異世界転生したけどチートなかった   作:名枕(ナマクラ)

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第二十一話

 あ~~、ブラッドバスの中あったかいなり~~……あ、いや寒くなってきた……やばい、血が、血が足りない……なRTAはーじまーるよー! 

 

 今回はシド工房で発生した血塗れ死体の真相を解明していきます。第一発見者が死体を見つけた所でカウントスタート、真相解明と同時にカウンターストップです。

 

 まずは状況を確認していきましょう。夜が明けたシド工房において一人の男が血だまりの中に沈んでいました。出血量や男の状態から見ても死んでいる事が推測できます。

 ちなみに男がいた部屋は個室ではなく共用スペースで、鍵もかけられていませんでした。

 

 つまり現場は密室状態ではなく、誰もが出入りできたというわけです。

 

 これは……元々工房にいたはずのモーティスが怪しいですねー。何せヤツは胡散臭さの擬人化とも言える存在で、また解釈違いのウス異本を悪びれもなく報酬として渡してくるようなクソ野郎です。何をやってもおかしくはないでしょう。仮ですが最重要容疑者として認識しておきましょう。

 というかビッチシスター物とか何を考えているのか……シスターは貞淑で一途でだからこそ乱れるとその艶やかさが際立つというのが至高だというのに、あれじゃただシスターの格好をしたビッチでしかないだろうがケンカ売ってんのかあの爺!! 

 

 

 うん……? あっ!? 死体と思われる物体がわずかに動きました! まだ息があります! どう見ても死体なのに生きている……こんな事出来る人物はそうはいません。これは犯人に繋がる重要な証拠になりそうですね。

 現在シド工房にいるのは第一発見者であるアルとクリスの二名だけ。あとは血だまりの中の死体だけですね。先述したようにモーティスは現在この工房にはいません。あ、死体はまだ生きているので正確には三人だけですね。

 え? じゃあ状況を事細かく説明しているお前はどこにいるんだって? 

 

 私はそこの血だまりの中にいます。

 

 部屋の中で半死半生になっているのが私です。なのでこの部屋の状況がわかっていたというわけですね。

 

 うん? ちょっと待ってください。どうみても致命傷でも生きている状態を作る事ができる天恵を持っている人間が、その被害者になっている……? 

 額面通りに受け取ると、被害者をこんな状態にした加害者は被害者自身という事になります。自分で自分をこんな半殺しにするなんて相当なドМでもなければしないでしょう。(ちなみに私にそんな趣味は)ないです。

 

 うーん、これは一体どういう事でしょう……? 

 

 

 お前当事者じゃねーか勿体ぶってんじゃねーよという兄貴姉貴もいるでしょうが、申し訳ございません。私は昨日美酒を飲んで多少酔っていたためか少し記憶があいまいで、さらに全身から襲ってくる痛みのせいで思考が回らない状態です。そんな状態で当時の状況を思い出せるわけないだろういい加減にしろ! (逆ギレ)

 

「────────」

 

 

 っと、血だらけ死体が生きている事に気付いたクリスが治癒魔法をかけてくれたおかげで痛みが引いて身体が動かせるようになりました。

 あー、痛みがなくなって思考がスッキリしてきた。何か意味もなく慣れない脳内RTA実況という謎の行動をしてた気もするけど、ようやく生き返った気分だ。

 

「まあ実際生き返ったようなものですし」

「で、何があったんだよ」

 

 

 昨日は確か……二人が出ていったあと銃の説明書を読んでいたらゴッフがやってきて……

 

 そのゴッフに集って美酒美食を味わった後、ほろ酔い気分で酒を片手に説明書の続きを読んでて……

 

 説明書読むのに飽きてきた辺りでちょうどモーティスからウス、もとい報酬を貰って……

 

 部屋で報酬を物色しようと思ったら、ジャンルは間違ってなかったけどコスプレビッチ物、もとい解釈違いの物品で……

 

 思わず野郎ぶっ殺してやらぁ!! と意気込みながら銃を手にして長距離狙撃モードに切り替えて……

 

 気持ちが逸り、変に力み過ぎた結果、変形の最中に間違って魔力を込めて引き金を引いてしまって……

 

 銃から光が漏れたと思ったら全身に激痛が走ってあんな状態に……

 

「そうか…………つまり……」

 

 そう、つまり────────モーティスが悪いって事だな。Q.E.D. カウンターストップです。

 

「悪いのはお前だよ」

「つまり、自爆って事ですか……」

 

 …………………………やっちゃったぜ☆

 

「お前しばらく禁酒な」

 

 そんなー。

 

「あと経過次第ですが少なくとも今日一日は絶対安静です」

 

 はーい……うん? つまり飛空船イベントには二人だけで行くって事? お偉いさん方と交渉しないといけないわけだけど、二人で大丈夫か? 

 

「大丈夫ですよ。これでも姫巫女なんて言われてるんですよ。そういう事には慣れています」

 

 そう…………本当に大丈夫? 

 

「だから大丈夫ですって。もう、心配性ですね」

「まあ何とかなるだろ」

 

 そう……………………本当に大丈夫? 

