異世界転生したけどチートなかった   作:名枕(ナマクラ)

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第二十八話

 

 

 かつて『魔の森』なんて言われてた大森林において現在進行形で迷っていることが判明した俺たちは現状の整理と今後の方針を決めるために一旦その場で会議を開くことにした。

 

 さて、まずテルに尋ねよう。なぜ迷っているのか、言い訳を聞こうか。

 

「…………狩りとか肉体労働が苦手って言ったよな。だから僕はもっぱら集落から出ない生活を送ってたんだよ」

「つまり……?」

「エルフ=森に詳しいってわけじゃないってことだよ」

 

 ふむ、よく考えれば当たり前の話だな。人数がいるのなら役割分担するのは当然のことで拠点から出ない人間がいても何ら不思議な話ではない。

 

 では森の先導役に不安を感じなかったのか? 事前にそのことを俺たちと相談することは考えなかったのか? 

 

「不安がなかったといえば嘘になるけど、それでも何とかできると思ってたんだよ……集落から出ない生活って言っても全くというわけじゃなかったからな。というかこの中じゃ僕以外この森に入ったことすらないんだから僕が先導役をするしかないだろ」

 

 まあ道理ではあるが……

 

「それでも相談はしてほしかったな。そのことを知ってたらこいつだってもっと早く口に出してただろうし、今回みたいなもしもの場合の対応ももっと変えられたかもしれない」

「それは……確かにそうだけど」

「俺たちは仲間だ。できることできないことはあるだろうけどそれを共有する事が困難を打破する大事な一歩になると思う。だから」

「…………わかったよ」

 

 テルとて後悔や反省をしてないわけではないのだ。そこを責め続ける必要はないし、今はそんな暇もないわけだし、過去の反省もそこそこに大事な話をしよう。

「今一番の問題はここからどうするか……ですよね」

「まあこのままじゃ反省も活かせないもんな」

 

 現状を鑑みて俺が提案できる選択肢は二つだ。

 

 遭難の危険を押して先に進むか、街に戻って仕切りなおすか。この二つだ。

 

「…………ん?」

「…………ふぇ?」

「…………は?」

 

 俺のあげた選択肢に、なぜか三人から疑問の声が上がった。うん? 何かおかしなところでもあっただろうか? 

 

「……あの、街まで戻れるんですか?」

 

 ……? そりゃ来た道を辿れば戻るのは簡単だろう。

 

「お前、今まで来た道がわかるのか?」

 

 ……? そりゃわかるだろう。時間が経ってるとかならともかくさっきそこを歩いてきたんだから。

 

「そういえばそもそもなんでお前同じ所回ってるってわかったんだ?」

 

 ……? そりゃわかるだろう。言葉の通り、何回も同じ所ぐるぐる歩き回ってたんだから。

 

「いや待てよ! なんでお前初見の場所で道がわかるんだよ!?」

 

 ……? さっき通ったばかりの道くらいはわかるだろう。

 さすがに何日も経ってたら危ういが、今なら足跡だって残ってる。雨とかで消える前ならそれを辿っていけば元いた場所に戻れるのは確定的に明らかでは? 

 

「足跡……残ってます?」

「言われて見たら薄っすら……? いや辿れるかこれ?」

 

 余裕余裕。これでもガキの頃から狩りで山の中を駆けずり回っていたし、アルとの冒険の中でも鍛えられているから。そういうのには慣れている。

 

 だから問題は、行くか戻るかだ。

 

 俺たちに時間はない。だがそれは絶対に今無理しないといけないほどでもない。

 命を大事にして街に戻るというのも十二分にありな選択肢だ。むしろこっちが安牌ともいえる。

 

 あと一応言っておくが、今なら戻れる自信があるがこの先はわからない。もっと深くまで行って大丈夫という保証はないし、何なら雨に降られたり野生動物やら魔物やらに襲われたりとかの不確定要素も出てくる。それらを考慮に入れると戻るのなら今しかないだろう。ちなみにだが俺は戻るに一票である。

 

「戻れるんだったらテルの見覚えのあるところまで戻ってそこから仕切り直しとかでもいいんじゃないか?」

 

 それができるんならそれもありだが、できそうか? 

