やなせたかしが亡くなる4カ月前に伝えたメッセージ 「自分が傷つくことも覚悟して、それでもやらずにはいられない、それこそが正義」【あんぱん最終回】
本当の正義というのは、相手をやっつけるということではないんだよ。そこにひもじい人がいれば一切れのパンをあげる、そこにおぼれそうな人がいれば助けてあげるということ。そして、それをやる人は非常に強い人かといえば、そうじゃない。例えば、線路に落ちた人を助けようとして自分が死んでしまった人がいる。この人はごく普通の人。ただその時に、それをせずにはいられなかった。決して強くはない人が、自分が傷つくことも覚悟して、それでもやらずにはいられない、それこそが正義だと思う。 アンパンマンはちょっと水にぬれただけで弱ってしまって、すぐジャムおじさんに助けを求める。史上最弱のヒーローなんだ。我々と同じで非常に弱い。弱いんだけど、どうしてもやらなくちゃいけない時は、自分を犠牲にしてでも戦う。それが本当の正義だし、本当の強さだと僕は思っている」 《だからこそ、やなせさんはこだわる。アンパンマンは武器を使わない。特殊な光線を出したりもしない。戦う時は常に自分の力だけだ。 一方、敵役であるばいきんまんは、絶対に死なない。体の中に菌があるからこそ、免疫ができて健康でいられる。世の中もこれと同じで、反対派を全部やっつければファシズムに走ると思うからだ。》 ■明日もなんとかなる 《アンパンマンに込めたメッセージに加え、やなせさんは、子どもたちに「美しいもの」を見せたいと思って描いてきたという。》 「いま汚らしいものを喜ぶ風潮がある。刺激的だったり、暴力的だったり。漫画やアニメ、雑誌の挿絵を見てもそうだけど、なんでそうなっちゃったのか。僕はきれいなもののほうがいい。それを甘いと言う人もいるけれど、僕はそれでいいと思っている。僕は時代遅れなんだろうけど、叙情性を大事にしたいと思ってずっと描いてきた」 《今年、94歳になった。本人は、「もうそろそろ天命が尽きる」と冗談を交えながら語る。人生を振り返りながら言う。》 「アンパンマンの人気が出たのは僕が50歳を過ぎてから。それまではいろいろな仕事もやってきたけど、代表作もなく苦しい時代だった。それでもなぜ僕がずっと希望をもってやってこられたかというと、10年後なんて考えないできたから。今日一日生きられたら、明日もなんとかなるかもしれない。そう思って、絶望しないで今を一生懸命やっているうちに、いくらかはいい方向にいった。人生ってそういうことの繰り返しなんじゃないかと思うんだよね」 《やなせさんは、自らの「子ども」だと呼ぶ、アンパンマンのキャラクターたちに囲まれて、ニカッと笑った。》 (AERA編集部・木村恵子) ※AERAは10月下旬に「やさしくなりたいプロジェクト」を立ち上げます。やなせさんの言葉にも通じるメッセージを届けます。
木村恵子
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