「先程はウチのウツボ共が申し訳ありませんでした。丁寧にお迎えする様にとは言っておいたのですが…」
オクタヴィネル寮内にある『モストロ・ラウンジ』。その更に奥にあるVIPルームで、ラウンジの支配人でありオクタヴィネルの寮長であるアズールはわざとらしくため息をついてみせる。
制服ではなく寮服でソファーにゆったりと座り、快斗はテーブルを挟んで対峙する。にこやかなアズールに対し快斗の顔は不満に満ち溢れていた。
「それはまぁ別に良いんですけど…どっちかって言えば今のこの状況をどーにかしてくれません?」
「だってこうしないとぉ、小エビちゃん逃げちゃうでしょ?」
「…………」
間近で聞こえるフロイドの声に快斗は頭を抱えたくなった。
寮に戻ってからリーチ兄弟は魔法で衣服を寮服へ着替えた後、快斗をVIPルームへ招き入れるとフロイドは問答無用で快斗を捕まえソファーに座り自分の膝の上に横向きで座らせる。更には腰に手を回して少し強めに抱き締め、簡単に逃げられない様にするのも忘れてはいなかった。快斗も当初は煙幕等を使いさっさと逃げてやろうかとも思ったが元々人魚である三人の五感は人とは異なる為、過去の経験から無駄だと判断して一先ず大人しくしている事にした。
「居心地の悪さはあるでしょうが、お話が穏便に終われば直ぐにでも解放して差し上げますよ」
アズールの言葉に快斗は即座に心中で毒を吐く。
(なーにが『穏便』だっつーの!やってる事はほぼ『誘拐』と『脅迫』だろうが!!『穏便』って言葉を辞書で調べてこいっ!!)
心中でひとしきり毒を吐き散らかす間も表面上ではお得意のポーカーフェイスを貼り付ける。本来なら直接言ってやりたいがリーチ兄弟が手強いのは勿論の事アズールもまだ学生ながら実力は相当で、その頭脳は曲者揃いのナイトレイブンカレッジ内でも有数のキレ者として快斗は認識していた。加えて快斗には魔法が使えないという最大のハンデがあり今はグリムも側に居ない為、一先ずは三人の機嫌を損ねないのが得策だと考えての事だった。
(こんな感じの事、前にもあったよーな気がするなぁ…)
快斗の脳裏に特徴的な懐かしいヘタ頭が一瞬過る。
「…それで?オレに話って何なんです?」
「つい先日、僕のクラスのハーツラビュル寮生が話をしているのを小耳に挟みましてね」
早々に本題に入った快斗に向かいアズールは自身のスマホを取り出し、簡単に画面をタップしてから快斗に向けて見せた。
「これ、貴方で間違いありませんよね?」
そこには先日ハーツラビュル寮内でマジックを披露した際の快斗を撮った動画が映っていた。快斗の目が僅かに細められ、アズールはそれに気付いた様だったが構わず話を続けた。
「それで?」
「…今度ラウンジで新しい企画を考えていまして、宜しければ貴方にも御協力をお願いしたいんです」
「一先ず内容を聞かせてもらっても?」
快斗が開口一番に断る展開も視野に入れていたらしいアズールは少し意外だと言いたげにしながらも、事前に用意していたらしい数枚の書類を快斗に向かって差し出した。それを受け取り企画書らしい最初のタイトルを快斗は思わず読み上げた。
「ディナーショー?」
「ええ。ポイントカードの導入でラウンジは以前にも増して盛況なんですが…他にも色々試してみたい事がありまして、今回の企画もその一つなんです」
「成程…オレのマジックをそのショーの目玉にしたい、と?」
「流石、お話が早くて助かります。勿論報酬はきちんとお支払い致しますし、必要な物があればバックアップは惜しみません」
視線は企画書に落としたまま話を続ける快斗の説得の為、アズールは更に話を続けていく。
「聞いた所によるとオンボロ寮の予算は学園長の気分次第だとか…貴方も色々事情がありますし、臨時収入がある方が何かと………」
「引き受けるぜ」
「え…?」
