法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『転生したらスライムだった件 第3期』雑多な感想

 2024年4月から半年間かけて2クール放送。スタッフはほぼ第2期やTVスペシャル「コリウスの夢」から続投。

 映像作品としては、原作由来と思われる会議の連続に目をつぶれば、アニメーションとして好感をもてる。手間と精度を高める一方のアニメ作画において、多様なキャラクターをラフなデザインで魅力的に動かすスタイル。
 第二原画や作監を入れつつ、作画をひとりで担当した回がけっこう多くて、安定したレイアウトで安心して見ていられる。特に最終回1話前の第71話が、アクション多めで絵コンテも珍しい構図をちりばめているのに、ちゃんとクライマックスらしい充実した作画になっていた。


 物語については、まず魔王たちの会合で何があったかなど2期終盤の出来事をけっこう忘れていたので初回に総集編があって助かった。
 とはいえ総集編に凝縮しただけにパターンをくりかえすだけのストーリーだなと初回から再確認した気持ちも強い。主人公の敵は主人公の圧倒的な力に表と裏で切り崩され、主人公より強い勢力は主人公に好意をもつという展開が少しの変化でつづくだけ。都合の良い敵と都合の良い味方しかいない世界。キャラクターの格は戦闘力と一致する。敵同士の対立で楽しませたり、主人公を力で圧倒する敵に対抗する知恵比べや緊張感を楽しませてくれない。
 主人公の姿のもととなった女性がらみの展開で少し期待したいところだが、消えた女性が納得しているために真実がつたわると復讐のドラマが消えてしまうことは予想できるし、事実そのとおりになった。


 第51話でさっそく主人公が他の魔王に認められた支配領域が主人公の認識より広大なことが知らされるが、そこで頭ごなしに新たな支配者が登場したことへの反発を誰も恐れず、むしろ喜んで主人公に恭順するだろうと誰もが語るところが厳しい。もとから主人公に心から従属する部下ばかり会議に出席しているためという理屈はつけられるが、逆に言うとここで主人公のひらく大勢の会議がイエスマンばかりなことが露呈して、会議の描写が無駄な時間だと感じさせてしまう。論争しないシャンシャン会議でしかないなら、大勢で集まるのではなく、事情を知っている数人が主人公に報告するだけでいいし、それを映像で描写するのも主人公ヨイショを楽しめる視聴者だけだろう*1
 第53話は本田敬一一人原画*2だが、ライバル的な騎士に視点が移っても延々と会議がつづいて絵に動きがない……ライバルもすでに主人公への復讐心が間違いだったと考えて勢力としても対立をさける判断をしており、主人公の強大な敵としての緊迫感が生まれない。ライバルを煙たがっている「老害」が戦いを煽りながらも緊張がつづくわけがないと視聴者視点で感じてしまう。先述のようにヒナタというライバル的な女剣士も、消えた女性を師匠としたいつつ主人公の優勢を認めて対話で和平をむすぼうとして動き、顔を隠した七人の黒幕が周辺をそそのかして軍事衝突を起こしても収束して、黒幕の策略で主人公への自動攻撃がおこなわれる時にかばって負傷する……展開の何もかもが主人公に従属することが幸福という世界観でつらぬかれている。転落の危険性を無視した上昇のようで、逆に怖い。
 そして第58話、前回の最後に姿をあらわした黒幕三人ずつが、不都合な目撃者ごと正面から攻撃をしかけて、あっさり返り討ち。正面から圧勝できると確信していたなら、何のために隠れて策謀をめぐらしていたのか。そして両方ともAパートで信奉する神が登場して屈服したり、圧倒的な力量差で圧縮死。神が主人公の知りあいの魔王という関係性もふくめて、何というスカッとスライム。神に屈服した三人はBパートまで土下座で生きていたが、その場であっさり神に処刑される。
 第61話、また会議から会議で絵が動かない……別組織の長々とした会話がエクスキューズを考慮しても知的なやりとりに見えないし、主人公側のダンジョンを作る話が人間と魔物の生死がかかる冒険をテーマパークにしてしまうマッチポンプぶりがどうかと思った。この作品に限ったことではないとは思うが、もうダンジョンという概念が完全な記号になっている。
 第65話、これは単発回としてけっこう良かった。何をしても勇者として過大評価され成功するスキルを手にした転生者マサユキの活躍が、そのまま主人公を誇張させ凝縮した合わせ鏡として機能している。テンポが良いのでバカ話としての面白さもあるし、声優がWEB小説発チート主人公のキリトで一時代を築いた松岡禎丞というあたりも批評的。
 第69話は勇者マサユキの幸運とハッタリに加え、他のトーナメントを勝ちあがる者たちも均衡した激しく傷つけあうバトルもあれば王道のアクションもあり、さらに大番狂わせもあって、武闘会ネタのさまざまな面白味を凝縮していた。主人公が戦いに参加せず、どのキャラクターが勝ってもドラマの進行に支障をきたさないところが、展開をメタに予想できなくしている良さがある。
 第70話は、トーナメントの終結までは面白かったのだが、結局は勇者マサユキも主人公の手下になってしまうところが残念。もっと主人公の鏡像として主人公にとって不都合な存在でありつづけたほうが物語に緊張感や味わい深さが生まれたと思うのだが。前半で描かれた基軸通貨の確保についての政治劇も首をかしげる。主人公をいったん困らせて恩を売ろうとしていた自作自演だろうと推理されるのだが、そもそもその推理をおこなう長命の王が、まさに金貨1000枚の両替に協力して恩を売ったばかりではないか。味方のふりをして騙してくるかもしれないという敵への恐怖をたびたび描き、実際にそのような展開が対立勢力の内部抗争として発生しつつ、主人公は裏切られる可能性をまともに考えない。そして実際に裏切られることはなく、主人公は味方に守られて盤石の体制で物事を進められる。この世界には主人公の味方か、いずれ味方になる敵か、敵しかいない……
 一応、最終回となる第72話を見れば、主人公の身近にいる男が黒幕とにおわせている構成で、その尻尾をつかめなかった懸念を残す結末ではあるが……

*1:そういう視聴者も多そうではあるが。

*2:作画監督多数で二原ありだが。しかし作画@wikiにアニメーターの項目がないのは今回調べて初めて知った。