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どうしてジョニィ・ジョースターは主人公だったのか?

下半身不随となった天才騎手ジョニィ・ジョースター。

ジャイロ・ツェペリという不思議な男と共に北アメリカ大陸横断レース
「スティール・ボール・ラン」に参加し、数奇な旅路を辿る事になる。


ジョニィという男はこれまでのジョジョ主人公と比べるといささか…いや、かなり毛色が違う主人公だ。
彼の物語を駆動させる動機は「足を治したいから」。
レースの環境は変われど、この目的は最初から一貫されている。

そして、目的の為には冷徹に殺人を行う事も厭わない。
6部までのジョジョは「白」と「黒」の区分けの中で「白」の立ち位置だったが、ジョニィは自らその両者の境界線を無視している。

「生きる」とか「死ぬ」とか、誰が「正義」で誰が「悪」かなんてどうでもいいッ!!

スティール・ボール・ラン 涙の乗車券 その②

本人としては切実な問題とはいえ、そのモチベーションは完全に我欲だ。
吸血鬼や柱の男といった人類の脅威と戦ったジョナサンやジョセフ、そして承太郎。町や正義を守る為に邪悪に立ち向かった、仗助、ジョルノ、徐倫。

「白」として己を信じ戦ったそれまでのジョジョと比べると、ジョニィはかなり殺伐としている。
黄金の精神と対比されるような漆黒の意思を持つ者とされ、目的に愚直に向かう危険性は周囲の人物にも指摘されるほどだ。

「大義」もなければ「白」でもない異色の主人公。
ここを以て、6部までのジョジョとSBR以降に断絶を感じる人も少なくない。

しかし、彼は間違いなく今までと変わらぬジョジョの主人公であった。

彼の物語を紐解く事は、イコールで「ジョジョとは、人間讃歌とは何か」を解き明かす事に繋がる。

ジョニィの旅路と共に積み重ねられてきたテーマを振り返ろう。

レースへの参加、そしてジャイロ・ツェペリ

スティール・ボール・ランは優勝賞金5000万ドルの総走行距離6000kmの北米大陸横断レースだ。車なんてロクにまだ無い時代、参加者は途方もない荒野を身一つと馬で走り抜かなければならない。
無論、それに参加する挑戦者達は皆それぞれ賞金や優勝にかける並々ならぬ想いがある(一部テキトーな奴がいるが)。

だが、主人公たるジョニィはそうではない。

ここが面白い事ところだ。ジョニィはレースに参加するジャイロの「回転」の力に足を治す希望を見出し、自身もレースへの挑戦を決意する。

つまり、数多くの参加者の中でジョニィはレースの勝利を目指しているのではなく、ジャイロと彼の持つ技術を目的としている。これは今後の話が駆動する上で重要な根元となる。

そして後に相棒となって旅をする事になる男、ジャイロ・ツェペリ。

もう一人の主人公とも言うべき彼は、故郷ネアポリス王国にて無実の罪で処刑されかかっている少年マルコを、レース優勝の恩赦によって解放する為にレースに挑む。

ジョニィとジャイロの相棒としての対比は非常に計算されたものだ。

当初、ジャイロはジョニィに多少のアドバイスをする程度で、あくまでレースのライバル同士という関係だったが、幾度かの共闘を経てポーク・パイ・ハット小僧戦にて関係性や目的が明確に定まっていく。

ポーク・パイ・ハット小僧自体はSBR中でも影が薄めで特に語られる事はないし、実際このキャラ自体がどうこうという話でもない。

だが、この戦いはジョニィが自分の持つ遺体の存在に気づいた事、遺体の力で足を治せる可能性がある事、そして何より自分にとってのジャイロが何者であるかをハッキリと示したという意味で大きな戦いだった。

