『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』鳥嶋和彦著

25/09/30まで

著者からの手紙

放送日:2025/09/07

#著者インタビュー#読書#マンガ・アニメ

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『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』は、数々のヒット漫画を手がけてきた鳥嶋和彦(とりしま・かずひこ)さんが、独自の仕事論、そして漫画についての考え方を展開しています。鳥嶋さんにお話をうかがいます。(聞き手・三平泰丈キャスター)

【出演者】
鳥嶋:鳥嶋和彦さん

確信と信頼があるからダメ出しできる

――まず本のタイトルに「ボツ」「“嫌われる”仕事術」とあって、なかなか強烈です。鳥嶋さんが多くの漫画家に「ボツ」、つまりダメ出しをして、嫌われることを恐れなかったということでしょうか。

鳥嶋:
そうですね。ダメ出し、ボツが出せるということは、才能があるということの確信と信頼があるからボツを出せるんですよ。ダメ出しをして直してきたものがさらによくなるということがわかっているから、だから出し続ける。力がある人は直しに耐えられるし、こちらが言ったポイント以上の直しができるんです。ボツを出すということは、その作家さんの中にある眠っている可能性、おもしろさを引き出すということなんです。だからボツは、はっきり言えば、埋蔵量がある作家さんから掘り出すための、スコップなんですね。

ほめられて書いた作品とボツを出されて書いた作品でどっちが売れるか。ボツを出されて書いた作品のほうが売れるとすれば、ボツを出されるということに対して、結果、それが自分の作品のレベルアップにつながるとわかるわけですから、作家からの信頼を得ることができるんです。大事なことは、お友達になることじゃなくて、いかに作家の信頼を得るか。そのためには編集側の目利きと的確な打ち合わせが必要になると思います。

仕事=人や会社ではなく”事”に仕える

――鳥嶋さんは人気漫画雑誌の編集者、編集長として、「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」「ONE PIECE」「NARUTO-ナルト-」など数々のヒット作を世に送り出しました。ただ入社当時の鳥嶋さんは、配属された漫画雑誌が大嫌いだった、つまらない連載だけが残っていると感じたそうです。その理由の1つに、編集部自体が同調性を強く求める組織だったということを挙げています。組織が同調性を求めると、どうして漫画がおもしろくなくなるのか、教えてください。

鳥嶋:
簡単ですよ。やっぱり同色の価値観と同色の人間しかいないから。例えば絵の具だったら、寒色があって暖色があるじゃないですか。あの色の数があるからいろんな世の中の風景とか物体を描けるんですよね。これが寒色しかなかったら、暖色しかなかったら、表現を多彩にできないじゃないですか。要するに価値観がそれぞれいろいろあるから、いろいろなものができておもしろい。漫画って、そのときの時代の空気をすくって読者に訴えていくものだから、やっぱりいろんな個性がないと。

――それは漫画以外の業界にも言えそうですね。

鳥嶋:
みんなね、周りに合わせたり会社に合わせるから苦しくなるんだと思いますよ。「仕事」って、字を思い浮かべてください。「事に仕える」じゃないですか。

――はい。

鳥嶋:
人に仕えるんじゃないんです。会社に仕えるんじゃないんです。事に仕えるということは、ミッションがクリアされればOKなんです。ということは、ミッションは何なのかということを考えればいいので、この場合、僕のミッションはヒット漫画を作ることだから、先輩につきあってごはん食べに行ったりお説教を聞いたりしなくてもいいわけです。上司の酒飲みにつきあってくだらない愚痴を聞かなくてもいいわけですよ。僕の仕事はそういうことではなくて、漫画を作ることだから。

――鳥嶋さんは、しばしば上司と衝突したそうですが、自分は100%正しかったとふり返っています。ただ上司に「あなた、間違ってますよ」と言うのは勇気がいると思うんですけれども、鳥嶋さんにはどんな意識があったんでしょうか。

鳥嶋:
だからいつも、僕の給料はどこからくるか。それは上司とか会社が払ってくれるわけじゃないんですよ。読者、子どもたちの100円玉の積み重ねが、本になり、いろんなかたちで僕らのところにきて、それで作家さんのところにいく。ということは、一番大事なのは上司とか会社じゃなくて読者と漫画を描いてくれる才能、作家さんなんですよ。これ以外のものは、はっきり言えばどうでもいいんです。上司が理不尽だったら、その上司の弱点を探してそこを突くとかね(笑)。さっきも言いましたように事に仕えるわけだから、それを達成するためにはいろんな方法があるわけ。RPGでも、とりあえず自分がレベルアップするときにひとりで無理だったら一緒に誰か連れて行くとか魔法使いを連れて行くとか、いろんな手があるわけ。仕事でもそうやって考えていけば、決して難しいことではない。

――鳥嶋さんが仕事は事に仕えるんだというふうに気づいたのは、いつごろなんですか。

鳥嶋:
あぁ、会社入ったとき、すぐ。

――すぐに?

