所属することがすべてではない──「旅人のプレイスタイル」のすすめ
VRChatterに延々とまとわりつく所属の悩み
コミュ障だから話しかける相手がいない。
もちろん誰からも話しかけられない。
こんな調子だから一緒に遊ぶフレンドがいない。
いたとしてもフレンド数が少ないから思うように遊べないことが多い。
そもそもいたとししてもフレプラに入れない……。
VRChatにおいて、コミュニケーション能力の不足や居場所がないことに起因する悩みは多いです。
これは初心者からベテランまで抱える悩みであることから、VRChatをプレイし続ける上で常につきまとうものだと言えます。
VRChatは感覚的に言えば、コミュニケーションに囲まれて遊ぶコンテンツだとわたしは考えています。
パブリックやプレプラに行ったり、イベントは開場から少し遅れて参加すると、そこかしこで他のプレイヤーたちが話に花を咲かせている。
会話をしていることが当たり前な空間の中で、自分は誰にも相手にされていないというみじめな感覚を避けたいがために、わたしたちはイツメン入りに躍起になったり、コミュニティへのコミットメントに注力します。
VRChatでもコミュニティに所属するのが唯一の道なのか
VRChat内でのコミュニティ形成理論や方法論は枚挙にいとまがありませんが、一方でVRChatそれ自体をコミュニティのひとつと捉える言説はほとんど見聞きされません。
VRChatはVRSNSと位置づけられることから、コミュニケーションを主体とする利用方法が念頭に置かれているのは共通認識となっています。
ここから派生して、現状のVRChatはイツメン、お砂糖、イベントというように、少人数で密接な関係性を構築するのが定石だという、いわば所属するコミュニティをつくりあげて楽しむべしという考えにシフトしました。
おそらく、現実の慣れ親しんだ一般常識をそのまま輸入したのだろうと思われます。
所属するコミュニティを求めるのは人間の性です。
私たちは生まれたときから現在に至るまで、当たり前のように何かに所属して暮らしていく。
家族、学校、塾、習い事、部活、サークル、会社……群れて生きることを当たり前としているわけですから、何にも所属できなかった時に人は強烈な焦燥感を味わいます。
昨今、孤独の問題が再三取り上げられていることをわざわざ再確認せずとも、人はひとりでは生きられないことをわたしたちは痛いほどわかっています。
改めて、今のVRChatを取り巻く常識をおさらいしてみましょう。
VRChatはVRSNSとされていることから、コミュニケーションを主体とする利用方法が前提とされている。
ですが現状、VRChatでは先程例示したように、何かに所属するプレイスタイルが主流となっています。
所属するプレイスタイルを取るためには、イツメンや居場所が必要です。
フレンドがいること=フレンド登録していることや、特定のグループに入っていることが前提条件となり、さらにその場に深く入り込む=時間を費やす必要があります。
だからわたしたちは現実であろうがメタバースであろうが、何かに所属することを強く求め、行動する、それ以外の術を知らないのだから──と結論することができそうですが、果たして本当にそうなのでしょうか。
VRChatという巨大なプラットフォームは、何かに所属することなく、わたしたちにつながりを得たような感覚をもたらしてくれる場なのではないでしょうか。
「旅人のプレイスタイル」のすすめ
では逆に考えてみましょう。
VRChat上でフレンドが全くいなかったり、全くグループに所属していなくても、人とコミュニケーションを取ることは可能だろうか?
これに対する答えは、イエスであります。
フレンドがいない人はパブリックワールドや雑談系のイベントに行けば、話し相手の候補はいくらでも見つけることができる。
どこにも所属せずとも、イツメンを作らずとも、24時間365日、誰とでも話せる環境がVRChatにはあるのです。
ここから導き出される理屈として、わたしは一期一会の出会いを求めるような「旅人のプレイスタイル」が成り立つと思っており、実践もしています。
ここで言う「旅人のプレイスタイル」には、以下の3つの行動指針があります。
①話しかけるコストや会話に参加するハードルがなるべく小さくなるワールド・イベントを利用すること。
②フレンドを作ることを目的としない。
③イベントは行き先の候補を大量にリストアップしておき、一度行ったイベントは数ヶ月以上開けてからでないと再訪しない。
「旅人のプレイスタイル」を実践する際は、フレンドと一緒の時間を過ごすという選択肢は取れません。
必然、見ず知らずの人と接触することになりますが、わざわざ説明するまでもなく知らない人・グループに話しかけることはとてもエネルギーが要ることです。
ここで毎回大きく消耗してしまっては、とても「旅人のプレイスタイル」を続ける気にはなれません。
フレンドや特定の居場所を利用しないことから、「旅人のプレイスタイル」とはコミュニティに所属するという定石から外れた行為です。
VRChatという場全体を利用して、ひとつところに留まらず流動的に動き続ける遊び方であり、あるいは異質な他者と出会うことを主軸とし、自分の中に新たな変化を見出そうとするちょっとした自己啓発のための遊び方でもあります
