日弁連が本格的に取り組もうとしている「加害者家族」のとても深刻な問題

篠田博之月刊『創』編集長
山に登った松本麗華さん(本人提供)

「加害者家族」支援に日弁連が本格的取り組み

 日弁連(日本弁護士連合会)が「加害者家族」支援への本格的取り組みに着手しようとしている。近々、プロジェクトチームが発足し、今年度内に具体的な動きが始まると思われる。

 もともと現会長の渕上玲子弁護士は会長選において加害者家族支援をマニフェストに掲げており、会長就任後、2025年度の会務執行方針の中に「犯罪加害者家族支援」が掲げられた。そこにはこう書かれている。

《近時、ある者が罪を犯したことに起因して、その家族が社会的・経済的・精神的に深刻なダメージを受けることが知られるようになってきていますが、そのような犯罪加害者家族に対する支援のための制度は未整備のままです。日弁連は、先行してこの問題に取り組む関係諸団体の知見等も踏まえつつ、関連委員会等の意見を集約し、犯罪加害者家族への法的支援制度等の構築に向けた検討を進めていきます。》

 この項目の前には「犯罪被害者への支援」も掲げられており、被害者支援とともに加害者家族支援にも取り組んでいくという方針だ。

 そもそも「加害者家族」支援という概念自体が新しいものだ。それは「加害者家族」はある意味で被害者でもあるという認識に基づくのだが、日弁連がそれを掲げて本格的取り組みに乗り出すというのは歴史的な出来事と言ってよいだろう。

 よく言われることだが、日本は欧米に比べて「個の確立」が遅れ、「家」という観念が長らく社会を支配していた。その中で、家族の中に犯罪を犯した者がいると、家族ぐるみでバッシングを受ける。犯罪者の子どもであることを、その子ども本人は選択して生まれてきたわけではないから、親が犯罪者であることを理由に子どもをバッシングするのは全く理不尽なのだが、それがしばしば行われてきたのが日本社会である。

オウム教祖の娘と和歌山カレー事件・林家の長男が初対談

 月刊『創』(つくる)10月号にオウム事件・松本智津夫元教祖の三女である松本麗華さんと、和歌山カレー事件・林眞須美さんの長男の対談を掲げたが、この2人は、激しいバッシングを受けて生きてきた象徴とも言えるだろう。

 麗華さんは現在も就職は困難だし、銀行口座開設もできない。独学で3つの大学に合格したが、全ての大学から入学を拒否された。出自による差別は行ってはならないと教えるべき大学がそういう措置に出たという異常な現実は、この社会の歪みを表わしているといってよいだろう。

 例えば彼女の入学を拒否した当時の和光大学の学長は、差別問題に造詣が深いリベラルな学者だった。後に麗華さんに裁判を起こされて法廷で証言したのだが、「個人的には入学拒否はいけないと思っているが、組織としては苦渋の決断だった」と述べた。当時、同大学講師だった森達也さんによれば、麗華さんが合格したという情報が広まった時、彼女を入学させるならうちの子を通わせるわけにはいかないという父母からの電話が殺到したという。学長が個人としての信条を曲げてでも苦渋の決断をせざるをえないほど、社会の「同調圧力」が強かったわけだ。

「個」が確立しておらず、「家」という単位で物事を考えてしまう風潮は、この何十年かの間に、少しずつ薄れつつあるが、私がかつて取材した1989年に社会問題となった埼玉連続幼女殺害事件では、宮﨑勤元死刑囚の父親が自殺している。彼の実家は、東京近郊とはいえ、古いしきたりの残った地域で、親としてこの社会に生きていくことはできないと思いつめてしまったのだろう。

 犯罪加害者の家族が自殺に追い込まれる事例は、これまでいくつもあった。

 

林家の壁を埋め尽くした落書き(筆者撮影)
林家の壁を埋め尽くした落書き(筆者撮影)

落書きを描いてポーズを決める者も(筆者撮影)
落書きを描いてポーズを決める者も(筆者撮影)

和歌山カレー事件の林家の落書き

 写真に掲げたのは、和歌山カレー事件の林眞須美さんの自宅の塀を埋め尽くした心ない落書きだ。事件翌年の春に訪れた私は、言葉を失った。両親は逮捕されてそこには住んでいないから、そこは4人の子どもたちの住まいなのだが、加害者とされた者とその家族を区別するという想像力さえ、落書きした者たちは持っていない。

