スピ系の人に会うと「坂爪さんはあたたかくて優しい循環の世界を生きているように見える」と言われるが、俺の仏頂面を見ろ。俺がそんな言葉で喜ぶと思うか。なめられたものだ。俺が生きているのは冷酷で非情な修羅の世界だ。血で血を洗うブラッディーな日々。それが最高に自由なのだ。悪いけどお前たちとは人間の質が違う。坂爪さんは世界を信頼していますよねとか言われると「気持ち悪い」と思う。言いたいことはわかるが、言い方が気持ち悪いから拒否をする。信頼とか、安易な言葉に括られたくない。解像度が低過ぎる。

気持ち悪いおばさんから「私は坂爪さんのことはあまりよく知らないし好きでもないけど、熱海の家を誰でも自由に使っていいと聞いた時はもしもの時に頼れる場所が増えた気がして心強い」と言われた。おい、おばさんよ。なぜ俺がお前に家を貸すと思った。勘違いするなよ。俺はインフラではない。好きな人にはばっこんばっこん貸すが、こんな奴に使われたら家が腐ると思った人間には触れさせない。誰でも自由に使えると言うのは嘘ではないが、俺はどこまでもエコ贔屓をする。優しくしたいと思った人には優しくするが、お前はそのまま死になさいと思った人には何もしない。無料より高いものはない。俺の仏頂面を見ろ。こんな顔をした人間が、お前に家を貸すと思うか。

寝る場所がなくて困っていたら、自称スピリチュアルヒーラーの人から「誰も使っていない実家があるのでよかったらどうぞ」と連絡が届いた。スピリチュアルヒーラーのプロフィール欄には『愛と光の女神』と書かれてあった。自分のことを女神とか魔女とか言う女は全員ヤバいと思っていたが、ヤバいからこそ一眼見たいと思って会った。実家に案内されて眠った翌朝にどんな家か見てやろうと思って台所をうろうろしたら、一枚の紙切れを見つけた。そこには「泥棒へ」と書かれてあった。泥棒に対する威嚇の文書だったが、そこには「泥棒へ。家にあるものを盗んだら絶対に許さないからな。お前をぶっ殺す」と書かれてあり、戦慄した。スピリチュアルヒーラーとは何かね。

お話会に呼ばれたが会場の空気が最悪で話す気が失せた。慌てた主催者が「Ｑ＆Ａにしましょう」と言った。私は「なぜ来た？」と客に問うた。会場は凍りつき地獄の沈黙が続いた。金をもらっているのだからそれ相応の働きをしなければならないことは私にだってわかる。わかっているが、できない。媚びるくらいなら「俺を殺せ」と思う。お話会だからって話してもらえると思うな。言っていることがめちゃくちゃなのはわかる。わかっているが、できない。自分が自分であることを止めることができない。文句があるなら俺を殺せ。懇親会に移行したが、地獄の沈黙は続いた。時間が無駄になるからファブルを読んでいたが、誰一人「ファブルかよ！」と突っ込む人は現れなかった。これが一蓮托生。文句があるなら俺を殺せ。

医食同源がモットーの中華料理を食べたら体調を崩した。女将から「よく眠れましたか？」と蚊の鳴くような声で聞かれたので、怖くなって「眠れました」と嘘をついた。他の参加者もあまりよく眠れていなかったみたいだが、女将が怖いから誰も真実を言わなかった。女将の中では「この宿はみなさま熟睡されています」という世界が続き、参加者は「眠れない館」の世界が続く。こうして世界はズレていく。誰も本当のことなんか言わないから、自分で気づくしかない。真に健康な人とは、体に良いものを食べている人ではなく、何を食べても元気な人だと思う。真に元気な人とは、悪口を言わない人ではなく、ポップな悪口を絶え間なく吐き続けている人のことだと思う。そこのところを履き違えると、ドス黒いスピ系の人間が大量生産される。悪口を言わないことが良いのではない。ジメッと言うのではなく、カラッと悪口を言いまくる人が、真に元気な人なのだと思う。