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三島由紀夫と7人の女。丸山明宏(現・美輪明宏)。

まず最初に、三島がいかに世間から理解されなかったかについてお話ししましょう。(三島さんは凄そうだけれど、どういう人だかわからない。天才ってことにしておこう。)っていうふうに、三島由紀夫はたくさんの人から(もしかしたら同時代のほぼ全員から)おもわれたことでしょう。なるほど、天才のカテゴリーに入れてしまえば、無駄にわかろうなんていう努力をする必要もない。時間の節約になる。他方、当の三島は(取り巻きこそたくさんいたにせよ)、けっきょく自分が誰からも理解されない孤独にさいなまれる。もちろんそれには三島の側にも責任がある。




たしかに三島は象嵌細工のように美しい文章を書き、モダンクラシックな欧風小説作法を熟知し、きわめて観念的で華麗な小説をたくさん書いた。エンタメもそれなりに書いた。三島は東大法学部卒、大蔵省(9カ月で辞めちゃったけど)。三島がすさまじい集中力に恵まれた大秀才であることは間違いない。ただし、多くの人にとって三島がよくわからない人である理由は、けっして三島が大秀才であるからではない。では、どこに謎があるのか? 三島には表の顔と裏の顔があって、すなわちふたりの三島がいる。しかも表は表で筋が通っていて、裏は裏でなるほどそうだろうなぁと納得できる。しかし表の三島と裏の三島にはいったいどういう整合性があるのか、誰にもわからないのだ。言い方を変えるならば、かつて三島はこの世界のすべてを認識しなければならないという強迫観念に捕らわれた人であり、じっさいあらゆることを正確に説明できる人だった、まるで三島に説明できないことなど存在しないと言わんばかりに。すなわち三島は根っからの認識の人なのである。しかし、ある時期から三島は行動する人になってゆき、この行動する男こそを、三島は自分の表の顔として立てた。しかも、厄介なことに、そこに三島のナルシシズムが絡む。



表の三島は大日本帝国の時代に教育を受け二十歳で敗戦。戦後GHQによる洗脳によって、親米日本が生れ、また左翼インテリがリードする日本に、激しい違和感を持った。三島にとって、自民党であろうが共産党であろうが、ひとしく欺瞞的なもの。1960年代、三島は少年時代の自分に忠実に、大和魂と憂国感情を持つサムライとして自分を作り上げてゆく。三島は当時隆盛していた新左翼運動を批判し、抑え込むべく、憲法改正と皇室の権威回復を訴え、民間防衛組織・盾の会を結成した。(なお、三島は盾の会のメンバーにはあくまでも武に生きる青年を求め、逆に、三島作品の愛読者やファンの入会を拒絶しています。もっとも実際には楯の会のメンバーのなかには三島作品の愛読者もまたいたわけだけれど。)三島は全学連と激論を交わした。1970年、違憲とされている自衛隊隊員たちに奮起を呼びかけ、クーデターを起こし、派手で演劇的な自決に至る。そこには三島好みの悲劇への誘惑があっただろうか?




他方、三島は1949年24歳で『仮面の告白』を書き、同性愛者であることを匂わせつつ、スター作家になった。スター作家になったとはいえ、そのもうひとつの顔は同性愛者の日陰者であり、夜の都会に愛を探す。三島は女役を務めた。盾の会にしても、若い男の子たちを集めて、ひとつの目標を持って軍事教練をおこなう、女のいない、男だけの楽園である。もちろん三島にはゲイとしてのとろけるようなよろこびがあったでしょう。




ヘテロの文学者もほとんどのゲイも愛国者も三島のことがよくわからない。部分的にはひじょうによくわかるのだけれど、しかし三島の全体がわからない。わからないのもとうぜんである。結局、三島のことをふさわしく理解したのは、三島が「天上界の美」と讃美し、じっさい息を飲むほど美しかった丸山明宏(現・美輪明宏)であり、かれは三島の十歳年下のゲイ~トランスジェンダーである。



丸山は三島からの愛情を上手にかわしながらも、三島と生涯にわたってしたしく交流した。三島にとっては丸山に惚れた弱みがあった。なぜ、丸山は自分と深い仲になってくれないのか、くやしくて仕方なかったろう。






では、ゲイの心は並外れた洞察力と愛を持つゲイにしかわからないだろうか? けっしてそんなことはないでしょう。三島が気の毒にもほぼ誰からもわかられなかった理由は、三島の二重人格めいた二重性にあって。はやいはなしが三島が表の顔を立てたからであり、三島は表の三島に、男のなかの男を見たでしょう。しかしながら、ぼくはおもう。三島のなかには少女を愛する心があって、17歳で早世した妹・美津子を深く愛した。また、三島は岸田今日子、高峰秀子、石井好子、越路吹雪、芳村真理らあの時代最高の才能あふれる美女たちとおしゃべりしているとき、心底くつろいで楽しそうだ。また三島は鴎外の最愛のお嬢さん森茉莉さんをつねに手厚く庇護したことも、三島の少女性を慈しむ心の現れだったことでしょう。すなわち、三島は少女性を愛しながら、そして自身のゲイライフでも女役だったと言われつつも、表の顔においては、男のなかの男を演じきった。