 何か事件が起こるたびに、マスコミは容疑者の自宅に押し掛けるのだが、容疑者自身は逮捕されているから、そこには家族が住んでいるわけだ。身内の逮捕で衝撃を受けている家族のもとに押しかけてチャイムを押し続けるという、この事態も家族にとっては大変な苦痛だ。

「加害者家族」を加害者と区別して考えるという、考えてみれば当たり前のことを、この社会はもう少し認識する必要がある。「加害者家族」支援の取り組みは、日本社会のあり方への問題提起でもあると言える。

松本麗華さんの事例について筆者がパネラーとして説明(筆者提供)
松本麗華さんの事例について筆者がパネラーとして説明(筆者提供)

関東弁護士会連合会の画期的といえる「宣言」

「加害者家族」支援に弁護士会などが取り組むという流れの中で、画期的だったのが、2023年9月29日に開催された関東弁護士会連合会・埼玉弁護士会主催のシンポジウム「刑事加害者家族の支援について考える」と、それに続く関東弁護士会連合会の定期大会だった。その定期大会で「刑事加害者家族の支援に向けた宣言」が採択された。関東弁護士会とは関東近県の弁護士会の連合体で、そこが本格的な支援に取り組むことを宣言した意味はとても大きなものだ。

 実はこの時のシンポジウムには私もパネラーの一人として参加しており、松本麗華さんのケースを始め、加害者家族がどういう状況に置かれているかを実例に即して話した。客席の最前列で当時の日弁連会長が耳を傾けてくれているのが目に入った。また客席には個人として参加した松本麗華さんの姿もあった。

 

前述した関東弁護士会連合会のホームページに掲げられた「刑事加害者家族の支援に向けた宣言」を改めて読み返すと、その提案理由に私の発言が紹介されていた。引用しておこう。

《刑事加害者の情報が報道されることによって、刑事加害者家族が社会から排斥される状況にあるため、メディアによる事件報道には刑事加害者家族への影響の考慮と、刑事加害者家族の心情への配慮が必要である。

 月刊『創』の編集長である篠田博之氏はメディアによる事件報道による刑事加害者家族の置かれた現状を以下のように指摘する。

 社会的にニュースになるような凶悪事件においては、刑事加害者だけでなく刑事加害者家族も「罪を犯した家族」として一緒に袋叩きに遭う構造がある。このような状況の中で、刑事加害者家族は名前も出せない生活をずっと強いられている。これは、多くの社会学者が指摘しているように、日本の社会構造に問題がある。すなわち、欧米のように個が確立されておらず、家族と犯罪当事者が区別されずに、同時に責任追及される風潮である。

 刑事加害者家族としては、人生の根本に関わる非常に重要な問題である。

 凶悪事件など社会的影響の大きい事件では、メディアによる事件報道もされるので、刑事加害者家族が従来通りの生活ができなくなるという現実は深刻だが、社会的背景に根付いているので、理屈で解決を図れるものでなく、解決には社会的背景に訴えかけるなど長期的な取り組みが必要になる。》

「宣言」自体は長文なので全文引用できないが、今もホームぺージで閲覧可能だ。

加害者家族支援の取り組みの歴史的経緯

 弁護士会などの加害者家族支援の取り組みも突然出てきたわけではなく、いろいろな経緯を経たうえでのことだ。

 加害者家族支援を自覚的に始めた最初の例として知られるのは、仙台でWorld Open HeartというNPO法人を立ち上げた阿部恭子さんだ。『創』2023年9月号で加害者家族の特集を組んだ時に、彼女はインタビューでこう語っていた。

《私が加害者家族支援の活動を始めたのは2008年ですが、当時は東北大学大学院法科研究科で憲法学を専攻し、マイノリティの人権と社会活動に関する国際比較研究をしながら、アドボカシー活動にも参加していました。2008年8月に、大学院生の仲間たちと研究を中心とした任意団体World Open Heartを設立しました。日本のマイノリティの中で、支援が行き届いていない人々はどのような人々か、調べていく中で、「加害者家族」という存在に気が付きました。》

《2008年12月10日に地元紙である河北新報夕刊1面に「犯罪者の家族に支援を」という見出しで取り上げられたことで、相談や問い合わせが全国から殺到しました。被害者支援は以前からなされていたのですが、加害者家族支援の団体は初めてとあって、「今まで誰も助けてくれなくて、こういう団体を待っていた」「暗闇の中の一筋の光」などと言われました。

