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「韓鶴子総裁逮捕」で注目されるトランプ大統領の反応 知られざる統一教会の対米ロビー活動

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
統一教会の創始者、故文鮮明氏と夫人の韓鶴子総裁(教会PRパンフから)

 李在明(イ・ジェミョン)大統領が国連総会に出席するためニューヨークに到着した23日未明に統一教会の「教主」、韓鶴子(ハン・ハクジャ)世界平和統一家庭連合総裁の逮捕状が発付され、韓総裁はソウル拘置所に収監された。

 「統一教会トップ逮捕」のニュースは即、米国にも打電された。統一教会は米国にも進出しており、韓国、日本と並んで教団の「多国籍経営基盤」の拠点にもなっている。教団の政界人脈も幅広い。当然、シンパも多い。多くは共和党系である。

 米国での基盤は教団の創始者、文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が築き上げたものである。

 教団の米国でのロビー活動で特筆すべきは何といっても「ウォーターゲート事件」で苦境に立たされていたニクソン大統領(当時)の救命運動であった。

 教団は米全土で巻き起こったニクソン弾劾運動に真っ向挑戦するかのように「許せ、愛せ、団結せよ」「神はニクソンを許す」との二つの福音主義的なスローガンを掲げて、全国的に救命運動を展開した。当時、「ニューヨークタイムズ」に1面広告を出して「神はニクソンを選び給うた。それ故にニクソンを免職できる権能は神にしか与えられていない」とまで主張し、ニクソン大統領を擁護した。

 米全土から信者らを動員した集会にはニクソン大統領の娘も参加したが、この支援デモに気を良くしたのか、ニクソン大統領は1974年2月1日、ホワイトハウスに文氏を招き、30分にわたる非公式会談を行い、その労に報いていた。

 文鮮明氏は当然、ニクソン大統領との会談を「これはまさにかつてローマ皇帝がイエスを招待し、歓迎した出来事に匹敵する」と大統領とのツーショット写真を大々的に自己PRに使った。また、米大リーガーのベーブルースやボクサーのジョールイス、ローマ法王パウロ六世などとゆかりのあるヤンキース・スタジアムで1976年6月1日に300万ドルを投じて、貸し切り、全米各地から、また外国から信者を集め、大規模集会も開いていた。これにより、教団は急成長を遂げた。

 教団は「政治と宗教は切り離せない。宗教と政治を切り離すのはサタン(共産主義)が一番望んでいることである」(文鮮明氏)として選挙にも介入した。

 後にこれが問題となり、1976年9月28日、米議会の米韓外交文化委員会に証人として出席した統一協会米国本部の元幹部クリストファー・エルキンス氏は1974年に行われた議員選挙に教会の信者らが大量に動員されたと証言した。その具体的な例としてニューヨーク州から下院議員選挙に出馬したチャールズ・ステッファンス共和党議員と、ニューハンプシャー州から上院議員選挙に出馬したルイス・ワイ万共和党議員らの選挙運動に「自由指導財団」のメンバーらが中心となって参加し、ポスター貼り等の様々な選挙活動を繰り広げたと証言していた。

 具体的にはステッファンス議員の選挙には10人のメンバーが統一協会の費用で運動員として送り込まれていた。ステッファンス議員は統一協会の会員ではなかったが、文鮮明氏の影響下にある親南ベトナムロビー団体である「正義・平和のための米国青年団」の創立者の一人であったことから会員らは選挙を手伝っていた。

教団の行事に出席したポンペオ元国務長官(右)とキングリッチ元下院議長(UPFから)
教団の行事に出席したポンペオ元国務長官(右)とキングリッチ元下院議長(UPFから)

 教団は今でもこの「遺産」を相続し、莫大な資金を投入し、共和党政権に食い込んでいる。中でもトランプ第1次政権下のペンス元副大統領ポンペオ元国務長官、そしてキングリッチ元下院議長の3人は教団ではコアの支持者として知られている存在である。

 ペンス元副大統領は韓国大統領選挙の約1か月前の2022年2月13日にロッテホテルで開催された「ワールドサミット2022年」行事に出席しており、ポンペオ元国務長官とキングリッチ元下院議長も2021~2022年にかけて行われた教団主催のフォーラムや「ワールドサミット」にパネラーや基調報告者として参席していた。

 韓国メディアジャーナリズム監視センターが運営する「ニュースフェア」によると、ポンペオ氏は2021年に開催された「シンクタンク2022年」で演説したのをはじめ2024年までに少なくとも4回、キングリッチ氏に至っては2019年に名古屋で開かれた「ジャパンサミット」を皮切りに6年間で10回以上も、教団の関連行事に登場している。今年4月には教団の総本山「天苑宮」の開設式にも参列し、5月には「ワールドサミット2025年」にも出席していた。

 当然、講演料という名目で代価が支払われているが、ペンス副大統領の場合は通常よりも5倍も高い55万ドルが払われていたと伝えられている。

 そうした付き合いからキングリッチ氏はすでに教団が運営する「ワシントン・タイムズ」に「教団への検察の捜査は宗教の自由に対する全面的な弾圧である」との内容のコラムを載せただけでなく、今月17日にもX(旧ツイッター)を通じ「韓国の新たな左派政権は複数の宗教を攻撃する狂った意図を持っているようだ」と批判していた。

 ポンペオ氏もまた、自身のXで「韓総裁に対する捜査は民主主義の原則への背信である」とか「韓国の新政権は反宗教的で、あまりに左に傾いているため心から懸念している」との意見を発信している。

 注目のトランプ大統領だが、8月にワシントンで行われた李在明大統領との首脳会談の席で「政府による教会への家宅捜索」に懸念を表明していたが、トランプ大統領もホワイトハウスにカムバックするまでの浪人中(2021~22年)に教団の関連団体「UPF」からビデオ出演3回の講演料として計250万ドルを受け取っている。

 仮に、トランプ大統領までが元部下らに続いて、韓鶴子総裁への捜査及び逮捕を批判するようなことになれば、米韓関係に亀裂が生じることになるだろう。

 米国に滞在していることもあって李大統領はトランプ大統領の反応が気が気でないであろう。

(参考資料:浮かび上がった統一教会と尹錫悦前政権とのコネクション 信者11万人が選挙支援のため集団入党?)

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ありがとうございます。
ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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