メタバースの熱狂はなぜ消えたのか。“広報の壁”とスタンミ現象が照らした普及の分岐点【中編】
今回取り上げるテーマはメタバースです。
1本の記事にまとめるには深く、正しく内容が伝わらないと感じたため、
3部構成の記事として公開します。本稿はその2本目です。
この記事を読み進める前に
この考察は現状を多角的なデータに基づき冷静に分析したものです。
刺激的な内容・立場も含みますが、議論の活性化を目的としており、
関係者や個人への誹謗中傷意図はありません。
特に本稿では特定個人の名称等が多数登場しますが、
あくまで読者の理解促進のための名称掲載であることをご理解ください。
前回記事
本記事を読み進める前にまず前回記事をお読みいただければ幸いです。
日本で「ソーシャルVRの布教」は
いかに展開されたか。その布教方法を点検する
2021年以降のメタバース・VRブームは、
業界に多くの“布教者”を生み出しました。エバンジェリスト、有名VTuber、
非VR関連の企業団体、アンバサダー企業、プラットフォーム運営者など…
これらの企業、個人による各種イベント、メディア出演、技術PR、
アバター文化発信など、多様な広報活動が断続的に展開されました。
しかし、残された“利用実態”は決して社会現象とは言い難いものです。
ファクトと実態で見る広報施策の成果
エバンジェリスト・有識者の外向け発信
例を上げるとするならば、
某有識者(メタバース文化エバンジェリスト)は、
2022年だけで11回TV出演をしたそうです。
このことはソーシャルVR界隈で大きく取り上げられ、
一部では「広報量日本一※1」とさえ呼ばれました。
しかし効果は、「コア層への深い浸透」にとどまり、
一般への普及には特段の効果をもたらさなかったことが、
以下の統計データから明らかです。
※1 当方がAIを用いて検索した限りだと、
本人または有識者によるSNS・note・登壇記事でそのように評価、
自称されているケースはあるものの、それ以外の第三者による評価及び、
「業界団体/報道機関が公式に“広報量日本一”と名言した一次資料」は、
現時点では公的なニュースサイト・業界紙等からは確認できていません。
統計データ(VRChat日本人ユーザー比率の推移)
2019年: 3.6%(世界8位)
2022年12月: 12.3%(世界2位)
2024年2月: 12.9%(世界2位)
2024年12月: 26.8%(世界2位)
重要なのは、
2022年12月から2024年2月まで約1年間日本人比率がほぼ横ばい
(12.3%→12.9%)だった点です。
この期間こそ、
上記のような従来の広報活動が行われていた時期であり、
(テレビ等マスメディアへの露出による波及効果を含め)、
その広報手法がもたらした効果の限界を示しています。
また、上記以外でも、地上波放映、サブカルチャーとしてのイベント、
SNSキャンペーンも多数展開されており、
自治体との連携も増加していました。
しかしこれらが爆発的な新規流入に直結しなかったという根拠は、
以下の実証データで裏付けることが可能です。
実証データ
・2022年末VRChat日本人比率は12.3%と大幅増
(コロナ禍・Quest2効果)だが、翌2023年・2024年初頭12.9%と
ほぼ横ばい。
・アイブリッジ株式会社「Freeasy」による
「VRについての調査」(2023年12月)によれば、
「VR認知率63.32%、認知者のうち、現在利用者(9.78%)と
過去利用者(7.44%)を合算した利用経験者は(17.22%)」。
HTC VIVEアンバサダー・企業連携の検証
・REDEE大阪などでのVTuberイベント、
公式YouTubeでのアンバサダー・トラッキングPR動画再生は数万回を達成。
・Quest 2等VRゴーグルの国内販売数増加にもイメージ貢献。
しかし「予備軍の一部を押し上げる程度」で、
一般消費層の「初めてVR機器を買う」動機まで強化するには至らず。
実証データ
・2024年 国内VRデバイス出荷数48.6万台(前年比14.8%減)
・SteamVRユーザー比率はわずか1.63%(2025年8月)
VTuber・個人配信者・企業参入の限界
VTuberによるVR体験配信はTwitchでも最大同時視聴約4000人、
