「韓鶴子総裁逮捕」で統一教会の「お家騒動」が始まった
世界160か国に信者を有する韓国最大宗教団体である「統一教会」の「教主」でもある韓鶴子(ハン・ハッジャ)「世界平和統一家庭連合」総裁は逮捕され、9月23日にソウル拘置所のシャワーもない2坪の独房に収監された。それなのに教団は予想外におとなしい。
逮捕の可否を巡る裁判が行われた時は結果が出るまで韓総裁が待機していた拘置所前で数百人の信者が逮捕棄却を祈り、拘留が決まった時には「総裁を釈放せよ」とシュプレヒコールを上げていたが、翌日からは全く音なしの構えだ。
当初は「教団の力を見せつけるべき」との顧問弁護士の進言もあって、毎日5千人規模の集会を計画していたとされるが、いざ韓総裁が逮捕されると、意外にも教団は「裁判所の判決を謙虚に受け入れる。今後行われる捜査と裁判手続きに熱心に取り組み、真実究明と教団の信頼回復に最善を尽くす」とし「国民に心配をさせたことを心からお詫び申し上げる」と、一転低姿勢に転じていた。
決して力がないわけでも、あるいは動員力がなくなったわけでもない。要は、韓総裁というトップが不在のため意思統一が図れないのである。本来ならば、NO.2の鄭元周(チョン・ウォンジュ)前総裁秘書室長が司令塔としての役割を果たすべきだが、彼女もまた、韓総裁同様に逮捕状を請求され、身動きが取れなかった。
しかし、鄭前秘書室長はどういう訳か、逮捕を免れることができた。その理由について「特検」は「鄭前室長が共犯かもしれないという強い疑いは持つが、容疑に関連した意思決定の過程や犯行の具体的内容などを考慮すると、共犯だということが十分に疎明されたとみるのは困難である。現段階で勾留した場合、防御権を過度に制限する恐れがあることなどを総合すると、勾留の必要性を認め難い」と説明していた。
教団系の「ユニバーサルバレー団」出身の鄭前秘書室長は1960年代に米国から帰国し、創始者の文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の死去後、「教主」に君臨した韓総裁を秘書室長として2015年から10年間支えていた。
教団の核心機関でもある「天務院」の副院長(院長は韓総裁)として人事、財政などの実権を握り、実質的に教団を運営してきた。すでに逮捕されている尹英鎬(ユン・ヨンホ)世界本部長が表のNo.2ならば、影のNo.2が鄭前秘書室長だった。
ちなみに2018年から今年7月まで韓国「セゲイルボ(世界日報)」の社長を務めていた鄭フィテク氏は実弟であり、姉は2023年まで「リトルエンゼルス」の団長だった鄭インスク氏で、文字通り兄弟全員が教団幹部として登用されていた。
韓国では「鄭前秘書室長が逮捕されることはあっても高齢で病弱な韓総裁が逮捕されることはないだろう」とか「鄭元秘書室長が韓総裁の身代わりになるのではないか」と囁かれていたが、蓋を開けると、その逆になったため教団内部からは「韓総裁を庇わなかった」とか「鄭前秘書室長は韓総裁を裏切り、供述したので逮捕されなかったのでは」との疑心暗鬼が生まれ、鄭前秘書室長に批判の矛先を向けているようだ。
秘書室長として教団の業務全般を管理し、実権を握っていた鄭氏は尹前世界本部長の妻である元財政局長の上司にあたり、頻繁に報告を受けていた。「特検」は今回、「韓総裁が保守(尹錫悦大統領候補)を選択した」「尹英鎬は教会、機関など指導者らと極秘に該当の使命を遂行中」「韓総裁が女史(金建希夫人)に就任祝いをしたいと言っている」「信頼が深まり、尹英鎬は当選人(尹大統領候補)と単独で会うことができた」「韓総裁のお言葉と贈り物を渡した」など元財政局長からの連絡事項を証拠として抑えていた。