だがこの死体は絶対に渡さない。これはぼくの希望になった!
そしてジャイロは絶望していた僕の未来に勇気をくれた

スティール・ボール・ラン 牙(タスク) その②

命懸けで敵の位置を知らせてくれたジャイロをジョニィは信頼し、彼と共にレースを駆け抜ける決意をする。
二人が利害関係ではなく正真正銘のバディとなった瞬間だ。

ジョニィは新たに手に入れたスタンド「爪(タスク)」を用いてポーク・パイ・ハット小僧を追い詰めるが、小僧も負けじと食らいつき、遂にジョニィとジャイロに王手をかける。

死体を渡せと要求する小僧。ようやく見つけた希望を手放したくないジョニィは拒否するが、ジャイロを利用しての猛攻を受け、ついに攻撃の停止と引き換えに遺体を手放す。
希望を失い愕然とするジョニィだったが、ジャイロは持って行かれた遺体を利用して小僧に勝利する。

遺体を拾った事で命を失ってもいいとまで言ったジョニィがそれを手放したのは、やはりジャイロの存在があったからだろう。この事実は遺体争奪戦として作品の方向性が定まっていく後々において、非常に重要になってくる。

リンゴォ・ロードアゲインと対応者

ここでいったんジョニィを話を置き、視点をジョニィからジャイロに移す。

ジョニィを語る上で彼の相棒となったジャイロを紐解くのも非常に重要だからだ。

3rdステージのゴール手前、ジャイロはディエゴとのトップ争いに挑み、ディエゴと同じく馬への負担が大きい湖を突っ切るショートカットを選ぶ。

しかし、ジョニィはそんなジャイロに「君はDioに勝てない」と言い放つ。

Dioは「飢えた者」! 君は「受け継いだ者」! 
どっちが「良い」とか「悪い」とか言ってるんじゃあない! その差が大陸レースというきれい事が一切通用しない追いつめられた最後の一瞬に出る!
その差は君の勝利を奪い 君を喰い潰すぞッ!!

スティール・ボール・ラン 3rd.stageゴール キャノンシティ

冒頭、ジョニィをジョジョらしからぬ主人公と言ったが、逆にジャイロはその生い立ちから動機に至るまで今までのジョジョ主人公として遜色ないものを持った主人公と言える。

先祖代々受け継いできた使命と技術、無実の少年を救いたい動機。調子こそ軽いが、気高さを感じるジャイロの気質は6部までの主人公が持っていた要素だ。しかし、そんな彼をジョニィは勝てないと言い切り、事実ジャイロはディエゴとのデッドヒートにおいて僅かな差で敗北してしまう。

ジョジョの主人公らしい、黄金の精神と言ってもよい要素を持っているはずのジャイロが、何故ここでは「劣っている」とされるのだろう。

その答えが次話に登場するリンゴォ・ロードアゲインによって明らかにされる。

対応者。

ジャイロをそう称したリンゴォ・ロードアゲインは、公正な殺し合いで己の精神を高めようとする異様な目的を持った人物だ。
彼の目的は殺し合いの結果ではなく過程にある。故にこの狂人は自らが敗北しようと敵に「感謝」する。

リンゴォが3部からのラスボスの要素であった時間操作能力を持っているのは決して偶然ではない。彼を通じて描かれる戦いは「これまでのジョジョ」から「これからのジョジョ」の移り変わりを凝縮しているからだ。

従来のジョジョの要素を持ったジャイロと時間操作能力を持ったリンゴォ。
二人の関係は擬似的なラスボス戦とすら言える。

「社会的な価値観」がある そして「男の価値」がある。
昔は一致していたがその「2つ」は現代では必ずしも一致はしていない「男」と「社会」はかなりズレた価値観になっている………だが「真の勝利への道」には「男の価値」が必要だ…

スティール・ボール・ラン 男の世界 その③

SBRでも特に有名な台詞だが、この言葉に含まれる意味合いは深い。
ただ単純に「男らしさ高めようぜ」という話ではないのだ。

「男の価値」というとずいぶんと古くさい言い回しに見えるが、ジョジョの文脈に当てはめるならばすなわち主人公達の意思、精神性を意味している。

つまりこういう事になる。
社会的な正義と個人の精神性が(程度の差はあれど)合致していたのが6部までのジョジョだった。崇高な貴族的精神を持っていたジョナサンが始祖なのだから当然だ。

しかし、ではその「社会」と「個人」の正義がズレている場合、軋轢をどう受け入れればいいのか?