YouTubeでも5000人規模の視聴者にリーチした事例が多数。
一部イベントはTwitter(X)トレンド入りも果たしたが、
「既存ファンベースの拡張」に留まった事実も数字が示しています。
実証データ
・VRChat月間新規ユーザー登録数(2022→2023):
1.5万人→2.2万人(世界全体)、日本人比率は横ばい。
・アバター経済圏の推定総売上は年間13億円規模(2023年)
ただし実際に継続利用しているクリエイターは全体の1.8%
(ピクシブ社(BOOTH運営元)集計)
また、本稿を投稿するうえで、
メタバース関連企業が含まれていない「日本メタバース協会」という
暗号資産取引業者による"名称問題"があったということにも、
触れざずを得ません。
なぜ社会現象化しなかったのか
日本のメタバースが“社会現象化”しなかった理由は、
ネット世論で語られるイメージ以上に、さまざまな実証データ、
心理的な壁・現場体験の積み重ねから明確になっています。
この構造的な課題を、同じ時期に社会現象級で広がった「生成AI」の
急速的な普及との対比から深堀りしたいと思います。
”閉じたコミュニティ”が生んだ普及の壁
VRChatユーザー数の伸びやイベントの活発さとは裏腹に、
新規参入の動機は、
「同じ趣味の知人がいた=74%」であり、
「配信を見て憧れた=12%」「技術的興味=9%」といった、
新規ユーザーを流入させるのに必要な楽しさや面白さを、
障壁を乗り越えさせるレベルでは外部一般層に発信できておらず、
ほとんどが既存コミュニティ経由や“身内ノリ”に依存していることを
表す論拠としての意味を持ちます。
このテーマについてはすでに過去に当noteでも取り上げたことがあります。
さらに言えば、
これらの情報はTwitterやDiscordなどの特定コミュニティ内のアクティブ層、
VTuberファンによる伝播が中心で、自ら外部布教まで動くユーザーは、
全体の2%未満に過ぎないという実態が上記のアンケートでも
明らかになっています。
イベントに参加しているのは「SNS等のコア層だけ」
これは私の肌感覚とも重なることですが、
・VRに興味はあるが、機器購入・設定・情報収集が面倒
・体験までのステップが多すぎて、動画視聴でほぼ満足してしまう
・費用を払って体験できるコンテンツ・サービスが限定的
・コミュニティ参加に心理的抵抗がある(内輪文化への迎合)など、
以前より複数回当noteでも言及している通り、
VRを一般層へ普及させるには体験コストが高すぎます。
実際、VR機器や高性能PCがないと本格的な体験ができないという
“誤解”も多く、「VRChatはデスクトップでも利用可だが、
ハード購入こそが本格参入だ」と考える人が多いという、
VR界隈の常識を一般消費者がどこまで理解できるかが問題です。
また、体験コスト(時間的金銭的コスト)が莫大な娯楽を普及させたいのに、
通常の広報で人が集まるわけがないということを、
従来の有識者や広報者は見落としていたのではないでしょうか。
価値提案の不明瞭さと社会的閉塞
多くのメタバースサービスは、
利用の「意味」「面白さ」を事前に明確に伝えきれていません。
セカンドライフなど過去事例の“失敗”イメージも尾を引き、
「何となく面白そう」という漠然とした期待だけが先行し、
明確な“役立つ体験”や“生活の中での価値”が示せていないという
問題があります。
”スタンミ現象”
「外向けインフルエンス」の爆発力と違い
スタンミ氏による“外向けインフルエンス”がVRChatに及ぼした
新規ユーザー流入の爆発力は、
これまでの“業界発信型インフルエンサー”と本質的に違う現象です。
ここからは、
実際に「スタンミ現象以前」と「スタンミ現象以降」での、
ユーザー推移データやネット分析を踏まえて、
「なぜ人が増えたのは彼の参入以降だったか」「既存広報との差」を
深掘りします。
これまでのインフルエンサー活動はなぜ人口を増やせなかったか
・VTuberやエバンジェリスト、企業アンバサダーは、
既存ファン・同好コミュニティへの発信に終始し、
認知や技術啓蒙には寄与したものの「新規ユーザーの大量流入」には
至っていません。
・2022年~2024年初頭のVRChat日本人比率は、