企画書から顔を上げた快斗はアズールの話をたった一言で遮った。
「だからぁこの話、引き受けるって言ってんの」
何時の間にかフロイドに横抱きにされていた筈の快斗は、開かれたフロイドの脚の間に腰を降ろし軽く背後のフロイドにもたれ掛かりながら脚を組んで座っていた。当のフロイドは快斗の腰に緩く手を回してはいるものの最初程の拘束力は無かった。
「…随分あっさりと決めるんですね」
正直アズールは快斗の事を軽く警戒していた。
ナイトレイブンカレッジの入学式にいきなり現れた異邦人。
魔法こそ使えないものの数学等の通常授業は勿論、魔法史や魔法薬学といった座学においては間違い無く学年主席に等しい実力を有していた。気分屋という訳ではない様だったが、快斗本人が意図的に成績を調整しているらしく実際の順位は上位グループ内の下位に留まっていた。
それだけの事をやってのけるだけの頭がありながら快斗が他者に向ける態度は誰にでも変わらず、無害な笑顔と気さくな性格であっという間に学園内で存在感を示していた。
(ジャミルさんとはまた違う理由の様ですが…出来過ぎなんですよね、いっそ恐ろしい程に)
よく回る頭を持ちながら野心も片寄った思考も無く真っ白に見えながらもその実、アズールは快斗に何かしらの裏の顔の気配を感じていた。
今回の事も当初快斗は話を聞く前に逃げ出したというのに、いざ交渉の場に立てば即決で判断してしまう。その切り替えの早さは何からくるものなのかアズールには理解が出来なかった。
(フロイドとはまた違ったタイプの様ですが…僕には理解出来ませんね)
「それにしても…宜しいのですか?僕達が貴方に対して不利な条件を出すかも知れないのに」
それまでアズールの傍らに立ったまま、ずっと沈黙を続けていたジェイドがにこやかに口を開く。
「まぁその可能性は考えなかった訳じゃないけど…ジェイドとフロイドは兎も角、アズールはオレに対して何かするとどうなるか…よーく分かってるんじゃねーかと思って」
言われてアズールが眉を潜める。
以前快斗からの勝負を受けた際、自身のユニーク魔法で集めた二百枚近くの契約書を一瞬にして砂塵にされてしまったからだ。しかも面倒くさがりで己に利があったとしても他者の為に動く事等考えられないと言われたサバナクロー寮長の助力を得ての事だった。
自身が魔法を使えなかろうが快斗には大した障害ではない。持ち前の頭脳に加えて他者を惹き付ける能力はアズールにとっては驚異であったし、自身もその魅力に惹き付けられてしまっていると自覚しているだけに快斗はアズールの中でも特異な存在だった。
「それに…ラウンジの事でならアズールは極力合法的に物事を進めたい筈だ。近い内に二号店を出したいならそれなりの収益が必要だし、それには店の人気を一定以上に保てなければ難しい。それなのに…この学園において最も異質で色々と曰く付きのオレに対して何かすれば前回の事件もあるからどう転んでもマイナスイメージは避けられないし、オレは学園長から依頼があればある程度の権限も貰えちゃったりなんかもする。商売人ならそんなあからさまなリスクは遠慮したいだろ?」
快斗の指摘にジェイドやフロイドに加えアズールまでもが黙ってしまう。
「なら…こんな面倒事、断れば良いでしょうに…」
「話を聞くまではそうするつもりだったんだけどなぁ…」
漸く口を開いたアズールに快斗は困った様に眉を下げて笑う。
裏を感じさせないその笑顔にアズールの目が見開かれる。
「エンターテイナーってさ、立てる舞台がねぇと存在意義を見失なっちまうんだよな」
快斗はフロイドに凭れていた背を浮かせ膝の上に肘を置き、何処から出したのか何時の間にか手にしていたトランプの束を弄り始める。
