第9話
第九話:鉄槌の舞台
「――全警備隊に通達!」
鉱山の入り口を見下ろす丘の上、俺は集まった部隊を前に声を張り上げた。
ダンカンを隊長とする警備隊、そして武器を手にしたドワーフたち。その顔には、恐怖ではなく、決意と高揚が浮かんでいた。
「これより、我々は領地に侵入した害獣の駆除を行う! 敵の数は我々を上回るが、恐れるな! 奴らは正規軍ではない、金で雇われただけの烏合の衆! そして何より、奴らを率いる指揮官は、王国一の無能だ!」
俺の言葉に、ドッと笑いが起きる。士気は最高潮だ。
「我々の戦場は、この鉱山。我々が作り上げた、難攻不落の地下要塞だ! 地の利は我らにあり! 作戦通り、敵を坑道深くまで誘い込み、一人残らず殲滅する! 作戦名は――『大掃除』だ!」
おおっ!と、雄叫びが上がる。
愚かな兄を迎え撃つ、最高の役者たちは揃った。
◇
半日後、ベルトラン率いる武装集団は、グリンドル鉱山の前に姿を現した。
彼らは、道中ほとんど抵抗らしい抵抗も受けず、ここまでたどり着けていた。
「フン、小賢しい。こんな穴倉に立てこもりおって!」
ベルトランは、がらんとした鉱山の入り口を見て、勝ち誇ったように笑った。
「腰抜けのノアめ、恐怖で震えているに違いない! いいか、お前たち! 抵抗する者は一人残らず斬り捨てろ! あの出来損ないを捕らえた者には、一生遊んで暮らせるだけの褒美をくれてやる!」
金に目が眩んだ傭兵たちが、雄叫びを上げて坑道の中へとなだれ込んでいく。
ベルトランもまた、自分の勝利を微塵も疑わず、意気揚々とその後に続いた。
彼らが、自ら地獄の顎へと足を踏み入れたことに、まだ誰も気づいていなかった。
◇
「――今だッ!」
ベルトラン軍が、坑道の中央広場まで到達した瞬間、俺は合図を送った。
次の瞬間、轟音と共に、彼らが通ってきた入り口と、前方の通路が、ドワーフたちの仕掛けた落盤トラップによって巨大な岩で完全に塞がれた!
「な、何事だ!?」
「罠だ! 閉じ込められたぞ!」
混乱する兵士たち。さらに、天井に仕掛けられた水路の栓が抜かれ、滝のような水が彼らの頭上に降り注ぐ。松明の火は次々と消え、坑道は視界の効かない闇とパニックに包まれた。
そこへ、俺たちの反撃が始まった。
「撃てぇっ!」
ダンカンの号令と共に、坑道の側面に無数に掘られた抜け穴から、警備隊の放つ矢が雨のように降り注ぐ。
暗闇と地の利を活かした、完璧なゲリラ戦。敵はどこから攻撃されているかも分からぬまま、次々と数を減らしていく。
そして、俺はとどめを刺す。
事前に設置しておいた伝声管を使い、俺の声だけを坑道全体に響き渡らせた。
「ベルトラン兄上、聞こえますか? 私の領地へようこそ」
闇に響く俺の声に、ベルトランが「誰だ!」と狼狽えるのが分かった。
「弟のノアですよ。あなたのために、最高の舞台をご用意しました。あなたの無能な指揮のせいで、あなたの部下たちが死んでいきます。どんなお気持ちですかな?」
「だ、黙れ、黙れ、黙れぇっ! 出来損ないの分際で、この俺を謀ったな!」
「人聞きの悪い。これはただの正当防衛ですよ。領地を不法に襲撃してきた盗賊を、駆除しているだけです」
「き、貴様ぁぁぁっ!」
ベルトランの狂乱した怒声が響き渡る。だが、その声はもはや兵士たちの心には届かない。指揮官への信頼は地に落ち、傭兵たちは武器を捨てて次々と投降を始めた。
「隊長! もう無理です! 退路がありません!」
「うるさい! 臆病者めが!」
ベルトランは、撤退を進言した味方の傭兵を斬り捨てた。その凶行が、彼の軍隊の完全な崩壊を決定づけた。
もはや、戦いではなかった。それは、一方的な掃討戦。
やがて、投降を拒んだのは、ベルトランと、彼の側近である数人の騎士だけになっていた。
追い詰められた彼らは、坑道の最深部――俺が最後の舞台として用意した、最も大きな広間へと逃げ込んでいく。
そして、そこで彼らが見たのは……
いくつものランプに照らされた広間の中央。
玉座のように岩に腰掛けた俺と、その隣に静かに佇むイザベラ。そして、周囲を固めるダンカンと、屈強な警備隊の兵士たち。
俺は、絶望に顔を歪める兄に向かって、静かに立ち上がった。
「さて、兄上。言い訳があるなら、聞きましょうか」
冷たく響き渡る俺の声が、愚かな侵略者の、終焉を告げていた。編集長、第九話の原稿をお届けいたします。
いよいよ、次兄ベルトランとの直接対決。ノアが用意した最高の「舞台」で、愚かな兄が完膚なきまでに叩きのめされる、「ざまぁ」のクライマックスとなります。
主人公の策略が完璧に嵌る爽快感を、存分にお楽しみください。