①話しかけるコストや会話に参加するハードルがなるべく小さくなるワールド・イベントを利用する
では3つの行動指針について解説していきます。
①の定義に当てはまるものとして挙げられるのは、パブリックであればNAGiSAやぽこ堂がまず挙げられるでしょう。
(※ぽこ堂は、議論することや考えることに抵抗感がない人でなければ楽しめないという点から、万人向けのワールドとは言えません。
ですが自動的に話すテーマをワールド側が提供してくれるということから、話題の切り出しにかかるコストはかなり低減されます。
加えてぽこ堂は、他のパブリックワールドとは違い、フレンド同士の身内で話し合うという文化が希薄で、その場に居合わせた人たちと議論するという認識がある場であることも見逃せません。
ニッチな場所故に同じメンバーばかりが集まっているということもありますが、行きずり同士でひとつのテーマについて話し合える場というのは、非常にユニークなのは間違いありません。)
自分のコミュ力や度胸に自信があるのなら、FUJIYAMAやJapanTalkRoomなどでももちろん構わないのですが、①の条件の観点からメインでは利用していません。
ただし、インスタンスのはしごをある程度行い、自分が入れそうな会話をしているグループがあればラッキーだと思って、そこに飛び込むことはあります。
そもそもわたしの場合、①に当てはまる場に行く際は、基本的にパブリックよりもイベントを利用します。
例示しておいてなんですが、NAGiSAもぽこ堂もあまり行きません。
特に重宝しているのが、席の指定などでキャストと参加者の人数が決められる「擬似的な少人数制」を取るイベントか、そもそものインスタンスの上限人数が数人程度しかないイベントです。
また、数は少ないですが、ひとつのお題についてみんなで話し合うイベントも大変重宝しています。
現在わたしが利用しているものだと、「VRファシリテーション」と「黒猫NightCafe」の2つがあります。
目についた適当なBARや喫茶店のイベントに行くと、キャストは注文を出して二言三言言葉を交わしたきり戻ってこなかったり、周りは常連が固まっていて会話に入れない雰囲気だったりと、パブリックの空気感と大して変わらず輪に入れない……ということが起こる可能性があります。
対して、「擬似的な少人数制」か元々少人数制のイベントであれば、会場にJoinすることさえできればこちらが何も労力を払わずとも会話に参加できる。
キャストが会話を振ったり回すことがほとんどなため、自分の会話デッキの貧弱さに困ることもありません。
欠点として、少人数制のイベントは「join戦争」と呼ばれる、早くinしたもの勝ちの激しい競争になりがちで参加できる確率が安定しないという点が挙げられますが、そこは後述する③の要件である程度カバーをしています。
②フレンドを作ることを目的としない
②はどちらかと言えば精神論の話です。
フレンドを作ろうと思って話し相手を探すと、事前に相手の会話を盗み聞きして相手の人柄をチェックしようとしたり、事前にプロフィールを見て自分と馬が合いそうかを確認したりと、会話に入る前の下準備を余儀なくされます。
ですが旅人でありたい時は、そこまでがんじがらめで面倒なことはしたくないと思っています。
なので目標は、「なんとなく楽しくおしゃべりできたなと思えればいい」というように設定する。
なんとなく楽しいおしゃべりさえできればいいので、フレンド登録に必ずしもつなげなくていいと考えることができます。
そうすると、一期一会の関係で全く問題なくなるわけです。
現実の旅先で、初対面の旅行者同士や現地の店員などに、「あの遠くから見える光景は綺麗ですね」とか「人が多いですね」、「ここの名物はなんですか」、「他におすすめの観光スポットはありますか」と話しかけるor話しかけられることがあるかと思います。それに近い感じです。
もちろん話が盛り上がったり次も会いたいと思えば、それはそれでフレンド申請を申し込めばいい。
③イベントは行き先の候補を大量にリストアップしておき、一度行ったイベントは数ヶ月以上開けてからでないと再訪しない
③について。
旅人とは本来、とある目的地に向かって道中を旅するものです。
旅の途中で宿を求めたり寄り道をしたりすることはありますが、一度訪れたところには二度と戻らない。
こういった旅人のあり方を、数々のイベントのはしごで再現するのです。
特定のイベントに何度も通いつめると、そこが新たな「所属するコミュニティ」となります。
旅人でありたいときのわたしは所属の条件を満たしたくないので、一度訪れたイベントは、キャストの記憶からわたしが訪れたことがあるという事実が薄れるくらいの期間──大体数ヶ月程度の間があくまでは再訪しません。
認知されてしまえば、常連化=所属への道が開かれてしまいますから。
そのため、片っ端から雑談系のイベントに所属可能グループ数の上限近くまで参加しておくことで、どこのイベントに行っても初見or久しぶりの参加者であるという環境を作り出すのです。
(主催者にフレンド申請してそこからjoinして参加するタイプのイベントに行く方法もありますが、この場合、期間が開くと何時何曜日に開催されるかを覚えていられなくなるため、利用するのをやめました。)
当然、新規開催のイベントも定期的にチェックします。
行き先の候補はいくらあっても困りません。
