バーチャル空間の格差神話を解体する:現実と理想の狭間で
この記事は、
2025年4月10日に投稿予定で書いていた記事の下書きを再編集し、
改題した記事です。
若干刺激の強い表現がある場合がありますが、
刺激を緩めると、
結局この記事が何を伝えるために投稿されているのかが見えづらくなる
可能性が強いため、緩和措置をせずそのまま投稿します。
※この記事は日本国内における現状をもとに執筆しており、
海外の文献等を引用する場合もありますが、
基本的に日本国内に限定して論じていることにご注意願います。
下書き記事時のタイトル:
「インターネット上では格差は解消される」という虚構神話の提唱をやめよう
序論:消えない格差のリアリティ
デジタル技術が発展するたびに
「インターネットが平等を実現する」という幻想が繰り返し語られてきた。
特にVRChatに代表されるソーシャルVR空間では、
「アバターが現実の格差を消し去る」という期待が広がった。
しかし2025年現在、
バーチャル空間はむしろ新たな形で格差を再生産している。
本記事では実証データと哲学的考察を統合し、この問題の本質に迫ろうと思う。
1-1 アクセス格差の現実
そもそもデジタル技術に触れるために必要なものとして、
インターネット回線、
パソコンやスマートフォン、タブレット端末などが必要である。
総務省「令和5年通信利用動向調査」によると、
日本国内のインターネット未利用率は13.8%。
特に高齢層と低所得層で顕著なデジタルデバイドが存在する。
デジタル・ディバイドとは、我が国国内法令上用いられている概念ではないが、一般に、情報通信技術(IT)(特にインターネット)の恩恵を受けることのできる人とできない人の間に生じる経済格差を指し、通常「情報格差」と訳される。
さらに言えば、
VRChatに代表されるソーシャルVR空間を利用するには、
インターネット回線工事料金(2~3万円)と回線の月額料金(3~7千円)の他に、
最低でも10万円以上、快適に利用するには20万円以上の
初期投資(追加投資)が必要である。これが最初の経済的ハードルとなる。
1-2 機材性能による体験格差
多数のユーザーが居る場所へのアクセスや、
大人数イベントへの参加を快適にしようとするならば、
最低でもRTX 2060SuperやRTX3060、できれば「RTX 3090」以上が
推奨スペックとなる。これによりPCの性能による体験格差が生まれる。
高性能PCにVRゴーグルを組み合わせれば没入感ある体験が可能だが、
追加投資が必要であり、ここでさらなる体験格差が生まれる。
低スペック環境ではラグやクラッシュに悩まされる。
この技術格差がコミュニティ参加の機会を左右する。
第2章:人間力バイアスの台頭
VRChatのようなバーチャル空間では、見た目も身分も経済力も、
実体の悪条件はすべて捨てて生きられる。
しかし、その不実とも思える世界でさえ、格差は無くならない。
むしろ、親切に言えば、その格差はより明示化される。
2-1 評価軸の転換
現実の「容姿・環境・境遇バフ」が消える代わりに、
「技術力」「コミュニケーション能力」「知識量」「アバター制作能力」
そして「機材の性能」や「機材の機種・追加機材の有無」などが、
新たな評価基準となり、それらによる序列化が進んでいる。
たとえば、コミュニケーション能力や、アバターを自作できる技術、
特定カテゴリに関する知識量など、情報社会の中では接続の持続に
相対的低いコストで、しかも相手にも利益をもたらす者は優遇される。
逆にこれらを持たない人間は、現実世界のように無視される。
この「無視」は、実体に基づくものではないため一見すると公平な
ようだが、実際は相対性のないメリットクラシーとして表れる。
「メリットクラシー」は、
個人の能力や業績によって社会的な地位が決定される社会システムを指す。日本語では「業績主義」や「能力主義」と訳されることが多い。
人間はどこまで行っても、他者と比較され「何を持っているか」に
よって価値を付けられる。
むしろ現実社会ほど複数の評価指標のないバーチャル世界では、
この評価がそのプレイヤーの評価といって差し支えないだろう。
これは、実体バイアスの社会から、人間力バイアスへと移行しただけで、
格差構造自体は存立し続けている事を意味する。
