母性行動を維持するには「子供の存在が必要」
通常、ラットは妊娠するまで子ラットに嫌悪感を示す。しかし、ひとたび出産すると態度は急変する。あらゆる種で見られる典型的な行動を示すようになるのだ。
巣を作り、子ラットを舐め、身体をかがめて授乳する。巣の外に出てしまった子ラットを見つけると巣に戻す。子ラットが生まれた直後からそうした行動がとれるのだ。
しかし、誕生直後に子ラットを巣から取り除くと、母親のこうした行動は急速に消え去ってしまうことをローゼンブラットとレーマンは発見した。里子の子ラットをあてがって世話をさせようとしても、ほとんどの場合、世話ができなかった。
ホルモンと妊娠・出産による生理学的変化が母性行動の開始を促すが、行動を維持するためには「子供の存在が必要」だと彼らは1963年に出版した重要な論文で述べている。
出産は変化を活性化させるが、母親として成長するには子ラットとの相互作用が必要で、それには時間がかかるのだ。
彼らはさらに、母親と子ラットの行動は固定されたものではなく、柔軟であることを様々な方法で明らかにしていった。母子の発達は互いのニーズと行動に応答して変化する。出産後の特定の時期に子ラットを巣から取り除いたり、年齢が違う里子と交換すると母親の行動は変化した。
赤ちゃんと一緒に過ごしたオスラットの変化
逆に、年長の子ラットを新しい母親の管理下に置くと、養母のラットは子ラットに通常より注意を払い、子ラットの発育は遅くなった。母ラットは硬い鍵穴(※)ではなく、成長し変化する存在だったのだ。
(※)ローレンツは生得的な行動とその引き金となる刺激を説明するため、鍵と鍵穴の比喩を用いた
1967年にローゼンブラットは、母性についての一般的な考えをさらに揺るがす研究結果を発表した。
彼と動物行動研究所の同僚らは全くの偶然から、未交配のメスラットが十分に子供の群れにさらされると、子供の世話を始めることを発見したのだ。
実験では、赤ちゃんラットと10日以上一緒に過ごすと、ほとんどの未交配のメスラットが巣を作り始め、実際にはお乳が出ないのに、授乳するように身をかがめた。実験室の外では通常は子供の世話をしないオスラットも、赤ちゃんと一緒に過ごすと、メスの未交配ラットと同じように子供を舐めたり巣へ戻したり、身をかがめて授乳しようとした。
確かに母ラットが出産時に経験するホルモンは母性行動を急速に促進するようだ。しかし、そうしたホルモンがなくても、また性別に関係なく、同じような行動をとるようになる。
「母性行動は、従って、ラットの基本的な特性である」とローゼンブラットは結論づけた。幼い者を世話して保護しようとする強い衝動は、メスラットの特性ではなく、種全体の基本的な特性だと発見したのである。