鳥嶋:
うん。

――そんな早くですか。

鳥嶋:
うん。「ジャンプ」の漫画がつまらない。それで編集部にいるのが嫌なんですよ。「資料室」と書くと、何か調べものしているように思われるかもしれない。隣に小学館があったので、そこの資料室でよく昼寝してたんですよ。ところがあるとき、パーッと見たら、資料室ですから日本中の漫画雑誌が全部あるわけですよね。1回、全部の漫画を読んでみようと思ったんです。全部1回見てみた。そしたら気がついたんです、「おもしろい漫画があるじゃない!」って。それがちょうど、「花の24年組」といわれる萩尾望都さんとか竹宮惠子さんとかね。

それで1つのことがわかったんです。おもしろい漫画は手が止まらないんです。つまらない漫画は手が止まるんです。そうすると、一番手が止まらない漫画ということは一番おもしろい漫画ですよね。何なのかということでトーナメントでやっていって残った漫画が、ちばてつやさんの「おれは鉄兵」だったんです。ちょうど「あしたのジョー」が終わって連載していた剣道漫画。これが1話19ページなんですね、ストーリー漫画で。この19ページを50回、分析しながら読んだんです。なぜこのコマなのか、なぜこのセリフなのか、なぜこの動きなのか。いろんなことを考えながら50回読んだ結果、1つのことがわかったんです。漫画には文法がある。この文法が、おもしろくない漫画はどうなっているか。やっぱりできてない。おもしろい漫画は文法がちゃんとできている。

これを今度、自分の漫画家に当てはめて打ち合わせで使うわけです。そうすると、それまでは、今一つおもしろくないねとかおもしろいねとか、感想しか言わなかったんです。これは小学生レベルなんですよね。その文法がわかると今度、おもしろい・おもしろくないの次に、なぜおもしろくないのか分析ができて、どういうふうにすればおもしろくなるのか提案できるようになった。目の前の漫画家がうまくなっていく手応えがある。仕事のおもしろさがわかるようになったんですね。だからそのときに、僕は何のためにここにいるのかって、気がついたんです。一生懸命、寝ないで赤い目をして絵コンテを持ってくる、作品を持ってくる、こいつの描きたいものを、できるだけ多くの読者に届ける。読者はよりおもしろいものを待っている。こっちはたくさん届けたい。この2つをどうつなぐか、これが「事」だから。「ミッション」だから。

――なるほど。

鳥嶋:
だから今でも必要がなければ漫画を読まないのは、目の前に才能があったときに初めて僕の頭が回るのでね。

子どもたちへのつかの間の清涼剤

――鳥嶋さんは本の中で、仕事術の他におもしろい漫画の条件をいくつか挙げています。大事なのはストーリーではなくキャラクター、オチはいらない、読んだあと何も残らない……。あの、「読んだあとに何も残らない」でいいんでしょうか。

鳥嶋:
あぁ、いいですよ。そもそも、なんで僕、小・中学生向けに漫画を作りたいと思うかというと、彼らが不自由だからなんですね。学校に行くと先生という支配者がいるじゃないですか。

――……うん、うん。

鳥嶋:
学校で人気があるのは、1、勉強ができるやつ。2、運動ができるやつ。3、顔がいいやつ。

――はい、ふふふ。

鳥嶋:
そうするとこの3つがないやつは、どうすればいいんだと。おもしろくないですよね、毎日学校に行っても。家に帰れば親という支配者がいていろいろ口うるさいことを言う。小・中学生って不自由なんですよ。高校生くらいからバイトしてお金が手に入ればいろんなところに行けるし、自分の世界から出ていけるじゃないですか。

――確かに。

鳥嶋:
ところが小・中学生は不自由で、つらい毎日なんですよ。このつらい時間を、つかの間、つらい状況を忘れさせて元気にさせてあげることができるのが漫画なんです。これを読んでいる間だけは、日常から逃れていける。想像の翼を手にして羽ばたいていける。この不自由な彼らのためにつかの間の娯楽を与えたい。だったら、このつかの間の娯楽は、やっぱりあとに残らないほうがいいわけです。炭酸飲料とかミントガムと一緒で、その瞬間シュワシュワシュワッとさわやかだけど、あとに残らない。

――あぁ……。

鳥嶋:
だからよく言うんですけど、漫画は世界を変えられないけど、つらい人間の気持ちを瞬間救うことができる。

人を見る前にもっと自分を見ようよ

――この本には巻末に袋とじがあり、「メガヒットのコツ」と案内文があります。誰もが鳥嶋さんに聞きたい「ヒットを生む仕事術」、そのヒントをいただけますでしょうか。

鳥嶋:
目的の達成のため、何をすればいいのか。大事なことは自分が何をするかであって、自分が好かれるか嫌われるかっていうことじゃない。僕はよく言うんですけどね、人を見る前にもっと自分を見ようよ、自分を好きになれない人間は人を好きになることができない。やっぱりみんな、周りを気にしすぎ。驚くべきことに、本当に自分に無関心な人が多い。そこを考えてほしいですね。

――『ボツ 「少年ジャンプ」伝説の編集長の“嫌われる”仕事術』の著者、鳥嶋和彦さんでした。鳥嶋さん、どうもありがとうございました。

鳥嶋:
こちらこそ、どうもありがとうございました。


【放送】
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