 

「できるとは思うけど…………正直、自信はない。最初は迷わずいけると思ってたのにこの様だし……」

 

 ふむ、正直でよろしい。甘く見積もって五分五分くらいの確率ということだな。

 

「でもここで引き返しても結局振り出しに戻るだけだろ。それに俺たちはもともと許可証をもらえたら案内人がいなくても入るつもりだったし、これくらいならまだ想定内じゃないか?」

 

 ふむ……確かに最悪俺たちだけで探索するつもりだったからそういう意味では想定内の状況なのか……? 

 いや、そうやって論点をずらして俺を説得するつもりだな騙されんぞ! 

 

「いや騙すつもりはないんだけど……」

「というか僕が言うのもなんだけどお前ら思った以上に考えなしじゃないか……」

 

 やめろテル。その言葉は俺に効く。

 

「あ、あの、試練というなら他のエルフの方がテルの様子を見ていたりはしないんですか?」

 

 ふむ……もしそういう監視役がいるのなら、テルの試練的にはよろしくはないがエルフの集落まで案内してもらえるかもしれない。セーフティがあると分かれば安心感が違ってくる。

 

「いやないと思う。この試練は言ってみれば集落に戻ってこれたら合格でそれ以外は暫定不合格ってみなされるからな。期限も特にないから試練を見張り続けられるほど僕らエルフ族も人員に余裕はない」

「えっ? 基本放置なのか?」

「というか試練に期限ないんですか?」

 

 なんか思ってた試練の感じと違う気がする……

 ちょっとエルフの試練について詳しく教えてもらってもいいだろうか? 

 

「詳しくって言ってもほとんど前に話した通りだぞ。試練を受ける子どもが大人に森の外まで連れていかれて、その後集落まで戻るだけだ」

「いつまでとかそういう制限時間とかはないのか?」

「ないよ。何だったら爺さんになって試練をクリアした人もいるらしいし」

「その試練って合格率はどのくらいなんですか?」

「言うほど低くはない。自信とか勝算があるやつが受けるから当然といえば当然だけど」

 

 うん? その言い方だと受けないやつもいるみたいに聞こえるが、この試練って絶対受けないといけないものじゃないのか? 

 

「違うな。試練は希望者しか受ける必要はない。体力とか戦闘に自信がない奴とかは受けなくてもいい。成人として認められなくても集落内で重要な仕事を担うことも少なくない」

 

 つまり爺さん婆さんになっても大人扱いされずに子ども扱いされる人もいるのか……プライドがズタボロになりそう。でもエルフ内で大人と子供の区分がそういうものだという常識が根付いているのならそこまでプライドは傷つかないのか……? 

 

「でも受けなくてもいいんならテルはなんで試練を受けたんだ? 別に成人してなくても問題はないんだろ?」

 

 プライドは結構大事な問題だと思うんだが……テルもなんだかんだプライド高そうな気もするし。

 

「……成人の試練を受けないとエルフは森の外には出れないんだ。試練を受けなくても村の重要な仕事を担えるけど、試練に受からなきゃ外と直接関わる仕事には携われない」

「えーっと……?」

 

 ゴッフの所で例えるなら、試練をクリアしてなければ、帳簿係の事務方の重要役職には就けても商会の外で仕入れだったり交渉事には携われないってことだな。もっといえば、どれだけ優秀でもトップであるゴッフの後継者にはなれない……みたいな感じだろうか。

 

「森の生活に不満があったわけじゃない。でも僕はどうしても外に出て、それでまた集落に戻ってこれるようになる必要があったんだ」

「なんか理由があるんだな?」

「聞いてもいいなら教えてもらってもいいですか?」

「…………別にいいけど。僕の姉がダークエルフなんだけど、それで……」

 

 ダークエルフ!! 実在したのか!? 果たして褐色肌銀髪巨乳なのかそこが重要……!! 

