メタバースの熱狂はなぜ消えたのか。「ソーシャルVR」から考える、現在地とその未来【前編】
今回取り上げるテーマはメタバースです。
1本の記事にまとめるには深く、正しく内容が伝わらないと感じたため、
3部構成の記事として公開します。
この記事を読み進める前に
この考察は現状を多角的なデータに基づき冷静に分析したものです。
刺激的な内容・立場も含みますが、議論の活性化を目的としており、
関係者や個人への誹謗中傷意図はありません。
世界的ブームの終焉、日本の停滞
2021年、Meta社の社名変更をきっかけに
世界的な「メタバース」ブームが日本にも到来しました。
SNSや検索キーワードの急増、各界の投資ラッシュが続きましたが、
熱狂は長続きすることなく2023年以降、普及が鈍化。
2024年にはDisneyやMicrosoftなどグローバルな大手企業の撤退が相次ぎ、
国内でも「ROI(投資対効果)」を確保できず、
事業撤退を決めた企業が91.9%に達するなど現実的な“潮の引き”が
顕在化しました。
また、ソーシャルVRにおいても、
2024年のスタンミ現象(配信者のスタンミ氏によるVRChat配信)によって
活気づいたものの、国内の一般層へ浸透したとは言えない状況が
続いています。
”メタバース熱”はどこに消えたのか。
2025年8月現在、いわゆるメタバースへの興味と関心はChatGPTなど
ジェネレーティブAI(以下、GenAIと記載)への関心に代替されており、
一部先端層や業界界隈を除いて一般層の話題から消えつつあります。
認知度は依然高いものの、日常的な利用や定着には至っておらず、
「メタバース」は、「スマートフォン」や「スマートホーム」ほど
広く普及しておらず、
また利用率で言うならば、ChatGPTを含む「GenAI」のほうが
広く利用されていると言っても過言ではないといえます。
VRハードウェア 市場の冷え込み
2022年の国内VRデバイス出荷台数は48万台、2023年57万台、
2024年は48.6万台と前年比14.8%のマイナス成長。
スマホのような日常的普及には遠く、
Apple Vision Pro(初年度50万台未達)、
Meta Quest 3(2024年Q4市場シェア84%)などリーダー機材も、
エンタメ層への浸透には至っていません。
VR機器が"価格と機能面"で
エンタメ層への浸透に至っていないと言える
その根拠
価格障壁
エンタメ層の予算帯とVRヘッドセットの実際コスト:
購入者調査ではエンタメ層におけるハードウェアに割かれる予算は
3-7万円がボリュームゾーンです。
一方で、VR機器及びそれをベースとしたメタバース環境には、
高性能PC(10-15万円)+ VR機器(3-20万円)の
総額20-40万円必要であることから、
まだ普及には重大な障壁となっていることが伺えます。
コンテンツ及び体験品質問題:
ゴーグルの重さや装着感、VR酔い、狭い日本住宅での動作環境などは、
「物理的・体験品質」面として普及の大きな妨げとなっています。
このことについては、これまで当noteでも複数回取り上げてきたことです。
認知と購入の深刻な乖離
Apple Vision Proについては認知度調査で「知らない」85%、
「知っている」人でも57%が購入「したくない」と
回答していることからわかるように、
費用が一つの障壁となっていることは明白です。
市場データから見る定着性
・SteamVRユーザー比率:
全Steamユーザーのわずか1.63%のみがVRを利用(2025年8月)
・アプリダウンロード数:
Meta Questアプリが1030万件(2022年)→780万件(2024年)と24%減少
・日本市場縮小:
2024年VRデバイス出荷48.6万台(前年比14.8%減)
・世界VR市場:
2025年Q1は前年比18.1%増で回復傾向も、絶対数は依然限定的
・Meta独占状況:
Quest 2+3+3Sで全体の61.28%を占めるも、市場全体は縮小傾向
(2025年8月)
ソーシャルVRの成長と一般層の限界
VRChat等プラットフォームの同時接続数は、
2019年平均1万人→2025年元日13.6万人と5年で約7倍拡大。
2024年は「スタンミ現象」による配信者パワーで、
日本人比率も前年比2.1倍に急増しましたが、
これは主にスタンミ氏という配信者がもっているコミュニティ及び、
視聴者層経由の新規流入によるものであって、
一般層の参入は依然少数派です。
利用実態と「閉じたコミュニティ」
・メタバース・VR利用経験は国内人口の6.1%(JTB総研2024年)、
認知率は63.32%であるものの、
実際の利用率は認知層のうち17.22%にすぎないという結果が出ています。
・VRChatなどの盛り上がりは“閉じたコミュニティ”の中でのみ加速し、
広範な社会層への波及は見られない状況が続いています。
コンテンツ・クリエイター・経済圏の課題
アバターやワールド制作、クリエイターエコノミーも注目されていますが、
3Dモデル市場は2030年予測でようやく2,170億円(年平均成長率10.8%)。
産業領域(教育・自治体・エンタメ等)の実証実験も進みますが、
日本市場は依然「PoC(概念実証)」段階で、
成果の二極化=戦略投資か撤退かが鮮明になっています。
VRChatはソーシャルVRプラットフォームの1つであるが、
決してソーシャルVRの代表ではない。
日本に限って言えば、
メタバースとはソーシャルVRのことを指し、
ソーシャルVRとはVRChatのことであるという論が主流だと
認識していますが、VRChatは米国企業が運営しているものであって、
海外リスクはないのかということについて論じている話は見かけません。
日本企業が運営しているプラットフォームは、
clusterとバーチャルキャストがありますが、VRChatほどの認知度が
あるのか、またその利用率は不明です。
ソーシャルVRについて語る場合において、
VRChatが代表格であるという論調にあまりにも日本は重きを置きすぎ
ではないだろうか?という疑問も湧いている現状があります。
外国製サービスが悪いとは言わないが、
日本国内で健全にメタバースが普及していくためには、
VRChatを基準とした言論に終始しないようにする必要があると感じます。
また、日本国内におけるソーシャルVR関連の経済活動は、
主にピクシブ社のBOOTHがメインプラットフォームであるということ
にも大きな問題があります。
一社集中型の購買体制は、
昨今の決済会社からの締め出しリスクがある現状において、
非常に脆弱であると考えられます。
現状は、アカウント紛失等によるピクシブアカウント停止
=ソーシャルVRの実質的な購買機能停止とみなせるわけで、
国内企業が運営する購買機能は
複数あった方が良いという観点から考えれば、
その点について具体的な検討が必要だと考えています。
次回予告
中編では、従来のインフルエンサー・アンバサダーを中心とした
広報活動の限界、新世代の配信型アプローチによる流入・加速効果など、
“人の側面”に焦点を当てつつ、多角的に掘り下げていく予定です。
特にVRChatや配信者文化の動きから、その可能性を考察していきます。
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