約12.3%→12.9%と伸び悩み(一年で0.6%増加)、
新規参入動機も「知人・既存コミュニティからの誘い」「内輪ノリ」が
主流だったのが調査でも明らかです。
・これらの活動の多くは、
「VR技術のすばらしさ」「文化の紹介」にばかり焦点を当てており、
実際に何ができるのか、どう楽しいのか、既存娯楽との違い
(人と会うから楽しいのか、そのコンテンツが楽しいのか)といった、
未体験層やエンタメ消費層の日常に刺さるような情報を提供できておらず、一般消費者層に、その熱量は届きませんでした。
この「インフルエンサー」や「有識者」、「業界の顔」のように
振る舞うユーザーたちの実際の広報力については、
すでに過去に当noteでも取り上げています。
スタンミが人を”連れてきた”といえる
これだけの根拠
実証データによるインパクト
・2024年2月:日本人比率 12.9%
・2024年12月:日本人比率 26.8%(前年比2.1倍、約15%増)
・新規流入の約48%がスタンミ氏の配信経由、
これにより、VR未経験エンタメ層がソーシャルVRに大量流入
・VRChat元日ピーク同時接続数136,000人(前年比30%増)
配信/切り抜き/動画等のSNS拡散総計は推定1億回再生超
“なぜここまで増加したのか”その仕掛けを分析する
エンタメ層への直接リーチ
・スタンミ氏は、従来の“業界内コミュニティ”出身ではなく、
LOL実況など大規模エンタメ層向けの既存視聴者ベースを持つ
配信型YouTuber/ストリーマーです。
技術・文化解説はせず「自分が実際に遊んでみた」体験映像で
“習うより慣れろ感覚”を誘起しました。
このことは、スタンミ現象以後にVRChatに訪れた
YouTuber/Twitchストリーマーが増えたことからも明らかです。
体験型・没入型コンテンツ
VRヘッドセット購入から実際に参加、
ユーザーとの交流やイベント参加までのリアルな困難も含め
“物語”として配信したことが大きいと考えられます。
技術の面倒さは「通過儀礼」と捉え、「やってみれば楽しい」という
一般消費者層が感じる心理的ハードルの突破力が高かったといえます。
FOMOと拡張的参加意欲
「今やらなきゃ損」
「みんな参加してる」
「自分も推しと一緒に体験したい」というFOMO(取り残される恐怖)
を直接刺激したこと。
また、SNSで遊んだ体験が瞬時に拡散されたことによって、
一般層の認知を「面白そう」から「やってみたい!」へ
「興味関心」を「行動」に転換させたこと。
これがこの現象に継続的な燃料を供給したと言っても
過言ではないと感じます。
コミュニケーションの質とWeb的盛り上げ演出
スタンミ氏に発信は単なる情報発信に留まらず、
ユーザーとの“本気の掛け合い”や、
視聴者も参加できる“公開イベント”の連続企画。
モノマネ大会・人狼企画・バーチャルライブ、偶然の出会いなど、
余白あるコンテンツから
“自分もやってみたい”という視聴者層の気持ちを喚起させました。
これらはどれも、
これまでの既存広報施策に圧倒的に足りていなかったことです。
スタンミから始まったインフルエンサー進出はVR業界をどう変えるのか
「人が増えたのはスタンミが来たから」
この現象は、
従来の技術啓蒙・文化布教型インフルエンサーとは一線を画し、
「外向きの体験・共感・即参加意欲」を拡張した“参加誘発型影響力”に
よる新規流入であることが、実証データと現場証言で裏付けられています。
今後のVR普及のカギは、
“見る→やってみる”の体験誘導とエンタメ層へのストリーミング型発信に
あると考えています。また従来の文化発信型広報施策は、
結果的に「マナー講師」的な立ち位置として
一般消費者層から受け止められ、普及阻害要因として機能しているの
かもしれませんが、かなり長くなってしまったので、
本稿はこれにて締めくくりたいと思います。
次回予告
次回は、同年代に登場した「生成AI」になぜ「メタバース」は
人気と興味関心、そして普及速度を奪われてしまったのか。
そして、今後継続して「ソーシャルVR」が発展していくには
どうすればよいか。深堀りしていきたいと思います。
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