Persona5 ーRevealedー   作:TATAL

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探偵王子の再来が探偵王子(♀)の再来だったら……

思いついたシーンをバラバラと書き散らしてみたものになります。


Interlude - Possessive about you -

「……精神暴走事件の裏には政治が絡む、本気で言っているのかい?」

 

 目の前に座る()()は、前髪の隙間から視線を僕に突き刺してくる。カフェに流れる穏やかなBGMとは裏腹に、彼女から伝わる雰囲気は刃物のような鋭さを纏っていた。冗談で言っていたとしたら本気で怒ると、何も言わなくとも伝わってくる。だけど僕も冗談でこんなことを言ったりはしない。

 

「本気だよ。そして、そこには君も関与していると僕は思ってる」

 

「……それは事件を調査する探偵として?」

 

「……いいや」

 

 その言葉を最後に、僕と彼女の間に沈黙が横たわる。組んだ手に額を付けてしまった彼女と目が合うことは無い。やがて、微かに彼女が肩を震わせて笑った。

 

「結局、君はワトソンじゃなくてホームズだったわけだ」

 

「……君はモリアーティとでも?」

 

「僕が? まさか。こんな軟弱なモリアーティがいる訳が無いだろ?」

 

 そう話す彼女は自嘲するように笑った。普段の彼女が浮かべる穏やかなものとは正反対の、口の端を吊り上げた笑み。けれどその笑みは、痛みを堪えているようにも見えた。

 

「どうしてそう思ったんだい? 探偵王子、明智藍子の仮面は完璧だったと、自分では思ってるんだけど」

 

「完璧過ぎた。精神暴走、改心。その方法も、犯人も掴めていないまま、ある日突然人が変わってしまう。そんなものを追い掛けている人間にしてはあまりにも堂々とし過ぎている。対策があると知っているみたいに」

 

 女性でありながら高い洞察力と行動力で警察からの信頼も厚く、メディアではその怜悧な美貌を備えた容姿と相まって探偵王子と呼ばれる彼女。人の心を変えてしまえる相手に対して強気に出られるのは、その脅威が自分には向かないと自信があるからじゃないだろうか。

 それを伝えれば、彼女は肩まで掛かるサラリとした茶髪を自身の手でぐしゃりとかき乱した。

 

「君の方がよっぽど探偵王子だ。僕なんかよりもね」

 

「王子にはちょっと役者不足だけどね」

 

「そんなことないよ。……僕が認めたんだから」

 

 そう言いながら、テーブル越しに彼女が僕の方へと身を乗り出してくる。

 

「でも、君がこのまま無事でいられる訳が無いよね?」

 

 眼前に迫った彼女の顔に歪んだ笑みが浮かぶ。

 

「悪ぶるのはよしなよ」

 

「その余裕がいつまで続くかな。君が手を出そうとしてるのはあまりにも深い闇だ。高校生が面白半分で手を伸ばして良いものじゃない」

 

「面白半分なんかじゃない」

 

 脅すような口調の彼女に、僕は毅然とした口調で言い返す。彼女の顔から刹那、歪んだ笑みが掻き消えた。

 

「確かに僕だけだったらこれ以上は手出しするつもりはないさ。君の言う通り、たかが学生の手に負えるような話じゃない」

 

「だったら……!」

 

「君がいる」

 

「え……?」

 

 僕の言葉が予想外だと言わんばかりに彼女の目が見開かれた。

 

「たかが学生が手出し出来ないような闇の底に、君はいるんだろう? 僕は友達を見捨てるつもりはないよ」

 

「……本気で言ってる?」

 

 椅子に座りなおした明智君の顔は、皮肉気な笑みを浮かべていた。僕もそれに応えるように笑って見せる。

 

「本気だよ」

 

「……なら、待ってるよ。闇の奥底で、君が堕ちてくるのを」

 

 そう言った明智君の顔には、どこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

 

 


 

 

「ねえ、明智くん?」

 

「なんだい?」

 

 僕の言葉に、彼女は鼻歌でも歌いだしそうなくらいに上機嫌な顔で僕を見上げる・

 

「……この状況はどういうことなんだろう?」

 

「どうせ怪盗団の奴らが動けるようになるまで、しばらく待ち時間だ。それなら、丸喜が作ったこの時間を堪能しなきゃね」

 