 

「何でもう一回訊いたんですか……!?」

 

 一応モーティスにも付いてきてもらえばいい。あれは胡散臭い爺さんだけど、それを上回るくらいには口が上手いから、頼りになるだろう。とはいえ頼りすぎちゃ痛い目を見る事になるから気を付けるんだぞ。

 

「私どれだけ信用ないんですか!?」

「お前は俺たちの母親か」

 

 何故そうなる。まあクリスからお義母様呼びされた事はあるが……それは置いておこう。

 俺はニア宛てに銃のレビューを書かなければいけないのだ。

 

「ほとんど使ってないのにレビューするのか……まあいいか。じゃあ爺さん誘って行ってくるぜ」

 

 ああ、気をつけてな……………………さて、と……まずは掃除だな。

 

 

 そうして二人を送り出した後、俺は血で汚れた工房を見て溜息を吐いた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 掃除を終えて水分補給やら栄養補給やらをしつつ、銃に対しての不満を書き連ねたりして過ごしている内に夕方になり、意気揚々と解体現場へと向かったクリスがアルとモーティスを伴ってシド工房に戻ってきたのだが……

 

 

「ふぇぇぇ…………」

 

 

 ああ! 信じて送り出したクリスがまるでFXで有り金全部を溶かしたような顔に!! 

 

 というか……そんなにダメだったのだろうか? さすがにそんな状態になって帰ってくるのは予想外なんだが。

 

「まあクリスちゃんがダメだったってわけじゃないんだけどネ」

 

 お姫様相手にいきなりちゃん付け……いや何も言うまい。で、どういう事だろうか? 

 

「何というか……ちょっとした暴動状態?」

 

 は? 

 

「飛空船解体を強行しようとするニアたちとそれに反対する魔導課を始めとした反対勢力によるやり合いが発生しててこっちの話を聞いてもらう所じゃなかったんだ」

 

 何それ怖い。

 

 いや、ええー…………世界の最先端を謳う魔導都市の癖に人民をコントロールできずに暴動が起きるなんて……いや、民主主義に近い都市運営だから起こったと考えると、むしろ時代を先取りしすぎたが故に起こったのか? 

 

 というかやべぇ……俺ニアに殺される気がする……! 飛空船解体を公的にさせるってのを条件にしたし、それが守られないとかになると…………俺は悪くねぇ! 

 

「それに関しては大丈夫。一応は段階的にとはいえ解体する流れにはなったからネ。約束はちゃんと守れてるよ」

 

 ほっ、それは何よりだ。最悪、今すぐここから逃げ出すべく窓から飛び出そうか迷っていたくらいだ。

 

「でも反対派の連中の不満は飛空船をシド工房に託したキミたちに向きそうだね」

 

 うげ、じゃあ味方になってもらわないといけない相手から逆に敵視される羽目になったのか……ああ、だからクリスがこんな様子なのか。

 

「そんな中でもクリスちゃんは頑張っていたんだけど、焼け石に水というヤツでネ……」

「俺は何の役にも立てなかった……お前がいたらもっとうまくやれてたんだろうけど……」

 

 いや、話を聞いた感じだと俺がいても何の役にも立てなさそうなのだが。その全幅の信頼がちょっと怖い。何? お前にとって俺ってそんなにスゴイ存在なの? 

 

「落ち着きなさいアル君。彼がいたってあの場所が地獄絵図になっていただけだろうさ」

「……確かに」

 

 確かに、じゃない。その評価もどうかと思う。お前たちには俺がそこまで暴力的な人間に見えるというのか。

 

「見える」

「見える」

 

 よぅし表出ろ。血祭りにあげてやろう。

 

「そ、それよりもだ。一応和解はしたらしいんだけど、それでも不満を持ってる人とか納得できてない人が今領主さんの館に抗議のデモをしているらしくてな」

 

 ああ、下手にクリスが戻ったらその矛先がクリスに向くかもしれないって事か。寝床はどうするんだ? ここにもデモ隊が来るかもしれないが。

 

「俺もそう思って街の宿屋で泊まってもらおうかと思ったんだけど……」

「突発的に統制の取れていない過激な連中と遭遇してしまった場合を考えたらまだここの方がマシだヨ」

「……っていう爺さんの提案でここにきたってわけだ」

 

 確かに。アルを始めとした手持ちの戦力がいない状態で野生の過激派と遭遇して目の前がまっくらになるリスクを考えたら、まだここで固まっていた方がいいのか。

 部屋は空き部屋か、それがなければニアの部屋……は、何というか、危険が危ないから俺たちの部屋を使ってもらえばいいし。

 

「何だよ危険が危ないって……」

 

 言葉の通り、としか言えない。言葉として間違っているのはわかるが、表現としては間違ってないと断言できる。現にモーティスも俺の言葉に同意するように頷いている。

 まあ知らない方がいい事というのもあるのだ。

 

 さて、時間も時間だしクリスもこの状態で外出は難しそうだから、面倒だけど晩飯の準備でもするか……

 

「あ、俺肉がいい! ハンバーグとか!」

「僕は魚がいいね。肉はちょっと重すぎてね……」

 