 2011年、東日本大震災を経験しました。生き残ったメンバーで、この土地から活動を全国に広めたいと同年、宮城県に申請を出し、NPOの法人格を取得しました。》

《その後、いろいろな事件の加害者家族の支援に取り組むことになるのですが、最近は事件発生初期のマスコミ対応が大きな仕事です。》

《家族から話を聞いていると、報道内容が事実と違うことがたくさんあったし、何よりも家族が取材陣に追われて生活が成り立たなくなる。転居を余儀なくされて、シェルターを持っている団体に協力してもらい、しばらくかくまってもらうといったこともありました。

 最初は加害者家族にはとにかく一時的に避難してもらうという対応が多かったのですが、いろいろなケースを体験するうちに、逃げるのでなくきちんと対応した方がよいということに気が付き、その後は、私たちが取材陣との窓口になることが多くなりました。

 私たちは加害者家族からお金をいただかず、基本的にボランティアです。》

《私たちの団体が活動し始めた後、他に取り組む団体もできたし、加害者家族支援も広がっていったので、私は犯罪に巻き込まれた人への包括的な支援体制が必要だと思うようになりました。もともとやろうと考えたのはそういうイメージだったのですが、最初は加害者と被害者が一緒となると相談に来にくいのではという意見もあって、加害者家族支援という形にしたのです。でも被害者と加害者との利害が一致する面はたくさんあるし、被害者と加害者の共同は必要だと考えています。》

 加害者家族支援に無料で取り組んでいることや、ホームページに電話番号を公開しているため連絡をとりやすいといった点が、阿部さんらの活動が広く知られるようになった要因だろう。

山形県弁護士会が立ち上げた支援センター

 阿部さんらの活動に着目し、2018年から弁護士会として取り組みを始めたのが山形県弁護士会だ。同弁護士会では「犯罪加害者家族支援センター」というのを立ち上げ、加害者家族からの相談を受けたり、支援を行うなどしている。

 山形県弁護士会犯罪加害者家族支援委員会委員長の遠藤凉一弁護士遠藤さんに連絡を取って、最近の動きについて尋ねると、こういう返信があった。

《2023年以降の件ですが、以下の通りです。

① 2024年3月30日に、山形市において「犯罪加害者家族支援センター設立5周年記念シンポジウム テーマ『被害者としての犯罪加害者家族支援と犯罪者の更生について』」を実施しました。

② 私個人としては、2024年7月26日に、徳島市において、日弁連夏期研修(四国地区)で「犯罪加害者家族への支援と問題点」というテーマで講演をしてきました。

③この問題については、日弁連も関心を示していて、現会長の会務方針(いわゆる「施政方針」)にも取り上げられています。いずれ、何らかの組織が立ち上がると思います。》

 2023年の関東弁護士会連合会のシンポジウムや定期大会の実行委員長だった埼玉弁護士会の長沼正敏弁護士にも話を聞いた。今回の日弁連のプロジェクトチーム立ち上げには長沼弁護士も関わっているという。

 日弁連や各地の弁護士会が今後、どういう取り組みを行っていくのか注目したい。

松本麗華さんが『加害者家族として生きて』出版

 10月初めに創出版から松本麗華さんの著書『加害者家族として生きて』を出版する。予定より少し出版が遅れたが、この本は、彼女が『創』でインタビューに応じたり寄稿した記事をまとめたものだ。彼女が最初に登場したのは、まだ13歳のあどけない少女だった時だ。

 その後、彼女やその姉妹などには折に触れてインタビューをし、今回まとめてみるとかなりの分量になった。旭村事件や大学入学拒否事件、さらには父親の死刑執行など、麗華さんの半生の主な出来事をある程度網羅しているとも言える。

 それをこんなふうに書籍化したきっかけは、2025年6月公開のドキュメンタリー映画『それでも私は Though I’m His Daughter』(長塚洋監督)だった。麗華さんの過去6年間を追ったこの映画については『創』7月号でも紹介した。そうした記事を書くにあたって、麗華さんの過去の出来事をネットで検索しようとすると、きちんとした情報が本当に少ないことがわかった。そこで今回、本誌のこれまでの記事をまとめ、書きおろしを加えて刊行することにしたのが『加害者家族として生きて』だ。

 9月29日には阿佐ヶ谷ロフトAで、松本麗華・林家長男両氏に長塚洋監督と私も加わって出版記念トークイベントを行う。

https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/330916

ぜひ多くの人が加害者家族の問題を一緒に考えてほしいと思う。

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月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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