果樹に「春ですよ!」 農産物の体内時計をリセットする化合物を発見
暖冬の影響でナシやモモなどの果樹に実がなりにくくなる「眠り症」を防ぐ化合物を静岡大農学部の富永晃好助教が発見し、研究を進めている。地球温暖化の進行によって冬の低温を十分に経ないまま春を迎える果樹に開花・発芽を促すこの「休眠打破剤」。実用化を目指し、検証試験などの費用200万円を募るクラウドファンディング(CF)が10月30日まで行われている。
生産者悲痛「農業続けられなくなる」
生育に適さない季節が来ると、生物が自らを守るため活動を抑制するのが「休眠」。富永助教によると「ナシの場合、休眠から目を覚ます『打破』は、冬に7・2度以下の環境に計800時間置かれることが一つの指標」という。
しかし、休眠の途中で極端に高い気温にさらされると、それが狂う。「積算時間はそこでリセットされ、春が来ても目が覚めなかったり、うたた寝状態が続いたりしてしまう」。富永助教は「打破」が起きない生理障害をこう説明する。
2013年から農業普及指導員を4年間務めたナシ産地の福岡県で、富永助教は「眠り症」と呼ばれるこうした深刻な被害を経験。生産者から「このままでは農業が続けられなくなる」と悲痛な訴えを聞いた。
実用化めざしCFも
そこで、被害状況のモニタリングや、気温と開花・発芽のタイミングの関係を記録する一方で、休眠打破効果のある化合物を探し、10年間の試行錯誤の末に「物質X」(仮称)を見つけ出した。毒劇物に該当せず、ほかの落葉果樹や草本植物でも一度塗布するだけで効果が期待できる知見も得られてきた。
地球温暖化による農作物の収量減は、世界で年間数兆円の経済損失を生んでいるとされる。「眠り症」対策の植物成長調整剤の開発競争も激しく、化合物の名称や塗布部分は公表していない。富永助教は既に物質Xの特許出願を済ませ、26年には学会での発表と論文投稿も計画している。
今回の研究について、中塚貴司・静岡大農学部教授は「気候変動に左右されない安定供給の救世主となる挑戦的研究だ」と期待を寄せる。富永助教は「実用化には、15億円以上かかるとされる『農薬登録』の壁を越える必要がある。まずは200万円の寄付を受けて第一歩を踏み出し、10年以内に社会に普及させたい」と目標を見定めている。
9月2日にスタートしたクラウドファンディングのプロジェクトタイトルは「植物の眠りを制御して地球温暖化に強い農業を実現する!」。額が目標の200万円を超えた場合だけ寄付を受け取れるルールだ。支援額に応じて、試験農場の見学会参加や、希望する植物に「物質X」を試す権利などが用意されている。【丹野恒一】