ニデックの意見不表明が話題ですが、会計士(=監査法人)側からみてどれほど凄いことなのかを解説してみたいと思います。意見不表明自体は日本だと数年に1件程度でるものではありますが、ニデックのような巨大企業に出る意見不表明は、日本では史上初といってよいと思います。以下、長文です。
まず、物凄く簡単にいうと、監査法人はクライアントの決算書に対して、監査意見というものを書いた監査報告書を出してから決算発表が行われるのですが、監査意見としては大きく以下の3種類があります。
①適正意見(決算書はOKです)
②不適正意見(決算書が大きく間違ってます)
③意見不表明(決算書がOKかどうか分かりません)
通常は①です。ほぼ100%の上場会社で、監査法人から①の監査意見を入手します。ちなみに多少の間違いがあっても大きく間違っていないよねという場合も①になります。例えば上場会社でBSに計上されている100円の在庫が1個紛失していたみたいな小さな間違いなどですね。②は何がどう間違っているか、どれくらいの金額が間違っているかが分かり、その間違いが大きい場合です。何が大きくて何が小さいかは監査法人が判断します。
そして今回のニデックの③ですが、監査したけど決算書が正しいか分からなかった、ということなので、例えば大規模火災で基幹サーバーが燃えてしまい復旧に数か月かかるので決算書のチェックができない、凄く重要な会計処理についてクライアントが証拠を見せてくれないといった、「監査法人はめっちゃ頑張ったけどチェックできなかった」場合になります。もちろん、監査法人はそれが仕事なので監査法人に責任があることはあまりなく、基本的にはクライアント側もしくは自然災害などが原因になります(ニデックがどうだったかは知りません、念のため)。
そもそも決算書というのは、株主に「あなたの会社の業績こんな感じです」と報告するためにあり、正しく作成する必要があります。そして本当に正しく決算書を作成しているかをチェックするのが監査法人です。で、監査法人がチェックしたけど②決算書が正しくないとか、③正しいか分からなかった、となると、当然ながらそんな会社、上場してはいけないよね、となります。決算書が間違ってたり、正しいかどうか分からなかったら、儲かるかどうかも分からないし倒産するかもしれないしで、当然株価は暴落します。
要は、監査法人が②や③を出すということは、株価暴落を引き起こし、上場維持も危うくなり、場合によっては会社の倒産などを引き起こします。売上の9割が粉飾だったらオルツが良い例です。元から売上が〇円しかないよと分かっていて上場して、それで投資家が納得して株式投資していたら全く問題ないのですが、粉飾したらそれはウソ、詐欺なので罰せられるし、ルール違反なわけです。
ただ、決算書が間違っていても、ちゃんと監査できなかったとしても、監査法人はしれっと見過ごして①にすることもやろうと思えばできます(もちろんダメですけど)。正直言って、たぶん世の中の上場企業には、まだ知られていないだけでそういう状況の会社も存在するはずです。何故なら監査法人は①を出し続ければクライアントも安泰で監査報酬を貰い続けられるから。そういうことが無いように公認会計士法や金融商品取引法などで縛られてもいるし、資格試験でも「誘惑に負けない立派な会計士になりなさい」といったことを嫌ほど勉強します。
ということで、監査法人が意見不表明を出すということは、以下のような事態を意味します。
・クライアントの運命を左右する、いわば「死刑宣告」になり兼ねない判断を監査法人が決めたということ
・クライアントの経営者のみならず、クライアントの従業員、投資家、日本の金融市場、場合によっては世界の金融市場に混乱をもたらす可能性のある引き金を引くということ
・高額の監査報酬をもらっている超ビッククライアントから(上場廃止なのか監査契約の解約なのか)監査報酬をもらえなくなる覚悟を決めたということ
これをやる勇気、胆力が無いから粉飾に加担したり、知ってて見過ごしたりする監査法人がいるわけですが、今回のPwCジャパン監査法人はまさにそういう判断を下したということになります。
(表面的なニュースを見る限りは)物凄く正しく、そして立派なことだと思います。