「それでどうして僕は君に膝を占領されてるんだろうね」

 

 僕がため息を吐けば、僕の膝に頭を乗せたまま、彼女はクスクスと笑った。そして僕の右手を取って彼女の頬に当てる。

 

「ここまでされて、意味が分からないなんて言わないよね?」

 

「……流石にね」

 

 ここまでされて彼女の気持ちに気付かないままでいるのは不可能だった。僕の言葉に、彼女は安心したように表情を緩める。

 

「良かった。泥に塗れていた僕を、それでもと引き上げてくれたんだ。責任、取ってもらうよ」

 

「君が言うと怖いね。よそ見も許してくれなさそうだ」

 

「当たり前だろう? 今この瞬間だけは、僕だけを見てもらう。この夢みたいな執行猶予の間はね」

 

「執行猶予か、言い得て妙だね」

 

 丸喜先生の認知改変によって、彼女は精神暴走事件の実行犯としての罪を追及されることがなくなった。それはつまり、丸喜先生を倒してしまえば、彼女は再び囚われの身に逆戻りしてしまうということ。今こうして話していることも、触れ合っていることも無かったことになる。

 

「……滅多なこと考えるなよ?」

 

「顔に出ていたかな?」

 

 僕の内心を見透かしたかのように、彼女は鋭い視線で僕を貫いた。

 

「君のことは誰よりも理解してるつもりだよ。この甘ったるい世界は夢でしかない。あるべき現実に戻る前の、微睡みなんだ。君がそれを否定しないで。僕を、()を泥まみれの世界から引き上げてくれた君が」

 

「そうだね……」

 

 彼女の左手が僕の右手を絡めとり、強く握る。

 

「でも、僕はずるい女だからさ。今この瞬間の君を独り占めするためには手段を選ばないんだ。笑っちゃうよね、僕が大嫌いだった母と同じだ。クソッタレな父に捨てられてそれでも、女であることを捨てられなかったあの女と。結局は、僕もあの女の娘ってわけだ」

 

「……でも君は、この夢を否定する強さを持ってる」

 

「好きな男に染まるタイプなんだよ、僕」

 

 そう言って目を細めて妖艶に笑う彼女が、マーキングでもするように僕の膝に頭を擦り付ける。まるで自分のものだと主張するかのように。

 

「少しは照れたりしない? これでも初めての告白なんだけど」

 

「ここまでされてて、今更だと思うよ?」

 

「ふふっ、そっか、そうかもね……。我ながら、重たくて面倒な女だね」

 

「自分で言うことじゃないと思うけどね」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせていた彼女は、言葉を紡ぐごとにその表情を翳らせていった。

 

「安心しなよ。こんな面倒な女は、もう少ししたら目の前からいなくなるんだ。でも、私は面倒だからさ、今この時だけは、君の温かさをこうして感じていたいんだ。僕はこの温かさをこの先ずっと忘れない。君は忘れてしまうだろうけどね、むしろ忘れた方が良いのかも」

 

 だから、この温もりを今だけは独り占めしたいんだ。

 

 そう言って彼女は身体を起こし、僕と向き合って座る。その彼女の顔に浮かんでいるのは、寂しそうな笑みだった。

 

「この世界が終われば、僕のことを忘れて欲しい。こう言っておけば、少しは悲劇のヒロインっぽいかな? 何人も殺しておいて今更だ。僕は悲劇のヒロインなんかじゃない。許されない悪だ。だからこの気持ちを持ったまま、僕は裁かれてやるさ。こんな甘ったるい夢に溺れてなんかやらない。君が引っ張り上げた女が、そんな弱っちい女だなんて思われたくない」

 

 自嘲するように鼻で笑った彼女はそう言って立ち上がると大きく伸びをした。その後ろ姿を見て、何故だか僕は不思議な気分になった。このまま座っていたら、彼女がそのまま消えていってしまうような。彼女を追うように、僕も立ち上がった。

 

「勝手なことを言うのは止めてくれ」

 

 それを僕は素直に嫌だと思った。

 

「勝手なこと?」

 

「どうして僕が君のことを忘れないといけないんだ」

 

「……僕がどうなるのか、君だって知ってるだろ」

 

 僕の方を振り向いた彼女の顔は、痛みを堪えるようなものになっていた。そして僕を鋭く睨みつける。

 

