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抜けカットはなぜ打ちにくいのか?

今回は「抜けカット」や「抜けスラ」と呼ばれる、抜けたカットボールやスライダーについて書いてみます。
元々抜けた変化球はミス球であり、ゾーンに甘く入って痛打されるというイメージは強いと思います。しかしスライダーやカットボールといった球種では、抜けても打たれづらいという特徴があります。
スライダーやカットボールは抜けると変化が小さくなり、打者に「思ったより変化しない」と思わせることができ、打者の予想出来ない・反応出来ない軌道になるからでしょう。

例えばスポーツ番組『S-PARK』による『プロ野球100人分の1位 変化球部門』では、秋山翔吾選手が唐川侑己投手の「抜けカット」を挙げ「曲がってくれたらそれなりの軌道の捉え方をしにいくんですけど、あまり曲がらない。真っすぐにも見えるし、打ったらカットだった。魔球ぽかった。」とコメントしていました。
また山岡泰輔投手は昨シーズンオフから新球として「抜けカット」の習得に取り組んでおり、「打者は抜けカットが一番打ちづらい、という話を聞いた。これを意図的に投げられたら」とコメントしていました。

NPBでは森唯斗投手や桑原謙太朗投手が、この抜け気味のカットボールが大きな武器の1つです。

ではなぜこの「抜けカット」は打者に対して有効なのでしょうか?
そして他の変化球が抜けるケースとは何が違うのでしょうか?
これらを考えていきたいと思います。

1, 「抜く」リリースと「引っかける」リリース

まずリリースにおいて「抜ける」とはなんなのかを考えていきます。
リリースにおけるミス、不具合には大きく分けて2つに分けられます。
抜ける」と「引っかける」の2つです。これらはリリース時にボールに対する指の力のかかり具合によって分けることができます。

投球におけるリリース時のボールをクローズアップしてみます。
投球動作が始まってからボールは、主に腕によってリリースポイントまで持って運ばれてきます。トップからリリースまで、ボールは主に肘を中心とした回転運動によって加速されます(細かく見れば前に踏み出す並進運動から上体の回転などありますが、簡略化のため最後の回転運動だけ取り上げます)。

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リリースする瞬間のボールは重力はもちろんですが、ボールに触れている指から伝わる力を受け、また回転座標系で見るとボールには遠心力が働くと見ることができます。
この指からボールに伝わる力を水平方向と鉛直方向に分解すると、水平方向にはボールを進行方向に押し出す力、鉛直方向にはボールを押さえ込むような向心力が働いていることが分かります。

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これをまとめると上のように、
水平方向は
指で押し出す力→球速へと変換される
鉛直方向は
遠心力≒指で押さえ込む力
の関係が成り立つことが分かります。

この時鉛直方向の力の釣り合いが重要で、遠心力とボールを押さえ込む力の大小によって「抜ける」か「引っかける」のかが決まります。
腕の振りによる遠心力と指による押さえ込む力がほぼ釣り合う時、しっかりとしたキレイなリリースができますが、ボールを押さえ込む力が大きいとき遠心力に勝ってしまいボールを引っ掛けてしまい叩きつけてしまいます
逆にボールを押さえ込む力が小さいと遠心力の方が勝ってしまいボールはすっぽ抜けてしまいます
アームアングルに合わせて、右投手の場合引っかけるとボールは左下に外れていってしまい、抜けると右上に外れていってしまいます。

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実はこの「抜き」気味リリースと「引っかけ」気味リリースの2種類、変化球を投げ分ける際に自然と使い分けています。
引っかけるリリースは大きい力を伝えることができるので、強いリリースをすることができ球速を出すことができます。特にカットボールやスラッターはこのリリース要素が強いはずです。
抜くリリースは文字通りボールに伝わる力が抜けているので、球速は出しにくいリリースです。しかし球速は出ない分回転数の高いボールを投げることができます(カーブやスラーブ)。指で挟んで抜くことで回転数の低いフォークを投げるのも、こちらのタイプだと考えられます。
ちょうど中間がフォーシームになります。
(余談ですが、近年カットボールやスプリット、高速チェンジアップなど速い変化球が全盛で、これはできるだけ強い「引っかけ」気味のリリースで速い変化球を投げようという意図があるかもしれません。)

2, 「抜けカット」の特徴

1章では「抜ける」とは腕の振りに負けて指でボールを押さえ込めていない状態だと確認しました。
それでは「抜けカット」は通常のカットボールとは何が違うのでしょうか。

それは文字通りリリース時に「抜けている」ところが大きな違いになります。リリース時に「抜ける」ことで、ボールは指の押さえ込む力に勝って飛び出すような形になります。

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つまり「抜けカット」は通常のボールの投げ出しに比べて、発射角が上がりリリース時に投げ上げられているようになります
投げ上げられた結果、抜けたボールは通常よりも高い軌道を描きます(上図青色の軌道)。通常の変化球(フォーク、カーブ、スライダー、チェンジアップなど高Spin efficiency変化球)であれば、途中からTrue spinの影響で空気抵抗が大きくなり変化してしまいます。そしてストライクゾーン内の甘いコースに入ってしまい、痛打されるケースが多いのだと考えられます(上図紫の軌道)。
しかし「抜けカット」や「抜けスラ」のような低Spin efficiency変化球はTrue spinの影響が小さく、空気抵抗が小さく減速の影響が小さいままあまり落ちない軌道になります(上図青の軌道)。その結果打者は抜けたボールの下を振ってしまう格好になります。「抜けカットはそのまま抜けていってくれる」などと表現されますが、まさにその通りになります。
また軌道だけでなく減速具合が小さいので、到達時点での球速が打者にとって予想より速く感じられ差し込まれるような感じになります。