「どれだけ技術を磨こうが…それを見て楽しんでくれるギャラリーが居ないと意味がねぇんだよ。観客の歓声に囲まれて…持てる技術を全て使ったパフォーマンスが称賛をもって持て囃される感覚を一度でも味わっちまうと尚更な…」
束の中から無作為に選んで手に取った一枚のカードを小さく丸めて握り締め、直ぐ様その手をひねって開いた瞬間快斗の手には一輪の赤い薔薇が現れる。それを宙に放ったかと思えば次の瞬間、快斗が指を鳴らしたと同時に薔薇はポンッと軽い音をさせて白い煙を纏いそのまま跡形も無く消えてしまった。
その流れるような一連のマジックにアズールを始め背後から見ていたフロイドですらタネを見破れなかったのか目が釘付けになる。
「…つまり、舞台さえ用意すれば協力してくださると?」
「ああ。こう見えてオレは完璧主義者でね。仕事として引き受けたからには、何があってもショーの手は抜かねぇ。オレが持てる技術の全てを使ってそちらが望む完璧なショーにしてやるよ。まぁ…勿論それ相応の報酬も貰うけどな」
途端ニィと口角を吊り上げる快斗の雰囲気が変わった。
飄々としていながらも何処か冷涼な空気を纏う快斗にアズールは得体の知れない何かを感じつつ表面上は冷静を装う。
(やはり…食えない人だ)
「では…お互い口約束では色々と不都合でしょうから、一応此方で契約書を用意させていただきました」
「当然約款は見せてくれるんだよな?」
「勿論です」
「その契約書…『黄金の契約書(イッツ・ア・ディール)』だったりなんかしたら…うっかりラウンジが砂漠になっちまうかもな」
冗談めかしていながらも目の奥が笑っていない快斗に対し、笑顔をひきつらせながらアズールは普通の紙で作成した契約書を渡す。
渡された契約書の約款に目を通しながら快斗は胸ポケットからペンを取り出し、手の内で器用に回しながら丁寧に文章を目で追っていく。
「此所と此所、後はこっち…言い回しは巧みだけど意図的にオレに不利な内容になってるから訂正してくれる?」
「…目敏いですね。普通そこまで熱心に約款を読む人は居ませんよ」
「頭にイソギンチャク生やされんのはごめんだからな」
ペンで上書きした約款をアズールに返しながら快斗が冗談っぽく笑う。それに対しアズールは わざとらしく溜め息をついて約款を封筒に入れ、背後に控えたジェイドへと手渡した。渡されたジェイドはVIPルーム内に置かれているアズールの執務机に置くと、そのまま一旦部屋から出て行った。
「約款は明日迄に訂正しておきます。契約書への署名はその時にお願いしても構いませんか?」
「ああ。オレはそれで構わないぜ」
「話終わったぁ?」
一先ず区切りがついたと判断したらしいフロイドがアズールに問い掛け、アズールが短く肯定し緊張を解いてソファーにゆったり座り直したのを合図にフロイドが背後から快斗に抱き付いた。快斗の肩に顎を乗せ無邪気な笑みを浮かべてじゃれつくフロイドに快斗の笑顔はひきつっていた。
「あー、やっと終わったぁ。ねーねー小エビちゃん、さっきの鬼ごっこ面白かったからさぁまた今度やろ?」
「勘弁してくれよ…他の生徒に見られたら面倒な事になるじゃんか」
「いーじゃん別にぃ…面倒くさい事言うヤツはぁ、みーんな絞めちゃえば黙るでしょ?」
「駄目です!生徒からの苦情ですら面倒なのに…学校側からも何か言われたらどうするんです…」
即座にフロイドを制したアズールは盛大な溜め息を洩らし、いつの間にか戻って来ていたジェイドが用意した紅茶をゆっくりと飲む。
「監督生さんがオクタヴィネルに転寮なさったら一番手っ取り早いのですけどね」
快斗の前にカップを置きながら本気とも冗談とも知れない笑みを浮かべるジェイドをアズールが視線で咎めるが、それに敏感に反応したフロイドが嬉々として快斗にじゃれつく。
「ほらほらぁジェイドもああ言ってるしぃ、小エビちゃんウチにおいでよ」
「……いや、それは慎んで遠慮シトキマス」
