#493【出版の裏側】書籍編集者にとってちょっと残念な著者
このnoteは2022年9月29日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める、今井佐和です。本日は「編集者にとってちょっと残念な著者」というテーマで編集部の森上さん、寺崎さんとフリートークでお話していきます。森上さん、寺崎さん、よろしくお願いいたします。
森上・寺崎:よろしくお願いします。
編集者が集まる勉強会でも盛り上がった話題
今井:本日は【出版の裏側】「編集者にとってちょっと残念な著者」ということなんですけれども、ちょっと残念な著者というのはどんな感じなんですか?
寺崎:ちょっと言いづらいテーマではありますよね。
森上:(笑)。でも、意外と皆さん1番興味があるんじゃないかと。
寺崎:“一般的には”ということで聞いていただければいいかなと。
森上:そういう前提でね。
寺崎:“あるある”の話としてね。
森上:実は以前に勉強会でもテーマになったよね。
寺崎:そうそう。何年か前に色んな版元の編集者とか営業さんとか、書店の方とかを集めて、勉強会をやっていたんですよ。月に1回くらいでしたっけ?
森上:そうね。月に1回か、2カ月に1回かのペースでやっていたんだよね。
今井:そこでは何の勉強をするんですか?
森上:基本は自分の企画に他社の編集者とか営業からコメント、意見をもらうっていう。そういう感じだったんだけど、その中の1つに「ちょっと残念な著者さんとか、今まで周りにいらっしゃいました?」みたいな話で。
寺崎:あの時はもっと直球なテーマだったよね。「売れる著者、売れない著者」みたいな。
森上:そうだ!ズバリみたいな。みんな意見を出し合って、「あるある!」って言い合ったりね。それはそれでほとんど流せないような内容で、すごく面白かったよね。みんな感じているんだなって思うこととかありましたよね。
寺崎:ありましたね。
森上:我々もいくつか出して、他の方も「うちもそうです。そういうのありました。」みたいな話があったりとかして、その時の内容も絡んでくると思うけど。
テレビに出始めて態度が急変する著者
寺崎:最初に思いつくのは、“あるある”だと思うんですけど、テレビとかにコメンテーター的な仕事で出始めて、やっぱりテレビって書籍のギャランティーと桁が1桁違うじゃないですか。
森上:はいはい(笑)。
寺崎:だから、書籍のお願いをしても、「いやー。ちょっと書籍は割に合わないんだよね」みたいな感じで、「ライターさんを立てて、僕の過去の本をつぎはぎして作ってくれたらいいよ」みたいなことを言って。それまではちゃんと自分で書かれていて、すごく紳士的に対応してくれていたのに、人が変わっちゃったみたいな。そういうのは結構残念だなと思っちゃいますね。
森上:それは“あるある”だよね。企画のオファーに行った時にそれを言われたら、「もういいや」と思っちゃうよね。
寺崎:そうだね。こっちも完璧に熱が冷めちゃうというか。
森上:そうだよね。
寺崎:この人はもう本を出すことに情熱を感じないんだなって思っちゃう。
森上:それはビフォーを知っているから余計そうなるよね。
寺崎:そうそう。
森上:最初からライターさんを立てて一緒に本を作りたいという人とは違うもんね。
寺崎:うん。森上さんは何かある?
「テング熱」にかかってしまう著者
森上:いくつかあるけど、このVoicyでも何回か話しているけど、やっぱりデング熱じゃなくて、テング熱(天狗熱)にかかっちゃう著者さん。
今井:テング熱!
寺崎:流行の感染症ね。
森上・今井:(笑)。
森上:感染症かどうかは知らないけど(笑)。
寺崎:何万部でテング熱にかかるのかっていう、テング熱の程度があるよね。
森上:そうだね。人によるね。
寺崎:まあ、10万部を超えて何十万部になったら、かかってもしょうがないかなっていうね。
森上:あるね。程度ね。
今井:テング熱の具体的な症状っていうのはどんな症状だったりするんですか?