尹前世界本部長の妻はカジノ疑惑の時も当時政権与党だった「国民の力」の権性東(クォン・ソンドン)議員からの「警察が内定している。家宅捜査に備えた方が良い」との連絡事項も伝えていた。「特検」はすでに押収した鄭前秘書室長の手帳から「賭博疑惑に関連して警察が捜査中で近々家宅捜査があるようだ」との趣旨のメールを確認していた。
いずれにせよ、最も信頼を寄せていた尹前世界本部長とその妻の財政担当局長に続いて鄭前秘書室長までもが検察に引っ張られたことで韓総裁は「特検」に完全に周囲を囲まれていた。
韓総裁は今年7月20日、天苑宮で開かれた行事で信者1千人を前に「一人の裏切りで我が国の特検が神を冒涜した」と発言(「JTBC」の報道)したと伝えられているが、韓総裁が電撃逮捕されたことに激怒した韓総裁の長男と次男の家族が現指導部の総辞職を求め、今、教団内部で亀裂が生じているようだ
韓総裁には7男、7女の計14人の子供がいるが、1961年生まれの長男、文考進(ムン・ヒョジン)氏は2008年に心臓発作で、1966年生まれの次男、文興進(ムン・フンジン)氏も1984年に交通事故で亡くなっている。
文鮮明師の死去、韓鶴子総裁と3男の文顯進(ムン・ヒョンジン=1969年生)と4男の文国進(ノムン・グッチン=1970年生)そして7男の文亨進(ムン・ヒョンジン=1979年生)氏らとの間で後継地位を巡る騒動が起きたが、韓総裁の一人体制になった今、韓総裁は「3代目」に孫を擁立しようとしていると囁かれている。
そんな矢先、今回、孫にあたる長男の二人の子供、文シンチュル(長男)と文シンフン(次男)とその母(長男の妻)、崔妍娥(チェ・ヨナ)と次男の妻、朴薫淑(パク・フンスク)は教団執行部の総辞職を求める一方で、韓総裁不在の状況に対応するため非常対策協議会を直ちに設置するよう求めている。
家族は信者向けに出した声明で「真のオモニ様(韓総裁)は9月21日に万が一に備える意味で統一教会に危機が迫ったとき、天愛祝承子と真の家庭、婿養子を中心に一つになって働くように言っていた」ことを強調していた。天愛祝承子は韓総裁の孫を指しており、真の家庭、婿養子は長男と次男の嫁のことである。
また、「真のオモニ様に完全に仕えなかった指導部は深く悔い改め、全員白衣で奉仕せよ」とし「天愛祝賀会の優勝者と参加政府の婿を中心に家庭連合代表会議を構成し、一日も早く発表する」と提案していた。現指導部は辞任し、緊急対応諮問機関を創設せよとの提案だ。
現在のところ、統一教会の全国、教区長一同も立場を表明し、長男と次男一家の提案を後押ししている。
「今回の事件は単なる法的な事件を越え、家庭連合(統一教会)の信頼と摂理の正当性を揺るがす深刻な危機であり、災難の瞬間である」とし「今回の事件に直接責任がある鄭前『天武院』副院長は、すべての家族に心から謝罪し、すべての役職から退き、すべての責任を負わなければならない」と声を上げ、また、教区長らも韓総裁の言うとおりに長男と次男の家族を中心に緊急対策協議会を早く構成しなければならないと、指導部に促している。
なお、鄭前秘書室長に対しては昨年7月から一部信者らが京畿道・加平の「天正宮」前に散発的に集まり、現金流用や賭博、横領などの疑いで退陣を求めていた。
韓総裁側はこれまで金建希夫人と権議員への贈賄は韓総裁も教団も全く関与しておらず、尹前世界本部長が自身の私利私欲のため教団の金を不正に横領し、勝手に行ったことと主張し、尹前世界本部長夫妻を詐欺横領容疑で告発しているが、こうした身内騒動が起きれば、今後、切られた側から爆弾発言や内部告発が飛び出す可能性が高い。