更に顔を近付けてくるフロイドに向け快斗は広げた掌でやんわりと制する。
(冗談じゃねぇっ…只でさえ此所は苦手なアレがウジャウジャいるし…フロイドの遊びはたまに過激だしなぁ)
何時だったかラウンジの水槽で遊ぼうと人魚に戻ったフロイドに引きずり込まれそうになった事を思い出して快斗の背筋が凍り付く。
「お前達…あまり彼を困らせる様な事はしないでくださいよ」
アズールがオーバーブロットしてしまったあの事件以降、リーチ兄弟は快斗をいたく気に入ったらしく快斗がラウンジに姿を現す度に二人は入れ替わり立ち替わり構う様になった。
他の生徒とは明らかに何かが違う異質さを感じているのか純粋な興味なのかは計りかねたが、アズールもまた快斗に密かに興味を抱いている者の一人としてリーチ兄弟からもたらされる快斗の話は小さな楽しみの一つだった。
「後…貴方の舞台に何か必要な物があれば遠慮無くどうぞ。此方としても協力は惜しみませんよ?」
ちゃっかりとフロイドの隣に座ったジェイドから返してもらったトランプ銃を軽くチェックしている快斗に向けアズールが声を掛ける。見慣れない道具に目を輝かせながら間近で見ているリーチ兄弟同様、アズールも気にはなったが生来の気質から口には出せずまた今度と諦めて仕事の話を続けた。
「そうだなぁ…ショーの構成は何と無く考えてるけど、当日の舞台や座席の配置が書いてある具体的な計画書があるなら欲しいかな。ラウンジは何度か来てるから構造は大体分かるし、それ見てタイムテーブル組むから具体案が決まったら一度デモンストレーションはさせてもらう。そっちも料理の内容やサーブの段取りとかあるだろうし」
「それは助かります。計画書はありますからお帰りの際にでもお渡ししますね」
「ショー自体の準備は自分でするから経費だけはそっち持ちで頼みたいな。まぁ最後に報酬から引いてくれても良いけど」
「それは当日のショーの出来次第にしましょうか…。此方で準備するものはありますか?」
「そっちには音響と照明だけ手を貸してくれたら良い。後は自分でどーにかするよ」
「分かりました。一先ず今日の所はこの辺りにしましょうか。どうでしょう…夕食はラウンジで召し上がっていきませんか?勿論お代は頂きませんので」
空になったカップをテーブル上のソーサーに置き、胸元から懐中時計を取り出して時間を確認したアズールの誘いに真っ先に反応したのはフロイドだった。
「えっ!小エビちゃん食べてくの!ならオレ張り切っちゃおうかなぁ」
嬉しそうに表情を緩めるフロイドを不覚にも少し可愛いと感じつつ、快斗の脳裏に昼間咄嗟にデュースに預けた相棒の顔が過る。
「いや…グリムを預けてるし、あまり遅くなんのはちょっと…」
(多分…エースやデュースもかなり心配してるだろうしなぁ)
遠慮しようとする快斗を見て何処か残念そうにするアズールを見たジェイドはすかさず口を開いた。
「グリムさんならハーツラビュルに預けていらっしゃるのでしょう?彼処なら一先ず心配要らないのでは?ちゃんとお土産もご用意致しますし、フロイドの料理の腕は保証しますよ」
「まぁ確かに…」
(アイツ…多分今頃トレイ先輩のケーキ食いまくってるんだろうなぁ)
トレイが振る舞う様々なスイーツで腹を膨らませたグリムが容易に想像出来、快斗は今後の関係を考えると誘いを断るのも悪いかと考え始め結局はアズールの言葉に甘える事にした。
「じゃあお願いしようかな…」
快斗の承諾に更にテンションを上げるフロイドの影で表面上は普通を装っているものの、密かに嬉しさを滲ませるアズールにジェイドは笑いながら困った様に眉を下げて席を立つと厨房への指示とラウンジの席を確保するべくゆっくりとした足取りで一足先にVIPルームを後にした。
「…こんばんは。グリム、お待たせ」