森上・寺崎:(笑)。
森上:例えば分かりやすいところだと、カバーのデザインとかタイトルを決める時に前作とは違うかたちで、もう自分の半径3mくらいのところの人の意見を聞くとかになっちゃう。前は一緒に色々と考えていたのに。主導権が自分の方にあるみたいな感じになっちゃう。前回はそんなことなかったのにみたいな。前回はお互いに知恵を出し合いながら一緒に考えていく本作りだったのに、2作目以降はなんか勘違いしちゃっているみたいな。
今井:編集者へのリスペクトが変わっちゃったなっていうような症状ですね。
森上:ちょっと残念だなと思いますね。でも、それでいっちゃうと大体うまくいかないんだよね。テング熱の典型例で言うとそういうところかな。
寺崎:もっと生々しいことで言うと、初版部数とか印税率で揉めたりとかね、テング熱にかかって。
森上:そういう人もいるね。勘違いしている人ね。
寺崎:そうなんだよね。でも、何十万部、何百万部とか売れても(テング熱に)かからない人はかからないからね。
森上:そうなの!そこを知っているからこそ、本当に残念だなと思っちゃうんだよな。この人はそういう人なんだって。フラットな人が一定数いるからね。
今井:お金に対して過敏になってしまう方が一定数いらっしゃるっていう感じなんですかね。
森上:お金とかクリエイティブを作る上での勘違い、「だったら、自分一人でやれば?」みたいな感じ。
今井:(笑)。
他社の編集者の意見を引き合いに出す著者
寺崎:あと、こっちが萎えちゃうパターンが、よくメディアに露出する有名な編集者っているじゃないですか。発言も結構でかい様な人たちが。
森上:はいはい。
寺崎:そこまでは一般的ではなくても割にインタビューが出ていたりする、ヒット作を担当した編集者の話を聞いてきて、「○○社の○○さんっていう編集者がこういうふうに言っていますけど、こうしたらいいんじゃないですかね?」って、引き合いに出してきたりすると、こっちもなんか嫉妬心と言うか、いじけちゃってさ・・・。
今井:(笑)。
森上:嫉妬心と同時に、「なんなのこの人?」って。「その人とやればいいじゃん!」っていう話だよね。
寺崎:そうそう。せっかく2人で盛り上がっているのに、「なんでその人の名前を出すの!?」みたいな。
今井:カップルの喧嘩みたいですね(笑)。
森上:そうだよね。ビジネスパートナーとして一緒に伴走して作っていくっていう感じではなくなるよね。
寺崎:そうなんだよね。これは逆パターンを想像してくれればわかると思うんだけど、俺たちが他の著者さんの発言を引き合いに出して、その著者に提案するとかって、それは萎えさせるじゃん。
今井:「その人と書けばいいじゃない?」みたいな感じになりますよね。
寺崎:そうそう。その人に書いてもらえばいいじゃんってね。
森上:なるよね。同じようなテーマだったりしたら余計そうだよね。
今井:ちゃんと向き合ってほしいですよね。
アマゾンのランキングに過敏に反応する著者
森上:あと、あるのがアマゾンにやたら過敏な人ね。
寺崎:アマゾン過敏症ね。
森上:アマゾン過敏症(笑)!在庫をやたら過剰反応される。販売する機会を逃しちゃうっていうことは重々わかっていて、こっちもしたくてしているわけではないんだけども、基本的に流通上の問題で、うちがコントロールできない状況だったりするわけだよね。うちからはもう取次に入っているけれども、取次からアマゾンに入っていないとか*。そうすると、もうこっちらコントロールできる状況じゃなくて、それを説明しているにも関わらず、過敏に言ってくる方ね。
*新刊の最初の搬入は取次からアマゾンに入る分もあるが、ほぼ倉庫からアマゾンへ直接搬入している。
寺崎:でも、アマゾンは到着に2週間かかります*とか、あとはランキングとかも見えちゃうから、どうしても著者さんの立場からしたら気になるっていうのはわかるけどね。
*2025年現在は、倉庫へ新刊が入庫後はアマゾンからの依頼日に倉庫からアマゾンへ入庫している(2~3年前より改善)。
森上:わかります、わかります。我々だって同じ気持ちですもんね。
寺崎:同じ、同じ。
森上:でも、わざわざそんなことしたくて、やっているわけじゃなくて。うちが完全にコントロールできないんですよっていうところの部分まで説明してもだめな人。
寺崎:説明してもダメな人はダメだから。
寺崎:最近、改善しているけどね、だいぶ。
森上:アマゾンもね。
寺崎:補充早いよね、最近は。
森上:早いね。でも、そういうのはちょっとめんどくさいなって思う時があるね。
「じゃあ、降ります」というカードを切る著者
寺崎:あと、当時売れていた著者さんなんですけど、売れている著者さんにはどんなに言われても、こっちは「はい!はい!」って、何とか本を出したいじゃん。ある著者さんが、「あ。じゅあ、降ります」って言って、すぐ降りるんですよ、意見が通らないと。
森上:ええ!それは1番やっちゃいけないパターンじゃない?