それまでのジョジョはある種の社会悪との「対応」であった。
ディオから始まり、カーズ、吉良、ディアボロ、プッチ……。

人間を頂点からの支配、あるいは人殺し自体に快楽を見出す者。
人類救済の名の下に自らの世界を全て押しつけようとする者。
6部までのジョジョは彼らとの対応によって物語が動く。

社会正義にとってハタ迷惑な連中を討つのだから至極真っ当な動機だろう。
しかし、それは言い換えれば主人公の動機を全て「悪」に仮託しているという言い方にもできてしまう。

それでは、ジョジョ達を動かしていたのはそんな社会悪への「対応」だけだったのだろうか。彼らの精神性は「正義」と「悪」の対立軸によってのみ認められていたのか?

リンゴォはジャイロとの戦いを通じてその本質を問いかけている。

ジャイロが背負っている事柄は、全て誰かから受動的に得たものだ。
先祖から受け継いだ技術、人助けという動機は清廉でありながらしかし、ジャイロの「対応」によって成り立っていた事柄に過ぎない。

そこにジャイロの「我」は無い。
だから、大詰めでその甘さが露呈してしまう。

では翻って、それまでのジョジョ達はどうだったのか?

勧善懲悪とは確かにジョジョの持つ要素の一部だ。「黒」に対峙する揺るぎない「白」。

しかし、その根本にあったのは本当に「白」であったのか?

何かの行為を成そうとする時、自然とその「許し」を自分ではない外部に委ねてしまってはいないだろうか?

承太郎がDIOと戦い勝利した時、承太郎が「白」で「正しかった」から勝ったのか?

承太郎はハッキリと言っている。

てめーの敗因は…たったひとつだぜ……DIO…。
たったひとつの単純な答えだ……。
てめーは俺を怒らせた。

スターダスト・クルセイダース DIOの世界 その⑱

「DIOが」だからでも「ジョースター家が」どうのこうもでもない。
「自分が」「怒ったから」である。

承太郎だけではなく6部までのジョースターの血統はみなそうだ。己の中に何としても成し遂げたい衝動があり、その血統ゆえに衝動が自然と「正義」のベクトルへと向いていくのが彼らなのだ。

重要なのはそれが「正義」の形を成しているかではない。
それを強く信じる「我」があるか否かだ。

ジャイロはリンゴォとの決闘を通じ、自らが秘めていた「我」を自覚した。

「納得」は全てに優先するぜッ!! でないとオレは「前」へ進めねぇッ!「どこへ」も! 「未来」への道も! 探す事は出来ねぇッ!!
だからこのスティール・ボール・ラン・レースに参加したッ!

スティール・ボール・ラン 男の世界 その③

この時、ジャイロは遂に真の意味でSBRの主人公のひとりとなった。
同時にジョニィがジョジョの主人公でありながら漆黒の意思を持つとされる理由もわかる。

黄金の精神と漆黒の意思。

真反対に見えるこれらは、言い方を変えただけで同根の意味を持ったものに他ならない。

ジョジョは「己の持つ祈り」にどれだけ真摯になれるかが重要視される。

そして、これまでのジョジョの要素を全て持つジャイロから、次たる主人公であるジョニィが学び、受け継いでいく行程こそがSBRであった。

シュガー・マウンテンに差し出した「全て」

ここまで語った上で、ジョニィの物語に話を戻そう。

物語が中盤に差し掛かり、レースと遺体集めを並行していたジョニィとジャイロは、遺体があるとされる地点でシュガー・マウンテンという少女と出会う。

シュガー・マウンテンとのやり取りで遺体の一部を手に入れた二人。
しかし、彼女……遺体を守る大木から手に入れたものは全て「使い切らなければ」、大木と同化し、次なる番人として木に囚われる事になる。

