俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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朽木様より頂きましたバニードロシーです
これも販促のため・・・・・・





三十五話 スレイヤーとは、ブロッククリーチャーに与えたダメージを致命的にすることである

 

 

 

 学校から徒歩十分弱。

 駅前からは同じぐらい。

 ただし、全員揃っての帰路から少し外れただけの場所で見つけた喫茶店ペルマト。

 観賞魚の泳ぐ大きな水槽がトレードマークのぼくらの隠れ家のような店だ。

 

 

「少しは落ち着いたかい?」

 

 

 学校から出たぼくたちは、連れてきたドロシーにそう訪ねた。

 部活は申し訳ないがパスだ。それどころではない。

 

「……ドアが悪いんです」

 

 泣き腫らした目。

 

「はいはい、それはわかっとるわ」

 

 泣きすぎたせいか鼻が垂れている。

 そんなドロシーに、甲斐甲斐しくリナがティッシュで鼻をかませている。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「ほらほら、もう泣いてばかりやと話が進まんで」

 

 彼のあの態度……多分、こっちがハメたように思われたんだろうな。

 

 外にも部員を配置していたとかそういう風に思われていたのかもしれない。

 実際にはそんなことはなかったし、飛び出したドロシーも他の部員たちには付いてこないように言ってたようだけど。

 ともかくタイミングが悪い。

 どうしたものかと悩ましい。

 

「そういって深い事情がありそうやなと、ドアが話してくれるまで待とうって放置してたのはうちらやけどさ。もうそんな場合じゃないやろ?」

 

「だね」

 

 ドロシーが部活に入る時に、トラブルがあったという話は後から聞いた。

 しかし言ってはなんだが、既に終わった話だ。

 叩き出された元副部長の代わりに、ぼくが退院から復学してエレウシスへの準備に忙しかった。

 いや、これも言い訳だな。

 部長として、不在中だったとはいえ起こったトラブルに対して確認を怠っていたぼくの責任だ。

 なんとかする必要がある。

 

 そのためには。

 

「ともかく、だ。ドロシー、実際のところなにがあったんだい?」

 

 事情がわからなければ動きようがない。

 部員や噂の風評ではとてもじゃないが真実とは思えない。

 

 それぐらいには彼は紳士的だった。

 

「……」

 

「だんまりはなしだ。ドロシー、話しにくいのはわかるけれど」

 

「ァ、違うんです」

 

「違う?」

 

「……本当に茂札さんが悪くないのに信じてくれなかったんです」

 

 

 

ドアの話を

 

 

 

 

 

 

 ドアはLife……カードゲームなんてやったことがありませんでした。

 あ、もちろんテレビとか、学校とかでやってる人は見たことがあります。

 けど中学までは習い事とか水泳で忙しかったんです……水泳はもう辞めちゃいましたけど。

 Lifeを始めたきっかけは、リナには話しましたよね。

 

 占光(せんこう)学校に入って、ドアは時間を持て余してました。

 

 水泳をやめて、やることがない。

 絵を描く事なら家や先生のところで教わって習えばいい。

 なにかに集中しようと思っていたことがなくて、ドアは迷っていたんです。

 美術部にでも入ろうと思ったんですけど、本気でやっている人はいなくて、だったら帰宅部でいいかなって。

 そんな時でした。

 描くものが見つからないって相談をした絵の先生に、Lifeを教えてもらったんです。

 そうです、カードのデザイン。

 銀河乙女(アウターアムニオン)っていうテーマのカード。

 それがとても綺麗で、魅かれて、先生曰くこれを扱っていたプロのファンだったんだって。

 【蒼鎖の乙女】

 もっとも美しく戦うファイターって言われてた人で、ドアと同じぐらいの年齢だったって。

 突然引退してしまったけれど、彼女の使うカードやそのファイトはとても綺麗だったと先生が言っていたんです。

 

 だからドアもLifeを始めてみようと、Life部の体験入部に言ったんです。

 

 当時のLife部にはまだあの副部長もいたんですが、女性の部員も何名かいました。

 でももう新しく入った部員の人たちはグループが出来ていて、あと……ドアはその、あまり他の女生徒に好かれにくいみたいで、上手く入れなかったんです。

 ドアは、ドアの前でどうしょうか迷ってしまって。

 もういっそ帰ってしまおうか。

 

 そんな時に声をかけてくれたのが茂札さんだったんです。

 

 ドアの顔を見て、中に誰か知り合いがいるか? て聞いて、ドアが違うって言うと、ゆっくり色々聞いてくれて。

 それでなんとか体験入部をしたいんだって伝わったんです。

 あの元副部長にも、話してもらえて、それでどんなことをしているのかLife部の活動を丁寧に教えてもらったんです。

 ルールもその時わからないって言ったら、他の部員さんも教えてくれようって沢山話しかけられたんですけど、ドアは困ってしまったんです。

 右も左もわからなかったですから。

 でもその時も茂札さんに助けてもらったんです。

 