結局快斗が解放されたのはあれから一時間以上も後の事で、ハーツラビュル寮にグリムを迎えに行く頃には日が暮れ辺りはすっかり暗くなっていた。
「あっ、快斗!良かった、無事だったんだなっ」
「心配させて悪かったな…」
談話室に顔を見せるなり真っ先に駆け寄って来たのはエースとデュースだった。口々に心配する声を掛けるその後ろからリドルやトレイ、ケイトまでもが何処か心配そうな面持ちで歩み寄ってきた。
「お疲れ~。まさかジェイドくんとフロイドくんの二人から追い掛けられるなんて、快斗ちゃんもツイてなかったね…」
「君がもう少し遅かったらアズールに直接問い質すつもりだったけど…一先ず無事で良かったよ」
「また何か厄介事に巻き込まれたか?」
自分の寮生ではない快斗の心配をしてくれるリドル達に感謝しつつ、トレイの問い掛けに快斗は眉を下げて苦笑いを浮かべる。
「いえ、ちょっと頼まれ事をされただけですよ。内容はその内分かると思うので今はちょっと……」
「それ…なんかヤバい内容じゃないだろうな?」
アズールの計画はまだ準備段階でリーチ兄弟以外は他のオクタヴィネル寮生も知らないらしく、契約上の守秘義務に基づいて快斗は話の内容を暈した。以前の事件の当事者でもあるエースやデュースはそこが気になったらしく、納得していない面持ちに快斗は軽く二人の肩を叩く。
「大丈夫だって。あ、そうだ…二人に頼みたい事があるんだよなぁ~」
「へ?」
「頼みたい事?」
ニィっと企みを含ませた笑みに二人は一瞬嫌な予感がしたが快斗は二人の間でそれぞれの肩に手を置いたまま顔を伏せ、リドル達に聞こえない様先ずはエースの耳元でそっと囁く。
「エース、お前…オレのマジック教えてほしいって言ってたよな?直接じゃねぇけど…手伝ってくれたら間近で色々見せてやるよ。な~に、お前なら見て覚えるぐらい楽勝だろ?」
囁かれた内容に直ぐ様顔を快斗へと向けたエースが驚きに目を見開く。その様子に満足し今度はデュースへ向かって囁きかける。
「デュース、お前…今度の数学のテスト落としたらヤバいって言ってたな?手伝ってくれるなら…アズール先輩程じゃないけど、オレがテスト必勝の虎の巻を用意してやるぜ?」
今度はデュースが驚きの眼差しを快斗に向け、エースとデュースの反応を見てから快斗はゆっくりと顔を上げた。
「まぁ…何時かのチョコレートクロワッサンやアイスカフェラテに比べたら些細な礼だけどな。どうする?」
不敵な笑みを浮かべる快斗にエースとデュースの二人は表情をひきつらせながらも、提示された礼はそれぞれ魅力的で諦めるには惜しい内容だった。
「…しゃーねぇな」
「分かった。僕に出来る事なら協力する」
「決まりだな」
快斗達のやり取りを不思議そうに見ていたリドル達が声を掛けようとする前に快斗はリドルに向き直り頭を深々と下げた。
「リドル寮長。急で申し訳ありませんが、今夜一晩この二人をお借りしたいので、外泊許可を頂けませんか?」
「えっ…?それは明日じゃ駄目なのかい?」
「出来れば早急に事を進めたいので…」
急な快斗の申し出に驚いたリドルだったが、相手が快斗という事もあり溜め息をつきながらも無下に断りはしなかった。
「…分かった。でもくれぐれも危ない真似はしないでほしい。それと今度からは早めに申請を出す様に」
「有り難うございます!」
許可が下りた事で嬉しそうに表情を緩める快斗に、同い年のリドルを始めトレイやケイトもその笑顔を可愛らしいと不覚にも感じてしまう。
「んじゃ早速支度して行こうぜ」
楽しげな快斗とは正反対にまだ以来内容を知らされていないエースとデュースが内心ドキドキしている頃、グリムはというとハーツラビュル寮で夕食をたらふく御馳走になり早々に眠りこけてエースのベッドで丸くなって寝ていたそうな。
今回はオクタヴィネル寮が舞台になります。
もう暫く続きます。