どのイベントでも、初見、久しぶり、まだあまり来ていない人というのは、キャスト側からの手厚い応対が得られやすい傾向にあります。
③の方法はキャスト側に一方的に負担を押し付ける行為にも見えるため、あまり人に勧めるものではないかなという気もしますが、コミュニケーションが不得手であるという自覚がある人にとって有効な選択肢になるのは間違いないでしょう。
また先にも挙げたように、旅人のプレイスタイルの目的のひとつは、異質な他者と出会うことで自分の中に新たな変化を起こすという観点から、イベントに行くたびに毎回キャストとしか話さないというのも微妙な立ち回りかたです。
できればメインにしたいのは、同じ場に居合わせた参加者とコミュニケーションを取ることですが、これができる人はパブリックでも話し相手にそう困らない人であることが多いので、無理してまで頑張る必要はありません。
「旅人のプレイスタイル」、別の実践例
「旅人のプレイスタイル」には、従来の「所属するコミュニティ」にはないひとつの利点があります。
それは、人間関係のしがらみやそれに起因するトラブルの影響を受けないこと。
なにかきな臭い予感がしたら、行く候補から外せばいいだけです。
「旅人のプレイスタイル」は、ひとつのコミュニティに属して過ごすことを目的とせず、場所や人を問わず誰かと話せればそれでいいという考えを元に行動することです。
今回説明した行動指針を徹底すれば、極論フレンドが0人であろうと話し相手に困ることはかなり減るでしょう。
ですが付け加えておきたいのは、「旅人のプレイスタイル」は後述する条件に当てはまらなければ誰でも実践できるということです。
VRChat歴が浅い初心者でも、すでに複数の「所属するコミュニティ」ないし居場所を確保している人でもです。
すでにフレンドの数がある程度いるのであれば、例えば応用として、フレンドプラスをローテするようにはしごしていくことで、比較的ゆるく所属先のコミュニティを増やしていくということもできます。
また「旅人のプレイスタイル」を実行している最中に、フレンドが合流してきたからそっちと話すことになり、結局いつもの空気感を体験することになるのを避けたいのであれば、オレンジステータスもしくはレッドステータスにして実行するという方法もあります。
「旅人のプレイスタイル」を取ることがVRChatにおける正解だ、とまで主張するつもりはありません。
人はどこかに所属したがるという性質を鑑みれば、自然な落とし所としては「所属するコミュニティ」を複数持ちながら、そこにプラスして「旅人のプレイスタイル」を取り入れる、となるでしょう。
実際わたしも、よく会うフレンドやよく行くイベントがいくつかあり、それらを訪れる気分ではないときに「旅人のプレイスタイル」を取っています。
「旅人のプレイスタイル」が実践できない人
ここまで「旅人のプレイスタイル」の魅力について説明してきましたが、残念ながら万人がこの方法を取れるわけではありません。
具体的には、夜の時間帯(具体的には21:00以降)にinできない人──例えば夜勤の人──は①と③の行動指針が取れないことから、「旅人のプレイスタイル」を遂行することがほとんど不可能になります。
完全にできないとまでは言いませんが、諸々の会話の負担要素が取り除かれているパブリックワールドは現状NAGiSAくらいしかありません。
頼みの綱となる雑談イベントは、朝~昼の時間帯だと大量にリストアップできるほどの数は開催されていません。
無理矢理実践しようとすれば、結局すべてのパブリックを駆使して知らない人と話すしかないということになってしまいます。
VRChatは夜にinできる人でないと中々楽しめないという、長年指摘されてきた点が、ここでも影響するわけです。
おわりに──「所属するコミュニティ」の構築論から流動的コミュニティ論への転換
VRChat上での会話や、noteやSNSなどのプラットフォームでは、いかにフレンドや居場所を作るかという話、記事の投稿、つぶやきが星の数ほど繰り広げられてきました。
このトピックは絶対の答えが出ないものである以上、これからもVRChatterの大きな悩みのタネとして残り続け、また数多くの言説が繰り広げられていくことでしょう。
それはそれでよいのですが、VRChatが2017年にSteamにリリースされてからもう8年が経過しました。
そろそろVRChatにおける居場所確保論の展開に、新たな視点が加わってもいいのではないのかと思うのです。
VRChatはボタンひとつで会いたい人とつながることができ、行きたいところに行けるという、まるでどこでもドアのような、「出向く」という行為のコストの削減を徹底しているツールです。
ならば従来のような、特定のコミュニティに深くコミットメントする処世術だけでなく、あちらこちらをふらふらするようなプレイスタイルを取ることも成立すると予想するのは、自然なことだと思われます。
私たちはメタバースを通じて、従来のいかに「所属するコミュニティ」をつくるかという観点から、所属せず流動的に不特定多数とコミュニケーションを取れる環境を構築できないか、という観点への移行を模索してもいい段階に来ているのではないでしょうか。



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