東京新聞はジェンダー平等への取り組みの一環で、紙面に登場する識者の性別に偏りがないか、今年1月から記事をチェックしてきました。8月までの集計で、おおむね8割が男性で、女性は2割にとどまりました。取り組みへの評価や、偏りをなくすために必要なことについて、田中東子東京大教授(メディア文化論)に聞きました。
田中東子(たなか・とうこ) 東京大大学院情報学環教授。フェミニズムの観点からメディア文化を調査、研究。著書に「メディア文化とジェンダーの政治学—第三波フェミニズムの視点から」「ジェンダーで学ぶメディア論」(共編著)「ガールズ・メディア・スタディーズ」(編著)など。NHK放送文化研究所のジェンダー比率調査について助言している。
◆特定分野とジェンダーの結び付きの強さ、紙面にも反映
――女性識者は2割という結果でした。
インパクトありますね。女性は5人に1人しか出てこない。
しかし、まずは数値化したことがとてもよい。「女性は少ないだろうな」となんとなく思っていたのが、数字で示されると「本当にそうだったんだ」と誰もが認識できます。
メディア内部での同様の取り組みは、NHK放送文化研究所がニュースの中のジェンダー比率を調査していますが、そんなに多くないと思います。
――女性の識者が多く登場した記事のテーマは教育や高齢者福祉など。逆に政治や地方自治、経済、軍事は識者が複数いても、女性ゼロは珍しくない。政治でも米大統領の政策など海外の話題は女性も目立ちます。
男女平等度を各国比較する「ジェンダー・ギャップ指数」での日本の結果とよく似ていますね。日本は毎年低位で、分野別で「教育」「健康」は良くて「政治」「経済」は最低レベル。
日本社会における特定の分野とジェンダーとの結び付きの強さが、そのまま紙面に反映されている印象です。海外ニュースで女性識者が増えるのは、語学を生かし国際的に働く女性が多いのと一致します。国連で活躍される日本人はほぼ女性です。
◆女性識者の少なさ、取材記者の性別の偏りも一因
――日本の現状を考えると、女性識者の登場が少なくても仕方ないですか。
確かに、女性研究者が実数として少ない側面はあります。しかし、新聞やテレビに登場する研究者の女性比率は、実際の比率よりさらに低いと言われています。メディアによる「過少化」が起きており、是正する必要があります。
過少化の一因に、記者の性別の偏りが挙げられます。女性記者は女性識者を知っていますが、多数を占める男性記者は男性識者に頼りがちで、結果として記事中の識者も男性が多数になる。記者のジェンダーバランスを是正することが、識者の性別の偏りをなくすための重要な要素です。
すぐにできることとしては、編集局全体で参照できる識者のデータベースを作成し、女性識者のリストアップを意識的に増やしてはどうでしょうか。
◆鋼のメンタルでないと語れない社会は不健全
――女性識者はSNS(交流サイト)などで攻撃されやすく、登場してもらいにくい要因にもなっています。
炎上を恐れて女性が発言しなくなっては、たたく側の思うつぼです。政治や社会問題を解説する女性がまだまだ少数だから標的になりやすい。女性識者へのオファーはむしろ増やしてください。
ただネット上のバッシングは深刻です。特に多様性や外国人の話題で顕著ですが、「たたいていい」という風潮があること自体を社会問題化してほしい。
男性も怖いでしょうし、記者や政治家もたたかれていますよね。鋼のメンタルでないと語れない社会は不健全で、戦前のような空気になってしまう。
曲解されない見出しを付けたり、紙とネットで記事の出し方を変えたりする工夫や、炎上させない仕組みづくりなどを考えることはメディア全体の課題です。
◆「8割を占める男性」の同質性を省みて
――今後に向けたアドバイスを。
「女性を増やす」というより、「男性を減らす」というとらえ方をしてもらいたい。着目すべきは、現在8割を占める男性識者の同質性です。(生まれた時に割り当てられた性と、自認する性が一致する)シスジェンダーの健常者で高年齢者が多いのでは。
長く、新聞自体がその属性の人々の価値基準でつくられてきました。家族で読んだ時にお父さんだけが気持ち良くなれるような。若者や女性などにとって、自分たちの利益や課題を取り上げてくれないメディアとして成り立ってしまった。
「紙面に誰を登場させるか」と、「どんな記事がつくられるか」は密接です。「8割を占める男性」の同質性を省みることで、主流から排除されてきたマイノリティーを包摂(ほうせつ)する可能性もあり、女性が「男性から既得権益を奪う」というイメージを植え付けられることもなくなっていくと思います。さまざまな属性に着目してジェンダー平等を目指してください。
調査手法 東京新聞が続けているモニタリングは、毎朝刊(最終版)の1、2、3、国際・総合、特報、社会、第二社会の各面を対象に、コメントを求めた識者の男女ごとの人数を数えるものです。1〜8月の対象面に登場した識者は延べ1000人を超えました。割合はおおむね女性2、男性8で推移しています。
テーマ別にみると、学校給食や米国のトランプ大統領関連(関税、LGBTQ問題など)は女性識者が複数登場しました。高校無償化の是非やフジテレビCM問題などは男性が複数でしたが、女性はゼロでした。
◆「危機意識を共有、取材の幅を広げていきます」編集局長・中村清
「女性2、男性8」のモニタリング結果や田中教授の指摘を受け、自問自答しました。日々のニュース取材の慌ただしさと締め切り時間を言い訳に、私たちは記者としてやれること、やるべきことを後回しにしてこなかっただろうか、と。
各記者によって答えは異なるでしょうが、紙面での偏りが明確である以上、編集局として危機意識を共有し、具体的に実行しなければなりません。日ごろから、より多様な識者、研究者への取材の幅を着実に広げることを約束します。
「女性2」の改善に努めることには、数字以上の意味があります。真摯(しんし)な反省と実践は、私たちの「権力監視」や「弱者に寄り添う報道」をより力強いものにすると確信しています。
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