 まず、どんなデッキに興味がある? って。

 

 部室に置いてあったデッキ……その時のいくつかは他の部員さんが使ってたんですけど、残ってたデッキを全部もってきてくれて。

 テーブルの上で一つ一つ、デッキの絵とか見せてくれながら、どんなデッキなのか教えてくれました。

 ドアがその時気になったのは”妖鬼管弦楽団(トロルオーケストラ)”のデッキでした。

 

 妖鬼管弦楽団の木管楽器隊、妖鬼管弦楽団の金管楽器隊、妖鬼管弦楽団の打楽器隊、指揮者に、山峰に轟く聖歌。

 怖い顔をしたオーガとか、怪物とかが一生懸命楽器を鳴らしてたり、顔を真っ赤にしてラッパを吹こうとしてるオグルくんとか、そんな姿が可愛くて面白そうって思ったんです。

 それならっていって、茂札さんが他のデッキ。

 ゴブリンプラントのレンタルデッキと一緒に、遊び方を教えてくれたんです。

 テーブルで、茂札さんは手札を見えるようにおいて。

 ドアも同じようにして。

 ライフデッキの引き方とか、カードの置き方とか対面したまま教えてくれました。

 最初に効果がわからないとか、どういうカードなのか、説明しながら並べてくれて、すごくわかりやすかったんです。

 レディ、アップキープ、ドロー、ぽんっぽんって聞こえやすくて。

 最初は恥ずかしかったんですけど、宣言するのはマナーとして当たり前だって教えてくれて、告げて、そうやって覚えたんです。

 相手にわかりやすく、そしたら自分も迷わない。

 楽しく遊ぶ。

 そして、勝負なら真面目にやろう。

 

 最初の一日はルールを覚えるので一生懸命でした。

 でも楽しかった。

 茂札さんの手札とか、出したカードとかわからなくて、その度に嫌な顔一つしないで教えてくれたんです。

 

 二日目も同じように”妖鬼管弦楽団”のデッキを使わせてもらって、茂札さん以外の部員の人たちもテーブルでファイトをしました。

 まだ上手く戦えなくて負けたりもしたけど、時々勝てた時は本当に嬉しくて。

 一つ一つ、すごく楽しい時間でした。

 部活では、茂札さんが組んでたレンタルデッキ……え? 部長知らなかったんですか。

 あのレンタルデッキ、半分ぐらい茂札さんが組んだ奴だって。

 ええ。で、それで部活のストレージの整理をしたり、そこから40枚。寄せ集めでデッキを作るのが趣味だったみたいで、ルールとかカードには凄い詳しいのに強いのか弱いのかよくわからないやつだって言われてました。

 部員の人たちにも組んだばかりのデッキで負けたり、直して勝ったりとかってのが日常茶飯事で。

 デッキが強ければ強いけど、大体変なデッキで負けることが多いみたいな。

 自前のデッキ?

 えっとドアが聞いたのは”コントロールゴブリン”。

 他のテーマのカードを何枚もピン差しとかにして、とにかくゴブリンを並べたりして倒すデッキだって言ってました。

 ただ色んなデッキを使うのが好きだって、あまり強くないけどファイトするのは楽しいって言ってました。

 そんな茂札さんのファイトはギャンブルみたいだって。

 運任せで弱いっていう人もいれば、本気を出せばもっと強いんじゃないかって、もしかしたら元副部長よりも強いのかもしれないって。一回だけ部活のフリープレイで元副部長に勝ったことがあったそうです。

 とても悔しがってたとか。

 まあリナさんはその時から幽霊部員でしたけど。

 

「しゃあないやん。ジグおらんし、強い奴おらんかったから」

 

「元副部長くんがいただろ」

 

「あいつ、うちのこと見下してたからなぁ」

 

 話を戻しますね。

 でも、茂札さん。かなり皆に慕われてたと思います。

 きちんとテーブルでやる時は普通の柄のプレイマット敷いて、帰る時は掃除もしていて、ファイトしていない時はストレージとかのカードを整理してましたから。

 あそこに置いてあるカードリスト、茂札さんがノートで書いて、それからパソコンで打ち出したそうです。

 上級生の人はなんか雑用係とかって言ってましたけど、気にした様子もなくて、同学年の人とは仲良かったです……もうやめちゃいましたけど。

 それで、うん。

 三日目です、覚えてます。

 茂札さんに、そろそろ自分でもデッキを作ってみようって相談したんです。

 Lifeってどこで買えばいいのかわからなくて。

 その時、近い場所とか、駅ならどこ寄るか聞かれたりして、それで確か女性が経営者でMeeKingってお店いくんならどうかなって教えてもらいました。

 部の皆でいく行きつけの店で買ってもいいし、一人でとか、友達を誘っていくからそっちでもいいんじゃないかなって。

 どうせなら茂札さんに店まで一緒に行ってくれませんかって頼みました。

 そしたら、何故か凄い困った顔をしてしまって。

 少し時間がかかってからいいよって承知してもらったんですよ。

 ドアなにかまずいことしたんでしょうか……なんです、二人共その顔は。

 

「「紳士だったんだねぇ」」

 

 ?