 食材は何があったかなぁ(無視)……と、台所へと足を向ける……三人いて料理できるのが俺くらいっておかしい気がする。

 とりあえずハンバーグは面倒なのでなし。モーティスへの嫌がらせでこってりしたのがいいかな……あ、チーズある。何かピザ食いたいな……パンを圧し潰して焼けば生地代わりになるか……? 確か保存ビンに入ったトマトピューレっぽいのがあったし……やってみるか。

 

「……あ、あのー……ちょっといいですか?」

 

 と、チーズをつまみ食いしながらピザっぽいものを作っている最中にエラーを起こしていたクリスが再起動したのか台所に顔を出してきた。

 どうかしたのだろうか? 一応手伝いなら大丈夫だからアル達と休んでいていいのだが。

 

「いえ、その……私に色々と教えてもらえませんか……?」

 

 教える? 何を教えてほしいんだ? アルの事とか? 

 

「いえ、そうではなく。いやそれも聞きたいですけどそうじゃなくて……貴方に師事させてもらえないかと思いまして……」

 

 師事……? クリスが? 俺に? 

 ……そんな教えられるような事があるだろうか……? 

 

 料理? いやあの繊細な味を歪めてはいけない(使命感)

 戦い方? いやクリスに俺の戦い方を教えてもどうにもならない。

 治癒魔法? いやクリスの方が圧倒的に上なのに何を教えろと。

 天恵? いや天恵なんて教えようがないだろう。

 

 ……教えられそうな事が何一つとしてないんだが……? 

 

「そんなことないです。貴方は私に足りないもの、出来ない事、いっぱいもってるじゃないですか」

 

 まあできることはできるが、言うほどだろうか? そもそもなんで師事したいって話になるんだ? 

 

「私、幼い頃からアンナに助けてもらってばかりでした。自分から首を突っ込んでおいて、アンナに助けられて、最後は泣きながら手を引かれて帰る、なんてしょっちゅうで……このままじゃダメだって思って、教会で神官や巫女として色んな事を学んで、教会の姫巫女だなんて持て囃されたりして、変われたと思いました。これでいざという時アンナを助けられるようになったんだって」

 

 何か過去話が始まったな……というかアンナの事好きすぎる気がするんだけど気のせい……? 

 

「でも、私は変われてなんかなかった。クェスの遺跡で、私はアンナに囮をさせてしまいました。アルと貴方がいなければ助けに動く事もできなかった。その後もゴッフさんたちライン商会の皆さんにも助けてもらって……私は助けられてばかりで、何もできていない……」

 

 それは、適材適所というヤツでは? そう思ったが、まだクリスの言葉が続きそうだったので、口には出さないで置いた。 

 

「助けられてばかりの私じゃ、ダメなんです。変わらないといけないって思ったんです」

 

 うーむ……正直クリスの治癒魔法や浄化がなかったらどうしようもない場面もあった以上、助けられてばかりというのは間違っていると思うのだが……この場合重要なのはクリス自身がそう思っていないという事だろう。

 

 今のクリスに必要なのは、そういった事実を告げる事ではなく、何らかの成功体験なのだろう。役に立っているという自覚を促すにもクリス自身が自分に自信を持てていない以上、そこから解決に至らせるのは難しい。クリスにとって当たり前にできる技術で当たり前にできる成功をした所で、それは彼女の求める成功体験とはなり得ない。

 とはいえ付け焼刃程度で得られる成功体験などあまり意味はない。有象無象が簡単にできる事で成功した所で、私じゃなくても……となる可能性が高い。

 であれば、彼女の今持つ技術や能力からそう遠くない、活用できる技術や知識を教える事がいいかもしれない。知らなかった事を知る事、そしてそれによって自らの能力の幅が広がる事は、彼女の精神へのいい刺激になるだろうし、それが自信へと繋がる。

 

 とはいえ、俺にそれが可能なのかと問われれば、首を傾げずにはいられないのだが…………ここで下手に断るとクリスが変に拗らせてしまう可能性もあるし……仕方ないか。

 

 

 正直、俺に教えられることがあるとは思えないが、クリスがそうまで言うのなら俺に出来る限りの事はしてやろう。

 

「本当ですか!?」

 

 とはいえ俺は教えるのが上手とは言えないし、教えられる事も少ないだろう。問われれば答えるが、基本はクリスが見て盗む、という形になるだろう。そんな関係でも一応は教え教えられる関係になる以上、俺にとってクリスは王女だが仲間で、一応は対等な間柄だと思っているが、線引きというのはしておく必要がある。

 

「言おうとしている事はわかりますが、線引きと言っても具体的にどうすれば……?」

 

 具体的に何かする必要はないのだが……態度を変えろと言うつもりはないし。

 もし普段のまま線引きするのが難しいなら呼び方だけでも変えてみる……とか? 

 

「なるほど! では改めて、これからよろしくお願いします! お義母様!」

 

 お義母様はやめて。何一つとして掠ってすらないから。というか性別すら合ってないのに何でお義母様なの??? 

 

 

 こうして、平民の狩人もどきである俺は、あの教会の姫巫女に『お師匠』と呼ばれる事となった。

 

 

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