アンダースロー特有の投げ上げるリリースから投じられる曲がらないスライダーも似たような軌道になります。

またリリース時に抜ける過程で少し回転軸が変わり、ジャイロスピン要素が減少しバックスピン要素が少し増えるなどの要因も考えられます。
こちらのnoteでも述べたように、「ジャイロスピン要素の多いスライダーやカットボールは、少しのバックスピン要素の増加でもマグヌス効果の影響が大きい」です。抜けカットも少しバックスピン要素が増加しただけで、軌道が垂れにくくなると考えられます。

抜けカットは、
・発射角が上がり投げ上げられることで、予想より上の軌道で通過する
・Spin efficiencyが低いことにより減速が小さく、予想よりも到達速度が速いので差し込まれる
・Spin efficiency・バックスピン要素の微増により、軌道が垂れにくくなる

3, 意図的な「抜けカット」

ここまで見てくると、「抜けカット」は偶然の産物のように思われます。
しかしこの「抜けカット」的な軌道を意図的に投げるピッチャーもいます。もちろん「抜けカット」の抜けるリリースの力感を再現できるピッチャーもいるとは思いますが、ここでは回転軸を操作することで意図的に「抜けカット」的ボール(ライジングカットとも言われたりします)を投げる2人の投手を取り上げさせていただきます。
ご存知の方も多いとは思いますが、マリアノ・リベラ投手とケンリー・ジャンセン投手です。

この2人の投手は特殊なカットボールを操る投球をしています。
Baseball savant上の2人のトラッキングデータを見てみましょう。

青丸で表示しているのがリベラ投手で、緑丸で表示しているのがジャンセン投手で、比較のためにMLBでも有数のカットボーラーであるダルビッシュ有投手も載せています。
2人のカットボールはダルビッシュ投手の球速が速く曲がりの小さいHard cutterよりもホップ量がかなり大きいことがわかり、まさに抜けカットといっても過言ではないことがわかります。変化量から見るとスライドしながらホップしてくる球で、左オーバースローのブレイク・スネル投手のフォーシームとほぼ同じ変化量であることがわかります。つまり右ピッチャーが左ピッチャーのような球を投げるという軌道とフォームのミスマッチを生み出す特殊なカットボールということです。
またFC単体での変化量の分布が広いことから、ホップしたり、少し落ちたりなどの1つの球種で様々な変化を持っていることがわかります。
それに加えてリベラ投手はカットボールよりもシュートして沈んでくるFF(ツーシームファストも含む)を投げ分け、ジャンセン投手はフォーシームとカットボールより変化量の大きいスライダーを投げ分けています。

この2人のカットボールは、通常のカットボールとは少し回転軸が異なります。お股ニキさん著の「ピッチングデザイン」に3種類のカットボールの分類が掲載されていますが、今回の抜けカット的カットボールはそれの「バックスピン型」に当たります。

図での回転軸の再現が難しいので、データから算出された回転軸はBaseball savantから直接見てください(リンクを踏めばそのまま行きます)。
これを見るとジャイロボールのnoteで紹介した回転軸が上に傾いたものと右に傾いたものを合わせたような回転軸をしています。

このように2つのホップ成分とスライド成分の両方の要素を併せ持ったカットボールになっています。先の変化量グラフを見てもそれは納得していただけると思います。

投げ方も書いていきますが、このカットボールを投げる人は中指が長く元々フォーシームがカットしやすい(カット癖がある)人が多く、その人特有のボールの面は強いと思っています。
握りはカットボールと同様に親指を曲げず、親指と人差し指がボールの中心線を通るような感じです。
リリースの時に手首を外転させ(手首を親指側に曲げる)、人差し指と中指のひねりでスライド成分を与えるのが重要だと考えられます。

まとめ

・リリース時にボールを指で押さえ込む力が強すぎると「引っかかる」、弱すぎると「抜ける」現象が起こる
・抜けカットは通常のカットボールより、発射角が上がっており、Spin efficiencyが低いことにより減速が小さいので、軌道が垂れにくくなる
・抜けカット的カットボール(ライジングカット)はホップ成分とスライド成分の両要素を持ち合わせた、左ピッチャーのフォーシームのような特殊なボール

※途中の遠心力云々は多少不正確な記述もあるかもしれませんので、何かあれば教えていただけると幸いです。ある程度説明を簡略化するためではあるのでそこらへんはご理解ください。

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