寺崎:でも、何回かやられて、こっちも「いや、それは困ります」みたいな感じで。そういう交渉をしかけてくる方だったね。「だったら私は降ります」みたいな。
森上:それは具体的には内容的な話で?条件面で?
寺崎:条件面もあったね。条件面が1番きつかった。
森上:条件面はあとからの話でってこと?最初は引き受けていたけど。
寺崎:いや、どういう話だったかな?色々とすごく厳しかったんですよ。「24時間以内に返信ください」とか言われて。
森上:なるほどね。それはやっぱり共同作業って感じじゃなくなっちゃうよね。半分敵対しちゃうよね。いいものが生まれないよね。それはきついですね。それって脅しじゃん。
寺崎:そうなんですよね。だから、最近あんまり著作を見かけないなあなんて思って、残念だなと思っています。
森上:なるほどね。そっかそっか。
今井:他の人に対してもそういう感じだったっていうことなのかもしれないですね。
寺崎:かもしれない。
編集者の領域に踏み込んでくる著者
森上:あとは共同作業として、信頼関係とそれぞれのやりとりによってまた変わってくるんだけど、過去の成功体験にずっとしがみついている人ね。
寺崎:これは著者に限らず、あらゆる人間の永遠のテーマだよね。編集もそうじゃん。結構成功体験を引きずっちゃうよね。
森上:これは何が言いたいかっていうと、編集者の意見を全く聞かないっていう。
寺崎:はいはいはいはい。
森上:「今はこういう感じの、こういう流れだから、こういう方向っていうのがありますよ」っていう話にも耳を傾けない。
寺崎:程度の差こそあれ、それはあるね。
森上:そのご本人の過去の成功体験がすごく邪魔をしている。で、もうデザイナーさんの領域まで踏み込んでくるでしょ。
寺崎:あー、「デザイナーさんは誰に依頼しますか?」っていうやつでしょ。
森上・今井:(笑)。
森上:それはまだギリギリ大丈夫なんだけど、そのあとね。デザイナーさんはデザイナーさんとしてプロフェッショナルで、我々も尊重して、その関係性でやっているわけじゃん。
寺崎:はいはいはい。
森上:そんなに信用できない人だったら発注した側がおかしいと思うから、それなりの意見交換をしながら尊重して、こっちの要望をどう伝えていくかっていうのをデザイナーさんと編集者でやるわけじゃん。そういうことを全く知らずにそこを飛び越えて、著者さんが踏み込んでくる感じ・・・。
寺崎:そうだね。でも、そこのあしらい方も鍛えられるっちゃ鍛えられるんだけどね。
森上:そうだね(笑)。
入稿直前になって大幅な変更を加える著者
寺崎:あと、残念というよりも実務上で困るのが、入稿ギリギリの直前になって、すっげえ変更してくる著者。
森上:(笑)。
寺崎:俺、結構あって。
森上:今もあるの?
寺崎:うん。「これ、入稿前日に言う?」みたいなことを・・・。1週間、2週間前に言ってくれれば対応できたんだけど。
森上:なるほどね。その意見がよかったりすると、差し替えなきゃってなるもんね。
寺崎:そうなんですよ。
森上:わかる、わかる。
寺崎:だから、やっとわかったんだと思うんですよ。気づいたのがたまたま入稿直前だったんだけど。
今井:(笑)。前日で直すんですか?
寺崎:直せるところは直すけど、全部その通りにするというわけではなくて。確かに著者の言う通りだなというところは時間的に余裕があれば直せるところは直したりしますね。
森上:そうだよね。そこの意見によさがあったら、できるだけ反映したいよね。
中小出版社の苦しい事情をわかってほしい!
