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腕には手を動かす為の筋肉がたくさんある。
脳からの命令でそれらの筋肉1つ1つが縮んだり緩んだりすることで、手の動作をコントロール出来る。
通常は、それらの筋肉が互いにバランスを取りながら伸び縮みする。
しかし私の場合は、何かの拍子に特定の筋肉に対して脳からの命令が間違って伝わるようになり、そうしたバランスが失われた。
人間の体は上手い具合に出来ていて、筋肉によっては1本や2本麻痺させても、他の筋肉を使って動作を補う事が出来る。
だから、周りの足を引っ張る筋肉があるなら、そいつらを麻酔などで眠らせてしまえば、正常な動作を取り戻せる訳だ。
私の腕の筋肉で、異常な動作をしているのは「橈側手根屈筋」「尺側手根屈筋」「長掌筋」と呼ばれる3本の筋肉だ。
いずれも、手首を内側に曲げる為の筋肉だが、医者に言わせれば、これらの筋肉は無くても日常生活に支障は無いらしい。
指を曲げる為の筋肉で動作を補う事が出来るからだ。
☆
通常、麻酔薬は数十分から数時間で効果が切れる。
それでは、動作を取り戻せる時間はあまりにも少なすぎる。
そこで考えられたのが、ボツリヌスだ。
ボツリヌスは有名な食中毒菌だが、彼らの吐き出す毒素は筋肉と神経の接合部分に効いて、筋肉を麻痺させてしまう。
その効果は、数ヶ月から半年くらいは持続するという事だ。
だから、ボツリヌスの効果が切れるタイミングに合わせて、定期的に毒素を打ち込んでいけば、継続して元の正常な動作が取り戻せるというのだ。
もちろん、これは対症療法であり、病気の元を断つ治療ではない。
費用もかかるし根気も要る。
けれど、肉体的にも精神的にも良い状態に置く事で、脳がその状態を再学習し、いずれは正常な状態が取り戻せるという。
それこそが、こうした対症療法の最大の目的だと思う。
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ただ問題は、2002年10月のこの時点で、ボツリヌスは腕の病気に対して厚生労働省の認可が下りてないという事だった。
外国では普通に行われているこの治療も、日本でやれるようになるまでに何年かかるか分からないという。
T大学では、特別な方法で腕にボツリヌスを打つ事を可能にしていたが、他の大学では色々手順を踏む必要があり、頼んでからやってもらえるまでに1年以上はかかると言われた。
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