2-2 隠せない人間性
現実の「容姿・環境・境遇」による格差から開放された
バーチャル世界では「プレイヤー」の質が最も重要と言われるが、
それは裏を返せば「人間力」や「コミュニケーション能力」といった要素がより露骨に評価される世界であることの言い換えに過ぎない。
現実では容姿や肩書きで一定の評価を得られる場合であっても、
バーチャル空間ではより本質的な「人間としての魅力」や「個性」でしか、
勝負できないのである。
事実、VRChatでは「ピカチュウのアバターの人が歌を披露し、
それに皆が聞き入って拍手を送っている非常に心温まる光景」が
ある一方で、「荒らしが大挙してやってきて台無しになる」といった、
性格や人間性の悪さに起因する問題が発生していることからも、
これらの人間性起因の特性は容姿の良さでは隠しきれず、
格差の発生を食い止められないという現実を表している。
第3章:アルゴリズムが加速させる格差
SNSなどのプラットフォームでは、
アルゴリズムによって情報格差がさらに拡大されている。
これは「優先アタッチメント」と呼ばれる原理によるものであり、
「金持ちがますます金持ちになっていくのと同じように、
人気者がますます人気者になっていく」という現象のことである。
優先アタッチメント(preferential attachment)は、
SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)やインターネット上のネットワーク構造を説明するための重要な原理です。
この原理は、「すでに多くのつながり(フォロワーや友達)を持っている人ほど、新しいつながりを得やすい」という現象を指します。
3-1 アテンション経済の不平等
SNS分析ツール「SocialBlade」のデータによると、
一部の人気アカウントが大部分の注目を集めておりXやInstagram等の
SNSでは、アルゴリズムが「エンゲージメント率が高い投稿やアカウント」
を優先的に表示する仕組みとなっている。
これによって人気者やバズった投稿がさらに多くの人に拡散されやすい
構造になっている。VRChatのイベント告知や広告等についても、
告知媒体がSNSであることを踏まえると、
既に人気のあるユーザーが主催するイベントがアルゴリズムで
優先表示される事が多いということにつながっていると推定可能である。
アテンション・エコノミーとは、
人々の注意や関心(アテンション)が経済的価値を持つようになった状況を指します。
情報過多な現代社会において、ユーザーの注意を引き、
時間を長く滞在してもらうことで、プラットフォームは広告収入を得たり、
コンテンツクリエイターは収益を得たりするビジネスモデルです。
3-2 情報リテラシーの格差
内閣府調査「デジタル人材の育成・確保に向けて」では、
情報の真偽を判別できると答えたのは全年代平均42%であると明記
されており、これはデジタルリテラシー教育の必要性を裏付ける
核心データである。
特に「取得した情報の取捨選択」は全年代を通してハードルになっている。情報があふれる現代社会では、
情報を適切に評価・選別するスキル(情報処理能力)が決定的に重要だが、
このスキルのを持つか否か、また情報収集と処理においては、
ChatGPTのような人工知能AIを適切に使用できるか否かの差が、
新たな格差を生み出している。
ソースとしては、
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では
インターネット情報を「ほぼ信用する」と回答したのは20代で58%、
60代以上で32%と報告されており、世代間で26ポイントの差がある。
さらに、
「情報のクロスチェック実施率」は大学卒以上で68%、高卒以下で41%と、
学歴によるリテラシー格差が定量データで示されている。
これらを総合したデジタルスキルの不足は、「仕事の選択肢が限られ、
経済格差が拡大する可能性」や「教育格差の拡大」につながり、
現実社会での不利益を増幅させる要因ともなっている。
現実社会の経済力がバーチャル社会での格差に直結する
インターネット上での体験にも少なからず影響があるといえるだろう。
3-3 格差の連鎖と複合的な影響
インターネット上の格差は単独で存在するのではなく、