寺崎:反映したい。あと、やっぱり出版社には毎月の刊行スケジュールがあって、落とせないっていう裏事情があるんだけど、そこをあまりご理解いただけない著者の方は、「寺崎さん、なんでそんなに急いでいるんですか?」とか言って。
森上・今井:(笑)。
寺崎:「そんなに急いで出してどうするんですか?」みたいな。
森上:(笑)。
寺崎:「いやいや、刊行予定っていうのがあって、予算の関係でですね・・・」みたいな。
森上:そうだよね。大手さんみたいに1ヶ月で何十冊も出しているところじゃないからね。1冊の重みが違うからね。
寺崎:そう。中小出版社なんてさ、本当に1冊1冊の売上の重みがでかいから。
森上:営業のプレッシャーもあるしね。
寺崎:そうなんだよ。営業部が「えー!これ、落ちるんですか・・・?」とか言って。
森上:そうなんだよな(笑)。そのあたりのせめぎ合いだよね。
寺崎:今、ある出版社の編集者の方が著者になって進めている企画が1個あるんだけど、それは本当にすごく理解してくださっていて。もう裏事情がわかっているから。
森上:そこはありがたいね。
寺崎:そうなんですよ。実はそれが、森上さんにはまだお伝えしていなんだけど、落ちそうなんですよ(笑)。
今井:(笑)。
森上:誰だか想像ついたけど、あの月のあの企画ね。
寺崎:今、差し替えの企画を調整しているところなんですけど。
森上:Voicyで刊行スケジュールの話をされるとは思わなかった。
寺崎:(笑)。
「あとはよろしく」系著者
森上:別で話をしましょう(笑)。まあ、そういうプレッシャーはあるよね。あと、我々は経験したことないけど、人に聞いたり、たまにそれに近い人はいるなって思ったのは全部お任せの人ね。
寺崎:あー、それはいいんじゃない。
森上:まあ、全部お任せはそれでもいいんだけどさ。
寺崎:「あとは、よろしく!」って?さわやかだけどね。
森上・今井:(笑)。
森上:「あなたの著作ですけど・・・」って。昔、ほら、松本伊代さんが自分の本を出して、「まだ読んでない」って言って。
寺崎:(笑)。あったね。そういう話。
勝手に書店に営業しちゃう系著者
森上:あとは、これはちょっと営業からクレームが入っちゃうんだけど、よかれと思ってやっているんだろうけど、勝手に著者さんが書店さんに行っちゃう感じね。
寺崎:うんうん。ありますね。
森上:営業からすると、書店さんも著者さんが来ちゃうと対応せざるを得ないし、いきなり来られ、書店さんは書店さんで人手不足で自分の仕事を止めざるを得ないと。それで営業にクレームがいくってなるんだけど。
寺崎:あるね。このVoicyって営業部は聞いていないから、ぶっちゃけて言っちゃうと、著者さんがそれをやっているのを知っていて、「一応、出版社は知らない体にしておいてください」って言ってやってもらっちゃう。
森上:(笑)。
寺崎:「ご自由にどうぞ」みたいな。でも、実際にそれで売れたケースがあったからさ。コミュニティ総動員で全国でやっていて。
今井:すごいですね。
寺崎:そう。これは止められないなと思って。「知らないふりをしますから」って言って。
森上:それ、誰だか想像ついた。
寺崎:また想像ついちゃった(笑)?
【結論】著者さんと喧嘩しようとも……
「売れたら全部チャラ」!
森上:なるほどね。それはあるよね。まあ、色々とありますけど、それでも売れたらっていう話だよね。
寺崎:もう売れたら全部チャラだよ。
森上:チャラだよね。どんなにきつくてもね。
寺崎:そうそう。どんなにひどい人でもどんなにひどいことを言われても、売れたらもういいでしょ。
森上:売れたらOK。そこがもう1番優先だよね。
寺崎:そうそう。それだけ険しい道のりだったりすると、売れると「あー。本当によかった」って。
森上:あの時喧嘩してでもああしてよかったなって、全部報われるんですよね。
寺崎:全部裏返って、オセロが白になるみたいな感じ。
森上:一気に変わるよね。4つの角を取っちゃった感じだよね。
寺崎:そうそうそう。
森上:全部変わるもんね。大逆転だよね。だから、売れるっていうのが1番の救いだし、正義だね。我々の様な商業出版においては。
寺崎:そうですね。
今井:“編集者あるある”ということだったんですけれども。本日は「編集者にとってちょっと残念な著者」についてお話していただきました。森上さん、寺崎さん、ありがとうございました。
森上・寺崎:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)
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