第18話 神経ブロック

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完璧だった。   スティックを握る左手に違和感を感じる事無く、普通に振り下ろせていた。   約8ヵ月ぶりの感覚だった。   麻酔による一時的なものだと分かっていたのが、それでも8ヵ月色んな所でいろんな事をやって、初めて取り戻せた「まともな」動作に感慨はひとしおだった。   診察室を一旦出てから、しばらく待合室の椅子を叩いていたが、数分後には麻酔の効果が弱まり、違和感が戻って来た。   ☆   再び診察室に入り、今後の治療方針について議論したが、結論が出ないまま、とりあえず翌週にもう一度神経ブロックをやってみる事にした。   ☆   翌週の診察までに、私はジストニアの治療に関する資料を集められるだけ集めた。   まず、T大学病院から土田先生に宛てた紹介状の内容をもっと掘り下げ、入院中にやった事を出来るだけ詳細に文章にしてみた。   それから、インターネットから拾った記事の中からMABに関する物を重点的にプリントしてファイルにまとめた。   それらの資料を持って、土田先生の診察を受けに行った。   ☆   診察室に入ると、ます「その後どうですか?」と、経過について質問され、それから神経ブロックを行う為にベッドに寝かされた。   資料は来院した時に受付で渡していたが、先生の決まり切った対応と、資料の事に一言も触れない態度に、本当に読んでもらえたのかどうか不安になった。   しかし、とりあえずは神経ブロックの施行に集中してもらいたかったので、質問は後回しにすることにした。   ☆   実は今回、不安があった。   それまで何度も煮え湯を飲んで来たが、例えば美容院に行くと大抵最初の一回目は緊張感を持ってやってもらえる。   しかし、2回目以降は同じ事のルーチンワーク化してしまい、油断して失敗するというケースが多いのだ。   それは医者でも一緒のような気がした。   不安でたまらなかったが、それを先生にどう伝えていいか分からなかった。   言うか言うまいか躊躇している間に神経ブロックの施行を始めてしまった。   ☆   施行が終わり、スティックを持ってベッドの角を叩いて見たが、心配は的中し、違和感がほとんど残ったまま、スティックはまともに振れなかった。

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