 

「ステイ」

 

 うぃ。…………ふぅ、続けてどうぞ。

 

「なんでこいつ急に興奮してんだ……!?」

「それは置いとこう。で、姉がダークエルフってどういうことだ? テルもダークエルフってことか?」

「いや違う。何で勘違いしてるのかわかんないけど、ダークエルフっていうのはある『呪い』をその身に受けたエルフが就く役職のことだぞ……ってそうか。お前らにとってこれは常識じゃないのか」

 

 何!? ダークエルフとは種族のことではないのか……!? 

 

「違うって言ってるだろ。ダークエルフは名誉ではあるけど同時に忌避されるお役目でもある。姉さんは気にしてないけど僕は気にするし『呪い』によって寿命が短くなる可能性だってある」

「名誉だけど忌避されるって、そんな役目というか仕事なんてあるのか?」

 

 普通にあるぞ。名誉かどうかは別として所謂ケガレみたいな概念なら多かれ少なかれどこの集落にも存在するだろう。

 

「ケガレ?」

 

 命、血、病あるいは死というモノは穢れているから人の生活から忌避されるべきものだという概念、考え方だ。

 例えば死体を取り扱う葬儀屋、死体の管理を行なう墓守、生き物を殺す狩人、病人や怪我人と接する医者なんかが代表的だな。

 これらの仕事は人が生活する上で絶対に必要なものではあるが、流血や命の死なんかが関わってくると人の本能的に忌避されることが多い。さらにそういったケガレに関わる人すらも接しているとケガレが染ると忌避される傾向もある。

 ま、実態は血や死体からの感染症やら本能的忌避感に尾鰭が盛大についたというだけなのだろうが……そんなことわからない時代から続いているとそれが常識やら伝統になって定着してしまうわけだ。

 

「一応言っておきますけど、教会ではそういう間違った観念は正すようにしていますよ」

 

 それでも地方の村落なんかだとそういう傾向はまだまだ強いらしい。外との交流が少ない村社会とかだとより顕著だ。

 俺たちの村でもそういった観点から命を奪う狩人である俺の家族が墓地の管理を手伝ったりしていた。まあそれでも隠れ里もかくやという村にしてはおかしいくらいにそういった偏見が少なかったのだが。

 

「そんなこともやってたんだなお前んとこ」

 

 ちなみに俺達の村での墓地の本格的な管理は神父、つまりアルの父親の管轄である…………何故知らないのだ教会の息子。

 まあそういったケガレの内容は地域によっても変わってくるわけだが……テルの口ぶりからするとダークエルフの『呪い』とやらはそういう抽象的なものではないようだ。

 

「外じゃそういう考え方もあるのか。獲物の命を奪うとか普通にあることだろうに」

「エルフ的にはあんまり共感は得ないみたいですね」

 

 話を聞いてる感じだとエルフって採集だけじゃなくてむしろ狩りももりもりするような狩猟種族っぽいからそれで忌避の対象になってたらほとんどが忌避の対象になってしまうんだろうなぁ。

 

「あの、それよりそのダークエルフの『呪い』に関しては何とかできる方策があるんですか?」

 

 たまに忘れるけどクリスって【浄化】の天恵持ちの聖女なんだよなぁ。

 

「ない。というより『呪い』を何とかして命を取り留めたらダークエルフって認定されるわけだけど。ただ森の外には最先端の技術や学問が集まる街があるって話を聞いた。そこなら僕が持つダークエルフの情報から解呪なり何らかの手段を生み出せる可能性があるんじゃないかと思ったんだ」

 

 最先端の技術や学問が集まる街……? あれれー? どこかで聞いたことあるような街だな……どこのことだろうなぁ? 

 

「いや、それ魔導都市のことじゃないか?」

「えっ!? お前ら知ってるのか!?」

「知っているというかなんというか……」

 

 俺たちそこからここに来たんだよね……って話。

 

「ええ!? それ先に言えよ!?」

 

 知らんがな。まさかテルの目的が魔導都市に行くこと、というか留学だとは誰も思わんだろ。

 

「というかそれがすぐに集落に戻らないといけない理由にはならなくないか? 何だったら先に魔導都市向かってもよかったんじゃないか?」

「何の後ろ盾もない裸一貫のどこの誰ともしれない状態と一族が色々と支援してくれる状態、どっちの方が魔導都市に行きやすいか明白じゃないか」

「それに魔導都市で研究ができるようになった後にもテルくんの研究のためにエルフとやり取りをする必要も出てくるかもしれませんしね」

 