迫り来る刺客とシュガー・マウンテンの制約を同時に処理しなければならなくなったジョニィとジャイロ。

機転を生かし、膨れ上がった金を消化するにまで至ったが、しかしジャイロの木への同化は止まる事はなかった。

ジャイロがシュガー・マウンテンから得た遺体をまだ使い切っていなかったからだ。

ジョニィは葛藤する。これまで得た遺体、希望を手放してまでジャイロを助けるのか?それともジャイロを見捨てるのか?

一度はジャイロを見捨てかけたジョニィだったが、遺体を敵の飲みかけのワインと交換する事で遂に全てを使い切る事に成功する。

得たものを全て、遺体すら差し出す事を最初から条件に入れていたシュガー・マウンテン。

全てを敢えて差し出した者が 最後に真の全てを得る。

スティール・ボール・ラン チューブラ・ベルズ その①

ジョニィはこれまでの旅路で遺体を幾つか手にした。

遺体を集める事に全身全霊をかけるジョニィだったが、しかし、それが果たして本来のジョニィの目的だっただろうか?

話が進むにつれ遺体争奪戦が中心となるSBRだが、ジョニィの当初の目的の中に遺体は勘定に入っていない。
ここで先ほど語ったジョニィの動機、根元が返ってくる。

だがこの死体は絶対に渡さない。これはぼくの希望になった!
そしてジャイロは絶望していた僕の未来に勇気をくれた

スティール・ボール・ラン 牙(タスク) その②

もともとジョニィがレースに参加したのはジャイロの回転技術に足を治す希望を見出したからだ。遺体集めとはレース中で副次的に発生した要素であり、それそのものが目的ではない。

つまり、ジョニィにとって真の希望は遺体などではなくジャイロであったはずだ。

親や世間から見放され孤独に生きていたジョニィにとって、過酷なレースを共に生き抜くジャイロがどれほど救いになったかは言うまでもない。
技術としても、人間としてもジャイロはジョニィが望んでいた「全て」であった。

ここでリンゴォがジャイロに投げかけた問いが生きてくる。

ジョニィの「祈り」、「我」が何処にあったか? 