現実社会の格差と複雑に絡み合い相互に強化し合っていることは言うまでもない。
例えば、経済的格差はデジタル機器の所有状況に反映され、
それがデジタルスキル習得の機会格差となり、さらに就労や教育の格差に
つながるという連鎖が生じる。
さらに、
「インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と
利用できない者との間に生じる格差」は、情報へのアクセスだけでなく、
オンラインサービスの利用や行政手続きなど、
生活の様々な場面での不利益を生み出している。
第4章:社会構造の再現と進化
4-1 権力動態の継承
現実の特権階級がVR空間で再編される現象。
白人男性アバターのユーザーが無意識に発言量を増やす傾向
(スタンフォード大学VR社会学研究)がある。
VRChatの大規模イベントで、
リーダー的役割を担うのは現実でも発言力の強いユーザーが多く、
アバターの属性や現実の社会的地位が発言量や注目度に影響する事例も
同様に観測されている。
4-2 新たな排除のメカニズム
「面白くないアカウント」という主観的基準による排除。
何も持たずにVR上に出てきても、相手にされず、話題にもされず、
「面白くないアカウント」として分類され、
まるで存在していないかのように扱われるこの人が離れていく現象には、
現実社会の戦略が、そのままVRに持ち込まれているような思いがある。
だが実際は日本特有の「空気を読む」文化がデジタル化したものだと
考えると理解ができる。また、このような現象を否定したいわけではない。むしろ、これは社会構造の一種の形であり、
人間の歴史が生み出した完全な構成要素の一つだとも言えるからである。
第5章:格差の認識から始める対応
「インターネットでは格差がない」という幻想を手放し、
現実を直視することが問題解決の第一歩であると考えている。
格差は形を変えながら人間社会が持つ普遍的な構造の一部として存在する。
もちろん人間が介在するということはオンラインの世界にも存在し、
いかなる対策を施そうともこれらの格差が消えることはない。
5-1 認知の転換
バーチャル空間での「自由さ」や「平等さ」には限界があり、
むしろ現実よりも本質的な部分が問われる厳しさもあることを、
プレイヤーもクリエイターも企画者も認識する必要がある。
それでも、
各自が自分なりの居場所や楽しみ方を見つけることが、
十分可能であるというのがソーシャルVRやバーチャル社会の良い点
ではある。
重要なのは、理想を完全に諦めることではなく、
現実の格差を認識した上で、より包括的でアクセシブルな
インターネット社会を目指す努力を続けることが必要だと思う。
デジタルスキル教育の充実やアクセシビリティの向上、
情報リテラシー教育の推進など、
格差解消のための取り組みは様々あるはずであるが、
バーチャル界隈の常識や独特のリテラシー等は、
一般とは異なる場合もあるため、すでにその地にいる
現地ユーザーたちの努力によって維持されるのが
望ましいのではないかと思う。
結論:あとがきに代えて
バーチャル空間の格差は決して無くならないが、
その性質を理解し適切に対処することで、現実より柔軟な社会を
構築できる。
重要なのは「格差の否定」ではなく「多様性の受容」だ。
現代は、格差が同調されたり、公平な環境を探そうとする動きも有るが、
実際には別の方法で新たな格差が生まれる。
「人間力」や「情報利用能力」、「表現力」のような、
一見すると背景と関係ない要素でさえ、バーチャルでは格差として
湧き上がる。
その上で、「格差を無くすVR」という理想像は、実際の現象を無視して
いないだろうか。
VRChatで盲目のユーザーが音声コミュニティを形成し、
独自の文化を育んでいる事例が示すように、テクノロジーは新たな可能性を開く鍵となる。
ソーシャルVRでもバーチャル社会でも現実社会でも、格差は滅びない。
しかしそれに振り回されるのではなくどのように対策し相手に向き合うか。
現実と理想の狭間で、私たちは常に考えを巡らせ、
アップデートを続ける必要がある。
そこに、ソーシャルVRやバーチャル社会の未来を考える価値が
あるのではないだろうか。
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