 あとテルが知っているかはわからないが、王国と公国の関係悪化の関係で現状魔導都市と公国を行き来する船はほとんどない。これから王国との関係が回復していくと仮定しても交易便が増えるのには時間がかかるだろう。

 つまりすぐにテルが魔導都市へ向かうことはできなかったというわけだ。

 

「あと記憶が薄れないうちに試練をクリアしておきたかったんだ……この様だけどな」

 

 ああ……比較的時間の経っていない今でこれなら、さらに時間置いたらもう終わりだもんな。急ぐのも納得である。

 

「そうだ。だから戻った所で僕には後がない。仕切り直した所で状況は改善されない。だから僕は進むしかないんだ……!」

 

 そう、テルにとってはこのまま戻った所で状況が好転することはない。時間が経てば経つほどに記憶は薄れていき、試練の合格率は下がっていく。

 テルが目標を達成するためにはここで引くことはできないのだ。

 

「無茶を言ってるのは理解してる。けどそれでも頼む。このまま僕と一緒に集落まで来てくれ。お願いだ」

 

 そういってテルは俺達に対して頭を下げた。現状俺達以外に彼が頼れるものがない以上、そうするしかないのは理解できる。

 その覚悟も理解できる一方で、テルも含めた俺達の身の安全のことを考えると、テルに対して気軽に返答する事ができなかった。おそらくクリスもそうだったのだろう。

 

「わかった。行こう」

 

 だがアルは違った。俺達が黙り込んでいる間もなく、アルの口からするっとそんな言葉が出てきていた。

 

 ……ちょっと待てアル、安請け合いするのはやめろ。

 

「安請け合いをやめろって言うならそもそも酒場でテルの護衛を引き受けたこと自体そうだっただろ。それに護衛するって依頼受けた時点で責任は最後まで取らないとダメだし、そもそも働いて金を貯めてたテルを誘ったのは俺たちだ。違うか?」

 

 ぐ、ぬう……まあテルが立てていた計画を俺達の都合で早めたというのは確かだが……提案も俺達からだったし……アルが珍しくすべて正論で殴ってくる……

 

「それになにより、友だちが困ってるんだ。助けたいと思うのは当たり前じゃないか」

 

 ……………………お前、それが本音だろ。前の正論、俺を黙らせるための言い訳じゃないか。

 

「そんなことないぜ。で、どうする?」

 

 ……クリスはどう思う? 進むべきか、戻るべきか。

 

「わ、私ですか? 私は…………進むべきだと思います。テルのこともそうですけど、多分森から出たら公国側から私たちへの干渉が大きくなって身動きがとりにくくなる気がしますし……」

 

 あー……そっちもあったか……ともかくこれで意見としては3対1だな。なら仕方ない。

 

「……いいのか?」

 

 パーティ内での多数決だ。荒唐無稽なことならともかくそこで異を唱えるつもりはない。それに、俺も別に絶対に進みたくないわけじゃないしな。

 それで、何か方策はあるのか? 

 

「とりあえずテルが見覚えのある所まで少し引き返しましょう。さすがに迷ったままで進むのは危険ですし」

「ふふふ、そこからは俺に考えがある」

 

 クリスの提案はともかく、まさかのアルからの発言に疑いの視線を向けてしまう。ええー? 本当ー? それで何も考えてなかったらドロップキック叩き込むからなー。

 

「本当だって。とりあえず戻ろうぜ」

 

 そうして自信満々なアルを引き連れ俺先導で少し引き返したところでテルの見覚えのある所まで戻ってこれた。幸いというべきか思っていたよりも早くテルの記憶と一致したのでよかったのだが、ここからどうするべきか、アルの考えを聞くことにした。

 

 

 

「────ここからエルフの痕跡をお前が探して辿れば万事解決だ!」

 

 

 

 ────にっこり。

 

 

 

 アルにドロップキックが炸裂した。

 

 

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