迷いながらも気高く飢え、それを失わなかったジョニィ。

無論、それで事態が好転するかどうかはわからない。
ジャイロの父親が語る「ネットにひっかかってはじかれたボール」だ。

テニスの競技中…ネットギリギリにひっかかって弾かれたボールは……
その後、ネットのどちら側に落下するのか…? 誰にもわからない

スティール・ボール・ラン チューブラ・ベルズ その①

選んだ道は果たして「正しかった」のだろうか?
しかし、己の祈りを失わなかった二人は、シュガー・マウンテンの語る「資格」を確かに手にしていた。

ヴァレンタイン大統領、個人と大義

ヴァレンタイン大統領は今でもその行為の是非が語られ、ジョジョの中でも異彩を放つラスボスだ。

直接、間接を問わずスティール・ボール・ラン・レースを通してジョニィと対立し続けた大統領もまたジョニィを語る上で欠かせない。

彼はアメリカ国民の利益の為に身を粉にして動く「正義」か。
それとも、目的の為にあらゆる犠牲を厭わない「邪悪」か。

大統領についての造形は、荒木先生が詳しくその考えを語っている書籍がある。

最大の敵であって、悪役。超悪い人。
しかしながら、このキャラクターは主人公ジョニィやジャイロの視点から見て「悪役である」という事を説明したい。
ヴァレンタイン大統領は。祖国を新しい時代に向かって世界一の偉大な国にする為に、そしてその為の「宝」を探し出す為に「大陸横断SBRレース」を利用する。
つまり、スポーツを通じて人々の気持ちと権利を得ようとする訳だ。
ヴァレンタイン大統領は将来の流れが馬の時代から機械の時代に向かう事を知っていて、民主主義がイコール資本主義経済の権利取得である事を知っている。しかも、「私利私欲では無い」という動機はキャラクターの性格として強くて怖ろしい。
つまり私たちの主人公たち――「ジョニィ」や「ジャイロ」や「スティールさん」の考えている事よりも、ヴァレンタイン大統領が考えている事の方が「正論」なのである。
しかしながら、「SBR」では、この社会にとって「正しい道」を行こうとしている大統領を「最大の悪役」とした。
ヴァレンタイン大統領には「正義」と「悪」の矛盾が存在する。
彼はパラドックスなのだ。

スティール・ボール・ラン 文庫版1巻 あとがき

荒木先生がヴァレンタイン大統領を作るにあたり「新しい時代」に目を向けたキャラである事がわかる。

遺体の力で国を資本主義経済上で繁栄させる……後の時代を思えば、大統領として先進的な判断だろう。一方でレース裏で暗躍し、参加者や民の血で手を汚す様は悪辣さが印象づく。

ジョニィか大統領、どちらが「正しい」側か。

だが、もはやここに至ってそれを断じること自体が埒外だ。大統領の正しさ、それを論じる事はイコールで大統領の理屈に嵌まる事になる。

大統領を倒す事に「義」や「正しさ」だけを求めようとする事。
それはまさにリンゴォの言うところの「対応者」に他ならないからだ。

だから大統領との戦いで「大統領の不正義さ」とか「大統領が負けた理由」を求めても泥沼になる。

重要なのはそのパラドックスにどうジョニィが立ち向かったかである。

大統領との戦いでジャイロを失いながら、ジョニィは遂に大統領を黄金の回転により生長したACT4により大統領を追いつめる。

大統領は最後の足掻きとして説得という形でジョニィを懐柔しようとする。

だが、大統領はもともとジョニィを信じてはいない。回想での世界Dioとの会話を見るに、ジョニィを私欲のクズ野郎と考えている大統領は仮に取引が成立したとしてもジョニィが反故にすると考えていたようだ。

裏切りを前提とした大統領の説得は実に巧みだった。

自らのルーツと信念、父との思い出を蕩々と語る大統領。
無二の親友を失い、ちっぽけな自分だけが残されたジョニィに、国を背負う「大義」や父からの愛国心を「受け継いだ」大統領の言葉にどれほど自らの矮小さを自覚させられただろうか。

あんたの方が…正しい道なのかもしれない………

スティール・ボール・ラン ブレイク・マイ・ハート ブレイク・ユア・ハート その①

大統領がいくら悪辣な手段を使ってきたとしても、彼の語る信念と公益は間違いなく本物だ。

これからのアメリカに起こるであろう戦争や恐慌。その犠牲になる大勢の国民の安全を考えれば、大統領の懸念は至極正しい。
プッチ神父の天国とは訳が違う、現実的な利と保障の話だ。
足を治したい私欲で行動する、アメリカ国民ですらない人間に立ち向かう弁などあるはずがない。

しかし同時にジョニィやジャイロを幾度となく襲い、命を奪おうとした事実は間違いなくジョニィにとっての「悪」であり立ち向かうべき敵なのだ。

故にジョニィは迷いの末、大統領の目の前に銃を投げ、問いかける。
「銃を拾ってみろ」と。

かけがえのない友を失い、大義すら無い事を突きつけられ、大統領の事を「信じたかった」としても、自らの意思に従い大統領を暴こうとする。

逆境に対して自我を通そうとする強い意志。

今までのジョジョ達が証明してきたものが、ジョニィにも間違いなく宿っていた。

人間讃歌~敬意を払え~

6部までの確固たる悪と正義のぶつかり合いから、その境界線が消えたように見えるSBRの移り変わりに驚く人も少なくない。

しかし、ジョジョに通底しているテーマはSBRに至っても一貫して変わらず人間讃歌なのである。

人間讃歌とは何なのだろう。

本作に登場する鉄球使い達、ジャイロやウェカピポは「敬意を払え」という言葉を使う。

直感で考えると尊敬なのだから、尊い善意に対する発言に見える。
身を削ってまで勝利とチームメンバーの生存を成そうとしたジョルノにフーゴが「敬意を表する」と言ったように。

