統合失調症による妄想について、発病初期にはともかく、強固に構成された妄想は理解不能で、近代科学以前の人々が「憑き物」と考えたのも無理はありません。しかし、一見支離滅裂のように思われる妄想も、実は患者さん自身の病前の知識の中から組み立てられるようです。だから、患者さんが知り得ない知識が妄想に登場することはありません。たとえば1950年に、自分はビートルズの一員だと患者さんが自称することはありえません。また私たちの知り得ない未来からやってきた存在と主張する場合でも、病前に抱いていた未来に対するイメージを再構成しているわけで、どこか道具立てが陳腐だったりします。妄想型の患者さんが一定期間を経過すると、それまでは被害妄想で苦しめられていたのに、逆にその反動といってもよい誇大妄想をみせるときがあります。自分は最高権力者であるとか、高貴な生まれというような主張が見られます。そこで自分が主張するような存在にふさわしい処遇を求めることが多いのですが、しかし不意に「○○さん」と本名を呼ぶと「はい」と返事するなど、病前の意識の名残を感じさせるものがあります。また誇大妄想といいながら「アイドルの知り合い」(恋人ではなく)というような遠慮がちなものなど、病前の性格を引き継いでいるように感じられる例もあります。以上のように統合失調症の妄想世界にも、なんとなく現実世界との接点が感じられます。(「好きになる精神医学」越野好文氏ら著,2014年発行,p82)
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