつか。

 

「いやだからググ……」

「まずは心技体を兼ね備えた優しき森の守護者『エルフゴリラ』だな」

 

 ゴリラ! なるほど、確かに力も知能も高いイメージがある。エルフって付いてるのはエルフにとって特別だからか? でもゴリラを崇めるエルフって想像し辛いな。

 

「ググペ……」

「次が僕たちに知恵を授ける空飛ぶ森の知恵袋『エル・フクロウ』」

 

 フクロウ! なるほど、森の狩人なんていう異名もあるから同じく森の狩猟者であるエルフからも畏敬の念を持たれているのか。でも知恵袋ってどういうこと? 

 

「グ……」

「最後にその内に秘める影響力たるや食べる可能性の塊『D・シャーケ』」

 

 シャー……待って??? 最後だけジャンルがおかしい。

 

「さらに注意しないといけないのがこの『森の三賢者』の亜種である『闇落ち個体』で……」

 

 待って?????? 

 

 

 

 ◆

 

 

 そんなエルフとのカルチャーショックに驚きながらもエルフの痕跡を追いかけ、途中テルの見覚えのある場所まで辿り着くことに成功。そこからは痕跡だけでなくテルの記憶も頼りにしながら進んでいき、ようやくもうすぐ集落という所まできたらしい。痕跡については少し気になった所もあるのだが……まあ大した事ではないので置いとくとしよう。

 

 この長かった旅路の中でテルのことについてもよく知ることができた。

 肉体労働は苦手といっていたテルだが、その肉体的貧弱さと比べると頭脳面ではとても優秀だと感じた。少なくとも今まで閉鎖されたコミュニティの中で過ごしていたとは思えないほどに柔軟な考え方を持っていて、なおかつその知識量もすさまじく、かつ貪欲に新たな知識を得ようとする姿勢も見れた。

 

 魔導都市で研究したいと言っていたのは伊達ではないのが素人目からしても理解できた。

 

 ただその旺盛な知識欲と少年特有の好奇心が相まってアルに強く影響されている気もする。アルが冒険や遺跡探索の話をしている時のテルの食いつき具合が半端ない。ついてくるならついてくるで頭脳役やらストッパー役になってくれそうで心強いのでいいのだが、それだとテルの当初の目的が果たせなくなる気がするのだがどうするのだろうか? 

 

 それに対してテルの姉についてはあまりわからなかった。

 彼女は幼いころに『呪い』に体を蝕まれ、ダークエルフになることを余儀なくされたそうだ。

 とはいえ『呪い』に蝕まれているといっても彼女は成人の試練も難なくクリアしてすでにれっきとした成人となり、今ではダークエルフとしての役目を果たしているのだとか。

 その『呪い』とやらが体にどれほどの負担になっているのかはわからないが、テルの様子を見る限りだと今すぐどうこうなるというわけでもなさそうだ。

 

 ……そもそもダークエルフの役目ってなんぞや? と、テルに尋ねてみると……

 

「簡単に言えば禁足地での活動さ。それ以上は知らない」

 

 ……とだけ返ってきた。本当に知っていることがそれだけなのかはともかくとして、少なくともあまり公言していいような事ではないようだ。

 そんな感じでテルが教えてくれないのでテル姉に関しては想像で補うしかなかった。

 呪いに蝕まれてるってことだし、きっと病弱なんだろう。それを弟に悟られまいと気丈に振る舞うもそれが逆に弟に気を遣わせることになる……うん、物語としてはありそう。

 まあ集落についたら教えてもらえばいいだろう。

 

「うん……ここまで来たら間違いない。集落までもう少しだ」

「ようやくか……長かったな」

「これでもまだ街からは近い方なんだけどな」

「確か定期的に集落を移動するんでしたっけ」

「森の管理のためとはいえ、面倒だよな」

「必要なことだから仕方ないんだよ」

 

 テルから事前に話に聞いていたのだが、エルフの集落はある程度のスパンを挟んで定期的に移動するらしい。

 

 エルフの役目として『森の管理』があり、この広大な森全てを見て回るのに拠点が同じ場所では遠方地での十全たる活動が難しくなり、かといって森の中でいくつもの集落を維持し続けるのも厳しい。

 そのため一定期間で集落全体で拠点移動を繰り返す。

 もちろん遠方地にも人手を派遣するが、集落周辺を重点的に管理していくのだそうだ。

 遊牧民とか移牧民なんかが思い浮かんだが、牧畜はしないらしいのでこれらとは違う気がする。こういう形態をなんと呼べばいいのだろうか……今度ググペディアで調べてみよう。

 

 ……というか、これで着いたけど集落移動してました、なんてことはないだろうか……? 

 

「次の移動はまだ何年か先だからさすがにその心配はないさ」

 

 ならよかった。まあ到着したらしたでそこからエルフとの交渉が始まるわけなのだが。

 

「まあテルもいるしそこまで邪険にはされないだろ……」

 

 

 

 

「────止まれ!」

 

 

 

 

 そんなアルの楽観的なセリフを遮るように響き渡ったその声とともに、俺達の足元に一本の矢が突き刺さった。

 

「えっ……!?」

「なんだ……!?」

「しまった……! 囲まれてるぞ!」

 

 アルの言う通り、気付けば周囲の木々の上からこちらに目掛けて弓を引いている集団に囲まれていた。

 服装からしても、地理から考えても、おそらくエルフたちだろう。うーむ……テルとあまりに友好的に過ごしていたからかちょっと気を緩めすぎたか。咄嗟に鉈を引き抜いて構えられてはいるが、構えるなら弓矢の方がよかったか……? いやさほど変わらないか。

 

 その中から一人、彼らのリーダー格と思わしき新緑色の髪の女が弓を引いたままこちらへと歩んできた。

 その鋭い視線はぶれることなくこちらを見据え、その矢先はブレることなくこちらに向けられていた。

 

「姉さん! どうして……!?」

 

 ……姉さん? 

 

「姉さんって……え!? テルのお姉さん!?」

「えっ、聞いていたよりもだいぶ元気そう……!?」

「テル、ひとまずお前も動くなよ。今は非常事態だ」

 

 悲報、テルの姉は病弱設定など欠片も見当たらない女であった。体を蝕む呪いどこ行った。

 

「さて、来訪者たちよ。危害を加えられたくなくば、まずは武器を捨てて我らの指示に従え。話はそれからだ」

 

 

 さて……状況からしてどう動くべきか、悩みどころだな。

 

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