「SNSで評判がいい」外国人規制強化、自民総裁選で過熱 参政党に流れた保守票奪還へ…鮮明になった“方針転換”
「違法外国人ゼロ」「政策の司令塔機能強化」-。自民党総裁選で候補が相次いで外国人政策の「規制強化」に言及している。24日の日本記者クラブ主催の討論会でも話題になった。政府は外国人労働者やインバウンド(訪日客)を積極的に受け入れてきた経緯があり、昨年の総裁選ではほぼスルー。今夏の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党などに票が流れたとされ、保守票奪還を意識して“方針転換”が鮮明になっている。 (小川勝也、村田直隆、山口新太郎) ■街宣活動をする政治団体と、街宣をやめさせようとする市民らで騒然とした福岡市のモスク周辺 「外国人観光客がシカを蹴り神社の鳥居を鉄棒にしたと批判した。根拠はあるのか」。同討論会で、高市早苗前経済安全保障担当相へのメディアからの質問は「奈良公園のシカ」で始まった。「自分なりに確認した」と高市氏は強弁した。
指摘されたのは2日前の所見発表演説会での発言。奈良公園(奈良市)のシカへの暴行に訪日客が関与したと示唆して批判した。外国人が関与した根拠は示さず、野党からは「差別を助長する」などと疑問の声が上がる。高市氏は演説会の持ち時間の約半分を外国人政策に充てた。土地取得の規制強化などを熱っぽく語っている。 高市氏の掲げる政策が突出しているわけではない。「穏健保守」を自任する小林鷹之元経済安保相も「できるだけ外国人に頼らない仕組みをつくる」と語り、厳格化の方策を訴える。在日クルド人が多く住む埼玉県川口市を視察した茂木敏充前幹事長は「違法外国人ゼロ」を掲げ「ルールを守れない外国人には、厳正な対応を取る」と強調した。 昨年の総裁選で選択的夫婦別姓制度導入に前向きな姿勢を示すなど、リベラル色が強いとされる小泉進次郎農相も「医療保険や児童手当の不適切利用を是正する」と厳しい姿勢。林芳正官房長官は抑制的だ。 外国人政策を巡っては、第2次安倍晋三政権下で外国人労働者の受け入れを拡大し、訪日客の積極誘客も進めてきた。在留外国人と訪日客は昨年ともに過去最多になった。人口減による労働力不足が深刻で外国人に支えられる産業も少なくない。そんな中でも外国人政策をことさら打ち出す背景を、ある中堅は「自民党から離れた保守層には受けがいい。取り戻すきっかけになる」と解説する。 今夏の参院選で参政党は「外国人総合政策庁」の創設やスパイ防止法制定などを公約に掲げ、躍進。かつて自民支持だった岩盤保守層が流れた、と指摘される。24日にあった候補者と国政選挙の落選者との会合でも外国人政策が話題に。出席者の一人は「外国人の土地取得に関して地元住民の危機感は強い」と語り、候補たちの強い対策に期待した。 党内では「感情論ではなく、冷静な論戦が必要だ」との声もある。一方で、参院選で苦戦した別の中堅は「誰が総裁になっても外国人への規制は強まる。いいことだ」とほくそ笑む。高市氏の「奈良のシカ」発言について、支援議員は「交流サイト(SNS)で評判がいい」と満足そうに語る。
西日本新聞