 カードショップにいくぐらいおかしくないと思うんですけど。

 リナさんやジグ部長とは違うお店ですけどいきましたし。

 でも……茂札さんとは結局いけませんでした。

 

 三日目。

 部活に珍しく元副部長がいたんです。

 それでドアは挨拶をして、茂札さんも意外そうな顔をしてたんですよ。

 元副部長ですが、受験の準備でそうそう顔を出せないっていってましたから。

 

 それで……元副部長は私たちに、あの箱のことを言いました。

 

 そうです。

 ”天界龍(エンジェルハウンド)”のデッキが入っていた箱です。

 使ってたOBがエレウシスの個人戦で三連覇優勝したとか、それ以来誰も開けられなかったとかっていって。

 使えたら過去の栄光をもう一度、みたいに茶化して言ってたんですが……それでも新入部員は一度試すのが風習だって。

 茂札さんも試したけど、普通に開けられなかったっていってました。

 錆びてるだけだから油差したほうがいいっすよ、副部長とかっていって。

 そんなものとっくに試したわバカって、ちょっと口喧嘩して。

 仲は悪くなさそうでした。

 それで、ドアもどうせ開かないと思って試してみたら開いたんです。

 

 はい。驚きました。

 

 あんまりあっさり開いたからいたずらかと思って振り返ったら元副部長があんぐり驚いてて、茂札さんは接着剤だった? なんて感想をいってて。

 それで中には40枚のメインデッキがありました。

 部員の皆で集まって、それがなんなのか驚いてました。

 ドアが代表で手にとって、中のカードを、デッキの中身を見たんです。

 それは天界龍のデッキでした。

 前に残した人が組んだカードのままのデッキ。

 

 それでどんなデッキなんだろうって、テーブルのファイトで試したんです。

 茂札さんに相手をお願いして、デッキは”妖鬼管弦楽団”で。

 天界龍のデッキ。

 確かに強かったです。でも、効果が複雑で三回ぐらいやって、二回ぐらい負けてしまって。

 これどうやって使えばいいんだろう、わかんないってなった時。

 

 茂札さんが「ちょっと使わせて」 そういってくれたんです。

 

 皆の前で”妖鬼管弦楽団”と”天界龍”のデッキを入れ替えて、それでファイトを……

 

 ライフデッキを置いて、メインデッキからカードを引こうとした。

 それだけなのに。

 

 

 ばんって音がしたんです

 

 どこかで雷が落ちたのかと思うような音でした。

 私びっくりして、え、驚いて。

 そしたら茂札さんの右手から血が出てたんです。

 焦げ臭い香りがして、”天界龍”のデッキから手を放して、呻いていて。

 

 ドアは、私は驚いて、謝ったんです。

 大丈夫ですかって。

 そしたら茂札さんは汗ながしながら、やせ我慢の笑顔で大丈夫大丈夫っていってくれたんです。

 茂札さんの右手を私、ハンカチとかで止めて、救急車を呼んでっていったんです。

 保健室につれていったほうがいいって。

 

 なのに、あの元副部長が。

 

「盗もうとしたって?」

 

 はい。

 茂札さんが、デッキを奪おうとしたから罰が下ったんだって。

 そうじゃなければ焼かれるわけがないって。

 そう真っ先に言ったんです。

 

 そんなわけがないのに。

 みんなも半信半疑でした、けどもしかしてってなんでか混乱していて。

 茂札さんは手の怪我と一緒に殆ど失神してて、それでなんとかドアは他の廊下を歩いてた人たちに助けを求めて、保健室に運んだんです。

 それで……

 

 

 戻ったら、ああなってました。

 茂札さんが悪いって。

 私はデッキを盗まれそうになった被害者だって。

 

 そんな風に噂が流れてたんです。

 

 

 

 

 それが――あの日にあった、ドアが体験した事件です。

 

 

 

 

 誰も信じてくれないけれど、本当に。

 茂札さんは悪くないのに……






 ふぅー。
 ふぅー!
 ぷぅー!
 ……バゴン!

 ほら、このほうがいい音が鳴る!


  ――今は未熟な角笛吹きオグル
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