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### **第九話:鉄槌の舞台**
「――全警備隊に通達!」
鉱山の入り口を見下ろす丘の上、俺は集まった部隊を前に声を張り上げた。
ダンカンを隊長とする警備隊、そして武器を手にしたドワーフたち。その顔には、恐怖ではなく、決意と高揚が浮かんでいた。
「これより、我々は領地に侵入した害獣の駆除を行う! 敵の数は我々を上回るが、恐れるな! 奴らは正規軍ではない、金で雇われただけの烏合の衆! そして何より、奴らを率いる指揮官は、王国一の無能だ!」
俺の言葉に、ドッと笑いが起きる。士気は最高潮だ。
「我々の戦場は、この鉱山。我々が作り上げた、難攻不落の地下要塞だ! 地の利は我らにあり! 作戦通り、敵を坑道深くまで誘い込み、一人残らず殲滅する! 作戦名は――『大掃除』だ!」
おおっ!と、雄叫びが上がる。
愚かな兄を迎え撃つ、最高の役者たちは揃った。
◇
半日後、ベルトラン率いる武装集団は、グリンドル鉱山の前に姿を現した。
彼らは、道中ほとんど抵抗らしい抵抗も受けず、ここまでたどり着けていた。
「フン、小賢しい。こんな穴倉に立てこもりおって!」
ベルトランは、がらんとした鉱山の入り口を見て、勝ち誇ったように笑った。
「腰抜けのノアめ、恐怖で震えているに違いない! いいか、お前たち! 抵抗する者は一人残らず斬り捨てろ! あの出来損ないを捕らえた者には、一生遊んで暮らせるだけの褒美をくれてやる!」
金に目が眩んだ傭兵たちが、雄叫びを上げて坑道の中へとなだれ込んでいく。
ベルトランもまた、自分の勝利を微塵も疑わず、意気揚々とその後に続いた。
彼らが、自ら地獄の顎へと足を踏み入れたことに、まだ誰も気づいていなかった。
◇
「――今だッ!」
ベルトラン軍が、坑道の中央広場まで到達した瞬間、俺は合図を送った。
次の瞬間、轟音と共に、彼らが通ってきた入り口と、前方の通路が、ドワーフたちの仕掛けた落盤トラップによって巨大な岩で完全に塞がれた!
「な、何事だ!?」
「罠だ! 閉じ込められたぞ!」
混乱する兵士たち。さらに、天井に仕掛けられた水路の栓が抜かれ、滝のような水が彼らの頭上に降り注ぐ。松明の火は次々と消え、坑道は視界の効かない闇とパニックに包まれた。
そこへ、俺たちの反撃が始まった。
「撃てぇっ!」
ダンカンの号令と共に、坑道の側面に無数に掘られた抜け穴から、警備隊の放つ矢が雨のように降り注ぐ。
暗闇と地の利を活かした、完璧なゲリラ戦。敵はどこから攻撃されているかも分からぬまま、次々と数を減らしていく。
そして、俺はとどめを刺す。
事前に設置しておいた伝声管を使い、俺の声だけを坑道全体に響き渡らせた。
「ベルトラン兄上、聞こえますか? 私の領地へようこそ」
闇に響く俺の声に、ベルトランが「誰だ!」と狼狽えるのが分かった。
「弟のノアですよ。あなたのために、最高の舞台をご用意しました。あなたの無能な指揮のせいで、あなたの部下たちが死んでいきます。どんなお気持ちですかな?」
「だ、黙れ、黙れ、黙れぇっ! 出来損ないの分際で、この俺を謀ったな!」
「人聞きの悪い。これはただの正当防衛ですよ。領地を不法に襲撃してきた盗賊を、駆除しているだけです」
「き、貴様ぁぁぁっ!」
ベルトランの狂乱した怒声が響き渡る。だが、その声はもはや兵士たちの心には届かない。指揮官への信頼は地に落ち、傭兵たちは武器を捨てて次々と投降を始めた。
「隊長! もう無理です! 退路がありません!」
「うるさい! 臆病者めが!」
ベルトランは、撤退を進言した味方の傭兵を斬り捨てた。その凶行が、彼の軍隊の完全な崩壊を決定づけた。
もはや、戦いではなかった。それは、一方的な掃討戦。
やがて、投降を拒んだのは、ベルトランと、彼の側近である数人の騎士だけになっていた。
追い詰められた彼らは、坑道の最深部――俺が最後の舞台として用意した、最も大きな広間へと逃げ込んでいく。
そして、そこで彼らが見たのは……
いくつものランプに照らされた広間の中央。
玉座のように岩に腰掛けた俺と、その隣に静かに佇むイザベラ。そして、周囲を固めるダンカンと、屈強な警備隊の兵士たち。
俺は、絶望に顔を歪める兄に向かって、静かに立ち上がった。
「さて、兄上。言い訳があるなら、聞きましょうか」
冷たく響き渡る俺の声が、愚かな侵略者の、終焉を告げていた。
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