どうして三島はこんなにも人生をややこしくしただろう? それは三島が祖母や両親の視線を内面化し、あれほどかれらに反逆しつつなお生涯それから逃れられなかったからでしょう。また戦前の愛国教育と戦後のアメリカニズム~左翼思想との齟齬もまた三島を苦しめたことでしょう。




三島は大量の作品を遺した。新版全集全44巻! しかも純文学枠(小説と戯曲)とエンタメ小説枠を書き分け、卓越した批評を書き、知的でともすればユーモアもあるエッセイを書き、そのうえ映画出演し、66年にはみずから『憂国』を28分の短編映画にして、監督、脚本、主演しています。


おそらく三島にとって書いてるときを中心に仕事をしているときだけが充実できる時間だったでしょう。三島は小説や戯曲ひいてはエッセイの型を熟知してますし、しかも、どんな現実もまたたくまに美しい文章で表現できてしまう。題材が決まれば後はとりかかるだけ。仕事が速い。



とはいえ、戦後の文学批評家たちはツワモノ揃い。批評家はみんな目をらんらんと輝かせて本気でかかってくるゆえ、けっして三島は若き文学界の王子にはなれなかったし、王にもなれなかった。ノーベル文学賞も三島にとって恩のある川端に譲ってしまった。三島自身にもつねに異端でありたい願望があったにせよ、しかし、ああ見えてけっしておもいどおりにはゆかなかった命懸けの綱渡り人生だったことがわかります。



かわいそうな三島由紀夫。ぼくはただただそうおもう。結局三島のことを理解していたのは丸山明宏(現・美輪明宏)だけではないかしら。なお、自決の数日まえ三島は、日劇出演中の丸山明宏に薔薇を三百本贈っています。自分があと数日でこの世から去ってしまうことも告げずに。



銀巴里は1990年惜しまれながら閉店した。その後、そこに銀座モンブランビルが建ち、脇に入るとちいさな「銀巴里跡」という石碑が立っています。








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コメント

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Soutsu
Soutsu

三島が太宰治に会った時、「私はあなたが嫌いです」と言った、という有名なエピソードがありますが、あれは象徴的ですね。太宰はリアルに背が高くてかっこよくてもてた。作品世界も虚構じゃなくてリアルだった。まさに三島のコンプレックスの対極の存在だったんです。だから、太宰に「そういう風に言ってても、ここに来てるんだから、ほんとは好きなんだろ?」と返されて、三島は何も言い返せなかったでしょうね。

jullias suzzy
jullias suzzy

Soutu さんへ


三島の鴎外へのあこがれ。
これは重要なんですよ。だって、鴎外は一流のインテリで、軍医であり、上級官僚でありつつの小説家でしょ。


他方、三島は(猪瀬直樹著『ペルソナ』が執念深く明らかにしているとおり)祖父も父も官僚で、しかも祖父は疑獄事件で失脚、父にいたっては官僚としてまったく無能。また、三島は学習院育ちながら、当時は貴族の子しか行けなかったにもかかわらず、しかし、三島は平民の子の癖してむりやり学習院に入った。

つづく

jullias suzzy
jullias suzzy

>傍観者としての三島由紀夫


これね、三島に限らずインテリはたいていそうですね。しかも、三島は観察に先だって、観念でしかものを考えることができない。おのずと思考は現実から遊離してしまう。


しかし、三島はこれではいけない、と奮起し、(また戦争に行けなかった劣等感をも払拭すべく)知行合一なんて古い言葉を掲げ、行動する文学者として自分自身を作り上げてゆく。傍迷惑なこと。


戦後の総理大臣(吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山、岸信介、池田勇人、佐藤榮作)たちは、三島の自決をどう見ていたかしらん? きっと頭を抱えたことでしょう。

jullias suzzy
jullias suzzy

なお、三島由紀夫は長男に威一郎という名をつけました。これは鳩山一郎の長男の名と同じです。(三島は7つ年上の鳩山一郎としたしかった。)鳩山威一郎は、東大法学部卒、大蔵省、自民党、福田内閣の外務大臣を務めました。


他方、鳩山威一郎もまたご子息に由紀夫という名をつけておられます。鳩山由紀夫は、第93代内閣総理大臣を務められましたね。


さて、三島のご子息、平岡威一郎氏は、8歳で父親が自決、慶應大学を卒業し、市川崑の下で映画製作の仕事をしたものの映画の道には進まず、1988年に銀座に宝石屋アウローラを開き(その後、宝石屋がどうなったかは不明)、1990年代には作詞家・売野雅勇に弟子入りするも書く詞が典雅すぎると半年で破門され、多難な人生を生きておられます。いま62歳です。

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現代は、どんな過去の思考の覇権争いによって出来ているだろう? そして未来は? そんなことを考えながら、飲み喰いしたり散歩したり、本を読んだり映画を観たり、音楽を聴いたりしています。 julliassuzzy.tokyo@gmail.com
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