だが、ジョジョが表す「敬意」は実に多様な意味がある。

答えの一端は、遡ること第二部ですでに示されている。

エシディシからの奇襲を受けたジョセフは機転を活かし勝利するものの、エシディシは最後の手段としてスージーQの身体を乗っ取り、自爆覚悟の特攻を行おうとする。

ジョセフとシーザーにより身体の外にはじき出されたエシディシは太陽光によって消えていく。シーザーはその様子を見て、スージーQまで犠牲にするその執念を「醜い」と吐き捨てる。

しかし、ジョセフの見解は全く違っていた。

シーザー そいつは逆だぜ。おれはこいつと戦ったからよくわかる……。
こいつは誇りを捨ててまでなにがなんでも 仲間のために生きようとした……。赤石を手に入れようとした。
何千年生きたか知らねぇがこいつはこいつなりに必死に生きたんだな……善悪抜きにして。
こいつの生命にだけは敬意を払うぜ。

戦闘潮流 忍び寄る残骸 その②

関係のない人間まで巻き込んで自爆までやろうとした相手にこれを言えるのは並大抵の事ではない。

行為と精神性は別にして、対峙した人物の才能や真摯さを決して侮らず、直視しようとする。それこそがジョジョの表す「敬意」なのである。

だからこそナチ軍人のシュトロハイムすらジョジョでは仲間になれるのだ。

まだ善悪の戦いが色濃い波紋編は、カーズのなりふり構わない自分勝手な悪どさによって先ほどのスタンスは少し退いてしまうものの、作者は部を重ね、善と悪への分け隔て無い慈愛の眼差しを表現しようとする。

敵ではあるが吉良吉影と岸辺露伴もキャラとして創っていて非常に楽しい登場人物だった。
殺人鬼でとても許せない悪党だが、(人にはあまり言えないが)とてもあこがれる存在となった。
つらい少年時代を送っているに違いないが、人生には前向きで、常に自分を被害者づらなど決してせず、肯定している所。つらい危機的な状況を何とか切り抜ける精神の強さなどだ。吉良吉影は殺人を犯している所をのぞけば、本当にぼくのヒーロー像そのものだと感じ、描いている間はとても幸せだった。

文庫版 ダイヤモンドは砕けない 12巻 あとがき


人間讃歌とは本当に「人間全てへの讃歌」だ。


どんなに醜悪に見える者でも、その中に一握りの輝きがある。
ジョニィも、ジャイロも、ディエゴも、大統領も、SBRに登場したみんなは全て平等に。

正義の系譜であったジョースター家がプッチ神父との戦いで消え去り、舞台がリセットされたSBRではいよいよ人間讃歌の根源の部分が描かれるようになった。

新たに現れた主人公、ジョニィ・ジョースター。

彼は結局遺体を手に入れられず、レースも失格に終わった。


だが、ジョニィは敗北で終わっただろうか?

ジョニィの旅路。それは過去の失敗によってアイデンティティを全て失った男が、友との旅を通じて己の願いと祈りを見つけ、再生に至る物語だった。


逆境に立ち向かい自分の足で立って歩けるようになった彼は間違いなくジョナサンから続くジョジョの主人公として光輝く道を走り抜いたのである。

SBRという物語は本当に語るべき部分が多い。
今回はジョニィに焦点を絞ったが、広げようと思えばいくらでも広げられる。

読めば読むほど新たなる発見があるSBR、この記事がその一助となれば幸いである。

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