<主張>奈良のシカ虐待 「神の使い」文化に敬意を

社説

シカへの暴力行為防止を啓発する奈良県警の警察官=7月25日午前10時12分、奈良市(鳥越瑞絵撮影)
シカへの暴力行為防止を啓発する奈良県警の警察官=7月25日午前10時12分、奈良市(鳥越瑞絵撮影)

世界的に有名な観光地となった奈良公園のシカへの暴力行為が問題になっている。

観光客の前で白いTシャツ姿の男が奈良のシカを蹴ったり叩(たた)いたりする動画がSNSに投稿、拡散された。心ない行為へ憤りの声があがった。

奈良県警や一般財団法人「奈良の鹿愛護会」には「逮捕を」「シカを守って」という声が多く寄せられた。動画の加害者は特定できていないという。

奈良のシカは古来、神の使いとして保護されてきた。信仰に関わるシカをいじめたり粗末に扱ったりすることは、日本の伝統的な精神文化を冒瀆(ぼうとく)する行為に他ならない。日本人、外国人双方の観光客をはじめシカと接する人々には、良識ある行動を望みたい。

県庁近くにある奈良公園は国の名勝に指定された都市公園で、野生のシカと人間が共存する世界でもまれな観光地だ。背後には聖域として保護されてきた春日山原始林が広がる。春日大社をはじめ興福寺や東大寺など古刹(こさつ)が点在し、平成10年に「古都奈良の文化財」として世界遺産になった。

シンボルともいえるシカの歴史は1300年以上と古い。奈良時代に春日大社の祭神が鹿島神宮(茨城県)からシカに乗ってこの地に来たという社伝がある。以来、神の使い「神鹿(しんろく)」として大切に扱われてきた。「奈良のシカ」は昭和32年に国の天然記念物に指定された。

野生でありながら長い共生の歴史から人を恐れない。触れ合いが楽しめるシカに暴力を振るうとは言語道断だ。

与えることが許されているのはおやつの「鹿せんべい」だけだが、かばんをきちんとしめなかったため中の紙類をシカが食べて健康を損なうトラブルも起きている。中国人観光客が紙を食べさせている動画もある。

シカに危害を加えると文化財保護法違反で5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金となる可能性がある。令和3年には、20代の男が刃物でシカを傷つけ死なせたとして、同法違反で有罪判決を受けている。

県警はDJポリスも出動させて英語や中国語でルールを守るよう呼びかけた。悪質なケースは摘発してもらいたい。自然に対する敬意の象徴でもある「神鹿」を守っていきたい。

【動画】「奈良のシカ」蹴り上げ動画 SNSで拡散

おのでたたかれ死亡例も 増える外国人観光客とのトラブル

「神の使い」か「害獣」か 「監獄」虐待疑惑で広がる波紋

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