「知ってるさ。それと僕が君のことを忘れること、何の関係があるんだ」

 

「…………君は僕の相棒だ。君は正しい手段で、正しい結果を手にした。僕のことは君にとって傷になるかもしれない。いつか、僕によって君がその信条を曲げることが出てくるかもしれない。僕にはその可能性が耐えられない。僕が愛した人が、僕のせいで曇って欲しくない」

 

 言いながら、彼女の顔は増々歪んでいく。彼女の右手がピクリと動き、それを制するように彼女の左手が右ひじを押さえた。彼女がどうして葛藤しているのか、僕も理解している。その上で、僕は彼女の手を取ることに決めた。彼女の方へと一歩踏み出し、その右手を取った。

 

「以前にも言った。見捨てるつもりは無いって」

 

「僕はもう救われた。君が余計なものを抱え込む必要なんてない」

 

「余計なものじゃない。君はホームズで、僕はワトソンだ。たとえこの先、僕が変わってしまったとしたら、それは君のせいじゃない。それが僕の意思だ」

 

 彼女の右手を引く。抵抗は無く、彼女は僕の方へと一歩近づいた。

 

「君は馬鹿か? こんな厄介な女を抱え込む意味なんて無いだろ……!」

 

「意味ならあるさ」

 

 もう一度強く引く、もう彼女と僕の距離は一歩分も無かった。目前に迫った彼女の表情は、泣きそうなものに変わっていた。

 

「……僕は、面倒な女なんだ」

 

「知ってるさ」

 

「……本当は君に忘れて欲しくなんかない。君が僕にとっての唯一なように、僕だって君の唯一になりたい。君の隣に僕以外がいるって考えただけで胸が締め付けられるんだ! ……でも僕が君の隣にいることは無理だって分かってる。僕のせいで君が汚れることなんてもっと嫌だ。だから忘れろって言うんだ! この気持ちだけ抱えて、僕だけが覚えていればそれで良いって言い聞かせようとしてるんだ!」

 

 僕が手を引くまでもなく、彼女と僕の距離はゼロになった。腕の中で肩を震わせる彼女を、僕の両腕が抱きしめる。

 

「忘れない。僕が言ったことを嘘にしない。君だけに、背負わせたりなんかしない」

 

「きっと後悔するよ。安い同情で安易な選択をしたって」

 

「だとしても、今僕がこの選択をしたことを誰かのせいにしたりなんてしない。僕は、君を選ぶよ」

 

 そう言い切れば、腕の中で彼女が笑った。泣きながら笑っているような、震えた笑い声が聞こえた。僕もそれに釣られて笑う。我ながら格好つけた台詞だと思えたから。

 

「なら、僕だってもう我慢しない」

 

「今までだって我慢してたようには見えないけど?」

 

「まさか」

 

 顔を上げた彼女と目が合う。僕を見上げて挑発的な笑みを浮かべているものの、その目は少し潤んでいた。

 

「あの程度なんかじゃ済まないよ。言っただろ、僕は重たくて、面倒な女なんだ。君の目に他の女が映ることだって我慢ならないくらいに」

 

「それは怖いね。なら、怒らせないように気を付けるよ」

 

「安心しなよ、こうして抱き締められたら許しちゃうくらいには、安い女でもあるんだ」

 

 そう言って彼女はまた僕の胸に顔を埋めた。まるで僕の身体に自身を擦り込もうとしているかのように彼女が身体を密着させてくる。それに応えるように僕も彼女の背中に腕を回せば、嬉しそうな声がした。

 

「安心しなよ、これで僕が丸喜の世界を受け入れたりなんかしない。君が君じゃなくなってしまう世界なんて真っ平ごめんだ」

 

 だけど、と彼女は続けた。

 

「夢から覚める僅かな時間だけは、このモラトリアムだけは、私の存在を君に刻み込みたい。忘れないように、忘れられないように。……帰らないだろう? まだ、夜は続くんだ」

 






周囲には完ぺきな王子がただ一人にだけは湿っぽくて重たい情念を向けている……そんな女の子は好きですか。
よく考えたら本編もそう変わりないことに気付きました。改めて本編見直したら性別がどっちだろうがセリフだけ見たら完全にヒロインでした。

明智藍子=元ネタと思われる明智小五郎シリーズの著者、江戸川乱歩より。乱歩をもじって藍子。

P5X始まりましたね。

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